いつまでも若々しく生きるには何をすればいいか。精神科医の和田秀樹さんは「歳をとればとるほど、楽なほう楽なほうへと流されてしまう。
一方、心をワクワクドキドキさせる『恋活』は、脳と心身のはたらきを活性化させて若返らせてくれる」という――。
※本稿は、和田秀樹『60歳からこそ人生の本番 永遠の若さを手に入れる恋活入門』(二見書房)の一部を再編集したものです。
■恋活をすると人はなぜ幸福になるのか
恋活とは、ワクワクドキドキする異性・同性と出会うための活動です。
もちろん対象は、人間だけとは限りません。人・モノ・コト、なんでもかまいません。ワクワクドキドキする対象にすでに出会って活動中の方も、恋活に含まれます。
恋活についての心理学的なアプローチなども本書でお伝えしていくのですが、そうした恋活の極意を知ることによって、パートナーとの関係性を修正することも可能になるのです。
じつは、私自身も恋活をしています。その、ワクワクドキドキするアクティビティの1つが、ワインです。ワインを取り寄せて、ワイン好きの仲間たちと美味しいワインを飲みながら、つまみはなにが合うか、次はどのワインを取り寄せようかなど、わいわい語り合う時間は最高です。
すると、仕事にも張り合いが出ますから、ワインを夜にゆっくり飲むために日中の仕事が頑張れる、といっても過言ではありません。
ワインの場合、少し「推し活」にも似ていますが、私のなかでは「恋活」なのです。

だれかに・なにかに、恋活しているときのことを、ちょっと想像してみてください。
想像したとき、どのような感覚に包まれるでしょうか。心地よさや温かさ、充実感、そして幸福感ではないでしょうか。
その心地よさの正体は、脳内から放出される、気分を高める神経伝達物質です。
その1つが「オキシトシン」です。いま想像してワクワクドキドキした瞬間、すでにあなたの脳内からオキシトシンが放出されています。すると、心地よさや温かさ、充実感、幸福感に満たされます。
オキシトシンは、1906年にイギリスの脳科学者によって発見されたホルモンの1つで、脳の視床下部で合成され、下垂体後葉から分泌されます。
もともとは、出産時に子宮を収縮させて陣痛を促したり、授乳時に乳腺を刺激して母乳の出を促進したりする作用として知られ、母子の絆(きずな)を深め、母性を育てるホルモンとされてきました。
■この世界で感じるストレスから守ってくれる
今ではさらに研究が進み、オキシトシンが脳でつくられると幸福感が高まることがわかってきました。
うれしい、楽しい、気持ちいい、ワクワクドキドキするとき、オキシトシンが脳でつくられます。神経伝達物質として、鎮痛作用や不安の軽減、他者への信頼感に関与し、別名「愛情ホルモン」「幸せホルモン」「絆ホルモン」とも呼ばれています。

オキシトシンが分泌されると、副交感神経が優位になり、痛みを抑制したり、精神的な安らぎを与えたり、ストレス反応をやわらげたりする作用をもたらします。
ほかにも、血管を広げて血圧を下げたり、神経発生の促進、肌の傷を治す幹細胞の働きを活性化したりする作用もあります。
一人では恋活ができないように、人はこの社会において、一人で生きていくことはできません。生きていくうえで、社会的な行動を避けて通ることはできません。
社会的な行動とは、家庭や学校、職場といった集団をつくって社会を形成し、そのなかで生きていくことです。こうした、社会で生きていくうえで感じる不安を、オキシトシンが減少させてくれるのです。
皮肉なもので、人との関わりにはストレスが伴います。その一方で、人とのふれあいがなければオキシトシンは分泌されません。でも、人と関わることで、この世界で生きていくうえで感じるストレスから、オキシトシンが守ってくれるのです。
■楽ばかりでは「精神的引きこもり」の状態に
オキシトシンが脳にどのような作用をもたらすか、もう少し解説していきましょう。
はじめに「前頭葉」にどのような作用をするかについてお話しします。前頭葉とは、思考や創造性をになう脳の最高中枢です。

前頭葉は、状況にそぐわない思考や行動を抑制する機能をにない、考える・記憶する・想像する・アイデアを出す、感情をコントロールする・判断する・応用するといった、私たち人間を人間たらしめている非常に重要なはたらきをになう脳の部位です。
恋活すると、これらすべてを総動員しなければなりません。恋活は、人間らしく生きることそのものであるともいえます。
私たちは、とくに歳をとればとるほど、楽なほう楽なほうへと流されてしまうものです。だから気心の知れた人とばかり接したり、安心できる環境にばかり身を置いたりしがちです。
しかし、楽なことばかりしていると、柔軟性や応用力は磨かれません。ましてやクリエイティブな力も伸びません。自分が想定できる範囲だけで行動していることは、いわば「精神的引きこもり」の状態で、脳は新たな刺激を受けることがありません。
そうすると脳も体も心も、どんどん老化が進んでいきます。一方、恋活は、自分の予想がつかないことの連続であり、刺激的で、心をワクワクドキドキさせるものです。このワクワクドキドキによって、脳は刺激を受けるのです。
■海馬を強化し、認知症を予防・改善する
さらに恋活のメリットは、記憶をつかさどる脳の部位「海馬」の強化です。
海馬は記憶の司令塔ともいわれています。認知症、アルツハイマー病では早期に海馬が障害を受けることが知られています。
海馬の萎縮は、認知症の診断や予防において重要なポイントとなっていますが、恋活することで、認知機能を保ち、認知症を予防・改善することにつながります。
日常的な出来事や新しく覚えた情報は、いったん海馬にファイルされます。その後、整理整頓されてから大脳皮質に保存されていきます。
海馬が働かないと、新しいことの記憶ができなくなります。昔のことはよく覚えているのに、最近の出来事を記憶できないのは、海馬が老化しているからです。酸素不足で脳がダメージを受けたときにも、最初に海馬から死んでいくともいわれています。
また、極端な恐怖やストレスによって海馬に異常が現れる病気が、PTSD(心的外傷後ストレス障害)です。
海馬は、うつ病との関わりも深く、ここでも、恋活(=オキシトシンの分泌)によって神経細胞の新生が促進されて、うつ病を改善する可能性があることが明らかになってきました。
■痛みの抑制や思いやりの醸成にも
さらにオキシトシンは、「扁桃体」のはたらきにも作用します。扁桃体は、脳において怒りや不安、好き嫌い、不快、恐怖、緊張などの「情動反応」を処理している場所です。

人は、ストレスを受けると、嫌悪感や怒り、不満、不安などのマイナス感情を高めやすくなります。このような情動反応によって扁桃体が興奮すると、アンガーマネジメント(怒りのコントロール)ができにくくなるのです。
しかし、愛情ホルモンのオキシトシンが分泌されると、この、ストレスを受けたときに活性化する扁桃体が、ストレスに反応しにくくなります。つまり、恋活によって、ストレスホルモンが生じにくくなり、ストレスがかかっても冷静な判断力を保ちやすくなるのです。
また、感情や対人コミュニケーションの障害とされる統合失調症や自閉症も、扁桃体の活動の低下と関連していることが知られています。
以上のように、恋活には、痛みの抑制や思いやりの醸成、記憶力や創造性の向上など、実にさまざまなメリットがあります。恋活は、脳と心身のはたらきを活性化させて若返らせてくれる、素晴らしい特効薬なのです。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。
一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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