年齢を重ねて愛される人、穏やかに生きられる人は何が違うか。医師の和田秀樹さんは「自分に欠点があってもオープンにしてしまえば、悩みは半分解消されたようなもの。
ある特別養護老人ホームでは、スケベなおじいちゃんの方が真面目なおばあちゃんより、愛されていたそうだ。私の『AV、アダルト動画を買うのがやめられない』『すぐに女性を好きになってしまう』という欠点も、もっと老いたら大逆転が起こる可能性があるかもしれない」という――。
※本稿は、和田秀樹『60歳からこそ人生の本番 永遠の若さを手に入れる恋活入門』(二見書房)の一部を再編集したものです。
■「心が弱いからうつになる」は大間違い
私は高齢者専門の精神科医として、これまで30年以上にわたって、うつ病の人や認知症の人を診てきました。
東京大学医学部を卒業後、医局がなかったために、ろくに勉強できなかったことを反省し、慶應義塾大学の精神分析セミナーに4年間通いました。その後アメリカに留学して、現地のベストランクの精神病院の教育プログラムで3年間学びました。
今でも数カ月に一度、ロス在住の先生のもとに通って勉強を続け(コロナ禍以降はインターネットで)、それに加えて月に一度、森田療法のセミナーにも通っています。
こうした、私のこれまでの経験からいえることは、うつになりやすい人には特定のパターンがあることです。それは考え方、生活習慣、行動の3つの面に現れます。
うつになりやすい人は、1つでもうまくいかないことがあると、「自分はダメな人間だ」と思い込みがちです。
また、私が診ている患者さんのなかには、「自分がうつになるのは心が弱いからだ」とおっしゃる方も少なくありません。
しかし、それは大きな誤解です。
そもそも人間は、ネガティブ思考に引きずられる傾向があります。
森田療法を設立した森田正馬(まさたけ)先生は、私たちが不安に感じるのは「生への欲求が強いからだ」と主張しました。根本的な恐怖とは死の恐怖であって、それは逆からみれば、生きたいという欲求であると述べています。
不安は「より良く生きたい」という欲求(生の欲望)の裏返しなのです。「こうありたい」という思いがなければ、その思いが損なわれる不安も生じないからです。
■症状を気にすればするほど、余計に症状はつらくなる
森田療法で重視していることは、「変えられるものから変えていく」という点です。
たとえば、人前で顔が赤くなって緊張してしまう人は、そういう自分に不安や違和感を抱きます。すると、自分の表情に注意が集中して、より感覚が敏感になり、さらに不安がつのって、いっそう顔がこわばります。
そうなる理由の1つは「思想の矛盾」です。自然に生じる感情を「かくあらねばならない」と考えて、知的におさえつけようとするのです。
これは、自然や心身を支配しようとするコントロール欲求でもありますが、不快な感情を「あってはならないもの」として、観念的にやりくりしようとしてしまうのです。
しかし、そうした感情をおさえつけることはできませんから、思うようにならない自己(理想の自己と現実の自己とのギャップ)に葛藤が生じます。

人は、学校や職場で「人前では、きちんとしていなければならない」と教えられます。人前で緊張する自分を「ダメな人間」と感じて、緊張しないように身構えます。
すると、かえってそれにとらわれて、うまくいかなくなるのです。症状を気にすればするほど、余計に症状はつらくなります。
森田療法では、変えられるものから変えていく、というスタンスなので、その症状があっても生きていけるようにするために、どうすればいいかを治療の基本に置いています。
たとえば、あがり症の人が恋活するなら、理想の自己と現実の自己とのギャップに悩まず、人と話すときには前もって「私はあがり症です」と先にいってみてはどうでしょう。
自分が気にしていることを正直に話せば、その素直さに好感を持つ人もいます。もしもあなたの「あるがまま」を受け入れず難色を示すようであれば、そもそもその人は恋活の対象にはなりません。
■恋活は、あるがままの自分を他者に出す場として最適
ですから、理想の自分ではなく、歳をとったら「わがままに」「あるがままに」現実の自分を受け入れ、変えられるものから変えていきましょう。
どんな人でも、1つくらいはコンプレックスがありますから、そのコンプレックスを受け入れてくれるかくれないかも、恋活対象を選ぶときの明確なフィルターになるでしょう。
また、なかには、あなたのコンプレックスやミス、ちょっとした勘違いなどを、いちいち指摘したり修正したりしようとする人、あなたの意見に対して批評したり正悪をジャッジしたりしてくる人もいます。
このような人が相手では、恋活などできません。
自分も恋活相手に対して、このような態度をとっていないか、あるいは配偶者にこのような態度をとっていないか、恋活をすることで自分の態度を見つめてみましょう。
いずれにせよ「かくあらねばならない」という理想の自己を演出してみても、どうせ長続きはしません。だからこそ恋活は、あるがままの自分を他者に出す場として最適なのです。
そして、あるがままの自分でいられる相手が見つかれば、「とらわれ(悪循環)」から脱却し、本来の欲求(生の欲望)に沿った、自分らしい生き方が実現します。それが本当の恋活であり、自己実現なのです。
■コンプレックスをオープンにして悩みの半分を解消
コンプレックスがあるということは、逆にいえば、ありたい理想の自己イメージがあるということです。しかし、そのダメな自分を受け入れることで、無理をすることなく恋活できるようになるのです。
それでも多くの人は、理想の自分になれず、みずからの欠点に悩むものです。たとえば次のようなことです。
「AV、アダルト動画を買うのがやめられない」

「いい歳をして落ち着きがない」

「人の気持ちがわからない」

「社交性がない」

「すぐに女性/男性を好きになってしまう」

「無駄づかいがやめられない」
じつは、ここにあげたのは全部、私の例です。
でも、そんな自分をこうしてオープンにしてしまえば、もう悩みは半分、解消されたようなものです。
これらの欠点は、社会適応的に生きなければならない世界での欠点であって、本当の自分の人生を生きるうえでは、むしろ美徳にさえなるかもしれません。

以前に聞いた、高齢者パラドックスの話があります。特別養護老人ホームの話です。
とにかくスケベなおじいちゃんがいました。スタッフのお尻をすぐに触ったりするのですが、いつもニコニコと楽しそうで、それでいて、いつもスタッフに「ありがとう」と感謝の言葉を口にするものだから、みんなから「スケベだけれど、憎めない人」と愛されました。
一方、真面目なおばあちゃんがいました。ホームのスタッフにちょっとでも不手際があると、激しく怒って不平をぶつけます。スタッフからも「あの人のサポートには入りたくない」と、うとまれました。
この二人のこれまでの生き方を分析すると、おじいちゃんはすぐに女性を好きになってしまう浮気性の人で、おばあちゃんはご主人の生前も先立たれたあとも、良妻賢母として自分を犠牲にして真面目に頑張ってきた人です。
二人とも認知症が始まっているのですが、自分を抑えてこれまで我慢して堅実に真面目に生きてきた攻撃的なおばあちゃんより、我慢などせずこれまで好き放題生きてきたエロじいさんのほうが、愛されキャラなのです。
これも、人間は我慢なんかしないほうが、結局は穏やかに生きられ、人に愛されるという、1つの例です。
私の「AV、アダルト動画を買うのがやめられない」「すぐに女性を好きになってしまう」という欠点も、もっと老いたら大逆転が起こる可能性があるやもしれません。
■恋活ではフラれる心配がない
なにか1つ動くことで、期待どおりの結果は出なくても、予想外の刺激と出合えたり、今まで会ったことのないタイプの人間に出会えたりすることもあります。

物理の法則にあるように、外から力を加えなければ、静止した物体は「静止」したままです。動かなければ、なにも変化は起こりません。
ワクワクドキドキを探して、動く、活動することで、変化が生まれます。毎日が退屈だ、つまらないとぼやくのではなく、まず動くのです。
恋活のとくに優れている点は、フラれることがないことです。フラれるショックはありませんから、傷つくこともなく、自己否定する必要もないので安心感があります。
若いときのように「好きです」「恋人になってください」「おつき合いしてください」などと、自分の気持ちを告白する必要がないからです。
そのような距離感で、一緒に楽しくご飯を食べたり、お酒を飲んでほろ酔い気分になったり、映画を観て感想をいい合ったり、好きなアーティストのコンサートに行ったり、山登りをしたりして楽しみましょう。
大人になれば、もう、好きか嫌いか、白黒をつける必要などないのです。
あらためて恋活をシンプルに定義するとしたら、心地よい気持ちで同じ時間を一緒に過ごせる相手と出会う活動でしょうか。つまり「心地よさ」こそが恋活の醍醐味です。
会いたければ会う、時間が合えば会う、といったように、束縛もなければ嫉妬もない、自由でゆるやかな関係でいるのが、恋活の1つのカタチだと考えます。

■誘うのをあきらめないまま、しばらく待つことも重要
大人になって始める恋活では、誘ったときに断られても、それは相手にフラれたのではありませんから、こんなふうにとらえてみましょう。
「今は少し忙しいようだ」

「単純に時間が合わないだけだ」
そんなときは、誘うのをあきらめないまま、しばらく待つことも重要です。
そろそろの頃合いをみながら、相手を不快にさせない誘い方はいくらでもあります。
「この前、旅行に行ってお土産を買ってきたんです」

「美味しいコーヒーが飲めるお店があるんです」

「お芝居のチケットが手に入ったから一緒にどうですか」

「美味しいと評判のビストロがあるんですが、一人で行くには勇気がなくて」
相手が「ちょっと出掛けてみようかな」と思いそうなことをいろいろ考えてみましょう。ほかにも、インターネットで「相手に断られないデートの誘い方」で検索すると、ヒントになることが山のようにでてきます。
じつはこの検索行為も、すでに恋活なのです。すでにオキシトシンやセロトニンなどの幸せホルモンがあなたの脳内に分泌され、ワクワクドキドキしています。これこそが恋活なのです。
私の講演会にも、女性どうしのお友だちや、ご夫婦のほか、恋活中の方も多くいらっしゃいます。
みなさん私の講演を聴いたあとは、お茶やお酒などを飲みながら、講演の内容についておしゃべりしたり、食事をしたりなど、「アフター」も楽しんでいらっしゃるそうです。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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