■知人から突然のDM「私に投票して」
「オンライン料理コンテストに立候補したから私に投票して」――知り合いから届いた一通のDM(ダイレクトメッセージ)により、Instagramアカウントを乗っ取られる件が多発している。
メッセージの文面は少しずつ異なり、「アンバサダーへの立候補」や「釣りコンテストに立候補」などのパターンがある。投票を快諾すると、携帯電話番号を尋ねられる。相手に携帯電話番号を伝えると、ショートメッセージに6桁の数字が送られてくる。その数字を相手に伝えると、Instagramアカウントを乗っ取られてしまうのだ。
■メアドやパスワードを変更されてしまう
セキュリティを強化していなければ、携帯電話番号と認証コードだけで相手はあなたのInstagramアカウントに不正ログインできる。すぐにメールアドレスやパスワードを変更されてしまい、自分のアカウントにもかかわらずログインできなくなってしまう。
そして、あなたのアカウントを踏み台にし、繋がっているアカウントに対して同様のDMをばらまく。Instagramのストーリーズに暗号通貨への投資を呼びかける投稿をされる場合もある。
こうした乗っ取りが行われるのはなぜか、まずはその手口から解説する。
まず、乗っ取りは知人のアカウントから行われる。知人なので信じてしまうが、その人も乗っ取りの被害者だ。
相手を信用して携帯電話番号を教えると、その番号は「WhatsApp」のアカウント作成、もしくはログインに使われる。WhatsAppとは、InstagramやFacebookを運営するMetaによるメッセンジャーアプリだ。日本ではあまりなじみがないが、海外ではよく使われている。
■「WhatsAppの乗っ取り」だけでは済まない
携帯電話番号を入力すると、WhatsAppはショートメッセージで認証コードを送信する。携帯電話番号の持ち主であるかどうかを確認するためだ。先ほど、「6桁の数字を教えて」と言われた数字はこの認証コードにあたる。
認証コードを入れると本人確認ができてしまうため、WhatsAppのアカウントが相手の手に渡る。すでにWhatsAppのアカウントを持っている場合、パスワードをリセットされてしまう。
乗っ取り犯はWhatsAppのアカウントで、Metaの「アカウントセンター」へと移動する。アカウントセンターとは、WhatsApp、Instagram、Facebookなど、Metaのアカウントをまとめて管理できる機能だ。このアカウントセンターにWhatsAppからログインし、Instagramのアカウントを操作するわけだ。
InstagramのアカウントとWhatsAppのアカウントを連携するには、Instagramのパスワードが必要となるため、すでに流出している情報から得ているのか、個人情報から推測して割り出している可能性がある。
■詐欺行為に加担させられる可能性も
なぜWhatsAppを経由するのかが不可解なのだが、日本人でWhatsAppアカウントを持っている人は少ないとはいえ、WhatsAppに登録されている「連絡先」も狙っているのかもしれない。また、WhatsAppからInstagramのストーリーズに投稿をシェアすることもできるため、Instagramの乗っ取りに失敗しても詐欺の投稿はできる。
もっとも、いきなり携帯電話番号でInstagramのログインを試み、パスワードリセット用の認証コードを手に入れて乗っ取るケースもあるだろう。
さて、乗っ取り犯がInstagramやFacebookのアカウントを乗っ取る目的は何か。
ひとつは、「踏み台」とすることだ。SNSアカウントをひとつ入手すれば、数十~数千のアカウントへDMを送れる。アカウントを闇市場で売ることもできる。
もうひとつは、「詐欺」を働くためだ。SNSアカウントを手に入れれば、その人になりすますことができる。投資詐欺やロマンス詐欺はInstagramやFacebookからLINEへ誘導されて実行されるため、自分のアカウントがその入り口として利用される可能性もある。
■SNSサービスは必ず二段階認証の設定を
実際の被害はなくても、大切な友人や知人を危険にさらしてしまう。アカウントを乗っ取られることで、自分が加害者になってしまう羽目に陥るのだ。交流関係の信頼も失墜しかねない。たかがSNSアカウントの乗っ取りではなく、実害が出て精神的にも大きな痛手となる。
では、どのように自分のアカウントを守ればいいのだろうか。紹介した例では、携帯電話番号や認証コードを教えてしまったことがあだとなった。仕事などで携帯電話番号を伝える必要がある機会もあるだろうが、数字のコードを送るように言われたら疑ったほうがいいだろう。
SNSなどのサービスは、二段階認証を設定しておくことも大切だ。二段階認証とは、IDとパスワードの入力に加えて、別の方法で本人確認を行う仕組みだ。
もしInstagramアカウントを乗っ取られてしまったら、Instagramに携帯電話番号を入力し、「パスワードを忘れた場合」からサポートをリクエストしてほしい。Instagramは「セルフィー動画の送信」により、ロボットでないことを判断し、本人確認を行う。確認されると、アカウントを取り戻すことができる。
詳細は、こちらのInstagramヘルプセンター「Instagramアカウントが不正アクセスされたと思われる場合」を参照。
■もし自分がなりすまされたら…
WhatsAppはサポートに連絡し、指示をあおぐ。アカウントを取り戻せたら、二段階認証でセキュリティを強化しよう。
今回は最新の手口を紹介したが、単純な「なりすまし」の被害も相変わらず多い。著名人やインフルエンサー、有名企業の場合、コピーしたプロフィール画像と似たようなアカウントを作成され、投資詐欺を目的としたLINEグループへの誘いを送られることがある。もし自分がなりすまされた場合は、すぐに他のSNSなどで注意を呼び掛け、プラットフォームに「報告」してほしい。
詐欺師は次々と新たな手で私たちに襲い掛かる。
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鈴木 朋子(すずき・ともこ)
ITライター・スマホ安全アドバイザー
メーカー系SIerのSEを経て、フリーランスに。SNSなどスマートフォンを主軸にしたIT関連記事を多く手がける。10代の生み出すデジタルカルチャーを追い続けており、子どもの安全なIT活用をサポートする「スマホ安全アドバイザー」としても活動中。著作は『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)、『親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本』(技術評論社)など多数。
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(ITライター・スマホ安全アドバイザー 鈴木 朋子)