相手の心をつかむ人は何を心がけているか。営業コンサルタントの菊原智明さんは「稼げる営業はハガキやお札状などのアナログツールを上手く利用し相手の心をつかんでいる。
そこからさらに営業成績を大きく上げる人は、相手のために書いたと伝わるエピソードを一言添えている」という――。
※本稿は、菊原智明『決定版 「稼げる営業」と「ダメ営業」の習慣』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■アナログを利用すれば目立つ
稼げる営業は汚い字のハガキを送り、

ダメ営業はきれいなハガキを送る。

今はデジタルツール全盛の時代です。いろいろな世代がメールやSNSを使ってコミュニケーションを取っています。
その反対にアナログツールを使う人が減ってきています。
ということは裏を返せば「利用すれば目立つ」とも言えます。
稼げる営業はアナログツールを上手く利用しています。ただハガキを送るだけではなく、ひと工夫をすることで効果を最大限に高めているのです。
以前、交流会に参加し、いろいろな人と名刺交換させて頂いたのです。
後日、その中の一人のAさんからハガキを頂きました。
そのハガキを見ると墨文字で書かれていて、きれいで芸術的です。
交流会で会った後にメールを送ってくれる人はいても、ハガキを送ってくれる人はあまりいません。嬉しかったものの何か物足りなさを感じました。
その翌日、Bさんからハガキが届きました。
先ほどのAさんのように芸術的ではなく、ボールペンで普通に書かれたものです。
また書かれていた字も決してうまいとは言えませんが、とても印象に残りました。
実は交流会では、Bさんはあまり印象に残らない方でした。
しかし、Bさんからハガキをもらった時点で一番印象的な人に変わったのです。
■相手と自分しか知らないエピソードを一言添える
AさんとBさんのハガキの差は何でしょうか?
Bさんから頂いたハガキには、私だけが知っているエピソードが書かれていました。
ハガキの最後に「今度はぜひ群馬県でゴルフをしましょう!」と書いてあったのです。
それを見て「菊原さんだけのために書きました」というのが伝わってきます。
一方Aさんのハガキは芸術的だったものの、他の人にも同じものを送っているように感じました。名前こそ「菊原さん」となっていましたが、その部分を「山田さん」「佐藤さん」に変えても十分意味が通じます。

これがAさんとBさんの大きな違いなのです。
これは営業活動でも言えることです。新規のお客様と出会ったとします。
お礼状を出さない営業が多い中、出すだけでも立派です。しかし「大勢の人に同じものを送っています」という雰囲気が出れば、お客様はシラけます。
会社で用意した印刷物を送ったのでは、お客様の心はつかめないのです。
お客様と自分しか知らないエピソードを一言添えるからこそ、ハガキの効果が何倍にもアップするのです。
かくいう私もダメ営業時代はお礼状を事務の人に丸投げです。会社で用意してもらっていた印刷物をそのまま送るだけでした。
私自身、特徴もなく記憶に残るようなタイプではありません。こんな私が工夫もされていないハガキを送ったところで、ほとんど意味がなかったのです。
■そのひと手間によって営業成績が大きく異なる
多くの営業の人たちが「お礼状を送った方がいい」ということを知っています。

またひと言添えた方がいい結果になると分かっているのです。
しかし、多くの人が「字が下手だし、なんて書いていいか分からない」と思い込んで二の足を踏んでいるのです。
売れる営業になるために字が上手、下手は関係ありません。空いているスペースに「あなただけのために書きました」という内容を一言書くだけでいいのです。
あなたはどんなハガキを送っているでしょうか?
「会社から与えられた印刷物をそのまま送っている」という人は、今日からお客様とのことを一言添えて送ってください。
そのひと手間によって営業成績が大きく違ってきます。
お客様と自分しか知らないエピソードを

ハガキに添える!

■相手の言葉はときに本心ではない
稼げる営業は言葉を疑い、

ダメ営業は言葉を真に受ける。

ハウスメーカーの営業時代のことです。
モデルハウスで待機しているとひと組のお客様が来場してきます。
お客様「実は新築ではなくリフォームなので、キッチンとお風呂だけ見せて頂いてもよろしいですか?」
私「はい。どうぞ……」
私は新築住宅の営業をしていましたから、リフォームの契約をとっても成績になりません。「なんだぁ~リフォームを考えている客かぁ……」と残念がります。
そして気の抜けた接客をしたのです。
もしかしたら、このお客様は新築で考えていた可能性もあります。警戒心の強いお客様は売り込まれることを避けるために「リフォームで考えている」と言ったのかもしれません。にもかかわらず、私はその言葉を真に受けていたのです。
私自身が買う立場になった時のことです。私はある程度機種を絞ってパソコンを見に行きました。店員さんを探し、話を聞きます。買うものは決まっていますし他のお店に行くのも面倒なので、よっぽどの理由がなければ購入したいと思っています。
ただ、担当の店員さんが買う気を削いできます。
店員「どうせ買うならこちらのグレードにアップされた方がいいですよ」
私「本格的に使うわけではないので標準タイプでいいです」
店員「でもメモリーやスピードを考えるとこっちの方が、断然いいんですけどね」
■トップ営業に近づいた時の声かけ
その後も周辺機器やネットの契約などを売り込んできます。面倒くさくなってきた私は「今日は下見なのでまたきます」と言って店を出ました。
買いにきたお客様をみすみす逃してしまったその店員は、「なんだぁ、冷やかし客だったのかぁ」と思っているでしょう。
もし、私の言葉を真に受けず、自分の接客方法が悪かったのかな、と考えアプローチを変えていたら違う結果になっていたはずです。
トップ営業に近づいた時のことです。
あるお客様と接客してすぐに「ごめんなさいね。新築じゃなくてリフォームなの」と言い出します。
結果が出はじめた私はこういったお客様の接客も無駄にしなくなりました。
気軽に話ができることもありますし、新しい接客方法を試したり、いろいろな情報が手に入ったりと得られることがたくさんあります。私はこのお客様から話をきいて、過去に参考になるような見積があったのでこう言ってみました。
私「以前、ご希望に近いお風呂の見積をとったことがありますから持ってきます」
お客様「悪いですねぇ。そんなことまでしてもらって」
いろいろ話し込んでいるとお客様が突然こう言いだします。
お客様「実は新築も考えているのよ。ほとんどの営業さんはリフォームと言うとガラッと態度が変わってね。その点あなたは素晴らしいです」
私「ありがとうございます」
お客様「あなたなら信用できそうですから、新築の方も相談に乗ってもらえますか?」
新築のお話をさせて頂き、その後、新築の案件として契約になったのです。
もしお客様の言ったことを真に受け「リフォームだから適当にやっておけばいい」と思って接していたら、こうはなりませんでした。
警戒心を持ったお客様は、はじめから本音を言わないことも少なくありません。
お客様からどんな否定的なことを言われたとしても「これは本心ではないかも」と疑ってしっかりと接客しましょう。
お客様の断りも真に受けず丁寧に接客する!

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菊原 智明(きくはら・ともあき)

営業コンサルタント

営業サポート・コンサルティング代表取締役。関東学園大学経済学部講師。社団法人営業人材教育協会理事。1972年生まれ。群馬県高崎市出身。群馬大学工学部卒業後、トヨタホームに入社し、営業の世界へ。自分に合う営業方法が見つからず7年間、ダメ営業時代を過ごした後、手紙で情報を提供する営業に切り替えたことをきっかけに4年連続トップ営業に。2006年に独立し現職。主な著書に『訪問しなくても売れる!「営業レター」の教科書』(日本経済新聞出版社)、『売れる営業に変わる100の言葉』(ダイヤモンド社)、『面接ではウソをつけ』(星海社)、『トップ営業マンのルール』『「稼げる営業マン」と「ダメ営業マン」の習慣』『残業なしで成果をあげるトップ営業の鉄則』(明日香出版社)、『営業1年目の教科書』『営業の働き方大全』(大和書房)、『リモート営業で結果を出す人の48のルール』(河出書房新社)、『仕事ではウソをつけ』(光文社)、『使ったその日から売上げが右肩上がり!営業フレーズ言いかえ事典』(大和出版)などがる。

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(営業コンサルタント 菊原 智明)
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