※本稿は、細田千尋『幸せを手にできる脳の最適解 ウェルビーイングを実現するレッスン』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■ブチ切れ寸前「怒りのスイッチ」の切り方
わき上がる怒りをどのようにコントロールするか、他者に対する苛立ちや怒りなどの感情の扱い方を紹介します。これらは個人差や特性の問題がかなりあり、苦手とする人も多いようです。
ふつふつとわき上がってくる怒りの感情を、いったいどのようにコントロールすればいいのかという問題です。それには、認知行動療法の考え方がヒントになります。
認知行動療法では、わたしたちの感情や行動は、出来事そのものではなく、出来事に対する考え方や解釈によって影響を受けると考えるということでした。そこで、怒りの感情についても、その感情を外在化する(適切に表現しコントロールする)ために、考え方(認知)と行動に焦点を当てていきます。
■感情をコントロールする3つの方法
怒りの感情を外在化するための手法にはいくつかありますが、ここでは主に3つ紹介します。
①自己観察
怒りを感じたときの状況、考え、感情を記録してみましょう。そこで表れた身体反応や、自分が取った行動なども含めて記録します。日記でもいいですし、専門的には「行動記録表」や「自動思考記録表」などを用いて、怒りのパターンやトリガーを特定していきます。
②認知の修正
怒りを引き起こす考え方(認知)に焦点を当て、その妥当性を検証します。例えば、「べき思考(~すべきだ、~すべきでない)」という考え方に固執していませんか? 他にも「過度の一般化(いつもこうなる、誰もわたしを理解してくれない)」などもチェックすると、認知の歪みに気づけるようになります。
③問題解決スキルの向上
怒りの原因となっている問題を特定し、具体的な解決策を考え、実際にそれを実行する練習をしていきましょう。問題解決スキルが上がると、怒りの原因を自分の力で解消できるようになり、感情のコントロールにつながります。
これらの考え方や行動がなかなかできないからこそ、多くの人は悩むわけですが、認知行動療法としては、一般的に上記に示したようなことを行っていきます。
ここで、あくまで個人の一例として、わたし自身が苛立ちや怒りに直面したときの対処法についても、具体的に紹介します。
■イラつく相手とのロジハラにならない会話
わたしの場合、苛立ちや怒りを感じたときは、その感情にとらわれないためにも、「どうしてそんな状況になったのか」という理由(行動のプロセス)を、相手と一緒に振り返るようにしています。
ときには、それを行っているあいだに苛立ちを感じることもあり、その雰囲気は伝わってしまっている場合もあるとは思います。でも、その感情を爆発させないように、現状にいたった流れをお互いにきちんと把握するプロセスをつくります。
これには、怒りをおさめるための「時間稼ぎ」の意味もあります。ただし、このとき正論ありきで論理的に相手を詰めていくと、ロジカルハラスメントになりかねません。
だからこそ、「最初になにが起こったのか」「きっかけはなんだったのか」というところから会話をはじめ、「どのような行動を取ったのか」「その結果どうなったのか」「そのときどう考えたのか」といった、いわば確認作業を丁寧に繰り返していくのです。
■具体的なステップを建設的に考える
すると、それを行っている最中に、具体的な原因などが次第に明らかになっていきます。また、「自分にはなにが足りなかったのか」という思考も生まれ、次の機会へ活かしていくこともできます。
そうしたプロセスをあえてつくりながら、苛立ちや怒りをおさめていくイメージです。わたしが行っているのは、先の「③問題解決スキルの向上」に近いものです。つまり、苛立ちや怒りにとらわれそうになったときは、そのシチュエーションにおける「次の行動の目的はなにか」に立ち戻るということです。
それはなにかの間違いを今後改善しなければいけないという話かもしれないし、いますぐ立て直さなければいけないという話かもしれません。それは場合によって異なりますが、いま目の前のシチュエーションに対して、「次の行動の目的はなにか」をまず考える。そして、それに向かってすべき行動を、具体的なステップで考えていくということです。
いずれにせよ、いくら腹を立てても問題はなにも解決しません。そこで、行動の目的とステップを、相手と一緒に整理していくことをおすすめします。
■「相手の立場になって考える」は逆効果?
苛立ちや怒りの感情をはじめ、コミュニケーションになんらかの問題が生じたとき、よく「相手の立場になって考えなさい」「相手はいまどんな気持ちなのかを想像しなさい」といわれることがあります。
もちろん、相手の立場になって考えること自体は、人間関係の構築やコミュニケーションにおいて有用です。ただ、こと仕事に限っていえば、わたしはさほど有効ではないと見ています。なぜなら、「なぜ相手がそのように考えたのか」「どんな立場だからこの結論に辿り着いたのか」といったことは、想像すると間違える可能性があるからです。
勝手な想像で下した判断が正しくない可能性があると、その結果、仕事上の人間関係をさらに悪化させてしまいかねません。仕事において重要なのは、相手の立場になって考えることではなく、問題や課題などの「事実」を把握することです。
■解決のプロセスを「見える化」しておく
相手にどこまでヒアリングするかの線引きは必要ですが、例えば、「仕事以外の環境も含めていまどのような状況にあるのか」「職場においてはどのような状況にあるのか」「どういった気持ちを抱えているのか」という事実のみを、ステップを踏んできちんと掴(つか)んでいくことが重要になります。
その先は、明らかになった事実に対して具体的な対応をするプロセスになりますが、その対処のプロセスを職場で働く他の人にも提示できる状態にしておくことも大切です。職場には理解度や共感性が高い人、低い人といろいろな人がいますから、人によって対応が違うと、それが不満や不公平さを生む要因になってしまうからです。
そのため、誰が見ても納得できるような、一貫性のあるプロセスを示すことが必要なのです。
■職場の不満・不公平を防ぐには
職場の人間関係の問題の多くは、やはり公平・不公平の問題に帰結する面がかなり多く見られます。
「あの人には丁寧に対応していたのに」「わたしには同じように接してくれなかった」そうした反応のすべてに個別に対応することはできないし、対応を間違えることもあるでしょう。
また、仕事の能力に関係なく、もともと共感性が高い人だけが得をするような状況をつくりかねません。
仕事の人間関係においては、できる限りロジカルに、客観的なルールベースで考えて行動することが、結果的に不満や不公平さの出現を防いでくれます。
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細田 千尋(ほそだ・ちひろ)
東北大学 大学院情報科学研究科人間社会情報科学専攻 及び 加齢医学研究所脳科学部門認知行動脳科学研究分野 准教授
東京医科歯科大学大学院医歯学総合博士課程修了。博士(医学)。JSTさきがけ研究員、東京大学大学院総合文化研究科特任研究員などを経て現職。内閣府ムーンショット型研究目標9プロジェクトマネージャー、ウェルビーイング学会理事、Editorial bord member of Frontiers in Computational Neuroscience、仙台市教育局学びの連携推進室学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト委員会委員、日本ヒト脳マッピング学会広報委員、国立大学宮城教育大附属小学校運営指導委員などを務める。
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(東北大学 大学院情報科学研究科人間社会情報科学専攻 及び 加齢医学研究所脳科学部門認知行動脳科学研究分野 准教授 細田 千尋)