※本稿は、菊原智明『決定版 「稼げる営業」と「ダメ営業」の習慣』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■全てが順調なときに敢えて手紙にした内容はこれ
稼げる営業は契約がとれても安心せず、
ダメ営業は契約がとれると安心する。
ダメ営業から抜け出し、だんだんと結果が出はじめた頃のことです。
今までの訪問、テレアポから「文字の力で売る」という方法に変えたことで、お客様から声がかかるようになってきました。
商談客も増え、来月の契約予定客も見えるようになりました。全てが順調です。
そんな時にフッと「今まで契約してくれたお客様に感謝しないと罰が当たるだろうな」と思いました。というのも、一瞬売れたと思ったらその後、どん底のスランプに落ちてしまう営業を間近で見てきたからです。
「せっかく結果が出はじめたのに、どん底に落ちたくない」と思った私はパソコンでワードを立ち上げ、お客様への感謝の気持ちを文章にしました。
内容は主に「契約して頂いたお礼」と「困ったことがありましたら何でも相談してください」といったことです。そして最後に「もしお知り合いがいましたら、ご紹介してもらえたら嬉しいです」と伝え、今までご契約頂いた全てのお客様に感謝の手紙として送りました。
■ほとんどのお客様は、依頼先を決めた後も迷いがある
感謝の手紙を送ってすぐにクレーム依頼が3件ほど入ります。
私はクレームを受ける度にアフターメンテナンスの人達と同行して立ち会い、ひとつひとつクレームを解決していったのです。以前は「契約後のお客様に時間をかけてもしょうがない」と考えていました。
しかし、時間をかけて立ち会うことでいろいろな気づきを得ることができます。このようなリアルな意見や情報は本やネットを見ても手に入りません。
クレームを処理することで私自身が一番勉強になりましたし、何よりお客様から感謝されることが嬉しかったのです。こんなことをしているうちに、だんだんと紹介をいただけるようになりました。
もちろんクレームに丁寧に対応していたこともありますが、一番のきっかけは感謝の手紙を送ったことです。私は契約して頂いたお客様に時間を使ったことで、お客様が私に紹介をしてくれるようになったのです。
ダメ営業は釣った魚に餌はやりません。過去の私もそうでしたが「もう契約したのだから時間を使う必要はない」とフォローを手薄にし、新規のお客様を追い回します。
営業は契約をとると安心しますが、契約したお客様はどうでしょうか?
ほとんどのお客様は、何%かは「本当にこの会社に決めてよかったのだろうか」という迷いがあります。
迷っている時に他社から「見積は無料ですから、出させてください」と言われれば、思わず浮気心が芽生えるのも不思議ではありません。気づいた時にはキャンセルの電話を頂くことになるのです。
■「この人なら安心」が自然に紹介を生む
稼げる営業は契約後も契約前と同じように、お客様のことを丁寧にフォローします。
契約後も訪問、電話連絡、メール、SNS、手紙を送るなどして接触頻度を落としません。さまざまなツールから接触頻度を高めることで、契約後の迷いや不安はなくなっていきます。
すると、お客様は「この人なら安心」と思うようになり、自然に紹介が出るのです。
さらには個人の営業だけでなく「この会社の対応は素晴らしい」といった会社の口コミまで良くなっていきます。こうして会社全体の業績も上がっていくのです。
契約してもキャンセルになれば「1」→「0」になります。
逆に紹介が出れば「1」が「2」にもなり「3」にもなります。これはものすごい差になるのです。
契約して頂いたお客様を大事にしなければ、売れ続けることはできません。
「今まであまり大切にしてこなかった」という人もいるでしょう。そういった人は、まずお客様に感謝の手紙を出すことからはじめてみてはいかがでしょうか?
購入後のお客様と頻繁に
コミュニケーションをとっている!
■有能な税理士が契約後に醸し出した「掛持ち感」
稼げる営業は特別感を出し、
ダメ営業は掛持ち感を出す。
以前、知人からの紹介で税務関係のコンサルティングをしてくれる人とお会いしました。お話ししてみると、有能で感じのいい人です。
私はすぐに気に入り、コンサルティングをお願いしました。
その時は「いい人とめぐり会えて本当によかった」と大満足していたのです。
それからしばらくしてのことです。
聞きたいことがあり、その税理士さんにメールを送りました。しかし、2日経っても3日経っても返信はありません。
そして翌週になってから「すみません。今忙しい時期で立て込んでいまして」という返信がきました。
その時は「まあ、こんな時もある。仕方がない」と思っていたのです。
その後のこと、私は大至急確認したいことがあり、会社に電話をしました。
今度はその税理士さんが外出しているということで、後でかけ直してくれることになったのです。しかし、いくら待っても電話はかかってきません。結局、他の人に相談して解決させました。
契約前は私からの問い合わせに対して、メールや電話の対応も素早くしてくれました。
しかし、契約が決まりしばらく経つと対応は一気に遅くなります。
「たくさんの担当があるから菊原さんばかり相手にできません」といった掛持ち感を覚えたのです。
■なぜ、既存のお客様の問い合わせにそこまで急ぐか
出会った時の印象がよかった分、余計ガッカリしました。
あなたが商品を購入したとします。
担当者に連絡した時に、忙しそうに後回しにされるとテンションは下がるでしょう。
買い替え時期や更新時期が近付けば「他を探そうか」となってしまいます。
営業は一人のお客様でなく、たくさんのお客様やクライアントを担当しています。
それは分かりますが契約頂いたお客様達に対して「掛持ち感」を出してはならないのです。
ダメ営業時代の私も同じことをしていました。まだ契約していない見込み客の電話はすぐに対応します。そうでないと他社に契約をとられてしまうからです。
しかし、すでに契約したお客様にはどうでしょうか?
そういったお客様はすぐに対応しなくても逃げるわけではありません。どうしても後回しにしてしまいます。多少、時間的余裕があったとしても「今日は手が離せないので、明日またかけ直してもらえますか?」などと言ってしまったこともありました。
一方、私の尊敬する先輩はお客様に対して掛持ち感を絶対に出さない人でした。
どんなに忙しくても、すでに契約したお客様からの問い合わせにスピーディーかつ丁寧に答えます。
■稼げる営業はどのお客様にも特別感を演出する
それぞれのお客様に対して「あなたが一番大切なお客様です」という気持ちが伝わってきます。ですから満足度も高くなり、紹介を次々に生んだのです。
この先輩のように稼げる営業はどのお客様にも特別感を演出します。
このことでクレームは減り、お客様との信頼関係は深まります。
口でこそ言いませんが「たくさん仕事がありますが、菊原さんの仕事を最優先します」といった感じを受けるのです。
それが稼げる営業の特徴であり、魅力なのです。
「あなたが一番大切なお客様です」
という感じを与える!
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菊原 智明(きくはら・ともあき)
営業コンサルタント
営業サポート・コンサルティング代表取締役。関東学園大学経済学部講師。社団法人営業人材教育協会理事。1972年生まれ。群馬県高崎市出身。群馬大学工学部卒業後、トヨタホームに入社し、営業の世界へ。自分に合う営業方法が見つからず7年間、ダメ営業時代を過ごした後、手紙で情報を提供する営業に切り替えたことをきっかけに4年連続トップ営業に。2006年に独立し現職。主な著書に『訪問しなくても売れる!「営業レター」の教科書』(日本経済新聞出版社)、『売れる営業に変わる100の言葉』(ダイヤモンド社)、『面接ではウソをつけ』(星海社)、『トップ営業マンのルール』『「稼げる営業マン」と「ダメ営業マン」の習慣』『残業なしで成果をあげるトップ営業の鉄則』(明日香出版社)、『営業1年目の教科書』『営業の働き方大全』(大和書房)、『リモート営業で結果を出す人の48のルール』(河出書房新社)、『仕事ではウソをつけ』(光文社)、『使ったその日から売上げが右肩上がり!営業フレーズ言いかえ事典』(大和出版)などがる。
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(営業コンサルタント 菊原 智明)