金利のある世界では、どこに資産を置くべきか。金融教育家の上原千華子さんは「近年の物価上昇率は預金金利を大幅に上回っているため、銀行口座に預けたままでは実質的な価値が減り続ける。
この目減りを防ぐには、単純計算で年利3.1%以上で運用する必要がある」という――。
■新NISAは「お金持ちの特権」ではない
長い間「お金持ちの特権」と言われてきた投資。日本証券業協会の「新NISA白書2024」は衝撃の事実を示しています。新NISA利用者の実に4割が、年収300万円未満なのです。「お金がない人」ほど投資をしているのはなぜでしょうか。その背景と課題を探っていきましょう。
同調査によると、新NISA利用者の平均年収は455万円。内訳を見ると、全体の39.7%が年収300万円未満、27.7%が300万~500万円未満となっています。投資は富裕層が行うイメージが強かっただけに、意外だと感じる方も多いでしょう。
ただ、収入が低めの層を一括りにするのは早計です。同協会の「新NISA開始1年後の利用動向に関する調査報告書」で内訳を見ると、2つの顔が浮かび上がります。
■将来の不安を少しでも和らげたい現役世代
ひとつは収入が少ない現役世代です。
限られた給与の中から投資資金を捻出しているようです。実際の買付額をみると、年0~20万円の少額投資が最も多くなっています。将来の不安を少しでも和らげようと新NISAを活用する姿が見えてきます。
もうひとつは退職後のシニア層です。定年退職で主な収入源は年金となるため、年収300万円未満に分類されています。現役世代と違うのは、必ずしもお金がないわけではない点です。退職金や長年の貯蓄を保有しながら、「老後資金を守り、増やしておきたい」とNISAを利用しているのです。
この2つの層が合わさった結果、お金がない人ほど新NISAを利用している様子が、数字に表れています。銀行預金では不安を解消できない時代特有の現象とも言えるでしょう。
■4割以上が「全世界株式」を選んでいる
新NISAでは、どのような銘柄が選ばれているのでしょうか。つみたて投資枠で人気があるのはインデックス型の投資信託です。購入金額ベースで全体の63.9%を占めています。

投資先については、利用者の4割以上が「世界全体」に分散投資しています。最も多いのが「全世界株式(日本を含む)」で28.7%です。次いで「全世界株式(日本を除く)」14.4%、「その他のインデックス型」12.8%と続きます。
この傾向は年代や所得を問わず共通しています。特に30代以下では「全世界株式(日本を含む)」が最多で、3割を超えています。さらに年収2000万円以上の高所得層でも同様の比率となっています。初心者から富裕層まで同じ選択をしているのは、興味深いですね。
■銀行口座だとお金はたいして増えない
2024年にマイナス金利を解除した日銀。2025年には政策金利を0.5%まで引き上げ、ようやく「金利のある時代」になりつつあります。しかし、銀行預金でお金を増やすのは、依然として難しいのが実情です。
例えば、大手銀行の普通預金金利は0.2%程度。100万円を1年間預けても、利息はわずか2000円にすぎません。
飲み会1回分にも満たない金額ですよね。定期預金でも0.25~0.5%程度、預金金利が高めのネット銀行でも、普通預金0.25~0.5%、定期預金0.2~1.5%程度です。
その裏では、物価が確実に上がっています。2025年7月の消費者物価指数(CPI)は2020年から11.9%上昇、前年同月比でも+3.1%と、預金金利を大幅に上回っているのです。言い換えると、銀行にお金を預けているだけでは、実質的な価値が目減りしてしまいます。
この目減りを防ぐには、単純計算で年利3.1%以上で運用する必要があります。その結果、「銀行に預けるよりは投資のほうがよい」と考え、資産を置く場所(アセット・ロケーション)として、銀行口座の代わりにNISAを選ぶ人が増えているのです。
■株相場が荒れても売った人は少数派
2024年8月の日本株急落の局面で「新NISA損切り」がトレンド入り、投資初心者の狼狽売りかと注目されました。ところが、現実は違っていたようです。
同調査によると、2024年中に一度も売却していない利用者が、つみたて投資枠で83.2%、成長投資枠で75.3%。大多数が売らずに持ち続けていたのです。「日本人は投資に向かない」という定説を覆す数字ですよね。

投資信託は、預金とは異なり元本割れリスクがあります。それでも投資信託の積立で、将来に備える人が増えているのです。
理由は大きく2つあると見ています。一つは長期積立・分散投資の考え方が浸透したこと。もう一つは、新NISAが恒久化され、「いつ売るか」を気にしなくなったことです。結果として、「銀行預金のような感覚で、持ち続ける安心感」が広がってきているのでしょう。
金融庁のNISA早わかりブックにあるシミュレーションでも、20年間の分散積立なら年率2~8%に収まり、保有期間5年では、-8%から+14%とブレが大きい結果となっています。あくまでも過去のデータに基づいた参考値にすぎませんが、「年率5%前後で複利運用」というのは、十分に現実的な目安だといえるでしょう。
■「預ける人」と「育てる人」で広がる格差
では実際に、銀行に預けた場合と新NISAで投資した場合の違いを見てみましょう。
前提条件

【金額】毎月1万円積立(年間12万円)

【期間】20年(元本240万円)/30年(元本360万円)

【年利】銀行預金 1.0%(複利)/インデックス投資 5.0%(複利)

※税・手数料等は考慮しない
仮に毎月1万円を20年間(元本240万円)積み立てるとしましょう。銀行預金(年1.0%複利)では265万円です。一方、新NISAで年5.0%(複利)のインデックス投資を続けた場合は406万円、その差は約141万円にもなります。

30年(元本360万円)では、さらに開きが大きくなります。銀行預金は419万円、インデックス投資は815万円、その差は約396万円です。同じ「毎月1万円」でも、お金の置き場所の違いで、数百万円もの差が生まれるのです。
■「お金がない人ほど投資」という新常識
ちなみに将来、金利がいつどの程度上がるのか、予測することは極めて困難です。景気や物価、為替、金融政策、国際情勢、資金の需給バランスなど、複雑な要因が絡み合って金利は動くからです。状況を見ながら、日銀が追加利上げを行う可能性は十分にありますが、「金利が上がったから銀行に預けておけば安心」という考えは、時期尚早でしょう。
少額であっても、短期では元本割れリスクがあっても、長期で積立投資を続ければ、資産を増やせる可能性が高くなる。こういった考えから、年収300万円未満の人にも、新NISAが広がっているのです。
「新NISA白書2024」のデータから見えてきたのは、「お金がない人ほど投資している」という意外な事実でした。年収300万円未満の人が4割を占めているのです。また、少額からインデックス型の積立投資を始め、売却せず長期で持ち続ける姿勢も広がっています。新NISAは「一部のお金持ちの制度」ではなく、むしろ少額からでも将来に備えたい人の味方なのです。

銀行預金に預けておくのか、それとも投資で育てるのか。その選択が20年後、30年後のあなたの安心を大きく左右します。
あなたは、この新常識をどう取り入れますか。

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上原 千華子(うえはら・ちかこ)

金融教育家

金融教育家。欧米投資銀行勤務歴17年、個人投資家歴26年。証券外務員一種、最新の心理学NLPを使ったマネークリニック®認定トレーナー。2018年、ウェルス・マインド・アプローチ創業。資産運用講座を実施し、2022年より「3ヶ月マネー実践講座」を提供開始。ライフプランから資産運用までマンツーマン指導。著書に『「お金の不安」をやわらげる科学的な方法 ファイナンシャル・セラピー』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。

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(金融教育家 上原 千華子)
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