■勉強の大敵はスマホ
オックスフォード大学やケンブリッジ大学など、世界のトップ大学に合格者を続出している知られざるトップ校、ケイ・インターナショナルスクール(以下、KIST)。前編では、生徒の成績を上げるために「考える力」を高めるようにカリキュラムや教え方を改善してきたことをご紹介しました。
ここで課題となったのが、スマートフォンやパソコン、ゲーム機といった生徒のデジタル利用だったと言います。
「勉強ができなくなるリスクとして一番高いのはゲームだと思います。実際、8~9割がその影響ではないかと思います。うちの生徒にもゲーム依存になってしまい、成績トップだった生徒が一気に成績最下位になってしまったということがありました」と小牧理事長は話します。「子どもの成績は教師や学校の責任だ」という考えのKISTでも、なかなか対処が難しかったそうです。
外出先などで、おとなしくしてくれるからと子供にゲームをやらせるのはよくある風景だが、「その恐ろしさを親が理解していない」と小牧理事長は嘆きます。
■集中せざる得ない環境を用意
でもそこは、「子どもに良い成績を取らせることが教師や学校の責任だ」という考えのKIST。強制的にパソコン以外のデジタル機器から離れて勉強できる環境を学校で用意しました。
例えば最終試験の予測点で42点満点中、学年によりますが30点とか33点を取れていないと強制的に週4日、スタディホールに行かなければなりません。そして入室の際には、生徒はスマホを入口で預けないといけないルールになっています(現在は、定着してスマホを預けなくても、誰も使わなくなったそうです)。
■「3時間かかる宿題が20分で終わった」
最初は生徒たちから不満も出たそうですが、スマホが使えない環境の効果はすばらしかったそうです。
「今まで宿題に3時間かかってたのに、スタディホールだと20分で終わっちゃった、といった話は生徒からよく聞きます。自分では(勉強の合間に)ほんのちょっとスマホをいじっているだけのつもりだったんだけれども、スマホを見ては、『あれ、何書いてたんだっけ』と思い出すの繰り返しに、思っていたよりも集中や時間を奪われていたことに生徒自身が気付くんです。いまの時代には、『集中せざるを得ない環境を作ってもらう』という形のサポートを必要としている生徒もいるのだとわかりました。スタディホールで自習を始めた生徒のほとんどは、成績がぐんぐん伸びました」(小牧圭副アソシエイト学校長)
小牧理事長も言います。
「以前スタディホールに入っていて今年卒業した子の中には、最終試験で(オックスフォードやケンブリッジといった名門大学に願書が出せる基準点である)40点を取った子もいます。いまでは『家に帰ったらこんなに集中できないから、本当にいい仕組みだ』『ありがたい』という声が聞かれるようになりました。成績から言えば必要ないのに、自分からスタディホールに入って勉強したいと言う子まで出てきたんです」
■教師も安易なデジタル利用は禁止
デジタル機器の授業での使い方にも注意をしていると言います。
教師の中には、便利だからと言ってICT教材を多用して授業や課題を構成してしまう人もいたそうです。
「本当に、顕著に考える力が落ちるんです。あれは単なるゲームです。答えが間違っても(子供は機械的に)次の数字を入れるだけで、まったく考えさせない」(小牧理事長)
そこで同校では、学校としてのデジタル使用の指針をつくったうえで、ICTを適切に授業で使ったかどうかを教員への評価に反映するようになったと言います。
「『教育信条』の中で『デジタル機器は学習に最も効果的な状況でのみ、慎重に活用されるべきである』と明記しています。ICTには生徒の読解力、数学や科学の理解力、自分で考える力などの重要なスキルの発達や成長にマイナスの影響を及ぼすリスクもあることを理解したうえで、使い方を工夫するように教師に指導しているのです」(小牧理事長)
■ノートチェックを実施
たとえば、リサーチやプレゼンテーション、海外の講師によるオンライン講座などにデジタル機器は有効です。一方で、考えたり、覚えたりする作業には手書きが向いていると語ります。
「ノートはタイピングでなく手で書いた方が、確実に内容を理解できます。脳細胞と手先の神経はつながっているからです。手で書くということと、自分で考えてまとめるということによって、神経がどんどん繋がっていきます。考えたり、覚えたりする作業のときにICTを使わせると、いろんなスキルがどんどん落ちていきます」(小牧理事長)
そこでKISTでは、6~8年生に対し、手書きできちんとノートを取っているか、またその内容がどれだけ充実しているかを全教科でチェック。その結果は成績にも反映し、習慣化を図っています。
■デジタルとアナログの利用比率
手書きを大切にしている同校ですが、国際バカロレア資格を取得するには、手書きの試験がある一方で、パソコンでレポートを書くような課題もあります。
そのため当然ながら学年が上がることに、パソコンでレポートを書くことが増えていきます。それでも「パソコン一辺倒にならないように気をつけている」と小牧圭副アソシエイト学校長は語ります。
「小学生は、基本はすべて手書きです。中学生でも8割は手書き、高校生は6割手書きさせています。他のインターナショナルスクールに比べると、手書きの比率は高いと思います」
■レポートは教師の目の前で書かせる
生成AI(人工知能)についてはどのように考えているのでしょうか。
東京都は今年5月、「AI時代の必要な資質・能力の育成が急務」として、すべての都立学校で生成AIを活用した学習を開始しました。実験結果の精査や、探究学習における情報収集や分析、発表資料の作成に使うなど「AIが伴走して児童・生徒の効果的な学習を促進」させるとしています。これに比べると、KISTの姿勢は実に慎重です。
「子どもに考える力をつけたいと考えると、AIの利用は慎重にならざるを得ません。レポートのテーマをAIに聞いていたら、考える力など育まれるわけがないですから」と小牧理事長。
そこで同校ではレポートは教師の目の前で書かせる、AIチェッカーを使ってチェックするなど対策を行っています。
■「考える力」がすべての土台
「AIを完全に否定することもできないと思っています。例えば、覚えたい単語を入力して、そのための問題集を作成してもらうなど初歩的な語学学習に活用するとか、教員が教材作りの補助に使うといった活用法なら、AIは有効です。こういったガイドラインをしっかりつくって、やっていくことが大切だと思っています」(小牧圭副アソシエイト学校長)
やっかいなことに、AIは間違ったデータや根拠のない情報も、あたかも正しいもののように提示してきます。
「危ないですよ。何らかの思惑を持ってAIを作る人が出てくれば、人間はうまく利用されて、操作されてしまいかねない」と小牧理事長は話します。
「危険性を理解したうえで使っていくことが、AIを使う側になるか、使われる側になるかの分岐点です。AIが導きだした答えが本当なのか、批判的に検証したり、そもそもAIに問いかける前に自分で仮説を立てて考えることができるのか。学力を上げるためだけでなく、AI時代を生き抜くためにも、いかに子どもが自分で考えるように促していくのかが、教師や親に求められているのだと思います」(小牧圭副アソシエイト学校長)
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村田 学(むらた・まなぶ)
国際教育評論家、国際教育コンサルタント
アメリカ生まれ、日本育ちの国際教育評論家。3歳でアメリカの幼稚園を2日半で退学になった「爆速退学」経験から教育を考え続ける。国際バカロレアの教員研修を修了し、インターナショナルスクール経営などを経てThe International School Times の編集長と国際教育のシンクタンクInternational
Education Lab の所長を務める。
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(国際教育評論家、国際教育コンサルタント 村田 学 構成=村井裕美)