※本稿は、橋本拓也『部下をもったらいちばん最初に読む本』(アチーブメント出版)の一部を再編集したものです。
■まずは「人として当たり前のこと」を充満させる
これをお読みになっている方の所属する企業の中には、企業理念やビジョンなどが存在しなかったり、存在していても“お題目”になって機能していないところもあるかもしれません。
そんな場合は「あなたの組織」という水槽の中身を、きれいな水質にするところから始めます。
糸口となるのは「『マネジャーが考える人として大切なこと』を大切にする」という価値観です。「挨拶をする」「時間を守る」「目標を達成する」「お客様に誠実さを貫く」「仲間に感謝する」「自分の成長を大事にする」など、人として当たり前のことを組織に発信し、充満させていきましょう。
そうすることで、仮に企業理念がない企業であっても、あなたのチーム・組織のメンバーがイキイキと仕事をし、成果を出すことで他部署や全社にも良い影響を及ぼすことができるかもしれません。
さらに「会社は個々人の自己実現の舞台である」という価値観を入れます。
10人くらいの小さな組織であっても、メンバーは一人ひとり人生をかけて仕事をしています。会社という舞台を通して演舞し、自らの人生を歩もうとしているのです。
だからこそ、舞台はみんなのものであり、汚すようなことをしてはいけません。
このような価値観を組織に発信し、充満させていきましょう。
すると、あなたの組織・チームのメンバーが次にマネジャーになってチームを持ったときに、同じような価値観を重んじるチームを作ってくれます。
長い時間軸でこのような現象が増えていけば、もしかすると会社全体が良くなる可能性もあります。会社に不満を持つのではなく、まず自分のチームを人が育つ文化にすることに全力投球しましょう。
■水質はいきなり全部変えない
人の育たない組織から人の育つ組織へ――悪い水質を良い水質へ変えていこうとするときに注意してもらいたいことがあります。
それは「いきなり水槽全部の水を入れ替えないこと」です。
もしも、マネジャーがいきなり「明日から必ず挨拶するチームにしよう、プラスのことしか話さないでいこう、時間を毎日絶対に守ろう」のように水質をがらりと変えようとすると、必ずと言っていいほど歪が生じます。
特に中小企業のような小さな組織の場合は、離職が多発して企業の運営そのものが立ち行かなくなってしまうでしょう。ポイントは半分ずつ、もしくは少しずつ変えることです。ハードランディングではなく、ソフトランディングで進めてください。
■まずはメンバーに話を聞くところから
まずは、メンバーの話を聞くところから始めます。
入社動機や過去の充実したこと、どんなプロになりたいかについて聞きます。しっかりとメンバーの思いに耳を傾けると「お客様から感謝される人になりたい」「付加価値をもっと上げたい」「一度の人生なのでチャレンジをしたい」などの何かしらの肯定的な思いを持っているメンバーも実は多くいるのです。
そうしたらマネジャーはその言葉を一旦は受け止め、「自分にも作りたい組織がある」と会社が自己実現の舞台であることを伝えるのです。
例えば「挑戦、応援、達成する組織を作りたいんだけど力を貸してくれませんか?」と仮に言うと、「いいですね」というメンバーも現れてきます。メンバーは想像以上にチームや組織のことをしっかり考えてくれているものです。
その上での行動の変化を提示していきます。
もちろん、ソフトランディングです。「まずは挨拶を大事にしよう」くらいの小さな変化を1つずつ起こしていくのです。
イメージは水槽の水を半分だけ入れ替え、次にまた半分だけ入れ替え……を繰り返していくことです。
■「なぜ変える必要があるのか?」と聞かれたら
質を変えようとするときに「どうしてそんなことをする必要があるんですか?」という声が上がることも考えられます。
人間にはホメオスタシス(恒常性)という機能が備わっています。「身体に何かしらの変化が起きたときに、それを元に戻そうとする(現状維持しようとする)能力」のことです。平たく言えば「人間は変化を好まない」ということです。
ですから社内で起こる変化に対して反発とまではいかないまでも、理由を知りたがったり、変化への不安が表出することがあるのです。
そんなときに、マネジャーが「いいから私の言う通りにやれ」ではいけません。
企業理念に立ち返ることをおすすめします。もしも企業理念がない企業であれば、チームを「人が育つ組織」にしたいことを伝えましょう。
■「理念ビジョンを実現するため」
弊社の例にはなりますが、弊社の企業理念は「上質の追求」です。「選択理論を基にした高品質の人財教育を通して顧客の成果の創造に貢献し、全社員の物心両面の幸福の追求社会の平和と繁栄に寄与すること」を目的に、世界最高峰の人材教育コンサルティング会社を目指しています。
人と組織の目標達成を支援する上で、世界で最も効果性が高いクオリティ世界最高峰を目指している企業なのです。もしも私が、メンバーから水質を変える理由を聞かれたら、「理念ビジョンを実現するため」と答えるでしょう。
■ヤンキースのグラウンドキーパーが仕事に手を抜かないワケ
ちなみに、メジャーリーグのニューヨーク・ヤンキースは「世界一のチーム」を目指しているそうです。
その価値観はプレイヤーだけでなくスタジアムのグラウンドキーパー(グラウンド整備士)にも徹底されていて、彼らはユニフォームを着て時間通りに出社し、きっちり真剣に仕事をして帰ります。決して手を抜くことはないのです。
彼らにその理由を聞いてみると、こう答えたそうです。
『それは我々がヤンキースのグラウンドキーパーだからだよ。ヤンキースは世界一のチームだ。
ニューヨーク・ヤンキースでは、そこで働く人すべてに「ヤンキースは世界一になるチームである」という価値観が徹底されて守られているのです。
このような水質で運営されているからこそ歴代最多の優勝記録を誇り、メジャーリーグ屈指の名門球団と呼ばれているのかもしれません。
あなたも、メンバーから「何のための」と問われたときは、企業理念に立ち返るか、自分自身の「目的・目標」に立ち返ってみてください。
あなたが「何のために、誰のために、なぜ働いているのか?」を明確にし、企業理念に則してどのようなチーム・組織であるべきなのかを模索するところから始めましょう。
もしかすると、これは時間のかかることかもしれません。ですが、複数人のメンバーをまとめ、組織効率を向上させ、組織のパフォーマンスを最大化させていくためには、通らなければいけない道なのです。
----------
橋本 拓也(はしもと・たくや)
アチーブメント 取締役営業本部長、トレーナー
千葉大学卒業後、2006年アチーブメントに入社。入社1年目で新規事業の責任者に抜擢され家庭教師派遣事業を立ち上げるも、5年で事業閉鎖。2008年よりメンバーマネジメントに携わるが、異動・退職などが多く、7年間マネジメントの無免許運転期間を過ごす。その後、世界60カ国以上で学ばれる「選択理論心理学」を土台にしたマネジメントに取り組み、マネジメントが激変。メンバーおよび組織の飛躍的な成長を創り出し、2021年に新卒初の執行役員、2022年に取締役に就任。現在は130人以上のメンバーマネジメントに携わる。
----------
(アチーブメント 取締役営業本部長、トレーナー 橋本 拓也)