学校に行くのを渋る子供に、親はどのように接すればいいのか。自身の子供も不登校になり、『誰にも頼れない 不登校の子の親のための本』(あさ出版)を書いた野々はなこさんは「家にずっといるわが子に苛立ちを覚えても、絶対に怒鳴ってはいけない。
それは回復を遠ざけてしまうだけだ。心を開いてもらうには、会話の進め方にコツがある」という――。(第1回)
■“学校にいかない子供”を見てイライラしてしまう
私は子どもが自分の本心に気付き、登校を諦めた時期を「諦め期(1カ月~2カ月)」と説明しています。ただ、学校には行きたくないという気持ちは認識できているものの、何が不登校の原因なのか自分でもさっぱりわかっていません。心が落ち着き何年もしてから「そういえば○○だったのかも」と気が付いたというケースが多いようです。
例えば、「教室がうるさくて嫌だった」「友人にからかわれた」「先生の一言に傷ついた」「勉強の競争に疲れた」などといったことがありました。どれかひとつのことが原因で不登校が始まったわけではなく、さまざまな問題が絡み合って起こります。
諦め期では、親が負の感情に陥りがちです。登校が出来なくなってきた頃は体調の悪さに気を取られていたのが、家で過ごす時間が長くなるとともにだんだんと苛立ちへと変わっていくのです。
「どんどん勉強が遅れるのに、なぜ勉強しないんだ」

「見守られているからといって怠けているだけなのではないか」

「こっちは仕事と家事で大忙しなのに、のんびりゲームをしてどういうつもり?」
勉強せず、家の手伝いもしない。食事は食器をそのままにして片付けもしないという子どもも少なくないでしょう。ゲームに熱中している姿を見ると、親は怒りが湧いてきて怒鳴りたくなる衝動に駆られます。

■「叱る」「怒鳴る」は絶対に避けてほしい
しかし、ここで叱ったり怒鳴ったりすれば、子どもはリビングから出ていき自分の部屋に籠もるようになります。お籠もり期には2つのパターン(前向きな心のリセット・傷心からのリセット)がありますが、子どもの気持ちを逆なでするような接し方をしていると、長期的な時間が必要となる傷心からのリセットへ進んでしまう可能性が高まります。
ではどのような接し方が子どもによい影響を与えるのでしょうか。基本は見守りを続けていきますが、もし子どもが話しかけてきたら、次のような方法でコミュニケーションを取るとよいでしょう。
私たちは子どもを支えたいと思っていますが、子どもがなかなか本心を話してくれないというのはよくある悩みのひとつです。どうしたいのか、何を感じているのかを親は話してほしいのですが、子どもは肝心なことは何ひとつ言ってくれないのです。こういったときは会話の受け答えを活性化させることで、子どもの心の扉を開くことを試みましょう。
それほど難しい方法ではありません。会話のなかでポジティブな内容が出てきたら、積極的に喜び、よかった点やどうやってそれができたのかなど建設的な質問をするのです。
■“子供と盛り上がるため”の3ステップ
大したことないと思うかもしれませんが、この会話法は驚くほど関係をよくします。私は子どもにはもちろん、職場で生徒達にも使ってみてとても好評でした。不登校の子どもの保護者にも必ず実践してもらっているのですが、全く会話のなかった親子に会話が増えるきっかけになったり、既読無視されていたLINEのメッセージが6カ月ぶりに既読がついたという報告をいただいたりしています。

具体的なやり方を3ステップでご説明しましょう。
①いまあなたがしている作業は止めて、子どもの方向に体を向ける

②話は遮らず、子どもと一緒に喜ぶ

③内容の具体的な行動やお子さんがどんな働きかけをしたのか質問をする
これだけですが効果は抜群です。例えば、「オンラインゲームで高得点を取って初めて1位になったよ」と子どもが嬉しそうに話かけてきたとします。あなたはこのように思うかもしれません。
「ゲームなんかしても何の意味もない。いつまでやり続けるつもりなの?」

「ゲームよりも勉強を先にしてほしい」

「いつも無視するくせに、自分の気分のいいときだけ話しかけてきて何なの?」
勉強をせずにゲームばかりしている子どもに、批判的な気持ちが湧いてくるのではないでしょうか。
■一緒に喜び、質問してみる
もし、実際にこのような言葉を言ったとしたら、子どもはどうなるでしょうか。腹を立てて部屋を出て行くか、あるいは「うるさい」と言い返してくるかもしれません。きっと、「もうあなたには話しかけないでおこう」と思ってしまうでしょう。否定の言葉は関係を悪くします。
ここは、せっかく話しかけてくれたのですから我慢して、3ステップの会話法で話してみましょう。まず手を止めて、次のように言葉を返すといいでしょう。

「よかったね(喜びを表現する)。そのゲームは、得点を上げるにはどうすればいいの? どこが苦労したの?(行動や働きかけに対する質問をする)」
これまで親に話す回数がめっきり減った子どもであっても、水を得た魚のように喋り出すことがあります。基本的に不登校の子どもの多くは、親に話しかけても学校や勉強などの説教に変わってしまうと認識しています。
3ステップの会話法はそうした気持ちを、「楽しい気分を台なしにするような返答を親はもうしない」のだという気持へと切り替えてくれます。それが親への信頼感につながって、本心を親に話してくれる段階へと移るようになるのです。徐々に信頼関係を構築していくことで、話してくれる内容も増えてくるでしょう。
■「ほっといてくれオーラ」を察知したら話しかけない
ただし、この会話法には2つ条件があります。ひとつ目は、ポジティブな内容(楽しいこと、嬉しいこと)に対する会話に限ります。ふたつ目は「何かいいことないの?」と親から聞いてはいけません。お子さんから話しかけられるまで待ちましょう。ぜひだまされたと思って一度やってみてください。
前項で親子関係をよくする会話法を紹介しましたが、登校を強要したために親子関係が悪化している場合には子どもから話しかけてくることはあまりないかもしれません。
そのときは、「見守り」に徹します。特に子どもが「ほっといてくれオーラ」を発するときは口を絶対に出さないようにしましょう。ほっといてくれオーラとは、親の介入を拒むバリアのような雰囲気のことです。
例えば、
「大丈夫?」

「何か食べたいものある?」

「昨日は何して過ごしたの?」
このように声をかけて、嫌がるそぶりを見せたら、それは「ほっといてくれオーラ」を出しているということです。葛藤期には親の言うことを聞く子もいますが、諦め期は手のひらを返したように冷たい態度になります。これは別に親が嫌いだというわけではありません。
ただ、「介入されたくない」「入ってきてほしくない」という気持ちを表しているだけです。
■「面倒見のいい親」である必要はない
ここで「ほっといてくれオーラ」を無視して、必要以上に手出しや口出しをすると「ウザい」「話しかけるな」という感情に変化します。特に世話好きな親、一人っ子や末っ子のケースは該当する傾向にあるので注意したほうがいいでしょう。
あれこれお世話を焼きたい面倒見のいい親は、小学校まではそれでよかったのですが、親離れの時期に突入した思春期の子どもにはもう必要ありません。手出し口出しだけが愛情ではないのです。子どもの求めているもの(=ニーズ)に応えることも愛情なのです。
思春期の子どものニーズは、子どもが呼ぶまでは手出ししないでほしい、必要なとき以外は口出ししないでほしいということです。
もちろん、自然に顔を合わせたときに「おはよう」「おやすみ」の挨拶はしてください。なお、わざわざ寝ている子どもの部屋に入って「おはよう、朝だよ」と声をかけるのはやり過ぎです。
諦め期は「こんなに寝ていて大丈夫なのか」というほどよく寝ます。睡眠は身体の疲れを取り、脳の老廃物を流す機能がありますが、寝すぎていると朝起きられなくなって生活習慣が乱れてしまうと心配される保護者は多いです。
しかし、時期が来れば朝起きられるようになりますから、心配はありません。いまは、不登校の子どもは心も体も疲れてしまっているため、長めの睡眠が必要だと理解してください。
■「昼夜逆転」を無理に直さなくていい
子どもの睡眠を妨げないために、朝起こしたり、声をかけたりするのは止めておきましょう。眠たいときに起こされることほど嫌なことはないですし、回復を止めることにつながります。
以前、不登校の子どもを持つ母親でこのような人がいらっしゃいました。昼夜逆転の生活を直そうとして、毎朝、眠っている子どもの部屋に入り、カーテンを開けて「おはよう」と声をかけて仕事に出かけていたそうです。子どもの様子はというと、「うるさい!」と言って布団をかぶるそうです。

これが元気な状態の子どもにならまだいいのかもしれませんが、学校に行くのがしんどくてフラフラになっている子どもには逆効果です。自分の気持ちを全く理解してくれていないと感じるでしょう。そこで、私は次のようなアドバイスをしました。
「あなたが子どもを生んで実家に帰って、3時間おきの授乳とおむつ交換でフラフラになっている朝、やっと眠れたと思った瞬間に、親が勝手に部屋に入ってきて、大きな声で『おはよう』と言ってきたらどう思いますか?」
「とても腹が立ちます」
「そうですよね。あなたがやっていることはそれと同じことですよ」
その母親ははっとした様子でした。不登校の回復には親子関係のよさが大前提です。昼夜逆転を避けようと無理に起こすと親子関係を悪くしてしまう側面もあります。ゆっくり寝かせておいたほうが、子どものコンディションを整え、親子の関係をよくすることができます。子どもが眠っている間は静かにそっとしておきましょう。

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野々 はなこ(のの・はなこ)

不登校専門家、ウェルビーイング教育コーチ

大阪府生まれ。大学を卒業後、高校教師を務めて30年以上。担任、保健室担当、特別支援教育コーディネーターとして不登校、発達障害やメンタル不全の生徒たちと長年関わってきた経験を持つ。プライベートでは子ども2人が不登校になったが、心理学や脳科学、栄養学などを学び、それらを子どもの教育に取り入れたことで2人とも大学進学するまで回復させることに成功。不登校で悩む保護者を応援するために改善の秘訣を発信している。

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(不登校専門家、ウェルビーイング教育コーチ 野々 はなこ)
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