司会役の社員が会議で「何か意見はない?」と言っても誰も反応しないのはなぜなのか。コーチの林健太郎さんは「会議で意見やアイデアを出させるために大切なのは、メンバーが自分ごととして捉えられるかにかかっている。
そのためには、議題に入る前のリーダーの前フリが重要だ」という――。
※本稿は、林健太郎『リーダーの否定しない習慣』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。
■部下・メンバーをやる気にさせる「自分ごとスイッチ」
「これは前から決まっていることだから、納得できるかどうかというよりは、やるしかないんだよ」

「いいからやって。細かいことはあとで」
こういったセリフ、実はあなた自身が若い頃、上司から言われてきたものかもしれません。いわゆる「いいからやれよ」といった論調です。
そんな空気のなかで働いてきた人ほど、「それが当たり前」と思ってしまう。そして気づけば、今のあなたが同じことを部下に言っている。そんなこと、ありませんか?
「会社から給料をもらっているんだから」

「仕事なんだから」
そんなことを心のなかで思っていたとしたら、すでに否定の芽が発芽しようとしている状態かもしれません。
では、どのようにすれば、部下が「真剣に取り組んでみよう」と思えるような話の持っていき方ができるでしょうか。まず意識してほしいのが、リーダー側が話し合いの目的を明確にして伝えること。
次に、なぜこの意思決定が重要なのかを伝えること。そして、「ちょっと協力してほしい」とリクエストをする。

この手順を踏むと、部下のなかでも「それなら考えてみようかな」という、いわゆる「自分ごとスイッチ」が入りやすくなります。
たとえば、こんな会話をイメージしてみてください。
■場の温度を下げずに会議を一段深いところへ導く方法
リーダー:「今回の施策案、方向性は見えてきたよね。ここからは、みんなの率直な意見も聞きたい。どこか引っかかるところある?」
(数秒の沈黙……)
メンバーA:「あの……スケジュール、少しタイトすぎて無理かなと思っています。今、ほかのプロジェクトでかなり稼働もされている状態ですし……」
リーダーの心の声:(いやいや、だからそれはわかったうえで考えて詰めたんだけど……。やってみる方向で関わってくれよな……)
そう内心思いつつも、取り直して次のように伝えます。
リーダー:「そうなんだね、教えてくれてありがとう。今回の会議の目的はね、大きな方向性自体はすでに決まっているから、それを現場レベルの行動にどう落とし込んでいくかを一緒に考えることなんだ。それで、なぜみんなの意見を聞きたいかというと、リーダーが勝手に推測で決めたり、チーム長とだけ話して決めたりするんじゃなくて、現場の声をちゃんと反映させたうえで意思決定したいからなんだよね」
こんな形で丁寧に伝えることで、相手もあなたの考えをより理解することができ、その後の会話の方向性も定まってきます。
そしてもうひとつ、心理的安全性を確保することも忘れてはなりません。
せっかくメンバーが意見を出してくれても、リーダーが「いやーそれは……」「それは難しいね」と反応してしまえば、せっかくの声は打ち消されてしまいます。

先ほどの対話の続きなら、こんな流れをつくってみると良いと思います。
メンバーB:「ちょっと場違いかもしれませんが、いっそこのプロジェクト、全部オンラインで進めてはどうでしょう? 出社頻度を見直すとか」
リーダー:「なるほど、ありがとう。今の視点、私にはなかったなあ」
メンバーC:「私も実はそう思っていました。資料の作成やレビューは、オンラインで十分対応できそうですし」
リーダー:「おお、それは興味深いね。たしかに“対面でやるもの”という前提に無意識に縛られていたかもしれない」
リーダー:「さすがBさん。あのタイミングで、言いにくいことをしっかり伝えてくれたのは嬉しかったよ」
こうした「まず受け止める」という姿勢が、場の温度を下げることなく、むしろ会議を一段深いところへ導いてくれます。だからこそ、出してくれた意見に対しては、
「そんな考えがあったんだね」

「それは興味深いね」

「それは新しいね!」

「さすが○○さん!」
と承認の言葉を使ってみてほしいのです。
きっとすべての意見に同意していなかったとは思うのですが、そこで頭ごなしに否定をすると、会話の熱量は下がっていくということをぜひ覚えておいてください。
■議題を「自分ごと」にさせられるか?
会議で、「何かこれについて意見はある?」と聞いて、一切反応がなかったということはないでしょうか。
きっと多くの人が経験、もしくは同じようなシーンを目にしたことがあるはず。
会議でもちゃんと議論をしようと思ったのに、メンバーが自分なりの考えや意見を発言しないことで、まったく盛り上がらなかったという経験をしたことはありませんか?
このようになってしまう原因は2つあります。
・メンバーが議題を「自分ごと」として捉えられていない

・心理的安全性が確保されていない
まず、会議で意見やアイデアを出させるために大切なのは、メンバーが自分ごととして捉えられるかにかかっています。

そのためには、議題に入る前のリーダーの前フリが重要です。この前フリというのは、議題について話し合う「目的」と「この話し合いを仕事」として定義すること。
議論や意見出しを行う目的が明確であり、それが意思決定のために重要なメンバーの仕事であることを明示しなければなりません。
意見が出ない、発言しても意味がないと感じてしまうのは、目的が不明確だったり、自分の重要な仕事として認識していなかったりするから、「わざわざ意見する必要がない」と感じてしまうのです。
■「お通夜会議」を祭りにするたった一つの方法
ある食品メーカーの研究所での事例で説明しましょう。
「林さん、聞いてください。実は少し前に、ある成分について研究してほしいと会社から指示がありました。それで、その成分について他社がどんな研究をして、どう活用しているかの資料を集めて、それをスライドとしてまとめたものを会議で部下たちに詳しく説明したんです。そのうえで、何か意見はないかと聞いたんですが、全然意見が出なかったんですよ」
「うーん、それだと意見は出ないでしょうね」
「これって何がいけなかったんですか?」
「その流れだと、『会社からやらされている会議』ですよね。もうすでに忙しいのに、なぜそれをやらなければいけないんだと感じているのかもしれません。それに、そこで意見を出しても、どう生かされるのかがわからない。部下にしてみれば、自分たちの仕事に関係のないことについて、考えて意見しなければならないというやらされ感しかないわけです」
「たしかに……。
では、どう聞けばよかったのでしょう?」
「大事なのは、目的とメンバーにやってもらいたい仕事を定義することです。たとえば、『会社から○○の成分について研究の指示があったんだけど、私たちはこの成分について、今後、どういうふうに素材として扱っていくのが良いか、独自の見解をみんなで考えて会社に提案したいと思う。思いつきでも何でもかまわないし、今日、結論まで決める必要はないけど、なるべくたくさんアイデアがほしい』といった形であれば、意見を言う気になったかもしれませんね」
「なるほど」
「たとえば『これが他社の取り組みで』、と事前に調べておいた資料を見せて、『これを踏まえて当社ではどう独自性を出していくかについて話し合いたい』と伝えて、会議の最初の10分程度を使い、短く説明するのも良いと思います。あくまで、会議のメイン時間は討議に使いたいですよね」
いかがでしょうか。
後日、この方は、このアイデアの通りに会議を開いたそうです。後日、どうなったかをお聞きしたのですが、「意見が出まくって驚きました」と喜んでいただけました。

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林 健太郎(はやし・けんたろう)

否定しない専門家/コーチ

合同会社ナンバーツー エグゼクティブ・コーチ。リーダー育成家。一般社団法人国際コーチング連盟日本支部創設者。1973年、東京都生まれ。バンダイ、NTTコミュニケーションズなどに勤務後、プロコーチを目指して海外修行に出る。帰国後、2010年にコーチとして独立。
大手企業などで延べ2万人以上のリーダーにリーダーシップを指導。企業向けの研修講師としての実績も豊富で、フェラーリ社の日本の認定講師を8年間務めるなど、リーダー育成に尽力。独自開発した「コーチング忍者」研修は、(株)サザビーリーグ、(株)ワコールなどの企業に採用されている。チームビルディングの専門家としても活動し、多くのチームの再生に貢献。より良いリーダーになりたい方への個別指導プログラムも提供している。プライベートでは2児の父として育児に奮闘中。著書に、シリーズ22万部を超えるベストセラーとなっている『否定しない習慣』『子どもを否定しない習慣』(以上、フォレスト出版)、『人間関係の悩みがなくなる 期待しない習慣』(朝日新聞出版)、『「ごめんなさい」の練習』(PHP研究所)、『チームが「まとまるリーダー」と「バラバラのリーダー」の習慣』(明日香出版社)、『なぜか干渉される人 思わず干渉してる人』(ダイヤモンド社)ほか多数。

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(否定しない専門家/コーチ 林 健太郎)
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