※本稿は、高橋まき『中学英語でけっこう話せます。』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■能動態と受動態、どっちで表現する?
本稿では、「なぜ日本語を英語に訳して話す」のが難しいか、あなたの英語の使い方から分析していきます。まず、日本語を英語に訳す時の手順を思い出してください。
1.「これを言いたい」という日本語の文が頭に浮かぶ
2.より簡単な日本語に言い換える
英語の学び始めだと、頭のなかでこのような2つのステップを踏むことになります。
ここで学ぶのは、その次の「3番目のステップ」についてです。つまり、「どのような形の英語なら言いやすいか」を考える方法です。
具体的には、能動態(私が~する)で表現するか、受動態(私が~される)で表現するか、です。迷う方も多いところなのでこの判断の仕方を見ていきましょう。
■「受け身」をやめると会話が楽しくなる
それぞれを、おさらいしておきましょう。
能動態では、主語が「自分で動けるもの」になります。人や動物、生き物ですね。
一方で受動態は、一般的には「自分で動けないもの」が主語になります。人工物、あるいは自分で動けても、他の人から何かされた、という場合です。「受け身」の表現とも言われます。
これぞまさに英語の特徴だと思いますが、能動態になると、文章や言葉が生き生きと動いている感じがしてきます。そして、受動態になるとその生き生きした感じがどうしても減っていきます。
ですから私は皆さんにぜひ、能動態で話したり、書いたりすることをお勧めしています。自分から出てきた英語が生き生きして見えると、英語を勉強すること自体が楽しくなってきますし、何といっても、ネイティブに伝わりやすい英語になるのです。
■主語は「私」ではなく「犬」にする
ひとつ例を出して、受動態と能動態について、比べてみましょう。
① I was bitten by a dog.(私は犬にかまれた。)
② A dog bit me.(犬が私をかんだ。)
このふたつの英文を見てどう感じますか?
①が受動態で、②が能動態です。
bite(かむ)の過去形がbit、過去分詞形がbittenになります。
多くの方にとって②の能動態のほうが、「犬が暴れているシーン」をはっきりと思い浮かべることができるのではないでしょうか。これが能動態特有の「生き生きとした躍動感」になります。
①の受動態なら私の状態として、かまれた、という感じです。なんとなく痛がっている自分はイメージできますが、犬の姿形はイメージしにくい気がします。全体的に、躍動感があるという感覚にはなりにくいのです。
このような違いがあるので、より動きを前面に出したいと思われるなら、受け身を使ってしまいそうな時、能動態で言ったらどうなるだろうと、考えてみる習慣は有効です。
アメリカ人の元小学校教諭の友人に聞いたことがあります。
じつはアメリカ人の子ども達は、小学生の頃から「能動態で書くように」と言われて育つことが多いそうです。もちろんすべての先生がそのように教えるわけではないようですが、ひとつのベーシックなスタンスが「能動態で書こう」なのです。
■「受け身」にするのはわずか3パターン
小学校で長く教師をしていたアメリカ人の友人が、英語を教える際の「先生用の副教材」(スタイルブックと呼ばれます)の中身について教えてくれました。そこには、「こんな時には受動態を使う」と3つのパターンが記してあります。
① If you don’t know who is doing the action.
誰がその行為をしているのか、わからない時。
② If you want to shift a long and complex bundle of info.
長く、複雑な形で書いてある情報を、書き換えたい時。
③ If you want to focus our readers’ attention on one or another character.
今まで焦点が当たっていた人から、読者の注意を別の人に移したい時。
逆に言えば、この3パターンに当てはまらない時は基本的に「能動態」が推奨されているわけです。英語になぜ「受け身」の表現が少なく、能動態が多いか理解できる気がします。
■日本人の「受け身グセ」を直すには
そして日本人の生徒さんを、14年間見てきて気づいたことがあります。それは、日本人は受動態をよく使いがち、ということ。なぜか、受け身を使って英作文をしようとする方が多いのです。
理由はさまざまあると思いますが、まずは「英語を話す/通じさせる」が先決です。これから上達していくのですから、最初の「型」は自然なほうがよいでしょう。結論から言えば、「能動態を使う」「受動態(受け身)は避ける」ということに慣れていきましょう。ご自分の英文を復習する機会があれば、受動態ばかりになっていないか、チェックしてみてください。
また日本人の特徴として、「Be動詞」を多用する傾向もあります。Be動詞とはam、are、isなどのことで、それ以外の動詞を「一般動詞」と言います。一般動詞はstudy、play、go、come、buyといったものになります。
もしかすると「受け身」を使いがちだからこそ、Be動詞が多用されるのかもしれません。しかし、先述したとおりで受け身とBe動詞による英文は、躍動感が損なわれていきます。文法的には誤っていないので、気付きにくいところだと思います。次の例文を比べて、伝わってくる躍動感の差を感じてみてください。
■Be動詞と一般動詞のニュアンスの違い
① I am from Yamagata.(Be動詞)
② I came from Yamagata.(一般動詞)
どちらも「私は山形出身です」という意味になります。
ところが①は「事実のみ」な感じなのに比べ、②は実際に人間が出てきた、という感じが前面に出ていませんか。
もうひとつ、やってみましょう。
③ I am 180 cm tall.(Be動詞)
④ I stand at 180 cm tall.(一般動詞)
どちらも「私は180センチある。」という意味なのですが、④のほうがより動きが出てくるように感じませんか。
では、もうひとつ、自己紹介の時に使える例を見てみましょう。
⑤ I am a member of ABC Company.(Be動詞)
⑥ I work for ABC Company.(一般動詞)
どちらも「ABCカンパニーで働いています」という意味です。⑤が所属している、という事実だけが伝わるのに対して、⑥のほうが実際にせっせと働いている躍動感を覚えるのではないでしょうか。
■ぜひ使いこなしたい「主語のit」
「受け身にしないという意識はわかった。では、能動態で英文をうまく作るにはいったいどうすればいいの?」
皆さん、そこが知りたいと思います。ですからここからは、「能動態で英文を作るコツ」をお伝えしていきます。
これを覚えておくと、旅先はもちろん、外国人の方と日本でコミュニケーションを取る機会があった時も、あなたの英語が生き生きとした「相手に伝わる」表現になっていきます。
英語を上達させるための学習法に「英語で独り言を言ってみる」があります。読者のなかにはトライされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。じつはその時に、主語をitにしてみると、言えることが増えてきます。
例えば、天候や自然現象です。
It rains. 雨が降っている。
It brightens up. 晴れて明るくなってきた。
■「うまくいった!」は「It works!」
あるいは状態です。
It happens. そういうこともあるさ。
It works! うまくいった!
It doesn’t matter. まあ、大したことじゃない。
天気を表すのにItを使うのは、皆さんにもお馴染みだと思います。ですが「状態」を表すitは、日本語に無い感覚なので、意識的に使っていかないとなかなか馴染んでいかないかと思います。
でも、この「状態」を表すitは、とっても便利です!
ちょっとした感情を表現するのにI feel like~などと言わなくても、たった一言で、ズバリ気持ちを表現できるのです。
イディオム(慣用句)のようなものも多いので、見かけたらストックしておいて、どんどん独り言で使ってみてください。以下に少しだけ例を加えておきます。
It hurts!(痛っ!/ケガ以外に、心の痛みでも使えます)
It hits me.(ピンときた、わかった)
It gets better/worse.(よくなってきた/悪くなってきた。)
■困った時には「It depends.」で時間稼ぎ
それともうひとつ、itを主語にしたフレーズで、覚えておくととても役立つものがあります。
It depends.(まあ状況次第かな。)です。
これは独り言英語用と言うよりは、話している相手がいてYes/Noを求められた時などに便利なフレーズです。
例えば、旅先などでも使い勝手の良い言葉です。
食事に行ったレストランでお勧めされたメニューに対してあまり乗り気になれなかったとしましょう。そんな時は、
Well, it depends. I’ll think about it.
うーん、場合によるかな。ちょっと考えてみるよ。
と、自然な感じでお断りすることができます。
■何かを選ばなければいけない状況でも…
もし外国人のお友達ができたとしたら。
遊びに行く場所は海か、山かと話し合っている時、What do you think?(どう思う?)と聞かれたとしましょう。
Well, it depends.
うーん、状況によるかなあ。
このように答えておけば、心のなかで「海も山もいいよね」と選びきれていない時にごまかすことができて便利です(笑)。そうして、ちょっと時間稼ぎをしておきながら、思いついた理由や希望を次のように言ってみてはどうでしょうか?
If it is easy to climb the mountain, I would like the mountain option.
もし登るのがやさしければ、山に行きたいよ。
If I can fish, I would like to go to the ocean.
もし釣りができるなら、海がいいかな。
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高橋 まき(たかはし・まき)
英語講師
同時・逐次通訳者、英検1級、通訳案内士、TOEIC980、TOEFL iBT114/120、IELTS 8/9。アメリカの大学で日本語を教える教師として5年間活動。ケンタッキー大学で博士号を取得した後、スピーチとコミュニケーション論の講師としてもネイティブにプレゼンなどの「話し方」を2年間教える。ケンタッキー州のリベラルアーツ大学であるセンターカレッジで日本語学科の学科長も務めたあと、9・11テロの影響で帰国。英語でつまずいた自身の経験をもとに大手英会話学校や研修所の講師として14年間、4000人以上の日本人に英語を教える。
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(英語講師 高橋 まき)