※本稿は、田端信太郎『株で儲けたきゃ「社長」を見ろ! いちばん大切なのに誰も教えてくれない投資の王道』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■「会社の文化」を決めているのは誰か
創業メンバーや共同創業者といった重要なナンバー2、ナンバー3の幹部が会社を離れると、「会社のビジョンや文化が歪んでしまうのでは?」という心配もある。しかし、実際にはそれほど大きな変化は起こらない。
会社の文化や方向性を本当に決めているのは、あくまでも「ナンバーワン=創業オーナー社長」だからだ。リーダーが変わらない限り、会社のDNAが大きく変わることはまずない。むしろ、ナンバー2やナンバー3が抜けることによって、ナンバーワンである社長の組織への影響力や浸透度が強大になるケースが多い。
というのも、創業初期は仲間内でやっているため、一応の序列があるとは言え、ナンバー2やナンバー3の発言や意見にもそれなりの重みがある。社長にとっては、創業メンバーに遠慮して、自分が本当にやりたいことを完全には実行できない側面もある。
皮肉なことに、会社がある程度まで成長した結果として、創業メンバーが抜けた後、ナンバーワンである社長の考えや価値観が色濃く出るようになり、会社の文化やビジョンがより一層、明確になったりするものだ。
社長からすれば「やっと自分の好きなようにできる」状態になり、創業メンバーの離脱がきっかけとなり、むしろ会社の成長がさらに加速することも珍しくない。ナンバー2やナンバー3が抜けるのは表面的にはマイナスに見えるかもしれないが、実際には会社が次のフェーズへ進むための良い機会になりえるのだ。
■社長同士の「異様なライバル意識」
社長たちというのは蛮族である。つまり社長同士は、一般社員からは見えないが、お互いに強い強いライバル意識を持っている。そのため、企業の重要な決定が、実は「ライバルに負けたくない」「アイツがやったならうちもやる」という、極めて個人的な感情や対抗意識からなされることも少なくない。
分かりやすい例を挙げるなら、プロ野球チームの保有だ。ソフトバンクグループ株式会社の孫正義さん(会長兼社長)が福岡ダイエーホークスを買収すれば、楽天の三木谷浩史さんも東北楽天ゴールデンイーグルスを設立する。その後、DeNA(株式会社ディー・エヌ・エー)の南場智子(なんばともこ)さん(会長)も横浜ベイスターズを買収した。
金融業界でも同様の例がある。SBIホールディングスの北尾さんが住友信託銀行(当時)と組んでネット銀行を作ったら、その後すぐにGMOの熊谷さんがあおぞら銀行と組んでGMOあおぞらネット銀行を作った。
こうした流れは、単に「時代の流れ」という言葉では片付けられない。明らかに、社長たち同士のライバル心や「負けてられない」という競争心が根底にあるように見える。では、そのライバル関係をどう見抜けばいいのか?
■ライバルを見抜ければ、経営の流れが見えてくる
社長同士のライバル意識は、だいたい「同世代であるか」「業界が近いか」「上場したタイミングが近いか」という条件で発生しやすい。まったく別業界で、世代も20歳ほど違うような相手には、そもそも競争心やライバル意識、嫉妬が湧きにくいのだ。
人は、似たような属性や背景を持つ人たちと自分を比較し、その中での序列を気にする。ニューヨークのある金融マンは、何億円という年収を稼いでいるが、顧客が百億円や千億円規模の大富豪ばかりなので、真剣に「自分は貧乏だ」と思い悩んでいるらしい。
この話には誇張もあるかもしれないが、人間心理の本質を突いている。人は、自分に近い属性の人間と比較し、自分の価値や位置を決めてしまうのだ。特に社長という人間は負けず嫌いが多く、「ライバルが何かを仕掛けたら、少なくとも五分までは持ち込まないと気が済まない」という気持ちにもなりやすい。
したがって、ある上場企業が突然、不思議な経営方針を打ち出した場合、その裏にはライバル社長への対抗意識や見栄が隠れていることが少なくない。逆に、ある会社が目立つ行動を取ったときは、周囲にいるライバル企業も同様の動きを追随する可能性が高いと予測することもできるのだ。
もしあなたが法人ビジネスの営業パーソンなら、このタイミングこそ、絶好の提案チャンスとなりうる。先行する企業と同じような商品・サービスを売り込めばいい。
■「趣味にハマりすぎる社長」には要注意
サウナブームの中で「サウナが趣味」を公言する社長が増えた。
個人の趣味として楽しむ分には何の問題もないが、社長が熱中しすぎて社内にサウナを作ったり、サウナ設備の代理店販売を新規事業として立ち上げたりと、社長の趣味が会社を巻き込むケースがある。
これは社長室にゴルフバッグが置いてあったり、社長が飲むためのバーが設置してあったりするのと構図は変わらない。
社長自身には悪気がなくても、社員はどう感じるだろうか。「サウナに参加すれば社長に気に入られるかもしれない」「誘いを断れば評価が下がるかもしれない」といった心理的圧力を感じる状況は、つくらないに越したことはない。こうした問題はサウナに限らない。
ゴルフや麻雀、ワインに果てはネットゲームなど、社長の個人的な趣味への付き合いが評価や昇進にまで直結するような組織は明らかに不健全だ。人間同士である以上、このような影響を完全にゼロにすることは難しいだろう。
しかし少なくとも建前として、社長自身が「自分の趣味への参加と社員の評価は完全に切り離す」という明確な姿勢を持ち、社員にもそれを示さなくてはいけない。
■圧倒的な結果を残す「孤独タイプの社長」
一般的に「社長」と言えば、社交的でコミュニケーション上手。夜には毎晩のように会食や飲み会が入っていて、人付き合いの中から仕事を引っ張ってくるようなイメージがある。
私の体感だが、社長の7~8割はこうした「外交的」なタイプである。だが、社長の中には、少数だがその真逆のタイプも存在する。
代表的な例は、ユニクロを運営する株式会社ファーストリテイリングの柳井正(やないただし)会長兼社長だ。柳井さんは基本的に夜の付き合いを好まず、仕事が終わるとまっすぐ帰宅し、自宅で本を読みながら経営戦略を考えているらしい。(*1)
実は、世間をあっと驚かせるようなとんでもないことを成し遂げるのは、案外そうした「孤独な内向型の社長」だったりする。業界内の飲み会や社交の場に頻繁に顔を出すタイプの社長は、それなりに手堅く成功することができると思う。
一方、柳井さんのように内向的で、研究者タイプの経営者は、深く思考を重ねて、誰もたどり着けないような境地に到達することがある。
もちろん、内向的なタイプの全員がそうなるわけではないので、ハイリスク・ハイリターンのタイプだと言ってもいいだろう。生身の人間と関わるよりも、古今東西の偉人たちが残した言葉や書物を通じて内面的な対話を深める方が、彼らにとってはずっと価値があるのかもしれない。
(*1)竹下隆一郎「すぐに帰宅する人ほどビジネスに強いワケ ユニクロ・柳井正社長の発想法」、PRESIDENT Online、2019年4月19日
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田端 信太郎(たばた・しんたろう)
オンラインサロン「田端大学」塾長
1975年石川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン「R25」を立ち上げる。
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(オンラインサロン「田端大学」塾長 田端 信太郎)