税金をできるだけ安く済ませるにはどうしたらいいのか。公認会計士の山田真哉さんは「みんなが知っているのに、6人に1人しか使っていない制度がある。
年内いつでも申請ができるが、9月30日までがおすすめだ」という――。
ふるさと納税は9月30日までがお得
公認会計士の山田真哉です。今回はいまや「節税」の代名詞ともなっている「ふるさと納税」について、「お得な申請時期」というテーマに絞ってお伝えできればと思います。
ふるさと納税は、その年の年収で控除できる寄付の上限が決まることもあって、年末に行う人が多いかと思います。
でも実は、それはとても「損」なのです。
ふるさと納税は、「その年の9月までに寄付するのがお得」です。
たとえば今年については、すでにご存知の方もおられると思いますが、2025年9月までにふるさと納税すればポイント還元を受けることが可能です。ところが10月以降は寄付してもポイントはもらえなくなってしまいます。このポイントは多いところだと30%もあるので、9月までにふるさと納税するほうが圧倒的にお得なのです。
実はこれは今年に限ったことではありません。ふるさと納税は昨年も一昨年も、9月までにするほうがお得でした。
なぜそんなことが起きるのでしょうか?
この理由についてはYouTube動画でも取り上げましたが、今回、プレジデントオンラインでもあらためて、解説していきたいと思います。

■そもそも「ふるさと納税」はしたほうがいいのか
最初にふるさと納税の仕組みについて確認しておきましょう。
ふるさと納税とは、みなさんの住所がある自治体に納めてきた住民税の一部を、住んでいる場所ではなく自分の好きな市町村に寄付する制度です。2000円以上ふるさと納税をすると、その分が翌年の住民税と所得税から控除され、さらに寄付した先の自治体からはお礼の品がもらえます。
ふるさと納税には上限があり、この上限や控除の割合は本人の所得や家族構成、住宅ローン控除の有無などによって変わってきます。
たとえば「独身または共働きで、年収350万円の給与所得者で控除は一般的な人」で考えてみましょう。
3万円のふるさと納税をしたとすると、所得税、個人住民税合わせて2万8000円分が翌年に返ってきます。返礼品がふるさと納税額の3割の価値があったとすると、9000円相当なので、合わせて3万7000円。つまり3万円の寄付をすることで、7000円もお得になる計算です。
■「返礼品合戦」は想定外だった
最初にふるさと納税の制度ができたのは2008年で、「国民が自分を育ててくれたふるさとにも納税できた方がいいんじゃないか」というのが制度設立の趣旨でした。その前年に総務大臣だった菅義偉さん、首相だった安倍晋三さん、そのブレーンだった高橋洋一さんらの発案とされます。
当初の仕組みは「国民が自分の住んでいる場所とは違う自治体に『ふるさと納税』という名目で寄付をし、そのことを確定申告すると、自分が住んでいる自治体と勤めている企業に連絡が行って、翌年の住民税が減額される」というものでした。
制度をつくった人たちは意識していなかったようですが、このふるさと納税の仕組みは実は住民税の納税に、「各自治体が国民の税金を奪い合う」という競争原理を導入するものでした。

制度ができると、いくつかの自治体がふるさと納税してくれた人にお礼の品を送り始めました。このふるさと納税の返礼品については、法律に記載は一切ありません。制度を設立した際、今のような返礼品合戦は全くの想定外だったということですね。
■「iPad」「寄付額2分の1の金券」という黄金期も…
ちなみに私は2009年に、「ふるさと納税すると、お肉やお米がもらえますよ」という情報をNHKに持ち込んで、ふるさと納税特集を企画したことがあります。
ただ当初は減税してもらうのに確定申告が必要だったこと、また寄付の上限額が給与年収500万円の方で約2万円と低く、一方で控除額が5000円と高かったこともあり、ほとんど普及しませんでした。
制度ができた2008年から2014年までは、ふるさと納税の低迷期だったのです。
そこで政府は2011年、制度のテコ入れを狙い、寄付金控除の下限額を5000円から2000円に引き下げました。そのあたりから徐々にこの制度を使い始める人が増えてきて、2012年に最初のふるさと納税ポータルサイト「ふるさとチョイス」が開設されています。
さらなるテコ入れのため、2015年にふるさと納税の大改正が行われました。
このときの政権は第2次安倍内閣で、「地方創生」を提唱していたのです。
それを受けて、ふるさと納税を普及させるために、納税額の上限をそれまでの「住民税所得割の1割」から「2割」へ倍増。さらに「ワンストップ特例」が始まります。

これはふるさと納税をすると、納税を受けた自治体が、納税してくれた人の住む市町村に連絡してくれる仕組みです。これにより減税を受けるのに確定申告をする必要がなくなりました。
このワンストップ特例によって、2015年(平成27年度)からふるさと納税件数が急増します。
返礼品の豪華さに関しては、それから3年ぐらいが黄金期でした。
自治体間の寄付の争奪戦が過熱し、地域に全然関係ないiPadがもらえたり、寄付額の半分ぐらいの金券がもらえたりしたのです。
■返礼品がどんどん“しょぼく”なっていく理由
そうした状況を見て、総務省が規制を導入します。
このふるさと納税の制度は、「がんばった地方自治体が自らの力で資金を得る」という画期的な制度でしたが、もともと総務省としてはおもしろい話ではありませんでした。
まず、地方交付税交付金という形で総務省が自治体を支配してきた力が弱くなります。
さらに、「税収が目減りする」という問題もありました。
ふるさと納税では本来、住民税の納付先が自分の住んでいる自治体からふるさと納税先の自治体に移るだけの制度です。日本国全体で見れば住民税が都会から地方に移ることになりますが、納税金額自体は何の変化もないはずでした。
ところがふるさと納税が盛り上がってくると、自治体は寄付を獲得するために、ふるさと納税のポータルサイトや返礼品を企画する業者にお金を払うようになりました。
結果、ふるさと納税の枠の2割程度が民間業者に渡るようになったのです。
住民税が左から右に移動する間に、自治体が使える予算が実質2割減ってしまう。これは総務省としても看過できません。
そこで始まったのが、総務省による“返礼品への規制”です。
■制度“改悪”の歴史
まず2017年に、「ふるさと納税の返礼品は節度あるものにしてください」と要請しました。商品券やプリペイドカードのように換金できるものは認められなくなり、各自治体の特産品に限られることになりました。自分の住んでいる自治体にふるさと納税した住民に返礼品を贈ることも認められなくなります。そんなことをしてもただ業者にお金を払うだけになるから、という理由です。
翌2018年には総務大臣通知という形で新たなルールができます。その代表的なものが「返礼品は寄付金額の3割以下の価格で調達すること」といういわゆる「3割ルール」です。寄付金1万円だったら3000円で仕入れられるものを返礼品にしなさい、という縛りです。
2019年には「指定制度」が始まります。
これは「総務大臣が指定した自治体でなければ住民税減額を認めない」というものです。これまでの通知をうけて、多くの自治体は返礼品の見直しを行いましたが、一部、見直さずに“違反”を続けた自治体があったために導入された制度です。
指定制度から外れた自治体にふるさと納税をすると、寄付しただけで控除がなくなってしまいます。総務省が毎年10月から翌年の9月にかけて各自治体をチェック、一定の基準を満たさなかった自治体は、次の年にふるさと納税の指定から外されます。
2020年10月には旅行のクーポンに規制が入ります。都道府県をまたいで旅行するようなクーポンは返礼品として認めず、旅行はその自治体内の旅館やホテルに限りなさい、というもの。また5万円を超えるような高額な旅行プランも認められなくなります。
■そして、ついにポイント還元が禁止に
その後もちょくちょくルール改正があったのですが、中でも大きかったのが、2023年10月に、「返礼品は物流費用を含めて寄付額の5割以下」というルールができたことです。つまり「寄付したのが1万円だったら、返礼品の仕入価格、配送費やポータルサイトへの手数料、広告費などの諸費用を全て入れて5000円以内に抑えなさい」というルールです。
さらに今年、2025年10月からは、ポイント還元が全面的に禁止されます。
これまでは「ふるさと納税の寄附をすると、寄附額に応じてAmazonギフト券や楽天ポイントなどがもらえる」というキャンペーンが行われていました。Amazonでも「ふるさと納税で15%還元」と言っていますし、「30%ポイント還元」と謳っているところもありました。
ポイントを還元してくれるということは、市町村がふるさと納税業者に払う広告費などにその分を上乗せしていると考えられるわけです。
このポイント還元禁止に対しては楽天が怒って裁判を起こしていますが、総務省としてはとにかく、税金を横取りしているふるさと納税関連業者が目障りなのですね。
■毎年「9月までがお得」なワケ
ここまで見てきた通り、ここ数年はずっと毎年10月に改正が行われています。
なぜ、10月なのか。それには理由があります。
2019年にできた指定制度が、「毎年9月末に1年分をまとめてチェックする」という仕組みだったためです。つまりふるさと納税は毎年10月からが新しいシーズンのスタートになっているのです。
そのため制度の改正も毎年10月を区切りに実施されているのですが、総務省による改正は国民にとって損になることが多いのです。ですから「ふるさと納税をするのなら、毎年9月までがお得」ということになるわけです。
このような仕組みなので、「9月までの納税がお得」、というのは来年以降も同じです。来年、2026年10月にもさらなる制度改正が予定されています。
来年の改正は「調達費用の妥当性」や「募集費用の透明性」などいくつか項目がありますが、影響が大きそうなのが、「確認事務の効率化」です。
これまでは自治体が返礼品を出す際、一つひとつ総務省に確認を取っていたのですが、それがなくなるのです。
そうなるとおそらく各自治体は「後から総務省からチェックが入りそうなは返礼品は避ける」という対応をすると予想されます。
自治体が返礼品選びについて萎縮してしまうと、国民は「なんかふるさと納税、昔に比べてお得なものが少ないな」ということになるかもしれません。
■「上限額オーバーしちゃった…」への解決策
「ふるさと納税は毎年、9月末までに行うのが有利」とお伝えしましたが、ふるさと納税の上限を決める年収の算定期間は毎年1月1日から12月31日までです。
つまり9月にふるさと納税をする場合、多くの人はその時点ではその年の年収が確定していないことになります。会社員の方なら冬のボーナス次第で上限額が変わってしまいますし、自営業の方は残り3カ月の収入がいくらになるか、もっとわからないでしょう。
結局、12月末までの収入を自分で予測した上で、シミュレーションサイトなどで上限額を計算するしかないのですが、「思ったよりも収入が少なくなって、上限をオーバーしてふるさと納税をしてしまった」となった場合、どうなるのでしょうか。
「余計に寄付した分だけ丸損になるのでは?」と心配する方もいるでしょうが、実際は上限額をオーバーした場合であっても、オーバーした分を全額損するわけではありません。
この仕組みについては、動画で詳しく解説していますが、特例分以外の住民税、所得税については翌年の税金が安くなります。返礼品で納税額の3割分を返してもらえれば、超過分のうち60%、1万円オーバーなら6000円程度はカバーできる計算です。
ただしそのためには確定申告が必要で、しない場合は住民税分しか減税されません。ですから上限額をオーバーした場合は必ず確定申告をして、所得税分の控除を取り戻しましょう。
2025年度のふるさと納税利用者は1079万人(総務省調べ)。納税義務者のたった16%、6人に1人しかやっていない計算です。
「返礼品の豪華さ」でいえば、制度の改悪は続き、納税者の「お得感」は年々減少していると言わざるを得ません。しかし、節税という視点で考えれば、そうはいってもやはり「やらないと損」な制度であることには変わりありません。
ふるさと納税は日本オリジナルの制度で、この先どういう方向に向かうのか読めないところがありますが、とりあえずはっきりしているのは、今年10月と来年10月にルールの変更があり、再来年以降も同様であろうということ。
なので、「ふるさと納税は、9月中に済ませたほうがお得ですよ」と言えるのです。

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山田 真哉(やまだ・しんや)

公認会計士・税理士

芸能やアニメ関連専門の会計事務所「芸能文化税理士法人」会長。内閣官房行政改革推進会議EBPM・歳出改革等有識者グループ参画。著書『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』は165万部を超える大ベストセラーに。YouTubeチャンネル「オタク会計士ch【山田真哉】少しだけお金で得する」は登録者数100万人超。

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(公認会計士・税理士 山田 真哉)
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