■グルメデートの街・中目黒にできた「くら寿司」の新業態
中目黒の街にはどんなイメージがあるだろうか?
食の観点で見ると、中目黒の飲食店はかなりハイレベルだ。老舗から最新のトレンド店まで数多くの店が軒を連ねる。特にデート向けの店も多く、街のそこらじゅうにカップルが歩いている。
裏路地には雰囲気のいい隠れ家的レストランが多く、しっぽりと口説きにいける。もしくは、あえてガヤガヤ系の居酒屋で気取らないデートで仲を深めるもいい。中目黒では日々、多くの男女が美食を通じて愛を育んでいる。
グルメデートのご意見番雑誌『東京カレンダー』でも、中目黒はたびたび特集が組まれる。同誌いわく、中目黒は「港区的ギラギラ感はない、あくまで地に足付いた感じ」と評している。
「中目黒=グルメデートの街」と言っても過言ではないだろう。
そんな中目黒に今年の5月、くら寿司の高級版“プレミアム回転寿司”を謳う「無添蔵(むてんくら)」がオープンした。なんでもこの業態、これまでは関西でのみ展開していたが、今回が記念すべき関東で初出店なのだそう。
満を持しての関東1号店が中目黒なのは、どういう意図があるのだろうか? 筆者は足を運んでみた。
■「くら寿司」と「無添蔵」の大きな違い
結論から言うと、この無添蔵は「デートにも使える回転寿司」であり、中目黒にこそ必要な業態だった。え? デートに回転寿司なんてロマンチックさに欠ける……と思う人もいそうだが以下にレポートしていく。
無添蔵の営業時間は11時から24時で、ランチタイムから営業しているが、筆者はディナータイムの19時30分過ぎに訪れた。1カ月前に予約システムで予約が取れたのがこの時間だった。オープンから2カ月ほど経っているが、予約枠はかなり埋まっており盛況のようだ。
無添蔵のコンセプトは「日常の中の非日常」。店があるのは中目黒駅南改札から徒歩1分とすぐの場所だが、路面ではなく2階。細い路地にある階段をのぼって入店する、ちょっとした隠れ家感がある。
看板の「一皿150円~」の所帯じみた文字にさえ目をつむればデートで入っても大丈夫だろう。
店内は照明を落として薄暗い。いわゆる家族連れでにぎわう明るい回転寿司とはまるで違う。小さい子供のいる家族連れはすぐ隣のくら寿司の方が落ち着くのではないか。
座席はカウンター席とテーブル席があるが、普通のくら寿司と比べてプライベート感がある空間になっている。カウンターの席間は広めに取られており、隣のお客が気にならない。テーブルに至ってはロールカーテンがついて個室風になっている。
■自然と会話が生まれる仕組み
くら寿司の特徴は、寿司が回転していることだ。
いや、回転寿司なのだから回転するのは当たり前じゃないか……ではなく、近年は回転を取りやめる回転寿司チェーンが増えている。衛生面やフードロスの観点に加え、昨今は炎上問題になっているいたずら防止などを理由としている。「回転寿司が回転しない」というアイデンティティクライシスの中、変わらず回り続けているのはくら寿司の矜持だ。
それは、無添蔵も例外ではなかった。カウンター・テーブルともに席には回転レーンが面している。上段には個別注文した品を席に届ける「特急レーン」も設えてあった。
異物混入防止のカバーはついているものの、回転レーンには次から次へと寿司が流れてくるので、眺めているだけで楽しい。
よくよく考えたら回転寿司はデートにうってつけのエンタメではないだろうか? レーンを眺めながら、相手と「何を食べようか?」と自然に会話が生まれる。
「回転寿司は子供の頃に家族で行った」という人は多いが、大人になった独身者が回転寿司に行く機会はあまり多くないのでは。あえて大人になってから行ってみると、子供の頃のなつかしさがよみがえる。同時に最近の回転寿司の進化も新鮮に映りそう。
商品はレーンから自分で取るか、もしくはタッチパネルで注文した商品が特急レーンで届くので、店員に邪魔されないのもデートに好都合だ。
■朝に福井港で獲れた魚を夕方に出す
そして大きな特徴が、無添蔵ではアルコールメニューが充実していることだ。ラインナップには生ビールからハイボール、サワー、焼酎に、特に寿司に合いそうな日本酒が充実している。
「純米酒三種飲み比べ」を注文してみた。
肝心の寿司も通常のくら寿司と比べてプレミアムだ。回転寿司にしてはやや値が張り、多くは一皿400~700円ほど。中には一皿1200円の「こぼれすぎいくら軍艦」といった高額商品もある。入口の看板にあった「一皿150円~」に偽りはなく確かに一皿150円の寿司もあるが、該当商品はごくわずかだった。
ただ、寿司はそれ以上にクオリティにこだわりがある。くら寿司の強固な仕入れ力を生かし、生の本マグロを使用したメニューが常時ラインナップされている。さらに5月の開店時には、「朝獲れシリーズ」という早朝に福井県の漁港で水揚げされた魚を、北陸新幹線に乗せて運び、その日の夕方には店舗で食べられる商品もあったという。
「飾り包丁」や「ハケ塗り」など通常のくら寿司にはないひと手間をかけた寿司も多い。
2名で寿司10皿、天ぷら盛り合わせ、アルコール5品などを注文して会計は1万円ほどだった。客単価5000円はくら寿司としては高いが、中目黒という点や商品のクオリティを考えると、私は安いと感じた。
■デートに回転寿司はアリ
無添蔵は、いわゆる回転寿司とは一線を画した店づくりだった。そして、先述したように照明を落としたムーディな空間、隣が気にならない席間、豊富なお酒、普通の回転寿司よりワンランク上の寿司などデートに向くポイントがいくつもあった。
筆者の訪問時の客層は、実際にデートらしき男女2人組も多かったし、友人同士での飲みながらの利用、中学生ぐらいの子供を連れた家族もいた。今回はディナータイムに訪れたので、ランチタイムだとまた客層は異なるかもしれない。
ネットでは「デートでファミレスはアリかナシか」論争がたびたび巻き起こる。中高生や家族連れが多い日常づかいの店に、いい大人が非日常であるデートに使うのはいかがなものかということだが、それを言うなら回転寿司も近しい。が、いわゆる回転寿司とは一線を画す店づくりの無添蔵なら、デートで使うのもアリかもしれない。
■なぜ中目黒だったのか
もともと無添蔵は2005年にオープンした大阪府堺市の泉北店が1号店。以後、関西で展開してきた。今回、なぜ中目黒に出店したのだろうか。
その狙いについてくら寿司の広報、辻さんはこう話す。
「満を持しての関東初出店なので、『グルメの街』のイメージが強い場所に出したかった。
中目黒や銀座などは、「生活の街」というよりはわざわざ出かけるような「よそいき」のイメージが強い。一方で関西の無添蔵はイオンモールの向いにあったり府道沿いにあったりと日常に近しいファミリー向けの立地にあることからも、中目黒店は無添蔵の中でも特別な店舗のようだ。
通常のくら寿司と無添蔵の違いは先述の通りだが、もともと関西で展開していた既存の無添蔵と中目黒店は、立地だけでなく店づくりでも大きく異なるのだろうか。
「中目黒店ではリブランディングを行ってオープンしました。従来の無添蔵の店内が『古民家』をイメージしているのに対し、中目黒は『大人の隠れ家』。寿司もネタや仕立てをワンランク上のものにしています」(辻さん、以下同)
客層についても訪ねてみた。
「従来の無添蔵には家族連れも多いですが、中目黒はアルコールをたしなむ方や上の年代も多いです。中目黒には隣に通常のくら寿司があるので客層がすみ分けされて、また、ロードサイドではなく駅前にあることもお酒を飲む人の割合を高めていると考えています」
■狙い目は21時以降のカウンター席
今後、無添蔵は小箱を中心にこのような都心で100店舗体制を目指すという。無添蔵は通常のくら寿司よりも小型物件への出店に向けた業態となっている。というのも、そもそも都心の駅前などには大箱物件の存在自体が多くない。今まで物件がないゆえ通常のくら寿司では攻められなかったマーケットも無添蔵なら出店できる。こうして新しい客層を開拓したい狙いだ。
中目黒店の集客状況については「座席数が少ないこともあり、予約のできるテーブル席は平日の昼・夜ともに、満席が続いています。土日も2週間先までほぼ予約が埋まっている状況です。開店直後やアイドリングタイム、21時以降のカウンター席ならばあまり待ち時間なくご利用いただけます」とのことだ。今のところ中目黒への出店は「成功」と言えるのではないだろうか。
無添蔵は回転寿司の従来のイメージから一転、デートにも使える非日常をプラスしたスタイルにアップデートしている。その試金石としてグルメデートの街・中目黒に出店したが、このグルメな街でも反応は上々ということは幸先のよいスタートだ。無添蔵によって「回転寿司どう?」なんてデートの誘い文句が生まれるかもしれない。
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大関 まなみ(おおぜき・まなみ)
フードスタジアム編集長/飲食トレンドを発信する人
1988年栃木県生まれ。東北大学卒業後、教育系出版社や飲食業界系出版社を経て、2019年3月より飲食業界のトレンドを発信するWEBメディア「フードスタジアム」の編集長に就任。年間約300の飲食店を視察、100人の飲食店オーナーを取材する。
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(フードスタジアム編集長/飲食トレンドを発信する人 大関 まなみ)