7月11日・12日に大阪・国立文楽劇場、7月15日・16日に浅草公会堂にて開催される右近自主公演『研の會』は自らプロデュースし開催してきた公演。
右近は「『研の會』では、とにかく自分がやりたいことをその都度全力でやる。これをテーマにやらせていただいております」とあいさつ。この日は歌舞伎座での舞台出演の前に、早朝から浅草・三社祭の宮出し(みこしを神社から担ぎだすこと)に参加してきたことを明かした。「毎年来てくれるからと、浅草・仲見世の皆さんが、僕の名前入りの半纏をこしらえてくださいました。浅草は本当に好きな土地。そして『弥生の花浅草祭』は、まさに三社祭にちなんだ作品です。東京公演の会場は浅草公会堂ですから、ゆかりのある場所でゆかりのある作品をお楽しみいただければ。そして大阪公演では、浅草の風を感じていただけるような舞台をお見せできれば」と語り、「お祭り男、尾上右近!やらせていただきます!」とガッツポーズ。
『盲目の弟』は、昭和5年(1930)に、右近の曾祖父・六代目尾上菊五郎によって初演された作品。本作は、およそ40年ぶりの上演となる。
兄の角蔵に右近、盲目の弟の準吉に中村種之助という配役。右近と種之助は同学年で、子供の頃は踊りのけいこ場も一緒だった。共演のきっかけは、右近が、六代目菊五郎の写真集で本作の存在を知り、それを聞いた種之助が、松本白鸚と中村吉右衛門の兄弟により上演された40年前の記録を見つけたこと。
物語のキーパーソンは、中村亀鶴が演じるインバネスを着た客。
『弥生の花浅草祭』は、山車人形が動き出す様子を表現する舞踊作品だ。「四段返し」の通称で知られている。「1人4役、種之助さんと僕の2人で計8役を演じます。音楽は常磐津、清元、長唄の3ジャンルが使われますので、一粒で何度でもおいしい作品ですね」とアピール。体力的に大変な踊りとして知られるが、「種之助さんの踊りを僕は信じています。自分をぶつけつつ、彼の踊りを受け止めて、僕ら2人にしかできない舞台を作りたい。お客様には、良いものを観たねと楽しい気持ちでお帰りいただける作品になると思います」と口にした。
自主公演ではポピュラーな作品が上演されることが多い中、『盲目の弟』を上演する。その意義を問われると「歌舞伎俳優として、僕の中で、六代目菊五郎の存在はかかせません。歌舞伎には、型、様式、白塗りのようなデフォルメした表現や、非日常的な展開が魅力の一面としてたしかにあります。でもその根本には、きちんとした人間描写、心理描写があるのが歌舞伎だ、というのが六代目の考えです。『研の會』としては、世話物を飛び越えて、よりリアルなお芝居に挑戦することになります。
『研の會』は一昨年よから日本を代表するグラフィックデザイナーの横尾忠則による、特別ポスターとなっている。「初めて作ってくださった時、横尾さんから“『研の會』が続く限りお手伝いさせていただきます”と願ってもないお言葉をいただきました。リップサービスだったかもしれませんが、私は真に受けるタイプ」と笑顔を見せ、今年もすでに依頼が進んでいることを明かした。「ポスターを通じて、横尾さんが僕をどう見てくださっているのかを感じることができます。それは、この1年の自分自身を測るバロメーターにもなっています」と右近の中で重要な位置づけであるという。今回も「素材をおみせしたそばから、横尾さんはアイデアを言葉にしてくださいました。完成を楽しみにしています」と期待を込めた。
『研の會』は第十回で終わりとなる。質疑応答でその意図を問われると、「第一回の時から決めていました」と右近は答える。