※本稿は、山崎雅弘『ウソが勝者となる時代』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
■兵庫県議を攻撃したNHK党・立花氏
2025年1月18日、元兵庫県議会議員の竹内英明さんが自殺しました。
竹内さんは、斎藤元彦兵庫県知事のパワハラ疑惑などを調べる「百条委員会」の委員として知事を追及した一人でしたが、彼は「NHKから国民を守る党(2025年5月15日に党名を「NHK党」に変更)」の立花孝志党首とその支持者から、激烈な「ウソに基づく言いがかり攻撃」の標的とされていました。
斎藤知事のパワハラ疑惑とは、兵庫県西播磨県民局長が2024年3月12日付で内部告発した「七つの疑惑」のうちの一つで、兵庫県議会は地方自治法第100条に基づく調査委員会(百条委員会)を設置して、告発文の内容と、告発への県の対応について調査を行ないました。
この県民局長も、2024年7月7日に自殺しています。
2025年3月4日、奥谷謙一県議が委員長を務める百条委員会は、9カ月にわたる調査結果をまとめた報告書の内容を公表しました。それによると、パワハラの疑いなどについては「一定の事実が含まれていた」とし、告発文書に対する県(斎藤知事)の対応は、「全体を通して客観性、公平性を欠いており、大きな問題があった」と指摘しました。
■街頭演説で竹内県議に言及、攻撃を開始
竹内さんは疑惑の追及に当たった百条委員会の、15人の委員の1人でしたが、調査中の2024年11月1日、立花孝志は街頭演説で次のような言葉を口にしました。
「自殺した人(元県民局長)が(斎藤知事を告発する文書を)1人で作ったと思ってる人いません? 違うんですよ。違う人物も関与していた。確実に言っていい人、1人だけいます。
この時、斎藤は2024年9月19日に兵庫県議会で可決された「全会一致の不信任決議」により、9月30日付で知事を失職していました。10月31日に兵庫県知事選挙が告示され、計7人の候補者の中には、斎藤元彦と立花孝志がいました。
ところが、選挙戦が始まると、立花は「私には投票しないでください」と市民に訴え、選挙ポスターや街頭演説では、実質的に斎藤を勝たせるためのアシストを行ないました。
2024年11月1日の立花の街頭演説も、名目は兵庫県知事候補という立場でなされたものですが、彼はそこで、斎藤に批判的な立場だった竹内さんの名を出し、攻撃を開始しました。
■斎藤氏の兵庫県知事返り咲きをアシスト
2日後の11月3日、立花は自分の言動に賛同する支持者を引き連れて、百条委員会の奥谷委員長の自宅兼事務所前に行き、ネットで生中継しながら演説しました。
「出てこい奥谷! 一応チャイムだけ鳴らしておこう(集まった群衆が笑いながら拍手)。まあ、あまり脅して奥谷さんが自死されても困るので、これくらいにしておきますけど、竹内さんのところにも行きますよ。で、どうやって会おうかなと思ってたんです」
立花は、竹内さんを「斎藤を貶めた主犯格」と決めつけた動画をXで引用し、「兵庫県民は兵庫県知事選挙に行く前に見ておきたい動画」とのコメントを添えて投稿しました。このX投稿は、2025年1月25日の時点で、249万回閲覧されました。
2024年11月17日の兵庫県知事選で、斎藤候補は得票率45.21%で当選し、立花は得票率0.78%で落選しましたが、選挙期間中には百条委員会の委員に対する攻撃的な投稿が増大し、立花の行動は結果として、斎藤の知事返り咲きをアシストする効果をもたらしました。
■竹内県議は精神的攻撃により辞職へ
立花の攻撃的な言動に煽られたかのような「竹内さんに対するネット上での罵倒や誹謗中傷」は、選挙が終わっても止むことはなく、「竹内英明フザケルな」「消えてまえ」「竹内県議は辞職すれば済む話じゃない」「犯罪者じゃないか」などの心ない暴言が、竹内さんの心を蝕んでいきました。選挙翌日の11月18日、竹内さんは「(攻撃から)家族を守らないといけない」との理由で県議会議員を辞職しました。
竹内さんの県議辞職について、百条委員会の上野英一委員は会見でこう述べました。
「(兵庫県知事)選挙を通じて、言葉の暴力、ネットの暴力、これが拡散して本人(竹内さん)だけでなく家族も狂乱状態にまでなってしまった」「その中で本人は、家族を守ることを優先すると。奥さんが錯乱状態で『政治の道から退いてほしい』という訴えがあった。彼ほど優秀な議員はなかなかいない。その優秀な議員を(精神的に)追い込んでしまう今回のネットの怖さ、それを武器として使う選挙の怖さ」
■鬱状態となった竹内元県議
県議を辞職したあとも、竹内さんは、議会で同僚だった迎山志保県議と連絡を取り続けましたが、立花とその支持者による罵倒攻撃で、心身の不調は悪化する一方でした。
2025年1月25日に放送されたTBS「報道特集」は、迎山県議に取材して、スマホアプリのLINEでやりとりした内容の一部を番組内で紹介しました。
竹内さんは、2024年11月3日に立花が、奥谷委員長の自宅兼事務所前で「竹内さんのところにも行きますよ」と言ったあとの状況について、迎山県議にこう説明しました。
「妻が警察に連絡してほしいと昨日言ったので、電話した。立花の事務所襲来(を予告した)エックス(投稿の動画)などを見てしまって怖いと言ってます」
そして竹内さん自身も、次第に鬱状態となっていきました。
「(気持ちは)逆に酷くなってる。
「お願いが一つあります。また百条とか議会とかに関わってしまってまたうちに攻撃とかあったら耐えられません。代表質問や一般質問等で私のことは触れないでくださいね」(2024年12月1日)
「薬の助け借りてなんとか眠ってる。心配かけてごめん。いまから寝る。睡眠薬があるから眠れる」(2024年12月7日)
■“ウソと言いかがり”によって最悪の結果に
迎山県議は、立花とその支持者によるネットでの集団的な言いがかり攻撃だけでなく、信頼していた周囲の人が、ネットでの悪評を真に受けた態度をとり始めたことが、竹内さんの心理に大きなダメージを与えていたようだと、「報道特集」で証言しました。
「信頼関係があると思っている、身近なリアルの(面識のある)方からも、(立花らが流布した)ウソの情報を前提にしたような心配をされたりとか、『自分は本当に真摯に政治や県民に向き合ってきたつもりだったけれども、これまでの自分の人生も何だったんだろうかなと思うし、こういうことがまかり通っていく社会にも、本当にもう希望が持たれへん(持てない)な』って」
そして2025年1月18日、竹内さんは自ら命を絶ちました。
■恐怖におののく竹内元県議の妻
立花孝志が、竹内さんへの「言いがかり攻撃」を開始したのは、兵庫県知事選が告示された2024年10月31日からで、この日立花は街頭演説で、元県民局長による告発文書の作成に竹内さんが関与していたと名指して攻撃しました。11月5日、立花は自身のYouTube動画で、当時「兵庫維新の会」に所属していた岸口実県議から入手したという文書を画面に映しましたが、そこには次のような文言が記されていました。
「百条委員会を主導した井戸(元知事)派県会議員が、マスコミに一方的な情報のリーク及び根拠の乏しい無記名アンケートによって、元県民局長の自殺を知事の責任に見えるように印象捜査」「黒幕(主犯格)は竹内(県民連合)、《黒塗り》(自民)、丸尾(無所属左派)。知事失職が彼らの最終的な狙い」
竹内さんの妻は、「あそこから、いろんなことが始まりました」と語り、「明らかにその紙が、こちらにいろんな悪意が向けられるきっかけになって、攻撃が加えられる。本当に事実に基づかないような、ああいったこと(ウソに基づく言いがかり)を広めていくっていうのは、すごくやっぱり怖かったですよね」と振り返りました。
■夫の存在意義は何だったのか
また、奥谷委員長の自宅兼事務所前で、立花が「竹内さんのところにも行きますよ」と言った動画や、「竹内、丸尾、奥谷、見つけたら皆さん教えてください、すぐ行きますから」「竹内見かけたとか丸尾見かけたら、ツイッター(現X)とかでバーッと書いてください、僕すぐ追いかけますから」などと街頭演説で言う動画を、「(竹内さんは)見ました」と妻は答え、竹内さんが「家族に影響が及んだことを非常に気にかけていました」と話しました。
「いつ何が起こるかと怯えながら暮らすというか、外の様子や事務所の周りの様子を常にうかがわないといけないですし、外に出るのも怖くなる。あとは人に会って話す、それさえもできなくなっていく。私も(夫と)同じように、いろんなことに恐怖を抱いて」
兵庫県知事選の翌日、竹内さんが議員辞職したことについては、こう述べました。
「すごく異常な、残酷なことですし、夫の苦しむ姿というか、追いつめられていったことは不条理だなというふうに思います。(夫が)自分の存在意義みたいなものを否定して苦しむ様っていうのは、本当に、見るに堪えなかったです。全身全霊をかけてやってきたことを失って、それまで築いてきたものも、人間関係であるとか、そういった社会との繋がりであるとかも絶たれて、何とも孤独な思いでいた。それは、主人も私も強く思ったことです」
■集団的攻撃に屈せず立ち向かう人々
竹内さんが自死したあとも、立花は故人への攻撃をやめず、2025年3月8日の街頭演説でも「(自分は)生前、故竹内を中傷していましたよ、はい。だって、あいつ悪いことしてるじゃん」「そもそも政治家が中傷されたぐらいで死ぬなボケ!」などと粗暴な言葉を吐いていましたが、そうした立花の行動を社会が是認しているような現状に、竹内さんの妻は疑問を呈しました。
「社会が本当に、そうであってはいけないっていうふうに思っています」
丸尾県議は、立花の街頭演説での発言から7カ月が経過した2025年6月に「名誉毀損」で彼を提訴した理由について、こう真意を語りました。
「立花さんは、ウソをばらまくことで社会や民主主義の基盤を壊している。虚偽の発言で人を貶めることは許せない。
また、亡くなった竹内さんの無念を抱いて裁判を戦うと表明し、こう述べました。
「私が勝訴し賠償が認められれば、必要経費を除いて全額を、竹内さんの遺児育英基金(遺児を支援するための基金)に寄附します」
立花孝志と戦う人たちは、立花とその支持者によるすさまじい集団的攻撃にも屈せず、みな「群衆」に埋没せず、個人としての倫理観を心に強く持っているように見えます。
あなたは、こうした勇気ある態度を目の当たりにして、どんな態度を選ぼうと思われますか?
----------
山崎 雅弘(やまざき・まさひろ)
戦史・紛争史研究家
1967年大阪府生まれ。軍事面に加えて政治や民族、文化、宗教など、様々な角度から過去の戦争や紛争を分析・執筆。同様の手法で現代日本の政治問題を分析する原稿を、新聞、雑誌、ネット媒体に寄稿。著書に『[新版]中東戦争全史』『1937年の日本人』『中国共産党と人民解放軍』『「天皇機関説」事件』『歴史戦と思想戦』『沈黙の子どもたち』など多数。
----------
(戦史・紛争史研究家 山崎 雅弘)