■制度史上最大の転換点がやってくる
「今年のふるさと納税、今が最後のおトクチャンス⁉」
いま各ポータルサイトは異様な熱気に包まれています。理由は明確です。10月からふるさと納税に対する「ポイント還元」が全面禁止されるのです。
10月以降のふるさと納税はもうおトクではない――。そう感じる人も多いでしょう。これまで各ポータルサイトで寄附額の2~3割、多い時にはそれ以上のポイントを受け取ってきた人にとっては、まさに9月は最後の“おトク祭り”です。X(旧Twitter)上でも「駆け込み寄附で冷凍庫がパンクする」「最後のキャンペーンに全力投球」などの声が飛び交っています。
しかし、この変更は単なる「改悪」ではありません。ふるさと納税が本来持つ「地域を応援する寄附制度」という原点に立ち返らせる試みでもあるのです。本稿では、ポイント還元廃止の背景と、9月末までに取るべき行動、そして今後のふるさと納税との賢い向き合い方について考えてみたいと思います。
■2015年の制度改正で一気に利用者が増加
ふるさと納税は2008年にスタートしました。当初は純粋な寄附制度であり、返礼品も一部自治体が特産品を送る程度。
被災地支援として注目を集め、その後ポータルサイト「ふるさとチョイス」や「楽天ふるさと納税」などが次々と誕生。さらに2015年の制度改正で、控除上限の拡大やワンストップ特例制度が導入され、利用者が一気に増加しました。
ここで登場したのが「ポイント還元」です。
楽天市場が運営する楽天ふるさと納税では、寄附額に応じて楽天ポイントが付与されました。「お買い物マラソン」や「楽天スーパーセール」といった大規模なキャンペーンを利用すれば、ポイント還元率は跳ね上がりました。ふるなび、さとふるなども同様に、Amazonギフト券やPayPay残高に交換できる独自のポイントで還元を実施し、キャンペーン期間中は実質還元率が20~30%を超えることもありました。
■寄附額の5割以上が還元されるケースも
さらに、ポイントサイトを経由して寄附すれば、還元率はさらに上乗せされます。これにより、3割の返礼品に加えて2~3割以上のポイントが付くことも珍しくなく、結果として寄附額の5割以上も還元されるケースもありました。
たとえば、仮に年間10万円を寄附上限額として、ポイントキャンペーン時期(30%還元と仮定)に寄附した場合、3万円の返礼品に加えて3万円分のポイントがもらえます。普通に10万円の税金を払えば手元には何も残りませんが、ふるさと納税を利用することで、合計6万円分もおトクになったのです。
このようにふるさと納税制度は「地方への寄附」から、「どれだけ得をするかの競争」へと変質していきました。
■9月は“最後のポイント祭り” 人気返礼品は早めに申し込みを
総務省はこうした過度な競争を問題視し、2025年10月から「ポイント還元全面禁止」に踏み切ります。したがって、9月は「最後のポイント祭り」。そこで各ポータルサイトは、最後のキャンペーン合戦を繰り広げているのです。その内容を簡単にまとめると次のようになります。
・楽天ふるさと納税:楽天スーパーセール期間(例:9月4日~11日)にポイント最大47倍。
・ふるなび:最大100%還元の「ふるなび総力祭」など
・さとふる:最大1000%ポイント還元の抽選キャンペーンなど
10月以降はもらえなくなるはずのポイントが、9月なら特大キャンペーンで付与されるのです。経済的なメリットを最大限に享受したいなら、今年のふるさと納税は9月中に済ませておくべきでしょう。このラストチャンスを逃すまいと、多くの人がすでにふるさと納税を始めています。
■人気返戻品は在庫切れになる可能性も
ただ、9月は“駆け込み寄附”が殺到するため、人気の返礼品は在庫切れや受付停止が相次ぐことが想定されます。高級和牛、ブランド米、旬の海産物、人気の定期便などは、特に注意が必要です。
欲しい返礼品がすでに決まっているなら、後悔しないためにも早めの申し込みが鉄則です。
クレジットカード決済の場合は、申込日=決済日です。9月30日(月)23時59分までに決済が完了すれば「9月寄附」として扱われます。ただし、サイトやカード会社によっては通信遅延などで処理が翌日扱いになるリスクもゼロではないため、安全策としては9月30日夕方頃までには済ませておきたいところです。
銀行振込やコンビニ払いは、実際の入金日が基準になる場合が多く、9月末ギリギリだと間に合わないケースがあります。ぎりぎりの寄附で「9月扱いに確実にしたい」ならクレジットカード決済が安全です。
■9月にふるさと納税をまとめて行うリスクもある
ただし、ポイント欲しさになんとなく寄附をするのはご法度! ふるさと納税の寄附上限額は、その年の年収などによって変動します。9月の時点で年末までの正確な年収を予測することは難しく、適当な見込み額で寄附すると、上限を超えてしまい自己負担額が増える可能性があります。
上限額を超えた寄附は、はっきりいって損です。仮に1万円多く寄附してしまった場合、税金は変わらず、3000円分の返礼品とポイントがもらえるだけ。差額分は払い損になるということです。
また、まとめて寄附すると、「冷凍庫がパンパン」「返礼品の置き場がない」といった問題も発生しがちです。
■10月以降のふるさと納税はどう活用すればいいか
では、10月以降ふるさと納税は「損」な制度になるのでしょうか? 答えはNOです。制度の根幹は変わらず、自己負担2000円で返礼品をもらいつつ税控除が受けられるというメリットは健在です。
今回の禁止措置の本質は、「地方創生」という制度の理念を守ることにあります。ポイント還元の原資は、自治体が負担する仲介手数料や経費。つまり、寄附金が地域振興ではなく、サイト運営やポイント原資に流れてしまう構造でした。
「寄附」ではなく「買い物」「オトクさ競争」になってしまったふるさと納税。制度の持続可能性を守るためには、どこかで歯止めが必要だったのです。
9月は“最後の還元祭”で10月からは“応援寄附の時代”となります。損得勘定だけでなく、「この地域を応援したい」という想いで寄附先を選ぶ時代が始まります。
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板倉 京(いたくら・みやこ)
税理士、マネージャーナリスト
保険会社・財産コンサルティング会社、税理士法人等で税理士業務に携わる。
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(税理士、マネージャーナリスト 板倉 京)