自民党案は抜本改革には程遠く「政治とカネ」の透明化を求める野党案との隔たりは大きい。数の力でごり押しすれば政治への信頼は地に落ちるだろう。

 自民党派閥裏金事件を受け、各党が提出した政治資金規正法改正案が、衆院の政治改革特別委員会で審議されている。
 焦点の一つが、自民で党幹部らに年間10億円前後支給されてきた使途の公開義務がない政策活動費の扱いだ。
 自民案では、受け取った議員が「組織活動費」「選挙関係費」といった大まかな支出項目を党本部に報告し、党の政治資金支出報告書に記載するが、領収書を添付する必要がないため確認できない。
 立憲民主党の野田佳彦元首相が「大きなブラックボックスを小さなブラックボックスにしただけ」と批判するのも当然だ。立民や日本維新の会などが廃止や使途の公開で足並みをそろえているのとは、対照的だ。
 裏金事件を招いた政治資金パーティーに関しても、自民はパーティー券購入者名の公開基準を現在の20万円超から10万円超に引き下げるにとどめた。
連立政権を組む公明党が、個人の寄付と同じ5万円超を主張したものの、「政治活動の自由」を主張する自民に受け入れられなかった。 
 他の多くの政党は廃止を訴えている。
 また、自民は企業・団体献金の見直しにも否定的だ。
 これでは、多額の献金によって政治が歪(ゆが)められるのではないかという国民の懸念は払拭できない。
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 自民が、自らが招いた政治とカネを巡る国民の不信への自覚があれば、野党の案に耳を傾けるのが筋である。
 抜本改革を求める野党に対し、自民案を国会に提出した鈴木馨祐衆院議員は、NHKの番組で「自民党の力をそぎたいという政局的な話がごっちゃになっている」と発言した。
裏金問題への反省が見られない。
 また連座制についても、自民案は適用要件を、会計責任者が処罰され、議員が必要事項を確認せずに確認書を交付したケースに絞った。違反に「気付かなかった」場合には責任を免除される、と不備が指摘されている。
 今回自民は公明との調整がつかず単独で改正案を提出した。終盤国会の最重要法案にもかかわらず、与党案をまとめられなかったのは異例で、その「孤立」を認識すべきだ。
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 自民は裏金問題で関係議員を処分したが、真相を解明しないまま幕引きを図った。
国民は納得していない。
 派閥の解散を主導した岸田文雄首相も「個人のプライバシーや企業の営業秘密」などを理由に、政治資金の透明化には後ろ向きだ。自民は参院の議席が過半数に満たないため、規正法改正案を単独で成立させることはできない。
 岸田首相が自賛する「政治とカネの問題に対する抜本的な解決策」にならないのは明らかだ。
 企業・団体献金の禁止など、より厳格な野党案を受け入れるべきだ。