※本稿は、雑誌「プレジデント」(2025年9月12日号)の掲載記事を再編集したものです。
■Question
不倫報道はこのままでいいんでしょうか?
週刊誌報道を中心に、ほとんど定期的に世間を騒がせるのが芸能人や政治家の“不倫ネタ”です。プライベートな問題であるはずの男女間や家庭内のトラブルをメディアが堂々と報じることに違和感はあるものの、一方で、不倫報道をきっかけに政治家の不正が発覚するケースもありますから公益性もないとはいえません。今の不倫報道のあり方について、橋下さんの見解は?
■Answer
事件性のない私生活の問題で「仕事を奪う」のはやりすぎだ
たしかに芸能人や政治家の不倫報道は、週刊誌にとっては鉄板のネタ。視聴率や部数が伸びる期待もあるから、各種メディアも微に入り細を穿(うが)って報じます。そこにまたSNSも群がるものだから、一度やり玉にあがったら最後、しばらくは人の噂から逃れられないのが不倫当事者の運命ですよね……。
ではなぜ、日本人は“不倫ネタ”が好きなのか。「不倫」とは読んで字のごとく「倫理に反すること」。だから世論も「けしからん!」と声高に非難します。だけど「倫理」はその時代や国によっても変わるものです。
そもそも現代の日本では「不倫(不貞行為)」自体は犯罪行為ではありません。
「不倫」は本来、家庭内で当事者同士が解決すべきもの。では、そこにメディアが土足で踏み込んで報じていい理由は何か。強いて挙げるなら次の2つのポイントでしょう。
①「報道・表現の自由があるから」
②「不倫報道をきっかけに、ハラスメントや政治家の金銭トラブルなどが明るみに出ることもあるから」
いわゆる不倫の中には、純粋な恋愛関係もあるでしょう。でも、不倫関係には女性(男女どちらにも起こりえますが、多くは女性)側に対する人権侵害に当たる行為も伴いがち。例えば暴力や恫喝が介在すれば確実に人権侵害ですが、それ以外にも、性行為を拒否しにくい環境をつくること、既婚者なのに「独身だ」と嘘をつくこと、といった行為が人権侵害につながります。
不倫自体は犯罪ではなくても、これらは犯罪行為に匹敵する可能性があるわけです。だとすれば国民にも「知る権利」があるし、場合によっては報道が「チェックする目」として機能する必要だってあるでしょう。
ただし、問題は報道の“その後”ですよね。
政治家なら辞職に追い込まれる場合があるし、芸能人であればテレビ番組や広告の仕事がなくなります。まるで「社会的死刑宣告」じゃないですか。これはどう考えても“罪と罰の均衡”がとれていないと思います。
レイプなど犯罪行為が疑われる場合は厳しい制裁が加えられることは当然としても、婚外恋愛が発覚したからといって、その人を社会的に抹殺してしまうのはどうなのか。それも当事者ではない他人からの制裁によって、全キャリアがキャンセルされてしまうのは、ちょっと行きすぎだし、世界でも類を見ないと思います。
ずいぶん前に大炎上した「不倫は文化」という言葉があります。自分の不倫行為を正当化するために使うのは問題でしょうが、恋愛にはたしかにその時々の文化的背景が反映される側面が多々あります。今の日本で「不倫」と見られる関係も、国や時代によってはとらえ方が異なります。
有名なのがフランス政界の逸話です。1980年代から90年代にかけて大統領職にあったミッテランさんは、夫人以外の女性と家庭を築いていたことが発覚しましたが、当の本人は記者会見で「それが何か?」と言い放ち、そのあまりに堂々たる開き直りに、日本人は度肝を抜かれました。
その後、フランスではシラク大統領やオランド大統領にもそれぞれ不倫報道はありましたが、政治生命を絶たれることはありませんでした。
つまり、フランス国民は「不倫=辞職案件」とは思っていないということです。彼らにとって「私生活と職務能力」は別問題。仮に「清廉潔白だが無能な政治家」と、「不倫していたが政治家として有能」な2人がいれば、迷わず後者を選ぶということです。
もう一つ、プライバシーの感覚も日本とは違います。彼らにとって私生活で誰が誰と親しいかという情報は、あくまで当事者間の問題。第三者が必要以上に踏み込むものではないという考えから、フランスの政治家は不倫報道があると、逆に「プライバシーの侵害だ!」と怒る人もいるそうです。
一方、アメリカのクリントン大統領はホワイトハウス実習生との間に「不適切な関係」があったと報じられ、政治的に大きなダメージを受けました。ただ、このときは実習生の被害申告で明らかになったクリントン氏の態度振る舞いがあまりにも大統領らしからぬものだったので、批判を受けたのだと思います。純粋な恋愛であったなら、そこまでの批判を受けたかどうか。
■玉木さんを救った「3つの条件」
そんな中、注目したいのが国民民主党の玉木雄一郎代表のケースです。玉木さんは2024年11月、週刊誌で不倫疑惑が報じられた際、即座に会見を開いて「おおむね事実」と認め、役職停止3カ月の処分は受けましたが、代表職は辞めませんでした。
僕はそれでいいと思っています。もちろん何かしらの事件性があったり、ご家族からの異議申し立てがあったりすれば別ですが、当事者間で話し合いが済んでいるのであれば、第三者があれこれいう問題ではありません。
ましてや玉木さんは道徳の先生ではなく、政治家です。当時「103万円の壁」を崩そうと熱意を持ち政治活動を行っていました。その姿を評価した有権者が不倫事件をことさら問題視せず、実際、その後の参議院選挙では玉木さん率いる国民民主党は大躍進を遂げました。
つまり、本人が「不倫(婚外恋愛)」の事実を認め、相手方や家族からの異議申し立てがなく、また仕事(選挙)において成果を出した。そうであれば、代表職の辞職は必要ないという判断です。これが今後のモデルケースになっていけばいいと思います。
こうした問題は男性に限った話ではありません。女性、あるいはLGBTQの当事者も同様です。選択的夫婦別姓や多様な家族のあり方が議論される今、事件性のない私生活の部分が、公的な仕事をキャンセルされる理由に直結すべきではないということです。
芸能人の不倫についても同様です。
テレビ局やスポンサー企業は世情によって判断するでしょうから、僕らメディアで発言の機会を与えられている人間こそが、世間にそのような主張をしっかりと行っていくべきだと思っています。
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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。北野高校時代はラグビー部に所属し、3年生のとき全国大会(花園)に出場。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。最新の著作は『政権変容論』(講談社)。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 構成=三浦愛美 写真=時事通信フォト)