経営リスクのある会社を見抜くには、どんなことに注意すればいいか。LINE執行役員などを務め、個人投資家でもある田端信太郎さんは「家族経営をしている企業には注意したほうがいい。
親が子に事業承継をしたパターン、兄弟で経営しているパターン、夫婦で経営しているパターンなどがあるが、どれも異なるリスクを抱えている場合がある。そのなかでも特にリスクがあるのは『父親が娘に社長を継がせる』パターンだ」という――。(第1回)
※本稿は、田端信太郎『株で儲けたきゃ「社長」を見ろ! いちばん大切なのに誰も教えてくれない投資の王道』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■「父娘」パターンの家族経営が抱える問題点
同族企業の事業承継には様々な形があるが、個人的に最悪だと感じているのが「父親が娘に社長を継がせる」パターンだ。
実際に娘が継ぎ、大問題に発展した事例としては株式会社大塚家具と株式会社スノーピークがある。サンプル数は2だが、見過ごせない。大塚家具では、創業者である父の大塚勝久(おおつかかつひさ)さんと娘の大塚久美子(おおつかくみこ)さんが、経営の方向性をめぐって激しく対立する騒動が起きた。
社長に就任した久美子さんは、従来の高級路線を一転、誰もが入りやすいオープンな店舗作りや低価格化を進めたが、結果的に業績は大きく低迷した。最終的には、自力での経営再建は難しくなり、2022年には株式会社ヤマダデンキ(現ヤマダホールディングス)の傘下に入った。
また、スノーピークでは、2代目の山井太(やまいとおる)さんが娘の梨沙(りさ)さんを社長に抜擢した。若い感性で、ブランドに新風を巻き起こすことが期待されていたが、彼女自身の私生活をめぐる問題で、短期間で社長を辞任することになった。
この騒動が直接的な原因とは言えないが、その後スノーピークは業績が大きく悪化し、最終的には上場廃止という結果に至っている。
なぜ、父が娘に継がせると上手くいかないのか。それは、父が娘に対して適切な距離感を保つのが難しいからだ。
■適切な距離感を保つのが難しい
私自身にも息子と娘がいるのでよく分かるが、どうしても息子との関係と娘との関係は同じにはならない。古来、息子という存在には、精神的な意味での「父殺し」のタイミングが必ず訪れる。
前社長の父親が過剰な口出しをしようものなら「親父、うるさい! 俺が継ぐんだから自由にやらせろ!」とはっきり反発するだろうし、父親としても、「あとは自分でやれ」と、良くも悪くも突き放すことができる。このようなぶつかり合いや距離感は、むしろ健全だ。
ところが娘に対して、父親はつい甘くなり、構いすぎてしまいがちだ。娘の側も息子ほど強く反発することは少ないため、父親は「良かれと思って」ついつい口を出しすぎてしまう。その結果、お互いに距離が近づきすぎてしまい、経営が混乱してしまう。親子が直結した経営では、周囲が意見しにくくなるという問題があるが、特に父娘の場合それが顕著におきやすいのだ。
もう一つよく見るパターンとして、「兄弟経営」がある。特に、創業直後のスタートアップ企業は資金も人材も足りず、絶対に裏切らない信頼できるパートナーを外から見つけてくるのは難しい。
こうした状況では、「兄弟」という血縁関係に頼るのは自然で、むしろ合理的な選択といえる。
■「兄弟関係」は比較的影響が少ないほうだが…
兄弟の場合、親子ほど年齢差がないため、社長とナンバー2という関係を比較的スムーズに築きやすいというメリットもある。実際、ZOZOでも創業当初は前澤さんの弟さんが運営を手伝っていたという話を聞く。
とはいえ、兄弟経営にも限界がある。会社がある程度成長し、規模が拡大して、上場を目指すような段階に差し掛かると、兄弟や家族という近すぎる関係が、マイナス要因になりやすい。
たとえば、社内結婚した夫婦が同じ部署で働いていると、周囲は無意識のうちにその二人の関係に遠慮してしまうことがある。仕事の話をしているだけでも、「夫婦間に割り込むのは気が引けるな」と感じてしまうからだ。
兄弟経営でも似たような状況が起こる。経営の中心メンバーが兄弟や夫婦などの身内同士で固まっていると、他の社員が自由に意見を言いにくくなり、会社の風通しを悪くしてしまうこともあるのだ。
ZOZOの場合も、上場を目指すくらいのタイミングで前澤さんの弟さんが自ら退社したらしい。退職の具体的な理由は知らないが、結果的にそれは良い判断だったと思う。その先は、より客観的でプロフェッショナルな経営が求められるからだ。

■「親の七光り批判」は誰も得しない
これは「中興の祖」と言われるような大成功したサラリーマン社長に限った話だが、自分の子どもを同じ会社に入社させているケースは大いに注意だ。
昔から、「李下(りか)に冠(かんむり)を正さず」という言葉がある。これは、「他人から疑われるようなことは、たとえ潔白でも慎重に避けなさい」という意味だ。社長の子どもが会社に入ったら、たとえご子息本人がとても優秀な人材だったとしても、周囲はどうしても「社長の子どもだから」「親の七光りだ」と疑いの目を向けてしまう。
それは本人にとっても、会社にとっても好ましい状況ではない。社長という立場でいると、側近から「社長のお子さんなら、きっと優秀ですよね! ぜひうちに入ってほしいです」などと持ち上げられることもあるだろう。ただの社交辞令である。こんな言葉を真に受けてしまっている時点で、まともな大人としての判断ができていない証拠だ。
セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文さんもサラリーマン社長でありながら、息子を入社させてしまった一人だ。実は私は息子の康弘(やすひろ)さんと何度かお会いし、食事をご一緒させてもらったこともあるのだが、優秀で人間的にも素晴らしい方だと思った。いわゆる親の七光りで虎の威を借るような人物にはけっして見えなかった。
ところが、父親の鈴木会長が会社を追われると、しばらくして追い出されるような形で退社をすることになってしまった。

■「夫婦経営」は非常にリスクが高い
ただし、オーナー社長の場合は話が異なる。
オーナー社長は会社の大株主であり、会社は株主のものでもある。いずれにせよ、決定的な支配力を持つ株式を将来的に相続することを考えれば、早い段階で自分の子どもを会社に入れ、後継者としての教育を始めるのは自然であり、理にかなっている。
社員たちにとっても、社長が亡くなった瞬間、それまでまったく会社に関わりがなかった息子が「今日から自分が社長です」と突然現れるより、若い頃から社内で経験を積み、きちんと当事者意識を持った人物に引き継がれるほうが、よほど安心できるだろう。
会社をゼロから夫婦で立ち上げるというケースは決して珍しくない。しかし私個人としては、親子経営以上に、夫婦で経営する会社はリスクが高いと感じている。
夫婦経営があまり好ましくない理由は、意思決定に客観性が失われるからだ。経営において重要な判断を、自宅のダイニングなど夫婦のプライベートな場で決めてしまうことは珍しくない。本人たちに悪気はなくとも、社内からすれば密室で物事が進められているように映り、不満や不信感が募りやすい。
■客観性を保ちづらく、難易度が高い
また、夫婦という関係は、建前上は対等な関係だ。対等な関係は家庭としては素晴らしいが、それをビジネスの現場にまで持ち込まれると話がややこしくなる。
意思決定がこじれたり、家庭内の感情的な問題が会社にまで波及してしまい、役員や幹部社員が、社長夫妻の「夫婦喧嘩の仲裁役」になってしまっている例もしばしばある。

一般論として、「50:50」のジョイントベンチャーのような状態の会社はうまくいかない。組織は明確なトップがいてこそスムーズに回るもので、対等なパートナーシップでは長続きしないのだ。小規模のまま家族経営を続けるつもりならそれでも構わない。
だが、事業を大きくして、将来的には上場を考えているような会社であれば、そのままでは難しいだろう。優秀な第三者が、そんな夫婦経営の会社で働きたいとは思えないからだ。
とはいえ、夫婦経営で成功している会社もないわけではない。たとえばアパホテルの元谷夫妻は、上場こそしていないもののホテル企業として大成功を収めている。このような例もあるが、夫婦経営は親子経営以上に客観性を保つのが難しく、難易度が非常に高いということは覚えておいた方がいいだろう。

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田端 信太郎(たばた・しんたろう)

オンラインサロン「田端大学」塾長

1975年石川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン「R25」を立ち上げる。
2005年、ライブドア入社、livedoorニュースを統括。2010年からコンデナスト・デジタルでVOGUE、GQ JAPAN、WIREDなどのWebサイトとデジタルマガジンの収益化を推進。2012年NHN Japan(現LINE)執行役員に就任。その後、上級執行役員として法人ビジネスを担当し、2018年2月末に同社を退社。その後株式会社ZOZO、コミュニケーションデザイン室長に就任。2019年12月退任を発表。著書に『これからの会社員の教科書』『これからのお金の教科書』(SBクリエイティブ)、『ブランド人になれ!』(幻冬舎)他。

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(オンラインサロン「田端大学」塾長 田端 信太郎)
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