※本稿は、和田秀樹『60歳からこそ人生の本番 永遠の若さを手に入れる恋活入門』(二見書房)の一部を再編集したものです。
■個人的に入手したED薬のリスク
ED診療ガイドラインは2008年に第1版が出版されました。作成された経緯は、1999年に日本でED内服治療薬が認可発売され、一部の性機能専門家だけではなく、一般の泌尿器科医や内科医などがED診療にあたる機会が増えたことにあります。
その後、EDは、糖尿病やメタボリック症候群などの生活習慣病、循環器疾患、男性更年期障害(LOH症候群)、前立腺肥大症などに深く関連する重要な症状として、認識されるようになりました(第3版・序より)。
有病率は、欧米7カ国の50~80歳の1万2815名を調査した研究によると、国家間の差はなく、次のような結果となっています。
50歳代 30.1パーセント
60歳代 51.1パーセント
70歳代 75.6パーセント
治療薬としては、PDE5阻害薬のバイアグラ、レビトラ、シアリスの3剤が使用可能で、どの治療薬も、国内外で十分な有効性と安全性のデータが報告されています(いずれも先発品の商品名。現在は後発品が流通しているものも)。
PDE5阻害薬とは、PDE5という酵素の働きを阻害することで血流を改善する薬で、勃起不全や高血圧症、前立腺肥大症による排尿障害などの治療に用いられます。
ただし、インターネットなどで輸入代行業者を通じて個人的に入手した薬剤は、品質の面でリスクがあり、死亡例もあるので危険です。
ちなみに、2008年8月から2009年4月のあいだに日本とタイにおいてインターネットを通じて入手されたPDE5阻害薬3剤について調査した報告によると、偽造薬品の占める割合が日本では43.6パーセント、タイでは67.8パーセントにものぼりました。
ですから必ず、医師に処方してもらうようにしましょう。
■60代で半数以上、70代では4人のうち3人がED
それでは以下、PDE5阻害薬の3つの薬剤を説明します。
〈バイアグラ〉
世界で最初に臨床応用されたPDE5阻害薬で、日本では1999年3月に、はじめての勃起不全治療薬として発売されました。
内服後30~60分で効果を発揮し、3000名以上から集積されたデータによれば、「この治療によりあなたの勃起は改善しましたか?」という評価では、12週の試験期間で「YES」と答えた人が76パーセントでした。
〈レビトラ〉
内服後30分で効果を発揮します。4000名以上から集積されたデータでは、勃起の改善を主要評価項目として12週の試験期間で69パーセントに効果が見られ、2年間の長期試験では90~92パーセントが、この治療により勃起が改善したと答えています。
また長期試験でも心血管疾患は発生しませんでした。
〈シアリス〉
内服後30分から効果を発揮して36時間持続します。効果が長時間持続するのが、ほかの2剤との大きな違いです。軽度・中等度ED者1112名のデータでは、41~81パーセントの患者が勃起の改善を認め、内服後30分から36時間のあいだでの性交機会の73~80パーセントで、性交に成功しています。
一方、初期治療で失敗している原因を見てみると、そもそも性的な刺激をしていなかったり、油っこい食事後の服用や内服するタイミングの間違い、数回しか試さなかった、などの不適切な服用方法が81パーセントを占めています。
60代で半数以上、70代では4人のうち3人がEDというデータもあり、さまざまな優れた効果があるので、治療しない手はないでしょう。
■前立腺肥大症もED薬で改善
前立腺は男性だけが持っている臓器で、膀胱の出口に位置し、尿道をとり囲んで栗のような形と大きさをしています。
高齢になると、多くの男性は、前立腺が大きく広がり、さまざまな機能に支障が出る前立腺肥大症にかかり、年齢が上がるにしたがって増加します。
肥大する原因は、加齢と男性ホルモンの関与が示唆されていますが、はっきりとはわかっていません。70歳以上になると、約70パーセントの男性の前立腺が肥大しているとされています。
ただ、病気とはいっても基本的には良性疾患ですから、必ずしも治療をしなくてもかまいません。前立腺がんと混同されやすい疾患ですが、発生する場所も性質も異なります。
前立腺がんは悪性の腫瘍で、前立腺の外に広がり、ほかの臓器に転移することがありますが、前立腺肥大症は良性の腫瘍で、外に広がったり、転移したりはしません。
必ずしも治療をしなくてもいいのですが、逆に、前立腺が大きくなっていなくても、排尿が困難だったり、頻尿や残尿感、夜間頻尿、蓄尿障害(おしっこが我慢しにくい)、尿漏れ、尿失禁、尿意切迫感(尿がしたくなると我慢できなくなる感じ)などで生活の質(QOL)が下がったりしている場合は、それらの治療をおこなうことが、最近では多くなっています。
検査は、問診、身体所見(直腸診)、尿検査、尿流動態学的検査(尿流測定、残尿検査)、画像診断(MRI、腹部超音波)などを組み合わせて、臨床的に診断します。自覚症状に関するアンケート(問診表)も、治療を決めるうえで重要視されています。
先ほどお伝えしたED治療薬の3つのPDE5阻害薬(バイアグラ、レビトラ、シアリス)は、この前立腺肥大症の治療薬としても効果を発揮します。
■排尿に関する症状があれば、泌尿器科の受診を
また、前立腺肥大症の治療には、5α還元酵素阻害薬を用いる場合があります。この薬は、性欲低下の副作用がありますが、ED治療薬を併用することで、勃起力を改善することが期待されています。
前立腺肥大症に伴う排尿障害の治療薬として使用されるのが「ザルティア」という薬です。前立腺や膀胱の筋肉を緩め、血管を拡張する効果があり、前立腺肥大症による排尿障害を改善します。
名前はザルティアですが、有効成分はED治療薬のシアリスと同じ「タダラフィル」という成分です(後発品もあり)。シアリスという名前のままでは保険適用で処方ができないため、ザルティアに名前を変えて厚労省に承認されました。
この2つは、処方される目的が次のようになっています。
ザルティア:前立腺肥大症に伴う排尿障害の改善が目的・保険適用(勃起を目的としないため5ミリグラムの使用が多い)。
シアリス:EDの治療が目的のため保険適用外(確実な勃起促進のために20ミリグラムの使用が多い)。
なお、例外として、後者のシアリスは「EDによる男性不妊」の治療目的で処方された場合にのみ、保険適用となる場合がありますので、医師に相談してください。
ちなみに成分のタダラフィルは、排尿障害改善効果や勃起障害改善効果のほか、動脈硬化などで傷害を受けている血管の細胞を修復する効果(血管内皮細胞の修復効果)も認められています。
もしも、頻尿や残尿感、夜間頻尿、蓄尿症状、尿漏れ、尿失禁、尿意切迫感など排尿に関する症状があれば、我慢せずに一度、泌尿器科を受診してみましょう。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)