就職活動の情報源として欠かせないのが求人票だ。採用マーケティングサービスを提供するダトラ社長の草深悠介さんは「社内の雰囲気や教育制度、会社の将来ビジョンのアピールポイントを具体的に書いている企業が求職者に選ばれる。
一方、求人票に書いてはいけないルールを守っているかどうかもチェックしたほうがいい」という――。
※本稿は、草深悠介『採用マーケティングの教科書』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■いまの求人票は「普通」ではダメ
インターネットの登場によって、採用マーケットは検索エンジンや求人メディアを活用する時代へと移行し、求人票は企業サイトに掲載されるようになりました。そして求人票とは単なる情報の掲載表ではなく、各種の工夫によって求職者の注意を惹きつける「採用サイト」へと進化していきました。収録する内容も動画やアニメーションなど、各企業で差別化の工夫が始まったのです。
それでは、求人票にはどのような工夫が求められるのでしょうか。
企業の採用サイトを閲覧する求職者の関心は「どのような人物と一緒に働けるのか」「その企業の強みや魅力は何か」「その会社の働き方が求人票からイメージできるか」の3つです。無味乾燥な求人票ではなく、心動かす求人原稿に仕立てることが何より重要です。以下、それぞれポイントをまとめます。
■企業と人材のマッチング率を高める方法
1 求める人物像を明確にし、アピールする
採用を成功させるためには、これまでのキャリアや仕事へのモチベーションなど、求職者に自社の求める人物像をアピールする必要があります。求める人物像を明確にし、求人票に具体的に記載することによって、求める人物からの応募を増やすばかりでなく、求める人物以外からの応募を抑えることも可能になります。
さらに、「第一種運転免許」「TOEIC700点以上」など、自社で働くために応募者に最低限備えていてほしい要件(MUST要件)も絞り込んでおく必要があります。

《求める人物像を明確にするコツ》

○どのようなスキル、経験が必要か(資格、能力、経験)

○どのような人物が望ましいか(人柄、性格)

○どのような仕事をしてほしいか(仕事内容)

○自社で働くために最低限備えていてほしい要件を絞り込んでおく(MUST要件)
■企業側の「自己PR」も欠かせない
2 自社の強み、魅力をアピールする
給与や賞与以外にも、社内の雰囲気や教育制度、会社の将来ビジョンといった部分も自社のアピールポイントになります。会社のビジョンや魅力を過不足なく伝えることで、「楽しく働けそう」「このような会社で働きたい」などと感じてもらい、応募意欲を高めることができます。
《求職者が魅力的と感じる項目の例》

○「教育制度が充実している」「資格取得を推進している」など、能力向上やキャリアアップを支援している

○時短勤務や産休育休の取得を推進、リモートワーク可能など多様な働き方ができる職場を目指している、など
求人票で自社の強みをアピールする項目欄としては、給与や待遇などの「労働条件」「福利厚生」「備考」「自社のPR欄」などがあります。
■「仕事内容が分からない求人票」はダメ
3 働き方がイメージできる、わかりやすく具体的な文章
求人票は“誰が見てもわかりやすい文章”である必要はありません。あくまで“募集の対象となる人材”に、働き方がきちんとイメージできる文章として、わかりやすく具体的に書くことが必要です。
たとえば、特定の業界で経験者を募集する求人では、その業界の専門用語を使うことに問題はありませんし、業務内容を他業種の人向けに細かく説明する必要がない場合もあります。それよりも、自社に入社した場合に今後のキャリアがどうなっていくか、自社の将来性はどのようなものかを明示することで、より多くの応募を獲得できるでしょう。
一方で、未経験者を募集する場合であれば、上記とは反対で、わかりやすい表現で伝えることが重要です。
《募集の対象者に届く文章を書くコツ》

・(未経験者を募集する場合に限り)中学生でもわかるよう、専門用語を使わず、誰もが知っている言葉を使って書く

・曖昧な表現を避け、具体的な数字や例を使って書く

・1文は短めに(冗長な文章は意味が取りにくく、読まれずに終わる可能性が高くなる)

・伝えたい内容が多い場合は、箇条書きにする
■「人気検索ワード」をたくさん盛り込む
求人検索で効果的に求職者を集めるにはどうすればよいでしょうか。それは(図表4)のフローで表すことができます。「求人票の表示」「クリック」「応募」の3つの結果を検証することによって、表示回数、クリック率、応募率が上がります。また、それと同時に求人票の数も求人する職種ごとに用意することが必須です。

以下、ポイントごとに説明していきましょう。
1 求人票の表示回数のアップ
求職者が検索した条件と求人票の内容がマッチした場合、検索結果に表示されます。ですから、検索エンジンを通じて求人票の表示回数を上げるには、求人票に的確なキーワードを幅広く、できるだけ多く盛り込んでおくことが必要です。
ポイントとしては、ターゲットとなる求職者が検索しそうな文言を先取りして使用することです。どのようなワードが適切であるかは、職種や勤務地などによって異なる部分もありますが、ここでは一般的な「人気検索ワード」を挙げておきます。
求人における一般的な人気検索ワード

○短期、日払い・週払いOK、未経験OK、土日祝休み、平日のみ、単発、週1日OK、ブランクOK

○派遣スタッフ活躍中、短時間残業なし、交通費支給、○○代活躍中高収入、高時給、稼げる

○手当充実、副業・WワークOK、無資格OK、残業なし、社会保険完備、扶養内勤務OK、シニア活躍中

○主婦(夫)活躍中、中高年活躍中、主婦(夫)歓迎、履歴書不要、大量募集、Web面接OK

○家庭都合のお休みOK、車通勤OK、駅チカ、制服あり服装自由、研修制度パート、正社員

○ハローワーク、中高年、主婦パート、アルバイト、シニア、託児所完備、オープニングスタッフ
■他社と差を付ける職種名の伝え方
2 クリック率のアップ
求職者が求人票をクリックし、詳細を見てもらわないことには応募につながりません。求人票に表示されているこの条件を他社と比較することによって、求職者はその会社の求人の価値を認めます。
クリック率を上げるため第一に考えておくべきことは職種名は極力シンプルに、そして仕事内容が伝わる表記となるよう以下の2点を意識しましょう。
・仕事内容に直接関係のない文言は入れない

・特殊な社内用語や専門用語も使用を避け、一般的な表現を使う
検索結果の一覧に表示される内容を工夫することにより、求職者はサイトを開いて内容を見てくれるようになります。
タイトルの工夫の例

「業務で扱うアイテム(商品)」×「職種名」=シンプルで明瞭な職種名

○エンジニア募集の場合 → PHPでのWebエンジニア

○キッチン募集の場合 → イタリアンレストランのキッチンスタッフ
■過去・現在・未来が分かる企業が選ばれる
3 応募率のアップ
求職者はネット上で各企業の求人案件を比較しています。競合する企業との比較で内容的に勝り、応募率をアップさせるためには、募集要項(雇用形態・給与・勤務時間・応募資格・勤務地)の充実だけでは不十分で、「求職者に選ばれる企業」にならなければなりません。
たとえば以下のように時系列で、要素を詳しく、かつ簡潔にまとめてみることで効果を発揮します。

○過去……創業年数、具体的な実績など

○現在……展開しているサービスや営業拠点、進めているプロジェクトなど

○未来……将来の展望、拡大予定の事業の規模感など
良質な人材を確保するには情報量の豊富さが決め手となります。なぜなら、優秀な人材ほど情報リテラシーが高く、求人票に記載された情報の中から自分にとって必要な情報を読み取るのです。ですから、獲得を目指す人材の応募率を上げるためには、求人票に掲載する情報は求めるターゲットに対して過不足なく提供する必要があります。
たとえば使用する画像についても、フリー素材でなくオリジナルの写真が好まれます。実際に自社の現場で撮影した写真素材を見て、求職者は自分が実際に働く姿をイメージできるからです。
■「土日祝休み」「駅チカ勤務」「髪型自由」
また、求人票の募集要項とは別に、「働く環境」として以下のような「好条件」をアピールすることも効果的です。エントリーする企業を比較・検討している求職者の趣味嗜好に合致すれば、大きな効果を得られます。
==働く環境==

社内はコーヒー・紅茶・お茶飲み放題!

その他にも、コーンポタージュやお味噌汁、チョコレート食べ放題など従業員にとって嬉しい環境がそろっています!
◎土日祝休み ◎駅チカ勤務

◎お休みが取りやすい環境

◎子育て中のママが活躍中
私生活を大事にしたい、あなたらしい働き方ができる会社です!
◆当社はネイルOK、服装自由&髪型自由です!
○結果以外はとにかく自由!

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○服装など見た目で評価されることは一切ありません!

○各自に目標が設定されており、その結果でのみ評価されるシステムです。

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■これがあると掲載されない「NGワード」
最後に、求人票で扱ってはいけないワード・要素をまとめます。以下のような表現を使用した場合には検索エンジンで掲載されません。ですから、コンテンツを作成する際にはこうした「書いてはいけないルール」をきちんと守ることが何よりも重要です。特に差別的な表現などは法律的に許されませんし、求職者からの印象も低下します。

①性差別(男女雇用機会均等法)
NG表現例:女性歓迎、男性のみの募集、主婦歓迎、看護婦、保母さんなど

OK表現例:主婦(夫)歓迎、女性活躍中、男性活躍中など
求人票の記載事項では性別を理由とする優遇表現を禁止しています。これらは一方の性へ向けての表現となるため法令違反です。「主婦(夫)」など両方の性に向けた表現になれば問題なく、「活躍中」など現場の背景を記載することもOKです。
②年齢制限(雇用対策法)
NG表現例:30歳までの方を募集、20代歓迎、18歳以上の方など

OK表現例:18歳以上の方(警備業法)など
派遣やパート・アルバイトなど、期間の定めがある求人では年齢を制限する表現も法令違反です。なお、期間の定めなく募集・採用する場合(正社員)は例外として年齢制限が可能な場合があります。たとえば、実務経験がないことを条件として35歳未満の人を募集する場合などです(雇用対策法の例外事由「3号のイ、長期キャリア形成」など)。
その一方で、たとえば「18歳以上の方(警備業法)」などは法律で定められた内容のため問題ありません。
■「シニア歓迎」ではなく「シニア活躍中」
③身体、性格、国籍など差別表現(労働基準法)の禁止
NG表現例:外人、~県在住の方、明るい方、体力に自信のある方など

OK表現例:明るい対応ができる方、体を動かすのが好きな方など
これらは、国籍、居住地、性格や健康状態に対して制限する表現であり法令違反です。「明るい対応ができる方」は行動に対する表現で、性格に言及していないためOKですし、「体を動かすことが得意な方」も嗜好に該当する表現のためOKです。
④最低賃金を下回る求人(最低賃金法)
最低賃金を下回った金額が記載されている求人票は、最低賃金法の違反となります。
⑤各検索エンジンが独自に基準を作成しているNGワード
上記の①~④は法令に基づいてNGとされている表現ですが、それ以外にも、特定の検索エンジンが設定したポリシーでNGとされている表現もあります。
各検索エンジンでは、「学生不可、高校生不可、大学生不可、シニア歓迎」などの表現もNGと設定されています。
特定の人を除外・歓迎する記載内容を排除するためです。
一方で、「22時以降勤務できる方、高卒以上、大卒以上、シニア活躍中」など、条件、状況を記載することに問題はありません。

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草深 悠介(くさふか・ゆうすけ)

ダトラ社長

大学卒業後にオーストラリアへ渡航し、現地で広告営業に従事。2004年に帰国後、株式会社リクルートに入社し、ブライダル領域でのキャリアをスタートさせる。2011年には株式会社ユニクエスト・オンラインにて、主力事業「小さなお葬式」の取締役として事業責任者を務める。2014年、株式会社ダトラを創業。以降、Webマーケティングと採用マーケティングを軸とした事業を展開し、中高年向け転職支援サービス「FROM40」や採用管理システム「トルー」などを開発・提供。2020年4月にはYahoo特別認定パートナーに認定される。「ITの力で社会課題を解決し、多くの人々が充実して暮らせる社会を実現したい」という理念のもと、日々新たなサービス開発に取り組んでいる。

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(ダトラ社長 草深 悠介)
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