相手の懐に入り込める人は、何を話しているか。営業コンサルタントの菊原智明さんは「トップ営業のトークを分析すると必ず『自社の商品についてディスる』方法を使い、お客様の営業に対しての警戒心を解いている。
デメリットを言わずメリットを並び立てられると全てのメリットがウソのように聞こえてしまう」という――。
※本稿は、菊原智明『決定版 「稼げる営業」と「ダメ営業」の習慣』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■嫌いな上司のおかげで営業成績は倍以上にアップ
稼げる営業は自社商品の悪口を言い、

ダメ営業はベタ褒めする。

研修先の20代後半の営業と話をしていた時のことです。
その営業は上司が許せない、とのことで契約をとりたくない、と話してくれました。売れなくて上司から怒られるより、売れて上司が評価される方が嫌だというのです。
こうした精神状態は、営業として最もよくない状態です。残念なことに、こうした営業は少なくありません。通常このような場合良い結果にはならないのですが、この営業の場合は意外な発見があったと言います。
営業「売らないようにしたら前より結果がよくなりましてね」
私「どういうことですか?」
営業「売らないように自社の悪口を言うようにしてみたのです」
私「悪口ですか?」
営業「はい。お客様に『ここが使えない』とか『これは高いから絶対やめた方がいい』とか言いました」
私「お客様に正直な営業と思われたのでしょうね」
営業「はい。たぶんそれで結果がよくなったのだと思います」
彼は偶然にも「上司を喜ばせたくない」という思いから、お客様の警戒心を解くためのトークを習得しました。
すると、皮肉なことに最も嫌いな上司のおかげで営業成績は倍以上もアップしたのです。
■「自社の商品についてディスる」トークが売れる理由
私が推奨しているトークに「おすすめしないトーク」というものがあります。
例えばですが、家の壁に貼るクロスについて「このクロスの色は傷が目立ちますから、あまりおすすめしません」というものです。商品自体をおすすめしないのではなく、交換や代替のきくものがベストです。
こうした一言で、お客様は営業に対して警戒心を解くのです。
トップ営業のトークを分析すると必ず「自社の商品についてディスる」方法を使っています。
知人のトップ営業はお客様に「この商品は高いだけで使えませんよ」といったようなトークをします。こう言うことでお客様が警戒心を解き、安心することを体感的によく知っているのです。
一方、ダメ営業はお客様と出会った途端、自社の商品をベタ褒めします。
先日、出会った顧客管理ソフトを販売している営業は名刺交換をした途端、次々とメリットを説明してきました。
はじめはよかったのですが、メリットを2つも3つも聞いているうちに「本当にメリットばかりなのだろうか」という疑問を持つようになります。
私は話のキリのいいところでお断りし、席を立ちました。

もしこの時、1回でもデメリットを言ったらどうでしょうか?
「多少、○○の部分は弱いのですが」と、一言でも言ってくれれば信用したかもしれません。
■メリットを並びたてるとウソのように聞こえてしまう
ほとんどのお客様は売り込まれたいと思っていませんし、営業に対して「絶対に何か売り込んでくるだろうな」と警戒しています。
そんな状態の時に商品についてベタ褒めしメリットを並べたのでは、お客様はより警戒してしまいます。メリットを並びたてられると全てのメリットがウソのように聞こえてきます。
お客様が本当に知りたいのは、メリットではなくデメリットです。
「これはコスパがよくない」「複雑な機能がつきすぎていて、使いこなせない」などなど。
このような本音を知りたいのです。
商品のデメリットを言うことで、お客様の警戒心を解く!

■「もう少し聞きたい」という欲求をかき出す
稼げる営業は欲求不満にさせ、

ダメ営業は満足させすぎる。

電器屋さんでパソコンの説明を聞いていた時のことです。その店員さんは製品に異常に詳しく、いろいろな説明をしてくれました。はじめは「なるほど、よく知っているな」と感心していましたが、説明がなかなか終わりません。
ついには、「もう説明は十分だから早くそれを売ってくれよ」と思いながら聞いていました。

結局、そのパソコンが欲しかったので購入しましたが、迷っていた機種だったらその説明にうんざりして購入を見送っていました。
知識があり、説明上手な人は得てしてそれがネックになることがあるのです。営業であれば、誰しも得意分野があるでしょう。
「資金の話だったら誰にも負けない」

「商品の中身の話だったらいくらでも説明できる」

「他社比較だったら会社で一番だ」
などなど。
こうした知識はないよりはあった方がいいものです。しかし、お客様にうんざりされるまで説明してはなりません。説明しすぎで売る営業など一人もいないのです。
稼げる営業は行きすぎた説明はしません。
お客様を欲求不満にさせ「もう少し聞きたいな」と思うところで説明をやめます。
するとお客様が「○○についてはどうなのでしょうか?」という質問してきます。
そこでもう少し詳しく説明するのです。
■的確な提案は、お客様の要望や考えを把握することから
もしくは途中で説明をやめ「○○についてはどうお考えですか?」と質問します。

お客様から要望や考えをヒアリングすることで的確な提案ができます。
こうして良い結果を出しているのです。
ダメ営業は自分勝手な説明を続け満足させすぎます。目の前のお客様がどんな説明を必要とするのかを知ろうともせず、次々に商品のいいところを話し続けるのです。
私自身もそうでした。
住宅営業をしていた私は、お客様が必要としない説明を延々としていました。
「業界ナンバーワンの柱の太さです」

「85%を工場で生産していますから、精度が高いです」
などなど。
これではお客様はうんざりしますし、全く響きません。
その時の私は「商品のメリットや他社との違いを全て伝えた方がいい」と思っていましたが、実際それでうまくいったことはほとんどなかったのです。
稼げる営業はお客様の考えをよく聞いたうえで、メリットをひとつだけ伝えます。
トップの売り上げの電器店の店員さんは無駄なアピールはしません。
お客様の話をよく聞いたうえで「仕事でお使いなら、電源を入れてから立ち上がりが早い○○がおすすめです」と、お客様が求めているメリットだけを説明します。
だからすんなり商品が売れるのです。
■多くを語らず、的を射たメリットをひとつ伝える
まずは「商品のメリットを全て伝えなくてはならない」という考えを改めてください。
全て伝えるとなると説明時間が長くなります。それだけでお腹いっぱいになり、お客様を逃がしてしまうことになります。
何かを説明する時はお客様がお腹いっぱいになるまで続けるのではなく、お客様が「もう少し詳しく聞きたいな」というところでやめましょう。多くを語らず、的を射たメリットをひとつだけ伝えるのです。
お客様が「もう少し話を聞きたいな」

というところで説明をやめる!

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菊原 智明(きくはら・ともあき)

営業コンサルタント

営業サポート・コンサルティング代表取締役。関東学園大学経済学部講師。社団法人営業人材教育協会理事。1972年生まれ。群馬県高崎市出身。群馬大学工学部卒業後、トヨタホームに入社し、営業の世界へ。
自分に合う営業方法が見つからず7年間、ダメ営業時代を過ごした後、手紙で情報を提供する営業に切り替えたことをきっかけに4年連続トップ営業に。2006年に独立し現職。主な著書に『訪問しなくても売れる!「営業レター」の教科書』(日本経済新聞出版社)、『売れる営業に変わる100の言葉』(ダイヤモンド社)、『面接ではウソをつけ』(星海社)、『トップ営業マンのルール』『「稼げる営業マン」と「ダメ営業マン」の習慣』『残業なしで成果をあげるトップ営業の鉄則』(明日香出版社)、『営業1年目の教科書』『営業の働き方大全』(大和書房)、『リモート営業で結果を出す人の48のルール』(河出書房新社)、『仕事ではウソをつけ』(光文社)、『使ったその日から売上げが右肩上がり!営業フレーズ言いかえ事典』(大和出版)などがる。

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(営業コンサルタント 菊原 智明)
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