「誅犬」(’23)/ GEZAN with Million Wish Collective
ラテンのメロディーがひび割れた命の亀裂に差し込んで裏側から光る時、蔦のように伸び行くバグパイプの音色が解放を求めて空に放たれる時、あらゆる性別と国籍とバックボーンを乗り越えたコーラスのスキャットが胎動して蠢くリズムとなる時、マヒトゥ・ザ・ピーポーがBLACK SMOKER REDORDSからpeepow名義でリリースしたヒップホップアルバムに連なるラップが鼓膜を叩いた時、闇を焦がす音楽の塊が持て余した自信の才能を怒りに振り切った時。私たちは肌と肉の中で酸素を携えながら巡り巡る血が何のために流れているのか、その意味をようやく知る。
「ノーワー」(’22)/リーガルリリー
昨年8月に配信リリースされたEP『恋と戦争』に収録されている「ノーワー」は、反戦歌やプロテストソングと括ってしまうには惜しい、息をふうっと吹きかけただけで崩れてしまいそうな脆さと柔らかさをそのまま結晶させた一曲。甘やかな舌足らずの声で歌い上げられる、あまりに苦い鉄の味に満ちた《風が吹くたびに 蹴り飛ばされて傷が深まった》《ノーワーノーワーのごり押しで 対立が始まって》というフレーズに心臓が締め付けられる。衝動のままに動くのではなく、あらゆる弱さの違いをそっと包み込むようにかき鳴らされるギターと、余白を透明な糸で編むように緩やかに進み続けるベースとドラムの跳ねるリズムが、悲劇を蹴飛ばして踊る自由を与えてくれる。
「都合」(’22)/君島大空
子供の幼気さと肉体の縛りから解かれた老練さが共生するトーキングブルースのような歌のなか、恋を含んだありとあらゆるコミュニケーションへの切なさと諦めの悪さが息と絡まって吐き出される。カッティングの効いたギターと縦軸のリズムを漂うベースとドラム、虹色の油膜を生みながら暗闇を裂くキーボードが、乾燥した空気に湿り気を籠らせながら、昼と夜の合間を繋いでいく。
「Lydia」(’20)/ZZZoo
ヤマジカズヒデ(Gt)、森川誠一郎(Ba&Vo)、田畑満(Gt&Vo)、若林一也(Sax)、DEN(Per)、KAZI(Dr)からなるスーパーバンドZZZooのインストゥルメンタル楽曲。鉱石の奥から伸びる光芒のように光るギターとリズムの間隙を縫い合わせるように泳動するベース、純化して音楽以外の何物でもなくなったサックスの音色が“スペーシー”という比喩では追いつかない速度と包容力でもって瞬く間に拡散されていく。ひりつくような贅沢さとストイックさが心地いい。
「例大祭」(’22)/オワリズム弁慶
総勢30人以上のメンバーからなり、三密であってこそ最も輝いてしまう総合芸術集団オワリズム弁慶。長きにわたる沈黙を破り、新章の幕開けに先駆けて発表したのは、ギターソロがスキップされてしまうこのご時世に喧嘩をふっかける気満々のインストゥルメンタル楽曲「例大祭」のMV。
TEXT:町田ノイズ
町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。