※本稿は、溝口徹『腸の不調がなくなる「小麦」の抜き方』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■なぜ、毎日食べている小麦を抜かなければならないのか
私のクリニックでは、「心身の不調には栄養の不足やトラブルがかかわっている」とする「オーソモレキュラー栄養療法」をおこなっています。治療の際には不足している栄養素を補うのと同時に、食事指導をおこないます。
その際、すべての患者さんにお願いしているのが「小麦」を抜くこと。
私たちのまわりには、パンやパスタ、ラーメンやうどんといった主食から、ケーキやクッキーなどの嗜好品まで、たくさんの小麦製品があふれています。「なぜ、毎日食べている小麦を抜かなければならないのか」と驚く患者さんがほとんどです。
しかし、どんなに体にいい栄養素を摂っても、消化・吸収されなければ意味がありません。この消化・吸収の妨げになるものこそが「小麦」なのです。
下痢や便秘、腹痛を繰り返す、おなかにガスがたまってしまうといった人は、小麦が原因で消化・吸収のトラブルが起きている可能性があります。さらに、小麦は次のようなさまざまな不調とのかかわりも指摘されています。
・疲れがとれない。
・頭痛や肩こり、関節痛がある
・つい食べすぎてしまう
・食後に膨満感や胃もたれがある
・花粉症、アトピー、ぜんそくなどのアレルギーがある
・ニキビや肌荒れがある
・イライラする。集中できない
それだけではありません。私のクリニックでは、うつや発達障害と関係しているケースもあります。小麦は腸だけでなく、全身の不調とかかわっているのです。
「小麦不調」の原因として知られているのが、小麦に含まれている「グルテン」です。そこで欧米では2010年代に入ってから、グルテンを避ける「グルテンフリー」という食事法が注目され、広がりはじめました。
当初はハリウッドセレブやアスリートが実践する食事法として知られていましたが、日本では2015年に、プロテニスプレーヤーのノバク・ジョコビッチ選手の本『ジョコビッチの生まれ変わる食事』が出版されたのをきっかけに流行。今ではスーパーでもグルテンフリー食材が手に入るようになり、より身近になっています。
■小麦だけでなく乳製品にも注意が必要な理由
一方で、グルテンフリーとともに実践したほうがいいのが、カゼインフリーです。私のクリニックでも、グルテンフリーとセットでカゼインフリーをすすめています。
カゼインとは、乳に含まれるたんぱく質です。乳たんぱくの約8割がカゼイン、残り約2割がホエイです。
グルテン同様、このカゼインがさまざまな悪さをしているということがわかっています。
これまでは牛乳を飲むと湿疹が出るといった、いわゆる即時型のIgEアレルギーのほうはよく知られていましたが、牛乳などの乳製品を飲むと具合が悪くなる人のなかに、カゼインに対して反応している人が、かなりたくさんいるのではないかということがわかってきました。つまり、乳製品の隠れアレルギーです。
もちろんカゼインは牛乳だけでなく、チーズやヨーグルトにも含まれています。
腸内環境を整えるために、ヨーグルトを摂取している人は多いのではないでしょうか。
ヨーグルトには善玉菌である乳酸菌が含まれていて、整腸作用があります。だから毎朝食べることで腸がきれいになる、ということが常識になっています。
確かに乳酸菌は腸内で善玉菌として働き、腸内環境を整えてくれます。ただし、「生きたまま腸まで届いている」という条件つきです。
そして、ヨーグルトの原料は、いうまでもなく「牛乳」です。ヨーグルトにも当然、カゼインが含まれています。
「いつも冷蔵庫に入っているもの」――それがIgGアレルギーのリスクを増していきます。
それだけではありません。腸内環境をよくしようとして、かえって腸を荒らす引き金になっているかもしれないのです。
グルテンは脳内で麻薬のような作用を引き起こすことがわかっていますが、実はカゼインも同様に、麻薬様の作用を引き起こします。
頻繁に牛乳を飲んでいると、「毎日飲みたい」「チーズやヨーグルトを毎日食べずにはいられない」という人が出てくるというわけです。
■「乳製品を摂ると、ほっとする」は要注意
たとえば、給食で週5日、牛乳を飲み続けている子どもたちのなかにも、無意識のうちに牛乳の中毒症状を起こすお子さんがいる可能性もあります。
アレルギー発作に悩まされていたある女性の患者さんも、「毎日のカフェラテとチーズがやめられない」といっていました(のちに、カゼインアレルギーが判明し、一切摂るのをやめたところ、症状は劇的に改善しました)。
カゼインも、摂れば摂るほどほしくなる中毒性があるのです。
この理由は、グルテンと同じで、アミノ酸の配列にあります。グルテンとカゼインのアミノ酸の配列は非常に似ており、それが脳には麻薬と同じように認識されてしまうのです。
自分がカゼイン中毒かどうかを確認するポイントとしては、
・頻繁に牛乳(またはチーズやヨーグルトなどの乳製品)を摂っている
・牛乳など乳製品を毎日食べたくて仕方がない
・乳製品を摂ると、ほっとしたり、幸福感、満足感を得ることができる
などが挙げられます。
ちなみに乳製品というと「バターも摂取してはいけないのか」と聞かれることがありますが、バターの成分はほとんどが脂質であり、乳たんぱくとしての抗原性が非常に少ないことがわかっているため、こちらはそれほど意識しなくても大丈夫でしょう。
■毎日の給食の牛乳が腸に非常事態を招く可能性
ヨーグルトと同じように、「カルシウムを補うために、毎日牛乳をコップ1杯飲んでいる」という人も多いと思います。
否応なしに毎日牛乳を飲んでいるのが、全国の公立小・中学校に通う子どもたちです。給食で毎日子どもたちは、1本200mlの牛乳を飲んでいます。
IgGアレルギーについては頻度が問題だと述べましたが、そもそも人の腸というのは、同じ食材が頻繁に入ってくることを想定していません。本来、いろいろな食材が入ってくることが自然であり、それに対応するようにできているのです。
そう考えると、毎日の給食の牛乳は、腸にとって非常事態を招くのではないでしょうか。
給食のメニューを見てみると、牛乳とご飯、牛乳と麺類など、普通の家庭では考えられない組み合わせが多く見られます。この組み合わせが合わないとして、新潟県三条市では試験的に給食から牛乳の提供を停止しました。
牛乳からの栄養摂取は必要だということで、新たに「ドリンクタイム」を設けて提供していましたが、2015年9月から市内の小中学校で、牛乳を学校の給食の献立から外す決定をし、2021年4月にはドリンクタイムも廃止したそうです。
栄養面ではご飯とおかずの量を増やし、カルシウムを多く含む食材を利用するなど工夫しました。反発も多かったそうですが、勇気ある行動だと思います。
■夏休みにカゼインを抜くとアレルギー体質が改善
B君は7歳の男の子。
B君はアレルギー体質で、ひじやひざの裏にはよく湿疹ができていて、かゆみを訴えていました。腸の具合もあまりよくなく、頻繁に下痢をして、おならも多かったそうです。
お母さんはときどき皮膚科に行って塗り薬をもらってはいましたが、「アレルギー体質だから仕方ない」と思う程度だったといいます。それが、あることをきっかけに「もしかしたら牛乳に原因があるのではないか」と思うようになったのです。
それが「夏休み」。夏休みは当然、給食がないから、牛乳を飲まなくなります。時を同じくして、クリニックでカゼインの話を聞いたお母さんは、試しに家でも牛乳を飲ませないようにしました。すると、体のかゆみ、下痢症状がすべて改善してしまったのです。
ところが、2学期がはじまったとたん、またB君の下痢とかゆみがはじまりました。ここで「牛乳が原因かもしれない」という推測は、確信に変わったのです。
B君の学校では、給食での牛乳を控えるためには、アレルギー検査をして医師の診断書を学校に提出しなければなりませんでした。
当然のことです。そのアレルギー検査は、即時型のIgEアレルギーの検査だったのです。結局、口頭で先生に症状を説明して、なんとか給食で牛乳を与えることをやめてもらい、毎日水筒にお茶を入れて持って行くようになりました。
今では症状も落ち着いて、元気に学校に通っています。
■発達障害が劇的に改善した食事メニュー
B君は家庭でも牛乳をよく飲んでいたと書きましたが、その牛乳のほしがり方は、一種異様だったとお母さんはいいます。
「牛乳、牛乳」といい、気がつくと1Lの紙パックの牛乳がなくなっていきます。3日に1本は買わなければならないほどだったそうです。
これも、前項でお話しした、カゼインの麻薬用作用のなせるわざでしょう。よく飲むもの、大好物であるがゆえに、IgGアレルギーを起こしていたのだと考えられます。
日本の子どもにIgGアレルギーの検査をすると、ほとんどの子に多かれ少なかれ、乳製品に反応が出ます。この理由は、やはり給食にあるのではないでしょうか。
C君も牛乳で発達障害が劇的に改善した男の子です。
C君は就学前から落ち着きのなさが目立っていました。小学校に入っても読み書きが上達せず、発達障害を疑ったお母さんが専門外来を訪れたのは7歳のとき。トレーニングを受けて症状は多少改善しましたが、C君には片頭痛(へんずつう)という身体症状がありました。
薬も服用していましたが、あるとき頭痛を治そうと訪ねた整体院で、牛乳をやめ、白米を五分づき玄米に替えるようにアドバイスされ、実践したところ、頭痛が激減したのです。これもB君同様、給食がない夏休みの出来事です。
食べ物とのかかわりに関心を持ったお母さんは、再び学校がはじまり給食の牛乳を飲むようになると、C君の頭痛がぶり返したことから、食べ物が原因であることを確信し、私のクリニックを訪れました。
検査の結果、「牛乳をはじめとする乳製品全般」「卵白・卵黄」「大豆」「小麦類(小麦グルテン、全粒粉小麦、ライ麦)」「ゴマ、クルミ、もやし、ニンニク」など、かなり多くの食品にアレルギーがあることがわかりました。
■アレルギーの食材を一生口にできないわけではない
ここでわかったのは、給食で頻繁に摂る牛乳のアレルギーが大きいということでした。
糖質制限や頻回食(ひんかいしょく)などの食事指導とともに、アレルギー食材を除去する必要は急務でした。お母さんには給食のなかで食べられない食材を手づくりのお弁当で代替してもらいました。
また、C君もご多分にもれず腸の粘膜に炎症があり、カンジダの感染が疑われたので、除菌のためのサプリメントを服用してもらいました。
そして治療を開始して1年後、症状は劇的に改善。
頭痛はまったくなくなり、読み書きが向上しなかったC君が、なんと漢字テストで100点をとったというから驚きました。今では先生から「きれいにノートがとれている」とほめられるほどになったといいます。
気持ちの落ち込みもほとんどなくなり、授業も落ち着いて聞けるようになり、成績も急上昇したそうです。
アレルギー食材のなかで、食べられるものも増えてきました。お母さんにとっても嬉しい変化でしょう。これは、腸の粘膜が強くなった証拠です。
牛乳を飲んでおなかがゴロゴロしないからといって、カゼインにアレルギーがないとはいえません。実際、検査をするとカゼインに反応をする人でも、牛乳を飲める人はたくさんいます。やはり、「抜いてみないとわからない」のです。
B君もC君も、牛乳を抜いてみなければ原因がわからなかったことでしょう。
IgGアレルギーのいいところは、アレルギーの食材を一生口にできないわけではないということ。しっかり抜けば、ある程度時間が経ったところで症状が改善していきます。そうなれば、症状の度合いにもよりますが、その後はある程度、その食品を入れても平気になることが多いのです。
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溝口 徹(みぞぐち・とおる)
医師
1964年生まれ。神奈川県出身。福島県立医科大学卒業。横浜市立大学病院、国立循環器病センターを経て、1996年、痛みや内科系疾患を扱う辻堂クリニックを開設。2003年には日本初の栄養療法専門クリニックである新宿溝口クリニック(現・みぞぐちクリニック)を開設。著書に『2週間で体が変わるグルテンフリー健康法』『発達障害は食事でよくなる』『お酒の「困った」を解消する最強の飲み方』(いずれも青春出版社)、『花粉症は1週間で治る!』(さくら舎)などがある。
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(医師 溝口 徹)