家計は火の車で、生活を回すためにクレカの借り入れも常態化し、借金額はいつの間にか250万円。そんな“崖っぷち”な子育て世帯が黒字に転じるには、何が必要か。
家計再生コンサルタントでFPの横山光昭さんは「今回は、働き方・住まい方を大胆に変更した夫婦の決断がカギだった」という――。
■世帯年収1000万円近くありながら250万円の借入
今回は、借金250万円のマイナス家計から、見事、月10万円近く余剰金ができる黒字家計に逆転したケースをお話しします。
谷口マサヒロさん(仮名・50歳・看護師)・ケイコさん(仮名・40歳・介護士)夫婦は、3人の子供(6歳・5歳・4歳)を育てながら、それぞれ夜勤のある仕事をしています。
事前の情報では、世帯月収は手取り55万円。それに対し、ある月の支出は毎月6万円の借金返済も含めて60万4000円と、5万4000円の赤字です。貯金が0円のため、引き落とし日に口座残高が不足することも多く、その都度、クレカの支払いをリボ払いや分割払いに変更したりキャッシングをして、気づいた時にはクレジットカードの借り入れが250万円に上っていたとのこと。
夫婦ともに、仕事は主に高齢者相手の地味できついもの。疲れ果てた時は「自分たちはいつまで泥水をすすって、地べた這い回るのか」とやるせなくなることも。
「ぜいたくはしていないはずなのに、借金でクビが回らず、貯金は夢のまた夢です。なんとかして現状を打破したいんです」(夫)
と、夫婦いっしょに1年ほど前に初めて相談にやってきました。
ボーナスを含め世帯年収1000万円近くあり、子供の教育費はまだかからないライフステージなのに、何が家計を圧迫しているのか。支出の内訳を見ながら詳しくヒアリングすることになりました。

初回相談の日。ざっくりとしたた支出の内訳を見せてくれました。マサヒロさんは現在住んでいる都市部の賃貸物件の家賃12万円の部分を指し、こう話しました。
「実は、来月引っ越しをすることが決まりました。なので、固定費全体で計8万5000円削減できそうです!」(マサヒロさん)
なんと相談前から、自ら固定費を削って来たのです。私は今まで3万件もの家計診断をしてきましたが、多くの方は「家計改善をしなくては」と思っても、やり方が分からなかったり変化を避けたりして、行動に移せない方がほとんど。マサヒロさんたちの行動力に感嘆しました。
「これまで通勤の便を考えて、交通の便のいい神奈川県の都市部に住んでいたんですが、思い切って支出を削るならまずは住居費だろうと考えて、ダメ元で夫婦ともにで異動願を出したんです。そうしたら、あっさりと承諾してくれて。万年人手不足の業界なので、埼玉でも大歓迎だったようです」(マサヒロさん)
住居費の高い都心から埼玉県某所へ住まいを移すことで、家賃は12万円から6万5000円へと半分近い5万5000円もダウンする予定なのだと、明るい顔で話してくれました。
では、残りの3万円はどのように削ったのでしょうか?
「削ったのは、交際費。普段は僕か妻が子供のお迎えに行くんですが、どうしても残業でお迎えに間に合わない時は僕の両親を頼ることがあって。
その際のガソリン代や気持ちばかりのお礼として両親に3万円を渡しているんです。でも引っ越して両親とも離れて住むことになれば、この費用がなくなりますから」(マサヒロさん)
ここまでで固定費が8万5000円減っています。あとは主に変動費をカットすることになります。さあ、何をどう立て直すか、何が谷口家の課題なのか、家計表を見ながらの話し合いがスタートしました。
■夫婦で夜勤があり、すれ違い生活が家計のアダに
まず目をつけたのが、食費の10万5000円。5人家族であれば決して多いほうではありませんが、借り入れがあることを考えると、一番カットする余地がある食費から手をつけたいところ。
例えば、お総菜や外食に頼る回数はどのくらいか、それを少し減らして自炊にできないかと聞くと――。
「それが、難しいんですよね。確かに、お総菜や外食に頼る回数は多いです。でも、生活上、仕方ないんですよ」と、マサヒロさん。
なぜ惣菜などに頼ってしまうのか。おふたりの生活スタイルを掘り下げて伺うと、生活時間に大きなズレ、つまり「すれ違い生活」が続いていることが分かりました。

マサヒロさんとケイコさんは、どちらも日勤と夜勤があり、どちらかが夜勤の時はもう片方が日勤で、家にいるほうが保育園の送迎を担うスタイル。今度は、ケイコさんが話します。
「私が夜勤で昼間に時間があるとき、自炊のための材料を買って冷蔵庫に入れておきます。でも、夫は翌日、昼間に時間があるのに、その材料を使って調理をしないんですよね」(ケイコさん)
「う~ん。食材があることは分かってるんだけど、何をどう使ったらいいか分からないんだよね。僕、料理が苦手だから……。子供たちが小さいと、レシピを見ながらもたもた調理するわけにはいかないでしょ? 子供は一瞬でも目を離すと、家の中でもトラブルが多発する生き物だからさ。それでお迎えに行く前にお総菜を買ったり、お迎えの後に一緒にファミレスに行くと当然4人分のドリンクバーとか、子供たちが大好きなフライドポテトとか、ちりつもでバカにならない」(マサヒロさん)
「そうだったんだ。そうなると子供たちが大きくなるまで外食を続けるのは、今の家計だと厳しいよね」(ケイコさん)
家計表を前に、生活の課題が少しずつ見えてきました。話し合いは続きます。
「あと、クレジットカードの使いすぎで借金することになったわけじゃない? 私たち、一緒に買い物していなかったし、クレカの支払いも別財布だったから、あなたが何に使っているのかも全然知らなかった。私も任せ過ぎていたのかもしれないね」(ケイコさん)
おふたりは休みを合わせることも難しく、揃って買い物に出かけられなかったので、お金の使い方を目の当たりにする機会もなかったのです。

■住居、働き方、買い物方法を大きくチェンジ
課題が見えてきたところで、次はどう解決していくか。私共からも提案しつつ、2人で話し合いを続けてもらいました。
例えば食材を買い過ぎないために、食費の予算はそれぞれの給料から共有財布に入れておき、一週間分の食費にするなど。いろいろな案を模索した結果、次のやり方で進めていくことになりました。以下は、初回相談から半年後の経過報告です。
「夫→夜勤」「妻→日勤」と、生活スタイルを固定化
まず、働き方を大改革。夫も妻も日によって家にいる時間が変わると、食材がムダになるなど不都合が生じるため、それぞれ勤務先に事情を話し、毎月、翌月のシフトを提出する前に夫婦で会議をし、週末ごとに日勤・夜勤を決めて組むようにした。
そうすると、例えば、夫が夜勤の週は、夫は夜勤明けでそのまま保育園に子供たちを送って、休んだ後、再び夜勤へ。日勤の妻は朝早く出て夕方に帰ってきてお迎えという生活スタイルになります。1週間の生活が固定化することで食費の管理や買い物の仕方、予算の組み方などが計画的にできるようになり、お金を使う機会が激減したと話します。
これによって、食費が10万5000円→8万5000円へと2万円の節約に。
クレカをやめて現金主義に
同時進行で、債務整理も行いました。

マサヒロさんがご自身で弁護士に相談に行き、結果的には任意整理をして月6万円だった返済を、5年で返すスケジュールにして、今は月4万円を返済しています。
そしてクレカは解約し、現金主義にしました。債務整理をすることでクレカは使えなくなりますが、「あると使い過ぎちゃうから、ちょうどよかったんです」と、マサヒロさん。
転居を機に被服費も自然と減少
思わぬところで、減った費目もあります。2万円から3000円へと減った被服費です。
「新居はショッピングモールに行くのも遠いので、買い物は勤務先の近くの小さなスーパーで済ませるようになりました。そうすると、洋服を買わなくなったんです。ショッピングモールなど大型店舗にユニクロなどがあると、ついつい寄り道して買っていたんですけど、今はその機会もなくなりましたから」(ケイコさん)
新たに保険に加入
一方で、医療保険と生命保険には加入し、新たに2万円が支出に加わりました。前は、マイナス家計だったので加入を諦めていましたが、お子さんがまだ小さく、夫婦で年の差があること、さらに急に手術などの費用が必要になった時を考え、入っておいたほうが安心だという結論に。
■マイナス家計が、10万円近くの黒字家計に大好転
こうして働き方をや環境を変え、日々の買い物の仕方も改革したことで、初回相談から1年経った今、月9万5000円も残る家計になりました。
現在貯金は、当初の0円から、時々特別支出で出ていくものの100万円ほどは貯まっています。
債務整理は始めたばかりですが、5年で終わることが決まっているので、5年後はさらに毎月4万円を貯金に回せます。
おふたりは「ようやく資金計画が立てられるようになったね」と、面談でも笑顔が増えました。
今回の成功要因は、思い切って働き方や住まいを変え、支払方法も変えた決断力と行動力が大きい。ただ、その裏には夫婦の地道な話し合いがありました。
家計改善の第一歩は、夫婦で家計(現状)を共有すること。その上で膝を突き合わせて話し合い、課題と解決策を探っていくわけですが、一番大事なのは、解決策を一緒に決めることです。お互いに納得して決めたことでなければ、絵に描いた餅になりかねません。谷口さんはその点、仲の良い年の差夫婦でしたから、スムーズに進みました。夫婦仲の良さは、家計改善のスピードにも関係してくることを実感したケースでした。

----------

横山 光昭(よこやま・みつあき)

家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表

お金の使い方そのものを改善する独自の家計再生プログラムで、家計の確実な再生をめざし、個別の相談・指導に高い評価を受けている。これまでの相談件数は2万6000件を突破。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。著書は90万部を超える『はじめての人のための3000円投資生活』(アスコム)や『年収200万円からの貯金生活宣言』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を代表作とし、著作は171冊、累計380万部となる。

----------
----------

桜田 容子
ライター

明治学院大学法学部を卒業後、男性向け週刊誌、女性向け週刊誌などで取材執筆活動を続け、気付けばライター歴十数年目に突入。にもかかわらず、外見は全然ライターっぽく見られない。趣味はエアロビとロックンロールと花見など。

----------

(家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表 横山 光昭、ライター 桜田 容子)
編集部おすすめ