歌舞伎俳優・尾上右近がこのほど、第九回『研の會』大阪公演(7月11日・12日、国立文楽劇場)に向けた取材会に出席。「あえて大阪に『江戸のデリバリー』に参ります」と笑顔でPRした。


 『研の會』は、右近が2015年からライフワークとして心血を注いできた自主公演で、大阪開催は昨年に続いて2回目。43年ぶりに上演される「盲目の弟」と、四役早変わりに挑戦する「弥生の花浅草祭」の2演目を予定する。

 「盲目の弟」は、1930年に右近の曽祖父である六代目尾上菊五郎によって初演された作品で「『ザ・兄弟愛』がテーマ。家族それぞれの距離感、絶妙な関係値を描いたリアルな現代ドラマで、歌舞伎というより、舞台を見に来る感覚で見られる作品。ざっくりいうと、『着物を着た現代劇』という感じで、日ごろ歌舞伎を見ないお客様にも受け入れられやすい演目では」と解説する。

 盲目の弟役を演じるのは、右近の同期でもあり、同志でもある中村種之助。右近は六代目菊五郎の写真集で初めて本作の存在を知り、松本幸四郎(現・白鸚)と中村吉右衛門が出演した82年の映像を共に見た種之助と「いつかやろう」と約束を交わしていたという。「お互い30代を迎え、『2人でやってみよう』という気持ちが一致したのが、今だった」と語る。

 宿屋で働くお琴役には、尾上松也の妹であり、右近とは幼なじみで家族ぐるみの付き合いがあるという劇団新派の春本由香をキャスティング。オファーをした際、春本は出産直前のタイミングだったが、7月公演の出演を快諾してくれたという。右近は「まさに『夢の初共演』です。お琴は、湿っぽさとからっとした両面があって引き立つお役。
どんな芝居を一緒に作れるのか、いまから楽しみです」と笑顔を見せた。

 一方、「弥生の花浅草祭」は、右近と種之助がそれぞれ四つの役を早変わりで魅せる舞踊。「2人で四役をぎゅっと50分に詰め込み、飽きるすき間のない、まるでトライアスロンのような作品になっています」と予告し「飛んだり跳ねたり、柔らかくも直接的にも踊ったり…。歌舞伎にも運動的な活発な表現が多分にあるということを感じていただけるはず」と期待をもたせた。

 特別ポスターは横尾忠則氏によるもので、右近は「うわ~、こう来たかぁ。すご。おしゃれ。かっこよ!」と大絶賛。さらに「毎回、出し物がガラリと変わるので、なにが出来るか、いつも戦々恐々です。いつも右近さんのスリリングに、こちらもスリリングになってしまうのです」という横尾氏からのメッセージが代読されると、右近は感激しきり。「前々回(の第七回公演)も(横尾さん)らしさが詰まったポスターを作ってもらい、(第八回公演の)去年は、横尾さんの目から見る僕の変化を表現してもらった。今回は、その3倍ぐらい、僕の中の変化を感じて、形にしてくださった。
やはり出会いやご縁は宝物だな」と喜びを爆発させ、「横尾さんは、人として礼儀・礼節を大切に生きていて、表現の瞬間ではどこまで飛べるのかを実践している方。ありがたい」と感謝を伝えた。

 昨年、初上陸となった大阪では、台風が接近する中での上演となった。右近は「お客様にもスタッフにもご負担、ご苦労をおかけした。人の時間とお金をちょうだいしてやっている仕事だと改めて気づくきっかけになった」と振り返る。また「『2都市で自主公演するなんて、たいしたもんだ。頑張ってるね』と仲間や先輩たちに声を掛けられると、うれしい。自分ができることをやることによって、歌舞伎にいい影響をもたらしたいという気持ちが伝わっているのかな」としみじみ。

 一方、来年予定している第十回で『研の會』にピリオドを打つという。「満たされない思いを満たす思いでやってきた」自主公演が、いつしか規模が大きくなり、歌舞伎俳優として、七代目清元栄寿太夫として出演する舞台も増え、舞台の準備をする時間がなくなってきたことが理由。右近は「これ以上続けたら、パンクしちゃう(笑)。でも惜しまれながら幕を閉じるなんて、幸せなこと」としつつ、ファンへ「何かしらやります!」と宣言が飛び出した。
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