仕事で消耗しないためには何をするといいか。産業医の佐々木那津さんは「ほどよくリラックスしていたほうが、仕事のパフォーマンスは良くなる。
心身を消耗しないためには、ちょっと省エネモードで『もう少しやれるけど、帰るか』という感覚で仕事を終えるくらいでいい」という――。
※本稿は、佐々木那津『働く人の最高の休み方』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■翌日へのエネルギー回復のための時間を意識的に作る
休むことなく、仕事で100%の全力モードを出し切ると、心身の消耗につながります。
仕事で消耗しないためには、できるだけこまめに休憩をとり(とくにパソコン作業中は30分に1回)、昼休みを大事にし、肩の力を抜いてちょっと省エネモードになるくらいでちょうどよいのです。
ガチガチに緊張し、気持ちが乗らなくて暗い気分でいやいや働くと、仕事がはかどりませんよね。ほどよくリラックスしていたほうが、パフォーマンスは良くなります。
「もう少しやれるけど、帰るか」という感覚で仕事を終え、できるだけ定時退勤を心がけてみましょう。翌日へのエネルギー回復のための時間を意識的に作ると、プライベートな生活に余裕ができ、ひいては、持続可能な働き方につながります。
現代は、「休む」スキルをアップデートすることが求められています。本稿では、仕事で消耗しすぎないための方法を紹介していきます。
■不安が人を疲れやすくする
心配ごとがあるときは、心身がぐったりして、気持ちが晴れないかもしれません。不安は人を疲れやすくします。

何度も同じことをぐるぐる考えたり、悪い想像が頭のなかで広がったり、「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ……」と頭がパンパンになっているときは、脳が処理できる限界を超えています。
スマホでアプリがたくさん動いて、裏で電池を消耗しているイメージです。そんなときは、意識的にアプリを閉じる必要があります。
「やることがいっぱいある(気がする)」場合に試してほしいものは、次のとおり。
〈心配ごとが多いときは〉

・自分がやることを減らす。

・やることを紙に書き出して「見える化」する

・優先順位が低いものは、いっそやめる

・締め切りや実行日をずらせないか上司や関係者に相談する

・実行するための時間を作る(予定を入れない時間を作る、有給をとるなど)
単純なものから、少し大変そうなものまでありますが、できるものからひとつでも実行することが大事です。それができると、思った以上に不安が解消されるでしょう。
■楽しみな予定を入れたら、仕事の日に最優先すること
業務量が多すぎて、理想的なスケジュールを組み立てるのは難しい人もいると思います。
その場合は「繁忙期がいつまで続くのか」を上司に聞いて、明確な見通しをつけ、健康な自分を取り戻すための有給休暇や休日を計画しておくといいでしょう。
ニンジンをぶらさげるのは、仕事への意欲を高め、心を元気にするのにとても大事なことです。壮大な旅行の計画などではなくても、「金曜にマッサージを予約した!」「週末は友達とランチにいく!」など、自分へのごほうびを予定しておくのです。
楽しみな予定を入れたら、仕事の日は、夜の睡眠時間を最優先に確保するように心がけましょう。
その分、趣味の時間や家族と過ごす時間など、心の元気UP活動は少なくなるかもしれませんが、仕事で疲れた脳と体を癒すために、睡眠は最も大事です。
■リモートワークで大切な「線引き」
意識しないと、あっという間にオン/オフの切り替えができなくなるのがリモートワークの弊害です。本来リラックスする場所である自宅が、仕事場になるわけですから、自ら意識して仕事とプライベートの境界線を引くことが大切です。
◎物理的な線引き……仕事と食事の机を分ける。仕事中以外はパソコンを片づける。

◎時間的な線引き……午後10時には仕事を終える。家族がいたら仕事をしない。仕事用スマホの電源をオフにするなど、絶対に仕事をしない時間を自分で決める。

◎環境による線引き……仕事中は照明や音楽を変える。
また、運動不足や太陽の光を浴びる時間が不足して「セロトニン」などの脳内の幸せホルモンが減ることによるデメリットもあります。昼休憩では外に出る、散歩の時間を作る、通勤時間が節約された分を使って運動するなど、身体的な刺激を入れることも大切です。
リモートワークでは人との接触時間が減少し、会話をしないことによる孤独感など、メンタルヘルスへの悪影響もあります。
悩みや心配ごとを抱え込みすぎないよう、適切に上司や同僚とコミュニケーションできることも意識したいところです。
■過去のトラウマ体験から自分を守る方法
「疲れやすい」「なんだかうまく休めない」と感じている人のなかには、過去のトラウマの体験が影響していることがあります。
過去のトラウマ体験は、自分でコントロールできない、不可抗力の状態で起こるものがほとんどです。
そのトラウマの体験が影響する症状として、強いストレスや恐怖を感じたときに、交感神経が過剰に活性化し、体が極度に緊張状態に陥るような反応が出ることがあります。
そういう反応を抱えている場合、仕事や社交の場面では、リラックスできないと感じられることがあります。心の反応がなくても、体に痛みなどの形で症状が出ていたりします。
トラウマ体験による症状でリラックスできなくても、自分を責める必要はまったくありません。傷ついた自分自身にどのようなケアをするかは自分で決めることができます。
心と体を観察して自分を大切にすることを最優先に考えながら、過去のトラウマ体験から少しでも自分を守るために、本書(『働く人の最高の休み方』)を参考に、できそうなものから実践してもらえたらと思います。
■労働は週5日でないといけないのか
仕事で消耗しすぎず、省エネで過ごすコツをお伝えしてきましたが、どんなに工夫してもやはり平日に心身のエネルギーを使い切り、土日はぐったりして動けない人もいます。
そういうときに考えてみてほしいのは、「労働は週5日でなければならないのか?」ということです。経済的なデメリットや、職場での役職や立場といった障壁はあるかもしれませんが、思い切って週4日勤務に変更することで、心の元気UP活動の時間を確保して疲れずに働き続けられるようになった人をたくさん見てきました。

同じ仕事をしても、脳の疲れやすさは人によって大きく違います。仕事環境によっても違うでしょう。世間の標準的な働き方に合わせなければ、と無理する必要はありません。
働き方や生き方は、自分自身で選ぶことができるのです。

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佐々木 那津(ささき・なつ)

産業医

1987年、東京都渋谷区生まれ。東京大学医学部卒業、博士(医学)。産業医。2022年より東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野にて講師。2023年米国ワシントン大学セントルイス実装科学センターで客員研究員。2024年東京大学卓越研究員に選出。働く人のメンタルヘルスおよび実装科学を研究テーマとしている。心療内科クリニックでの外来診療、論文、雑誌、新聞、講演など多方面で活躍中。
コンサルティングファーム、ITシステム系、広告代理店、商社など産業医実績多数。親しみやすく安心して話せるとビジネスパーソンからの信頼が厚い。

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(産業医 佐々木 那津)
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