今回の住人(アルジ)夫妻が暮らすのは、大阪市東成区にある超変形地に建立つ戦前の古家。
元は築87年の空き家で、住める状態じゃないほど朽ち果てていた。しかも、家が建っているのは「旗竿地」と呼ばれる、道路に面する間口が極端に狭く、細い道路の先に家を建てる土地がある変形地。さらに極細の竿部分が15メートルもあり、そこに倉庫があるというあまりにも厳しい立地環境だった。
結婚を機に新居を構えることにしたアルジ夫妻。通勤に便利な大阪市内で探していたところ、妻が生まれ育った町で見つけたのが相場の3分の1という破格値で売り出されていた築87年の古家だった。安さが決め手となり、購入を決意するが、間口が極端に狭いことから新しく建物が建てられない「再建築不可物件」だった。そのため、リノベーションをすることになるが、夫妻は予算削減のために奔走した。
特に大変だったのが、家中の壁として使っている木毛セメント板の運搬。調湿・蓄熱・吸音効果がありながら、比較的安価な木毛セメント板を、家のほぼすべての壁で採用したおかげで断熱性はアップしたが、夫妻は大工とともに重さ約20キロの木毛セメント板を持って50往復もしたそう。
家の中は間仕切りをなくし、2階の床を半分にすることで高さ8メートルもの吹き抜けを実現。旗竿地ながら明るく開放的な空間を手に入れた。1階の床は、夏は冷たく冬は蓄熱効果のおかげで暖かい御影石。また、もともとあった玄関上の開口部は既製品でできる最大のサイズにし、アルゴンガスが間に入った特別なペアガラスを設置。外からの熱を通しづらいというアルゴンガスのガラスは総額約90万円だったが、おかげで暗かった家が明るい空間となり、断熱効果も生まれた。
また家の中には、「輻射熱(ふくしゃねつ)冷暖房」という、温水や冷水を循環させることで室温や湿度を一定に保つ冷暖房装置を全部で5台設置している。1台50万円ほどだったが、これで冬も夏もエアコンは不要だという。
多くの困難を乗り越え完成させた家に暮らして1年。もうすぐ子どもも誕生するが、リノベーションに魅力を感じた夫は「もし将来、子どもが自分の部屋がほしいって言い出したら、ここには広いスペースがないので、近くの空き家でも見つけて『やり方は教えるから、自由に使い!』って言いたい」と笑う。