現地時間11月14日にドバイで行われる『PFL Dubai』(U-NEXTで見放題ライブ配信)で、元ベラトール世界バンタム級王者のセルジオ・ペティスと対戦する後藤丈治。どんな心境で試合に向かっていくのか、自分の中の変化も楽しみながら大一番に向けて刀を研いでいる。

【詳細はインタビュー前編(https://www.oricon.co.jp/news/2489323/)にて】

 インタビュー後半では、会社員とファイターを両立する生活、愛する家族への思いと「note」で明かした苦しかった若手時代のエピソード、そして同じジムで汗を流す萩原京平について語ってくれた。

■会社員とファイターの二刀流で「“悪魔に魂を売る”ことを避けられる」

――ドバイの試合は奥様と娘さんも応援に行かれるのですか?

【後藤】飛行機で10時間くらいかかるのですが、娘がまだ1歳なのでちょっと厳しく、今回は自宅から応援してもらいます。そういえば最近、ばいきんまんのモノマネをして「ばいばいきん」って言ってたら、娘に「バイキン」って呼ばれるようになって、ちょっと切ないです(苦笑)。ペティスに勝ってアンパンマンって呼ばれたいですね。

――ファイトキャンプ期間中は、娘さんとの接し方も変わってくる?

【後藤】逆に自分にとって大事な時間になります。ジムで練習している時はもちろん、帰り道でもいろんなことをメモして100パーセント格闘技に集中しているのですが、家に帰った瞬間に切り替えて、子どもといる時は殺意ゼロになっています。24時間ピリピリしてるとすり減っちゃうし、自分は集中力が短く深いタイプなので、ずっと格闘技を考えていると日常生活がおかしくなっちゃいます。

――娘さんが誕生したことは、ファイターとしてもプラスになっているんですね。

【後藤】すごく大きいです。昔は子どもにぜんぜん興味がなくて、かわいいと思うけど自分が欲しいとはまったく思っていませんでした。でも、いざ自分の子どもが生まれたら完全に変わりましたね。今じゃ知らない人のウエディングムービーでも感動するようになっちゃって、「自分の娘もいつか…」なんて思ったり(笑)。


――娘を溺愛しているパパですね(笑)。そんな後藤選手は会社員としても働いているとのことですが、どんなお仕事なのでしょうか?

【後藤】新卒の学生さんの就職支援や会社での研修、中途入社の方の面接など、人材系の会社で働いています。ほぼ毎日出勤していて、(『RIZIN.54』のアジズベク・)テミロフ戦の翌日も朝礼に出て、業績報告を聞いていました。

――専業ファイターではなく、会社員としても働くことを大事にされているのでしょうか?

【後藤】はい、会社の社長もアドバイスしてくれたことであり、自分も思っていたこととして、収入の柱をいくつか持っておくことが大事なんです。例えば、専業ファイターなら自分がケガをしていて万全のコンディションじゃなくても、生活のためにオファーされた試合を受けなきゃいけないときが来るかもしれない。でも、別に収入の柱があると“悪魔に魂を売る”ことを避けられるというか、自分が望んだ格闘技人生を進みやすくなると考えています。格闘技のスケジュールを優先できるように融通を利かせていただいていますし、本当に会社には感謝しています。

――普通の会社員が「ドバイで試合があるので休ませてください」って、なかなか言えないですよね(笑)。

【後藤】でも、ドバイでも減量や水抜きの合間に仕事をすると思います。中島太一選手との試合(25年11月)が終わった帰りの新幹線でも、日報を書いていました。今は練習や試合の合間に、YouTubeやアパレルブランドやジムをやっているファイターも多いですし、自分は会社員を選択しました。最初はけっこう大変で、以前の会社では朝まで報告レポートを作って、そのまま格闘技のプロ練習に出てから出社するスケジュールもあったのですが、徐々に慣れてきました。
RIZINでも摩嶋一整選手や弥益ドミネーター聡志選手や雑賀ヤン坊達也選手など、サラリーマンをやりながら戦っている選手もいるので、自分が特別すごいとは思っていません。

■初めて家族でディズニーランドへ「入口でもう目頭を押さえてました(笑)」

――今回のインタビューは、実はペティス戦が決定する前にオファーしていました。きっかけは、後藤選手がご家族とディズニーランドに行かれたエピソードを紹介された『note』の記事です。ファイターであり、妻を愛する夫であり、家族を守る父親である後藤選手の思いに触れることができた気がして、胸にグッと込み上げるものがありまして、その当時の思いを聞いてみたいと思ったんです。
(未読の方はこちらから)
https://note.com/george0634/n/n09599b0033e0

【後藤】ありがとうございます。奥さんとディズニーランドに一緒に行けるようになるまで、長かったですね…。3年前に結婚した奥さんとは高校生の16歳から付き合っていて、遠距離恋愛の時期もあったのですが、途中で俺の行き届かないところや未熟なところがあって別れてしまい、東京に住んでる俺が札幌に住んでる奥さんに謝りに行ったこともありました。結婚を見据えて「東京で一緒に暮らそう」って呼んだんですけど、自分は修斗の若手ファイターで一番お金がない時期でした。全財産が4万円くらいしかなかったんですけど、プロポーズのために10万円くらいかけてヘリをチャーターして、ちょうどファイトマネーが入ってきたから払えたくらい、ギリギリの自転車操業って感じでしたね。

――経済的に苦労された時期があったんですね。

【後藤】一緒に住んでた25歳くらいのとき、「ディズニーランドに行きたい」って話になったんです。自分の友だちは商社や証券会社勤務で休みができたら海外旅行って人も多くて、ディズニーランドなんて普通の週末に行く感覚なんですよ。
妻の友だちにもそういう人が多くて、妻も当たり前のようにディズニーって言ったんですけど、俺が「ごめん、行けない」って話したら、「なんで?」って理解できないって感じで聞かれて、それがめっちゃ悔しかったんです。その後、RIZINで勝っていくことである程度のお金もいただけるようになってきて、奥さんの妊娠と出産を経てようやく落ち着いてきたタイミングで、やっと家族でディズニーランドに行くことができました。

――奥様が最初に行きたいと言ってから数年越しの実現、おめでとうございます!

【後藤】テミロフ戦が終わってからやっと行けたのですが、時間がかかりましたね(笑)。ディズニーランドの入場ゲートを通ったときに子どもがベビーカーで寝ていて、パークスタッフの方が誕生日のシールを貼ってくれて、「どのアトラクションに乗ってる夢を見てるのかな」って声をかけてくれただけで、もう……(思い出して泣きそうになる)。嫁はサングラスをかけていたんですけど、泣いてるのが分かって。2人そろって入口で目頭を押さえてました(笑)。

――どんなアトラクションに乗られたんですか?

【後藤】パーク内を歩くのがメインで、子どもが小さいからジェットコースター系には乗れなくて、イッツ・ア・スモールワールドに2回乗りました。もう、乗ってるだけで泣けてきましたね、音楽がヤバいです。これまでの人生でそんな感情になったことはありませんでした。生きるか死ぬかみたいな戦いをやってきて、マフィア映画ばっかり見てきた自分が、イッツ・ア・スモールワールドで感動するようになったんだなって。自分の拳で稼いだお金で来られるようになったことにファイターとしての喜びもありますし、また家族でディズニーに行きたいし、もっといろんな所に連れていきたいって強く思いました。

――後藤選手は勝ち続けてファイトマネーが上がっていって、ご家族でディズニーランドに行けるようになりました。
一方で、もし負けていたらファイトマネーは上がらないですし、後藤選手が倒してきた選手にも家族がいて、悔しい思いをしている人がたくさんいる。我々のようなサラリーマンには想像もできない弱肉強食の世界で戦い、そこで勝ち取ったお金でディズニーランドに行くエピソードで、格闘家という生き様の残酷なコントラストも改めて感じました。

【後藤】おっしゃる通りです。ファイターって相手の幸せを奪って自分が幸せになる世界で、自分は戦った相手と仲良くできないんですよ。自分がこの世界で上がっていく一方で犠牲になった幸せがある、そういうことを常に自分は考えています。でも、そんな格闘家という生き方を選んだのも自分なんです。

■幸せは「比較と過程」魅力あふれる盟友・萩原京平の再起に期待

――お子さんはまだ1歳ですが、いずれお父さんのお仕事・生き方を理解する瞬間が訪れますね。

【後藤】はい、難しいなって思うんですけど、子どもには自分で選んでほしいです。父親みたいになりたいのか、なりたくないのか。自分は自分の幸せだと思う人生を歩んできたので、子どもにも自分の生き方を選んでもらいたいと考えています。自分は弱肉強食の世界で、家族の生活費も子どもの学費も自分の拳で稼いでいきます。セルジオ・ペティスにも家族がいるし、次の試合では彼らの幸せを奪いにいかないと自分たちの幸せが奪われる。
試合が終わったらどちらかの家族がすごく悲しむことになりますが、それを全部受け入れてやっていくのが格闘技ですから。ロマンですよね。

――プロ野球だと年間130試合以上、サッカーも年間30試合以上ありますが、格闘家は1年で2~3試合ですから、一つの試合の結果がものすごく重たくなります。

【後藤】自分は「幸せって何か」って考えたときに、「比較と過程」の2つがあると思ったんです。「比較」は、例えば他の人は毎日働いてるけど自分は朝からビールを飲んでるみたいな、誰かと比べることで感じられるもの。自分は「自分との比較」をよく考えていて、あの時に練習を頑張らなかったらこういう人生になってたけど、あそこで頑張ったからこんな人生になっているっていう、選ばなかった道と今の道を比較して「あの時に覚悟を決めてやってよかった」ってことに幸せを感じることがあります。
 もう一つの「過程」は、チャンピオンになりたいけど、なったからって必ず幸せになるわけじゃない。例えば、ずっと行きたかったラーメン屋の行列に並んで、長い時間待ってようやく食べられる一口目って最高じゃないですか。でも、このラーメンを3杯食べたとしても一口目ほどの感動はなくなってしまう。幸せって状態で感じられるものじゃなく、目指してる過程で感じられるものだなと。チャンピオンベルトを目指してる過程で、自分がどういう気持ちになって、どのように成長できたか、そこに幸せを感じていきたいんです。

――ベルトは欲しいけど「じゃあどうぞ」っていきなり渡されても幸せじゃない、ということですね。


【後藤】そうです。ベルトを取るための過程で幸せを感じながら、常にアップデートしていきたい。それこそが生きていると感じられるんです。殴り合いで相手の人生やプライドを奪って自分が幸せになる、そんな競技って普通じゃないですよね。でも、なぜそんな世界で生きていくのか、なぜ戦うのかって考えていくなかで、自分の幸せは「比較と過程」なんだなっていう答えに至りつつあります。

――生き様について丁寧にお話しいただき、ありがとうございます。最後に、後藤選手と同じジムで練習する盟友の萩原京平選手の現在について、後藤選手の視点から話していただけますでしょうか?

【後藤】自分のテミロフ戦のセコンドについてもらって「火がついた」って言ってくれて、めっちゃ練習してます。彼って芸能人レベルでファンが多いじゃないですか。一緒に大阪の街を歩いてたらブワーって囲まれるくらいすごくて。それでも普通の感覚を持ってて、この前言われて印象的だったのは「俺がなんかダサいことしてたら言ってな。言われたらすぐに直すから」って。なかなかそんなこと言えないじゃないですか。それを男友達にパッと言える素直さが彼の魅力だし、周りを頼りながら変えていこうっていう姿勢は自分も参考になります。

――2人が一緒に上がっていくことを期待しているファンも多いです。

【後藤】絶対に上がりますよ、絶対に。そのために、まずは自分がペティスにいい勝ち方をして、RIZINのスケールをデカくするきっかけを作ります。しっかりフィニッシュボーナスをもらって、家族を海外旅行に連れていきたいです(笑)。
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