疲れを翌日に引きずらないために、どんなことに注意したほうがいいか。管理栄養士の森由香子さんは「朝食は必ず食べたほうが良い。
朝食で、肉、魚、卵などに含まれる必須アミノ酸のトリプトファンを摂取することで、結果的に睡眠に関係するホルモンが生成される。逆に、寝酒をすると睡眠の質が低下するため、注意が必要だ」という――。(第2回)
※本稿は、森由香子『疲れない人の上手な食べ方』(青春新書プレイブックス)の一部を再編集したものです。
■お酢を使った料理は食べ方に要注意
みなさんは、夏バテや激しい運動で体が疲れたときなど、どんな食事を心がけていますか?
お酢をきかせた料理やお酢を使ったドリンクをよくとっているという方も多いと思います。食欲がないときでも、お酢をきかせた料理は食欲を増進してくれますし、なにより、あの酸味が疲れた体に効く感じがすることでしょう。
確かにお酢は体によいものです。お酢の酸味が胃の粘膜を刺激することで、胃酸の分泌を高め、カルシウムや鉄など、日本人が不足しがちなミネラル類を体内で吸収しやすくする働きがあることがわかっています。
あるお酢の会社の報告には、お酢を糖分と一緒にとると、体のエネルギー源のひとつであるグリコーゲンを再補充し、疲労を回復させることが実証されたとありました。しかし、だからといって、お酢はとり方に注意が必要な食材です。とり方を間違えると胃に負担がかかり、かえって疲れが増す結果になることがあるからです。
言うまでもなく、胃の調子が悪くなれば食欲も落ちて十分な栄養がとれなくなり、ますます元気がなくなってしまいます。
たとえば、疲労回復効果を期待するあまり、十分に希釈せずに濃い状態で飲んだり、薄めていても、1日に何度も過剰に飲んでいる人がいるようです。
しかしこれでは、強い酸性が食道や胃の粘膜を荒らしてしまいます。
また、お酢は胃酸の分泌を促進します。胃酸は適度なら消化を助けてくれますが、お酢の飲みすぎにより胃酸の分泌が高まりすぎると、胸やけや、胃液が口へこみ上げてくるなどの症状が現れることがあります。
■起床後や空腹時に摂取すると逆効果
では、お酢は1日どれくらい、どのようにとったらいいのでしょうか。
私のおすすめは、1日大さじ1杯程度。1日15ml程度で十分だと考えています。これを3食に分けてちょっとずつでもいいと思います。決して原液を飲むのではなく、薄めたり、他の調味料と一緒に料理に使うようにしてとりましょう。
なお、ドリンクとして飲むなら、タイミングも大事です。胃に食べ物が入っていないところに酢が入ると、胃の粘膜が荒れる可能性があるので、朝起きてすぐや、空腹時、寝る前に飲むのはおすすめできません。食後など、胃に食べ物が入っているときに飲むのがベストです。以上の点に気をつけていれば、お酢はみなさんの疲労回復を手助けしてくれることでしょう。

仕事中や勉強中、疲れてきたり、眠くなってきたりすると、コーヒーが飲みたくなるものです。確かに、コーヒーの味と香りは気持ちが落ち着きますし、気分もすっきりリフレッシュします。
コーヒーに含まれるカフェインには、中枢神経を刺激して目を覚まさせたり、気持ちを高揚させたり、脳を活性化させたりする働きがあります。コーヒーを飲むと眠気がなくなるのは、カフェインが睡眠中枢に作用して、眠気に関与する物質の働きを抑えることによります。
■カフェインは一時的に疲れを緩和しているだけ
明日までにどうしても仕上げる必要のある業務を徹夜で行うときなどは、眠気を飛ばすためにコーヒーを飲み、カフェインの覚醒効果を利用してもいいでしょう。
しかし、連日のように、眠気や脳の疲れをごまかすためにコーヒーを飲み続けているような場合は、ちょっと問題です。そのような飲み方を続けていると、疲れはどんどんたまって、やがて深刻な疲労状態に陥りかねません。
カフェインは、飲んでから15~30分くらいで効果が出はじめますが、成人の場合2.5~4.5時間くらいで体内で半減します。つまり、その効果はあくまでも一過性のもの。一時的に眠気や疲労感を緩和しているだけなのです。
そして、その効果が切れたときに、眠気や疲労感は倍増するといわれています。これを、カフェインのリバウンド作用といいます。
カフェインのリバウンド作用が繰り返されると、本当は疲れていても疲労を感じとる力が鈍くなり、知らず知らずのうちに疲労が蓄積していってしまいます。
ですから、疲れているときにコーヒーを飲んで元気が出たからといって、疲労が解消されたと思い込んではいけません。大事な仕事や勉強をやり終えたら、食事で栄養をとって、十分に睡眠をとり、しっかり疲れを癒すように心がけてください。
■朝食を食べないと睡眠の質が落ちる
「睡眠時間はたっぷりとっているはずなのに、朝疲れが残っていて、一日中すっきりしない」といった悩みをよく聞きます。
お話をうかがってみると、食欲もないため朝食はいつもパス。日中も眠たくてすっきりしない。夜は夜で寝つきが悪いので、必ず寝酒に頼ってしまう……。そんな日々を送っている方が多いようです。こういう方は、睡眠の質が悪い可能性大です。
本人はたくさん寝ているつもりでも、しっかり眠れていないのです。いったい、問題はどこにあるのでしょうか。まず、寝酒をすると、はじめは血液中のアルコール濃度が高くなり中枢神経系を抑制するために眠くなります。
しかし、睡眠中に少しずつアルコールが代謝されてくると血液中のアルコール濃度が低くなり、睡眠が浅くなっていきます。
またご存じのように、アルコールの利尿作用により、夜中にトイレに何度も行くことになり、睡眠が妨げられます。これでは、いくら寝ても体が休まらず、疲労が抜けません。
朝食の欠食も問題です。睡眠の質は、朝食を食べること、そして、朝食で何を食べるかによって変わってきます。そのメカニズムを説明しましょう。朝食で、肉、魚、卵などに含まれる必須アミノ酸のトリプトファンをとっていると、日中、トリプトファンから精神を安定させるセロトニンという神経伝達物質が合成されます。
セロトニンは、疲労の緩和にも働き、私たちを活動的にしますが、夜になって暗くなると、脳の松果体というところでセロトニンからメラトニンという睡眠に関係するホルモンが合成され、これによって睡眠に導かれます。
■朝は肉類などを食べ、寝酒はNG
朝食を食べないとトリプトファンがしっかりとれず、その後、セロトニン、メラトニンが十分に分泌されなくなって、結果的になかなか眠れなくなってしまうのです。
トリプトファンは、肉、魚、卵、大豆・大豆製品、乳製品や牛乳のほか、穀類、野菜、種実類、きのこ、果物などにも含まれています。朝食は主食、主菜、副菜のスタイルにし、おかずにあたる主菜を肉、魚、卵、大豆・大豆製品の中からひとつ選んで、トリプトファンをしっかりとるようにしましょう。
もちろん、寝酒はNGです。
この2点を注意するだけで、朝の目覚めと、夜の寝つきが、だいぶ変わってくるはず。質のいい睡眠をとって、前日の疲れを翌日に持ち込まないようにしましょう。

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森 由香子(もり・ゆかこ)

管理栄養士

日本抗加齢医学会指導士。東京農業大学農学部栄養学科卒業。大妻女子大学大学院(人間文化研究科人間生活科学専攻)修士課程修了。2005年より、東京・千代田区のクリニックにて、入院・外来患者の血液検査値の改善にともなう栄養指導、食事記録の栄養分析、ダイエット指導などに従事している。また、フランス料理の三國清三シェフとともに、病院食や院内レストラン「ミクニマンスール」のメニュー開発、料理本の制作などを行う。抗加齢指導士の立場からは、“食事からのアンチエイジング”を提唱している。『おやつを食べてやせ体質に! 間食ダイエット』(文藝春秋)、『1週間「買い物リスト」ダイエット』(青春出版社)など著書多数。

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(管理栄養士 森 由香子)
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