良い病院を見抜くには、どんなところに注目すればいいのか。むさしの救急病院理事長で救急科専門医の鹿野晃さんは「ネットの口コミや病院ランキングなどは便利だが、口コミは意見が偏りやすく、ランキングが広告費を払って上位に表示させている可能性があるため信頼できない。
良い病院を選ぶための基準は、もっと別のところにある」という――。(第2回)
※本稿は、鹿野晃『救急医からの警告』(日刊現代)の一部を再編集したものです。
■どうやって病院を選ぶか
医療は私たちの生活に深く関わる一方で、現場の実態はあまり知られていません。医療現場には、患者の目には触れにくい「暗黙の了解」や「医療現場の常識」が存在します。
より良い医療を受けるためには、制度改革を求めるだけでなく、医療の内側を理解することも重要です。患者と医療者の間の相互理解が深まれば、より良いコミュニケーションにつながるからです。本稿では、普段はあまり語られることのない「医の世界の裏側」について、率直にお伝えしようと思います。
突然の発熱、長引く不調――。そんなとき、あなたはどのように病院を選んでいますか?
多くの人が直面する「病院選び」の悩み。外観や評判だけでは見えてこない病院の真の姿を知ることは可能なのでしょうか。図表1は厚生労働省による「受療行動調査」のデータをもとに作成しました。
この表から、大多数の人々が医療機関を受診する前に何らかの形で情報を集めていることがわかります。
実に、外来診療を受ける人の約80%、入院する人の82%以上が事前に情報を入手しています。興味深いのは、情報を入手している人々の「情報源」です。
最も頼りにされているのは「家族・友人・知人の口コミ」です。外来、入院共に7割前後の人々が、身近な人からの情報を重視しています。これは、個人的な経験や信頼関係に基づく情報が、医療機関選びにおいて大きな影響力を持っていることを示しています。次に多いのは、外来と入院で異なる傾向があります。外来の場合、4人に1人が「医療機関が発信するインターネットの情報」を参考にしています。
これは、病院のホームページや公式SNSなどが、一定の影響力を持っていることを示唆しています。
■「ネットの口コミ」には要注意
一方、入院の場合は「医療機関の相談窓口」が2番目に多く、27%以上の人々が利用しています。より深刻な健康問題を抱える入院患者は、直接、医療機関と対話を持つことを重視しているといえるでしょう。
病院のホームページには、「患者さん中心の医療」や「丁寧な対応と適切な医療の提供」など、どこも素晴らしいことが書かれています。ただ、それが絵に描いた餅なのか、実践されているのかを見極めるのは至難の業です。

多くの人が頼る口コミには、落とし穴があります。とくに、ネット上の評判は要注意です。ネットの口コミは、ノイジーマイノリティ(声の大きい少数派)の影響を受けやすいという特徴があります。
100人中99人が普通の対応を受けていても、1人が不快な思いをすれば、その1人の「怒りの声」が大きく響くのです。基本的に、良い評価よりも悪い評価のほうが、影響力が強い傾向があります。
さらに厄介なのは、悪質な口コミ削除業者の存在です。「悪い口コミが出た後すぐに、口コミ削除業者から連絡が来る」というのは、医療業界ではよく聞く話です。業者の自作自演の可能性も否めません。
ある日、病院のネット評価に突然、「待ち時間が長すぎる」「対応が冷たい」など、悪い口コミが書き込まれるのです。そして間もなく、あやしい業者から連絡が入ります。「高額な料金さえ払えば、悪い口コミを削除して、良い評判のみに変えられる」というものです。つまり、架空の口コミ評価をつくり出し、その解決策を売り込んでいるのです。
医療従事者は往々にしてお人好しで、社会経験が乏しいこともあり、こうした業者の格好のターゲットになりがちです。
■「病院ランキング」も鵜呑みにはできない
ネットの口コミの信頼性に疑問が浮かぶ中、病院選びの参考として時折目にするのが「病院ランキング」です。
これらのランキングも完全に信頼できるわけではありません。病院ランキングは、大きく分けて2種類あります。一つは「広告収入を主な目的とするもの」。もう一つは、「客観的な基準に基づいて評価を行うもの」です。
残念ながら、多くのランキングは前者に該当し、掲載料を多く支払った医療機関が上位に表示される傾向があります。結果として、広告費をかけられる大規模病院がランキング上位となる一方で、実際に質の高い医療を提供していても、広告費をかけない病院は掲載されにくい状況が生まれています。
医療の質とは無関係に、広告費の支出のみでランキング上位に登場する病院も存在するのです。ただし、多くの大規模病院が広告に力を入れており、ランキング上位の病院が必ずしも劣悪というわけではありません。ただ、ランキングだけで病院を判断したり、ネットの情報を鵜呑みにしたりしないよう注意が必要です。
■手術実績は“盛る”ことができる
病院の評価によく使われる指標として、手術実績や生存率があります。

しかし、これらの数字は必ずしも病院の真の実力を反映しているとは限りません。良い病院ほど、難易度の高い手術に挑戦する傾向があるため、統計上の手術成績が低く出てしまうことがあるのです。
一方で、容易な手術のみを行う病院は高い成功率を示せるため、一見すると優れた病院に見えてしまう可能性があります。医療広告には「手術実績No.1!」というような誇大広告はできない規制があるものの、症例数などのデータの提示方法には裁量の余地があります。
都合の良い症例のみを選んで発表したり、難易度の低い手術を多くこなして成功率を上げ、それを大々的に掲載したりすることも可能です。皮肉なことに、真摯に医療に取り組む病院ほど、統計上の成績が悪く見えてしまう可能性もあります。難しい症例に積極的に取り組むほど、成功率が下がってしまうからです。
しかし、本当に難しい症例や希少な疾患の治療が必要な場合、そういった病院こそが最適な選択肢となる可能性が高いのです。表面的な成績だけを追求する病院では、難易度の高い症例を受け入れないことで見かけ上の成績を維持しようとする傾向があります。表面上の数字だけでは病院の真の実力を判断することは困難です。
病院選びの際には、このような背景を理解した上で、多角的な視点から評価することが必要でしょう。
■「リアルの口コミ」は参考になる
ネットの口コミも「病院ランキング」も、あまり信用できない……。
このような状況下で、どのように信頼できる病院を探せばよいのでしょうか。最も信頼できるのは、ネット以外の口コミです。
具体的には、その病院を受診した友人や知人からの情報が一番よいでしょう。友人や知人の実体験は、ランキングや匿名の口コミよりはるかに信頼性が高いからです。とはいえ、医療の質は「ガチャ」のようなもので、同じ病院でも、担当する医師や看護師によって、印象は大きく変わります。
ある患者にとっては素晴らしい病院が、別の患者にとっては最悪の病院になることもあるのです。さらに、個々の患者の状態や期待も、病院の印象に大きく影響します。患者自身の性格や価値観によっても、医療サービスの評価は変わってくるでしょう。
自分の状況や優先事項と照らし合わせて情報を解釈することも大切です。最終的には、実際に病院を訪れて雰囲気を感じ取ったり、可能であれば診療を受けてみたりすることが、自分に合った病院を見つける最善の方法かもしれません。医療は非常に個人的なことなので、自分自身との相性が最も重要なのです。
■医療従事者の口コミがもっとも参考になるが…
医療の世界で信頼できる情報を得るには、内部の視点が非常に有益です。
もし、身内や知人に医療従事者がいれば、貴重な情報源となるでしょう。
たとえば、検討中の病院について、そこで働く知人や、その病院と関わりのある医療関係者から話を聞けると、公式情報だけでは得られない実際の様子を知ることができます。もちろん、個人的なつながりがない場合でも、公的なウェブサイトや病院の窓口で情報を得ることは可能です。
しかし、現場で働く人の率直な意見は、病院の雰囲気や医療の質について、より現実的な姿を教えてくれるでしょう。
とはいえ、「身内や知り合いに医療従事者がいない」という方も多いでしょう。医師や看護師に限らず、リハビリ専門職や事務職員、病院の受付スタッフなども医療に携わる重要な存在です。視野を広げてみると、身近なところに医療従事者がいることは珍しくありません。
たとえば、飛行機内で急病人が出た際でも、十中八九医師が乗り合わせています。「石を投げれば医者に当たる」と言われるくらい、意外と多いものなのです。困ったときは視野を広げて、友人の親戚や知人の知人など、広く声をかけてみるとよいでしょう。
■最新機器が並んでいるだけでは安心できない
「この治療って本当に必要なのかな……」「もしかしたら、他の治療法があるかもしれない」医師の説明を聞いても、どこか腑に落ちない。そんな経験はないでしょうか。
本当に信頼できる病院は、あなたの疑問や不安に真摯に向き合ってくれます。病院選びは、人生を左右するかもしれない重要な決断です。きれいな設備に最新の医療機器が並んでいるだけでは、良い病院とは言えません。違和感を覚えたら、遠慮せずに質問しましょう。
たとえば、誤嚥性肺炎後の嚥下リハビリの可能性など、専門的なことを尋ねるのも有効です。医師や看護師の反応を見れば、その病院の専門性や患者への姿勢が見えてきます。理想的な病院では、インフォームド・コンセント(医師と患者との十分な情報を得た上での合意)が徹底されています。治療のメリットとデメリットを丁寧に説明し、あなたや家族の同意のもとで治療方針を決めるのです。
「多職種連携」も重要なポイントです。医師、看護師だけでなく、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、ソーシャルワーカー、栄養士など、さまざまな専門家がチームとしてあなたのケアに関わっているか確認しましょう。多角的なアプローチは、患者の総合的なケアを可能にし、より良い治療結果につながります。
■「土日にリハビリをやっている病院」は良い病院
とくに気をつけたいのが、リハビリの充実度です。「土・日・祝日はリハビリをやっていません」と平然と言う病院は避けた方がよいでしょう。高齢者にとって、2日3日も寝たきりでいることは筋力低下を招き、元の生活に戻れなくなるリスクがあります。
土日や祝日もリハビリを行っている病院が望ましく、3連休中でも最低1日はリハビリを実施する病院を選びましょう。「経営的に厳しい」という言い訳もあるかもしれませんが、患者のケアを犠牲にする正当な理由にはなりません。病院側も努力して、連休中でも最低限のリハビリ態勢を整えるべきです。
完璧な病院は存在しません。しかし、これらのポイントを意識しながら、自分や家族に合った医療を粘り強く探していくことが、より良い医療を受けるための近道となるでしょう。

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鹿野 晃(かの・あきら)

むさしの救急病院 理事長・院長

医療法人社団 晃悠会 ふじみの救急病院 名誉院長2002年藤田医科大学医学部卒業。救急科専門医。青梅市立総合病院(現・市立青梅総合医療センター)救命救急センター医長などを経て、医療法人社団晃悠会を設立。2024年にはむさしの救急病院を開院し、院長に就任した。「すべては患者さんのために」を理念に掲げ、医療における理想のスピード、コンビニエンス、コミュニケーションの実現のために、24時間365日、誰でもいつでもためらわずに受診できる体制や専属の救急車の活用などを通して、訪れるすべての方に、信頼され、心温まる病院づくりに尽力している。著書に『救急医からの警告』(日刊現代)がある。

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(むさしの救急病院 理事長・院長 鹿野 晃)
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