悪質なクレームにはどのように対処すればいいのか。クレーム対応研修講師の津田卓也さんは「『この社員をクビにしろ!』などと騒ぐクレーマーと遭遇した場合は、クレームをつけることに慣れている場合が多い。
そうした場合は常識を逆手に取るフレーズを伝えればいい」という――。(第4回)
※本稿は津田卓也『カスハラ、悪意クレームなど ハードクレームから従業員・組織を守る本』(あさ出版)の一部を再編集したものです。
■「悪質クレーマー」の無理難題に付き合ってはいけない
【CASE1】

この社員をクビにしろ! と要求された
他のスタッフが対応していたお客様が私のところにやって来て、「あいつの態度はなんだ! 今すぐクビにしろ!」と激怒しています。
その勢いはとどまることを知らず、周りのスタッフも仕事が手につかないほどの怒鳴り声です。たしなめようとしても話を聞いてもらえないどころか、「そもそも接客というのはな……」「これはお前たちのためを思って言っているんだ」などと、今度は対応者以外のスタッフに説教を始めた挙句、「クビにするまで帰らない」とまで言い出しました。
【NG対応】

「社員をクビにすることはできません。なぜなら……」と、マニュアル通りの答えで議論に応じようとする。
このケースは、特殊クレームに該当する可能性があります。対応者の説明を遮(さえ)ぎってまで自分の話をしようとするという特徴があれば「ハードクレーム対応モード」への切り替えを考えましょう。
まずは事実確認のために6W3H(6W:いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・誰に/3H:どのように・いくらで・どれだけ)で質問を繰り返して、もともと対応していたスタッフに非があったかどうかを確認していきましょう。
スタッフの対応に問題がなかった場合は、シンプルに「人事については現場で判断できかねます」と返して、それ以上議論に付き合う必要はありません。このタイプの特殊クレーマーは、社会的地位が高い男性、または、退職した高齢者が多く、知恵が働く人が多く、法に触れないギリギリのラインで、スタッフに無理難題を突き付けてきます。

■「常識」を逆手にとって切り返す
クレーム対応が長期化しやすく厄介な相手ですが、その性質を逆手にとって臨みましょう。
もともと常識のある一般人なので、自分のクレームによって問題が大ごとになることを嫌います。そのため、
【切り返しフレーズ】

「もしこれ以上お話を続けられるようでしたら、こちらも弁護士と相談することになります」「お引き取りいただけないのでしたら、警察に通報しなくてはならなくなります」
と法的対応をとる姿勢を示すことで、「これはまずいことになるかもしれない……」と意外にもあっさり退散していきます。
「しっかり説明するのが従業員の義務だろう」など、お客様が正論で攻め続けてきたとしても、「申し訳ございませんが、何度おっしゃられてもお客様のご要望に応じることはできません。この結論は変わりません。恐れ入りますが、このお話はこれで終わらせていただきます」と返し、相手に丸め込まれないように、毅然と対応しましょう。
【POINT】

対応者の非を認めさせようと強い姿勢でくるが、問題が大ごとになることを望まないため「これ以上長引かせるようなら弁護士に相談します」ときっぱり伝えるとあっさり収束しやすい。「社員の人事については、現場で判断できません」と冷静に反論し、それ以上の議論には付き合わない
■「名前を教えろ」には絶対に応じてはいけない
【CASE2】

名前を教えろと言われた
私の職場には、名札がありません。よくお越しになるお客様から「きみの名前はなんて言うの? 教えてもらえない?」と聞かれました。クレーマーとして要注意人物というわけでもなく、何より常連さんです。私としては本名を教えたくはないのですが、ここで名前を答えないのは不誠実な対応なのでしょうか。
【NG対応】

「○○○○と申します」と、正直に本名を伝える。

スタッフの個人情報を執拗に聞き出そうとするのは、特殊クレームに多いパターンです。「このスタッフは、私のことを理解してくれている。またお話がしたい」というのが真の欲求です。だからといって、お店のファンになるわけではなく、名指しでクレームを入れてきたり、SNSで根も葉もないことを拡散されたりする場合もあり、注意が必要です。
断り切れない場合は、偽名を教えるという手もあります。鈴木や佐藤といったありふれた名前を告げ、その場をごまかしましょう。「フルネームを教えろ」と言ってくる相手もいますが、
【切り返しフレーズ】

「プライバシーに関わることなので、お教えできません」「○○課の鈴木(偽名を使用)と言っていただければ、社内では通じます」
と、切り返します。偽名を伝えた場合は、その旨を同僚にも伝えておきましょう。
■名札をつけないのには理由がある
これは、クレーム対応者の犯人捜しではなく、同じ相手が来た場合に、誤った対応(他のスタッフが「そんな人はいません」と本当のことを告げてしまい「嘘を言われた」と相手を怒らせてしまう)をしないためです。
名札がなく、名前を公表しないのは、組織に何らかの方針があるからです。個人の判断で名前を伝えるのは控えましょう。
また不用意に伝えてしまった場合、今後、名指しで対応を求められるほか、嫌がらせをされる可能性もあります。
あなた一人が個人情報を教えてしまったことで、次回から別のスタッフにも同じように、氏名の開示を要求しはじめるかもしれません。
特にお客様の様子に不審な点が見られなくても、自分や同僚の身を守るためにも、組織の方針である以上、個人情報を明かすことは避けましょう。また、「名刺を出せ」と言われた場合でも「只今、名刺を持ち合わせておりません」と断ります。相手が喰い下がってきた場合は、「なぜ私の名刺が必要なのか、理由を教えていただけますか?」と、切り返しましょう。
トラブル発生時に名刺を求められるのは、役職の確認や氏名の確認が目的です。名前や住所を教えた場合と同様に、嫌がらせをされる可能性もあるので注意しましょう。
【POINT】

名前や住所を聞いてくるお客様に対しては、「会社の方針で個人情報を伝えてはいけない決まりです」と徹底してお断りする。不用意に個人情報を明かすと、自分や同僚が思わぬ被害に遭うこともある。

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津田 卓也(つだ・たくや)

クレーム研修担当講師

キューブルーツ(Cube Roots)代表。1965年生まれ。京都府出身。1995年ブックオフコーポレーション株式会社に入社し、2000年にはブックオフコーポレーションの年間MVP獲得。
2005年にセミナー&研修会社キューブルーツを設立。メディアでも活躍し、フジテレビ『バイキングMORE』、テレビ東京『解禁!暴露ナイト』、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」、NHK「あさイチ」等に出演。執筆活動にも力を入れており、雑誌では『日経ビジネスアソシエ』等にも寄稿。著書に『どんなクレームも絶対解決できる!』、『カスハラ、悪意クレームなど ハードクレームから従業員・組織を守る本』(ともにあさ出版)、『なぜか印象がよくなるすごい断り方』(サンマーク出版)などがある。

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(クレーム研修担当講師 津田 卓也)
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