ひとくちに「健康食品」といっても、機能性表示食品、栄養機能食品、特定保健用食品とさまざまな種類がある。どれが健康にいいのか。
国立医薬品食品衛生研究所客員研究員の畝山智香子さんは「どれも健康にいいという確かな根拠はない。しかしリスクはある」という――。(第2回)
※本稿は、畝山智香子『サプリメントの不都合な真実』(筑摩書房)の一部を再編集したものです。
■「健康食品」と「特定保健用食品」とは
本稿では、そもそも「健康食品」と呼ばれるものはどういうものなのか、法律による定義やその実情を確認したいと思います。
まず、ヒトが口から摂取するもので医薬品に分類されるもの以外はすべて「食品」となります。一般的に食べるものとして想像される料理やお菓子のほか、水やガム、錠剤も「食品」です。そのうち、健康によいという宣伝文句で販売されているものが、広い意味での「健康食品」になります。
なかでも法律上の定義があるものとして特定保健用食品(トクホ)、栄養機能食品、機能性表示食品の三つがあり、これら三つをまとめて保健機能食品といいます。これら三つの保健機能食品について、以下で簡単にまとめておきましょう。
トクホは、消費者庁が個別の製品について評価したうえで、健康の維持・増進に役立つ、あるいは適するといった表示を認めているものです。例えば「○○(製品名)には△△(成分名)が含まれているため、便通を改善します。おなかの調子を整えたい方やお通じの気になる方に適しています」といった表示が、「許可表示」として記載されています。
安全性についても食品安全委員会が評価をし、トクホマークがついています。
■「栄養機能食品」とはどういうものか
次に、栄養機能食品は、必要な栄養成分(ビタミン、ミネラルなど)が不足しがちな場合に、それを補給するために利用できる食品です。国による個別の審査を受ける必要はなく、すでに科学的根拠が確認された栄養成分を一定の基準量含んでいれば、栄養成分機能を表示できます。
例えば、一日の摂取目安量あたり葉酸を72~200マイクログラム含んでいれば「葉酸は、赤血球の形成を助ける栄養素です」「葉酸は、胎児の正常な発育に寄与する栄養素です」と表示することができます。あるいはカルシウムなら204~600ミリグラム含んでいれば「カルシウムは、骨や歯の形成に必要な栄養素です」と表示できます。
ビタミンやミネラル以外では、n-3系脂肪酸の「n-3系脂肪酸は、皮膚の健康維持を助ける栄養素です」という表示だけが認められています(n-3系脂肪酸とは魚に多く含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)、αリノレン酸などを指します。n-3とは脂肪酸の分子の二重結合の位置を示します)。
■最も多く多種多様な「機能性表示食品」
機能性表示食品は2015年4月に新しく加わったもので、事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品です。安全性と機能性に関する根拠は、国が評価することはなく、消費者庁への届出のみです。商品には届出番号が記載されているので、消費者自身が消費者庁のホームページで公開されている届出情報を確認することになっています。保健機能食品の中では最も数が多く、急速に拡大しているもので、表示も多種多様です。
保健機能食品以外にも、健康機能を宣伝して販売されているいわゆる健康食品とされるものがあります。
これらの中には、本来してはならない効果効能の宣伝・表示をしている違法なものも含まれます。食品は医薬品ではないので、病気の治療や予防のような健康効果を宣伝することはできません。「がんに効く」とか「コロナウイルス感染予防に有効」などと宣伝しているものは、たとえ売り子さんが口頭で言っているだけでも法律違反なのですが、残念ながらそのような売り方をよく見かけます。
一方、「野菜や果物は食物繊維とビタミンが豊富なので健康のためにたくさん食べましょう」といったような常識的な宣伝もあるので、判断が難しいところです。消費者が誤解するかどうかが一つのポイントで、例えば「翼を授ける」という宣伝で本当に羽が生えると思う人はいないので問題になることはないですが「関節炎でも走れるようになる」だと怪しいでしょう。グレーゾーンについては事業者もきわどいところを狙ってきますから、世界中で取り締まる側との攻防になります。消費者自身が知識をつけて、賢くなるしかないのが現状です。
■トクホには時期尚早だった部分も
これら健康食品についてもう少し詳しくみてみましょう。特定保健用食品は1991年に創設されました。当時そのような制度は世界的にみても珍しく、関係者は最先端の制度だと自慢していたと聞きます。ただし、他に先例がないというのは必ずしも良いことばかりではなく、あとから振り返ってみれば時期尚早だったと思われる部分もありました。
食品が人間の健康に影響を与えることは確かです。
なにより適切な栄養を摂ることは大切です。日本の場合、第二次世界大戦後しばらくは、とにかく栄養不良をなくすことが最優先課題でした。やがて飢餓や栄養不足が過去の問題になり、食品の栄養以外の特徴――いわゆる機能性に関心が向くようになります。
1980年代から90年代は、世界的に食品の研究者の間で、食品に含まれる成分によって病気が予防できたり、長生きに役立ったりするのではないかという期待が非常に高まり、多くの研究が行われました。新鮮な野菜や果物の多い「豊かな食生活」を送っている人たちが健康で長生きしているようだという観察や、培養細胞や動物実験で食品中のビタミンや抗酸化物質にがん細胞の増殖を抑制する作用があるといった期待できそうな研究結果が次々と発表されていました。
それらの結果から食品には栄養(一次機能)や美味しさ(二次機能)のほかに、健康に役立つ三次機能があるという説が提唱されるようになります(食品の機能をこの3つに分類するやりかたはおそらく日本特有です。FAOによる食品の3つの機能は、エネルギーを供給する・人体の成長や修復に役立つ・人体を病気から守る、となっています)。
■サプリメントへの期待は裏切られた
欧米では、特に抗酸化ビタミンで病気の予防ができるのではないかという期待が高く、効果を立証しようとして大規模臨床試験が次々と実施されました。ヒトで短期間、病気の代わりに血中の特定化学物質の濃度などの代用エンドポイントを使った予備的試験でも、期待できる結果が出ていたのです。
ヒトでの大規模臨床試験が実施できるということは、それなりの予算が付き、見込みがあると判断されたからです。代表的なものが、フィンランドで1985年から86年に開始されたαトコフェロール(ビタミンE)・βカロテンがん予防研究(ATBC研究)、米国では85年からβカロテンとレチノールの有効性試験(CARET)の予備研究が始まりました。
ちょうどこのビタミンやサプリメントへの期待が最も高かった時代に、健康状態を良くし医療費を減らすことが期待されてできたのが、日本の場合は1991年のトクホであり、米国の場合は94年のダイエタリーサプリメント健康教育法DSHEAだったわけです(※)。

そして1994年にATBC研究、96年にCARET研究の結果が出ます。その結果は、ビタミンAは喫煙者の肺がんを有意に増加させるというものでした。
※ダイエタリーサプリメント健康教育法とは……1994年に米国で制定された、健康食品の販売や表示のルールを定めた法律。機能表示をする場合は、連邦食品医薬品局(FDA)への届出が必要。
■一大産業になってしまった健食業界
ATBC研究とCARET研究の発表後も、ビタミン剤によるがん予防に関する臨床研究は続々と報告されます。その多くが残念な結果だったため、2000年代初めには、研究者の間ではビタミンサプリメントへの期待はほぼ完全になくなったと言えます。しかしすでに健康食品業界は、主流のメディアも巻き込んで一大産業になってしまっていたのです。
このことは今でも継続中の問題です。医療・学術の世界では、病気の予防目的でビタミンやミネラルサプリメント、およびその他健康食品を使用することは、害のほうが大きい可能性があるため推奨されていません。この点は、相当な確実性をもって世界中の公的機関から正式に助言されています。
ところがマスメディアや雑誌、インターネットなどでビタミンやミネラルについて情報を探すと、サプリメントを勧める記事ばかりに出会います。圧倒的に科学的・公的情報のほうが足りていないのです。

■臨床試験には時間をかけるべき
トクホの話にもどりましょう。ビタミンサプリメントの大規模臨床試験の結果から学者が学んだ重大なことは、培養細胞や動物実験はもちろん、ヒトでの比較的短期間での予備的臨床試験結果が期待できるものだったとしても、実際にちゃんとした試験をやってみるまで結論は出せない、というものでした。
世界的に、健康効果の科学的立証にはある程度長期にわたる、相当の規模の、できれば異なる試験で再現性が確認されることが必要だと考えられているのは、そうした過去の経験があるからです。
ところがトクホは、ヒトでの比較的短期間での予備的臨床試験結果の段階で、健康効果や安全性が立証されたことにしてしまったわけです。そして、その欠点を訂正することなく制度を運用し始めました。一度作ってしまった制度を変えるのはとても大変です。時期尚早だったというのはそういうことです。
■あまりにも低い「トクホ」の条件
具体的な例を挙げると、例えばトクホでは数十人程度を対象とした数週間の試験で「おなかに脂肪がつきにくい」といった表示が認められます。この程度の規模の試験で食品の機能性が認められることは、海外ではまずありえません(書籍『サプリメントの不都合な真実』第四章も参照)。
というのも、肥満の人にとって健康への望ましい影響として考えられるのは、体重を減らすことです。そのためには半年から1年以上の試験で、体重の5%以上の減少を達成することが必要です。「体脂肪がつきにくい」製品で根拠として提出されているのは、内臓脂肪の面積のようなもので、体重そのものは減っていないことすらあります。

体重を減らすことが目的の場合、体重が一次エンドポイントで、内臓脂肪面積のようなものは代理指標と呼ばれます。体重が減っていれば、当然内臓脂肪面積も減っていると予想されるのですが、どういうわけかトクホの申請では、内臓脂肪がほんの少し減っていても体重は変わらないことがあるようなのです。
当然のことながら、1年後の体重がどうなるのかはわかりません。さらに健康体重の人のおなかの脂肪が多少増減したところで、健康上に何らかの影響があるとは考えられません。それでも健康増進のための食品であるとして、「国によるお墨付き」が与えられているのです。
■有用とは言い難いプロバイオティクス
トクホが1991年に導入され、最初の表示許可が出たのは93年のことです。最初に許可されたのは、低アレルゲン米と低リンミルクでした(ちなみに、この低アレルゲン米は米粒を酵素溶液に浸してコメのたんぱく質を分解したもので、その後トクホから病者用食品に分類が変更になり、2007年に販売終了となっています)。
そしてトクホの知名度が大きく上がるきっかけとなったのは、1998年にヤクルトが「おなかの調子を整えます」という表示許可をとったことでした。これはいわゆるプロバイオティクスの機能です。これ以降、トクホとして「おなかの調子を整える」タイプのプロバイオティクス製品が多数許可されています。
しかし、「プロバイオティクス」は概念としてはそれなりに古いものですが、特定の微生物が特定の健康状態に有用であることが立証されたとは言い難いというのが、現在の科学の一般的認識です。
■よりレベルの低い「条件付きトクホ」
そして2004年、トクホが科学的根拠の質を上げるどころか下げる方向に制度改正し、国民の健康の維持増進が目的ではなく、マーケティングの手段でしかないのだということを決定的にしたのが、「条件付きトクホ」の導入です。条件付きトクホは、文書では「特定保健用食品の審査で要求している有効性の科学的根拠のレベルには届かないものの、一定の有効性が確認される食品を、限定的な科学的根拠である旨の表示をすることを条件として許可する特定保健用食品」と説明されています。
トクホの科学的根拠のレベル自体が国際基準からみると危ういのに、それにすら届かないとはどういうことか、と思われるでしょう。説明資料によると、具体的には作用機序はわからなくてもいい、無作為化試験で有意差がなくてもいい(有意水準10%でいい)、臨床試験で無作為化しなくてもいいという、もはや科学的根拠という言葉の意味が空しくなるようなものです。
実際には条件付きトクホはほぼ申請されず、現在販売されているものはありません。しかし、トクホの認定に係る専門家がこれでいいと判断したという事実は重いといえます。その後、機能性表示食品において根拠とは言えないような根拠をもって効果効能を宣伝する例が増えるだろうことは、この時点ですでに予想されていたことなのです。

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畝山 智香子(うねやま・ちかこ)

薬学博士、国立医薬品食品衛生研究所客員研究員

宮城県生まれ。東北大学大学院薬学研究科博士課程前期課程修了。薬学博士。専門は薬理学・生化学。現在は国立医薬品食品衛生研究所客員研究員。著書『食品添加物はなぜ嫌われるのか』『ほんとうの「食の安全」を考える』(化学同人)、『「健康食品」のことがよくわかる本』『「安全な食べ物」ってなんだろう』(日本評論社)など。

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(薬学博士、国立医薬品食品衛生研究所客員研究員 畝山 智香子)
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