老後を健康に過ごすには、どんな対策をすればいいのか。医師の大友通明さんは「夏バテ気味だからと言って、麺類ばかりの食生活はおすすめできない。
骨に必要な栄養素が不足してしまうからだ。丈夫な骨を作るためには、高齢者ほど意識して食べてほしい食材がある」という――。(第2回)
※本稿は、大友通明『栄養整形外科医の一生折れない骨をつくる「強骨みそ汁」』(青春出版社)一部を再編集したものです。
■日本人の8人に1人が骨粗鬆症
1590万人――この数字は一体なんだと思いますか? 実は、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の患者数です(*1)。日本人の8人に1人ということになります。もちろん、検査を受けてそれと診断された人の数字ですから、潜在的にはもっと多いと推測されます。
骨粗鬆症は骨量が減ることにより、骨折しやすくなる病気です。骨量とは骨に含まれるカルシウムなどのミネラル量のことで、骨密度は単位面積当たりの量を示します。「骨密度が高い=骨量が多く、骨が強い」ということになります。
骨粗鬆症の怖いところは、一度骨折したら、二度三度と連鎖的に起こる可能性があることです。そもそも骨が弱くなっている状態なので、何かの拍子に別の場所が骨折してしまうことも少なくありません。
■整形外科で「食事の内容」を尋ねている
私は整形外科医ですが、クリニックでの“診察風景”は通常とは大きく違っています。
例えば腰痛の場合、一般の整形外科では、患者さんのレントゲンを撮り、その説明を行い、薬を処方したり、必要であれば牽引や電気治療などの物理療法や理学療法をすすめたりします。私も同様の診察をしますが、続けてこんな質問をします。
「ところで、今朝は何を食べましたか? いつもどんな食事をしていますか?」
患者さんの食事内容を尋ねるのです。整形外科ではまずしない質問です。患者さんは「腰が痛いから診てもらいに来たのに、どうして食事のことを聞くのだろう」と怪訝(けげん)な表情を浮かべながらも、食事内容を説明してくれます。
高齢者に多いのは、朝はパン食、昼は麺類、夜は魚を主菜とした野菜たっぷりの献立、といったものです。間食に甘いものを食べるという患者さんも少なくありません。肉を食べることもあるようですが、ほとんどが豚肉か鶏肉です。ひと通り食事内容を聞いたあとで、私はまた患者さんが驚くような話をします。
「腰痛の根本原因は、その食生活にあるんですよ。血液検査をして、栄養状態をチェックしてみませんか?」
整形外科で血液検査をするなどとは思ってもいなかった患者さんは唖然(あぜん)としています。しかし、私はしっかり血液検査の必要性を説明します。
私が行う血液検査は、栄養状態を正確に知るためのものです。病院で一般的に行われる血液検査よりももっとたくさんの項目をチェックします。
■夏の骨密度は下がる
整形外科の疾患は主に筋肉や骨に関係したものですが、その筋肉や骨をつくっているのは食事によって摂取する栄養です。つまり、どんな食事をしているか(どんな栄養を、どのように摂取しているか)で、骨の状態、筋肉の状態が決まってくるわけです。
いい方を換えれば、食事に問題があれば、骨や筋肉にトラブルが起き、整形外科的な不調があらわれるのは、むしろ当然なのです。だからこそ、整形外科医も食事に目を向けなければいけないのです。
私のクリニックでは、患者さんの骨密度を定期的に測定しています。その結果からわかるのが、季節によって骨密度に違いが生じる患者さんがいるということです。次の図表1のように、夏になると骨密度は下がり、秋から春にかけては骨密度が上がるのです。
なぜそのようなことが起きるのか。これは栄養面から説明することができます。暑い夏の時期は夏バテのために食欲が湧かないという人がいます。
そうした患者さんの口から語られるその時期の食事内容は、こんなものが多いのです。
「夏バテしてしまって、さっぱりしたものしか喉を通りません。おそばやそうめんばかり食べています」
■肉を食べると、骨は丈夫になる
これでは栄養が不足するのも当然です。肉などはその時期に敬遠したくなる食品の最たるものでしょうから、間違いなく、たんぱく質、鉄が不足します。また、そばやそうめんといった糖質ばかりの食生活では、ビタミンCも十分に摂れないはずです。
骨の鉄筋部分はたんぱく質、鉄、ビタミンCからつくられるコラーゲンです。たんぱく質、鉄、さらにはビタミンCが不足すれば、コラーゲンは低下します。その劣化は、それを覆うカルシウムにも波及します。骨密度が下がるのはそのためでしょう。
そんな状態では骨粗鬆症、骨折など骨のトラブルが起きやすくなって当然です。数値の変化を受けて私はアドバイスをしました。「たんぱく質を摂りましょう。
頑張って肉を食べてください」
図表1のように、秋口から春にかけて骨密度が上がってくるのは、まさに食欲の秋で患者さんがアドバイスにしたがってくれているからだと思います。肉を食べる際には葉物野菜のサラダなどをつけ合わせにすることもアドバイスします。そうすればビタミンCも一緒に摂れるというわけです。
肉を食べることによって、たんぱく質、鉄、さらにサラダなどでビタミンCの不足を解消することで、骨は丈夫になるのです。季節を問わず肉を摂ることが重要です。
■「肉は体によくない」は古い
高齢者の食事で特徴的なのは「肉を食べない」ということに尽きます。これには“常識”が一役買っています。ある年代以上になったら、肉は体によくない。魚を中心とした食事をして、野菜をたっぷり摂るのがいい――それが健康にいいと信じられてきたのです。
確かに、脂肪分の多い肉を摂りすぎれば、肥満や脂質異常症を招きます。内科的な見地からすれば一理あることは認めますが、だからといって、食卓から完全に肉を締め出してしまうと、かえって偏った食事になってしまいます。
実際、クリニックの患者さんのなかには、それまで食べなかった肉を食べるようになって、「元気になった」という人たちはたくさんいます。

一方で、肉を食べていても体内のたんぱく質が増えないというケースもあります。血液検査をして、たんぱく質の数値がいっこうに増えない患者さんに、「ちゃんとお肉を食べてないでしょう」と聞くと、「いいえ、食べてます」と答えることがあります。
よくよく食事内容を聞くと、確かにちゃんと食べているのです。ただし、それが吸収されていない。食べたものを栄養として体内に取り入れる役割を担っているのは、いうまでもなく、消化器官です。その消化器官にトラブルがあれば、いくら肉を食べても、体内のたんぱく質は思うように増えないということになります。
■“薬を替える”のも有効なアプローチ
とりわけ、高齢者には消化器官の働きが十分でないために、肉を食べているのにたんぱく質が増えないという人が多い印象があります。
その一因として、薬の影響があるように思います。高齢者には逆流性食道炎などの症状があって、胸やけがするという理由で胃酸を抑える作用がある胃薬を飲んでいる人が少なくありません。胃酸は消化作用の、いってみれば主役ですから、その分泌が抑えられれば、肉のたんぱく質がうまく消化・吸収されないのは必然の流れです。
そうしたケースでは、薬を替えるというアプローチが有効かもしれません。胃酸を抑える薬ではなく、消化をサポートする薬、つまり、漢方薬や消化酵素剤に替えるのです。
クリニックでもそのアプローチが成功しているケースは多々あります。
それまでの(胃酸を抑える)胃薬を消化酵素剤に替えたことで、食欲が増し、活力が出てきたという患者さんもいます。なかには、髪の毛が太くなるという目に見える変化が起きる人もいます。髪の毛の主成分はたんぱく質ですから、これはたんぱく質が効率よく吸収されていることの何よりの証拠。足りなかったたんぱく質が、体の末端である髪の毛にまで届くようになったということなのでしょう。
■“寝たきり”ほど「たんぱく質の必要量」が増す
ここで少し興味深いデータを紹介しましょう。寝たきりの人とそうでない人(普通に日常生活を送っている人)の「1日に必要なたんぱく質の量」の比較です。どちらが多いと思いますか。
「じっとしていれば、たんぱく質の量も少なくていいだろう。普通に動いているほうがたんぱく質は必要だろう」おそらく、そう予想される人が多いのではないでしょうか。ところが、逆なのです。寝たきりでいるほうが1日に必要なたんぱく質の量は増すのです。
寝たきりでいるということは、地球(ベッド)に接地している面が大きいわけです。頭のてっぺんから足の爪先まで重力にさらされている。そこには圧力がかかっていますから、たんぱく質が壊れることになるのです。寝たきりの人に褥瘡(じゅくそう)(床ずれ)が見られるのは、その部分が圧迫され続け、酸素や栄養が行き渡らなくなるためです。このことも、寝ている状態が大きな圧力を受けていることを示すものでしょう。
一方、立っている状態で接地しているのは足の裏だけです。つまり、重力にさらされている部分が少ない。そのため、たんぱく質もあまり壊れないのだと考えられます。
ということは、本来、寝たきりの人はそうでない人より、余計にたんぱく質を摂取する必要があるわけです。しかし、寝たきりの人が肉をモリモリ食べるということはありません。それどころかおかゆやスープ、パンやバナナなどを食べています。ですから、寝たきりの人は、骨や筋肉の原料であるたんぱく質がますます不足して、さらに老化が進んでしまうのです。
■元気で長生きするためには“摂り続ける”必要がある
また、たんぱく質の必要量は成長期と高齢期で増えるというデータもあります。体をつくっていく成長期は当然ですが、高齢者が多くのたんぱく質を必要とするというのは、ちょっと不思議な気がするかもしれません。これもやはり、高齢者は壊れていくたんぱく質を補う必要があるからだと考えられます。
体のたんぱく質の代謝を考えてみます。古いたんぱく質を新しいものに置き換えていくのがたんぱく質代謝です。これは、スクラップ&ビルド、つまり、まず古いものを壊してから、新しくつくり替えるということです。適度に動いていれば、筋肉をはじめとする組織に血液がよく流れて、酸素や栄養が十分に行きわたります。その状態が維持できていれば、たんぱく質はうまく代謝されますが、動きが少なくなると、おそらく、酸素や栄養がうまく供給されずにたんぱく質が壊れやすくなるのではないかと思います。
つまり、壊すのは普通に行われるけれど、つくり直すための栄養が巡ってこないので、新しいたんぱく質がつくれなくなるのではないでしょうか。たんぱく質は成長期の子どもだけに必要なのではありません。元気で長生きするために、生涯にわたって摂り続けていく必要があるのです。

(*1) Yoshimura N, Iidaka T, Horii C, Muraki S, Oka H, Kawaguchi H, Nakamura K, Akune T, Tanaka S:Trends in osteoporosis prevalence over a 10-year period in Japan: The ROAD study 2005-2015. J Bone Miner Metab 40(5): 829-838, 2022.

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大友 通明(おおとも・みちあき)

大友外科整形外科院長、医学博士

日本整形外科学会認定整形外科専門医。東京医科大学医学部卒業後、東京医科大学八王子医療センターをはじめ、関東各地の病院で臨床経験を積み、埼玉県北本市に整形外科クリニックを開院。整形外科に栄養療法を取り入れた「栄養整形医学」を実践。

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(大友外科整形外科院長、医学博士 大友 通明)

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