※本稿は、林健太郎『リーダーの否定しない習慣』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。
■部下の「存在」を消してしまう、悪気のない上司の言葉
それでは「否定しないマネジメント」を進める際に、基本となる大切な考え方をお伝えします。まず押さえるべき一番大切なことは「相手の存在を否定しない」ということです。否定というのは、様々なシーンや状況から生まれます。
「違う!」「全然ダメ!」と意見を否定する、考えを否定する、行動を否定する、失敗を否定する、仕事の姿勢を否定する、資料などの成果物の出来を否定する……など、様々考えられるでしょう。そのなかでも最も相手に与える影響やダメージが大きく、最もやってはいけない否定が、「存在の否定」なのです。
「えっ? 存在を否定することなんてありますかね?」
「無視するとかそういうこと? さすがにそんなことをする人いますか?」
などと思うかもしれません。とはいえ、これは実際、起こり得ることで、直接的でも、間接的な伝わり方でも、存在を否定されたと感じるシーンがあります。その代表例が、相手のミスを否定するときに人格否定をしてしまうことです。たとえば、
「え、それで終わり?」
「もうちょっと考えてから動いてくれる?」
「何回言ったらわかる?」
「やっぱ向いてないんじゃない?」
「正直、戦力になってないよね……」
「こういうの、○○さんに任せるのはちょっと不安なんだよね
「もう少し“ちゃんと”してもらえると助かる」
「自分で気づいてくれるといいんだけどなぁ」
「あ、○○さんはそのまま聞いてるだけで大丈夫です」
これらの言葉に含まれるニュアンスを裸の言葉にすれば、きっと「お前って本当に無能だな」といった本音になると言ったら言い過ぎでしょうか?
そう言ってしまえば、完全にパワハラにあたります。ただ、先に例示したような、多少オブラートに包んだ発言をリーダーがしたとします。
これらは能力や結果に対する否定ですが、それを言われた部下からすれば「自分が否定された」と感じるでしょう。この職場にいてはいけないのか、能力的に不適格なのかと思い悩むかもしれません。こういったものが「存在の否定」です。
あなたは、部下の存在を否定していないと、言い切れるでしょうか?
■避けるべき否定の9割が、コミュニケーションの入り口に
もちろん、誰もが人格や存在を否定しているわけではありません。多くのリーダーは、むしろ部下のために一生懸命向き合おうとしています。
それでも、知らず知らずのうちにもうひとつ、避けたい落とし穴にはまってしまうことがあります。それが、「頭ごなしの否定」です。
たとえば、こんな場面。
・ 朝のチームミーティングで発言しようとしたら、「あ、ごめん。今“経験者だけで”話してるから」と制された
・ プレゼンのアイデアを出したら、「それ、前にもやったけどウケなかったの。調べてから言ってくれる?」と返された
・ データの読み取りについて相談したら、「あ~……マーケ、初めてだっけ?」と鼻で笑われた
・資料を手渡したとき、一言もなく「はあ……」とため息だけつかれた
・Slackで業務確認をしたら、「今それ、急ぎじゃないんだけど」とだけ返ってきた
そんな一言や態度の積み重ねが、「このチームでは、自分の意見は歓迎されていないのかもしれない」という空気を、静かに相手に植えつけてしまいます。
コミュニケーションの土台すら立っていない最初のリアクションや声がけから、否定で入ること。
最初から拒否されるというのは、「存在そのものを否定された」と相手に感じさせるリスクがある、ということをぜひ覚えておいてください。
「自分はここにいてはいけないってこと?」
「私は人として嫌われているのかな?」
「自分の居場所がないように感じる」
そのように相手に感じさせるのは、コミュニケーションのスタートが間違っているのです。そして、こうした言葉を選んでしまうリーダーの多くは、「まさか、そんなふうに受け止められているとは思っていなかった」と、相手がどんな気持ちになるかに無自覚なままであることがほとんど。
■否定するつもりがないのに、思いっきり否定
たしかに、意図して相手を否定したいと思っているわけではありません。ただ、結果として「関係を閉じる言葉」になってしまっていることもあるのです。なかには、明らかに部下を突き放すような態度を取ってしまうリーダーもいます。
もし、そうした関わりが続いているとしたら、それは相手の問題ではなく、自分の関わり方にこそ目を向ける必要があるというサインかもしれません。誰かが変わるのを待つより、まず自分の関わり方を整える。それが「否定しない関係」の始まりなのです。
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林 健太郎(はやし・けんたろう)
否定しない専門家/コーチ
合同会社ナンバーツー エグゼクティブ・コーチ。リーダー育成家。
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(否定しない専門家/コーチ 林 健太郎)