富裕層はどんな税制上のメリットを活用しているか。大手証券会社のプライベートバンキング部門で数多くの富裕層を担当していたZUU代表の冨田和成さんは「税金対策を考えるならば、ローンを組んでまで不動産投資をする価値は十分ある。
※本稿は、冨田和成『世界の大富豪が実践しているお金の哲学』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■1億円の現金を土地に変えるだけで、資産を2割圧縮
不動産を買って
一般人は、
マイホームにする
小金持ちは、
資産を増やそうとする
大富豪は、
資産を圧縮しようとする
不動産投資は手堅い運用方法ですが、同時に税制上のメリットも多くあります。
①所得税を減らすことができる
固定資産である上物(建物)の価値は、実勢価格とは関係なく国の定めによって毎年減価償却されていきます(評価額が下がるということ)。
つまり、実際には売却していないので何も損はしていないにもかかわらず、減価償却された分は「損金」として計上でき、確定申告に反映させることができます。仮に所得が1000万円の人が所有する不動産の評価額が100万円減価償却されたら、1000万から100万を差し引いた900万をその年の所得として申請できます。課税対象が減るので、当然支払う税金は減ります。
②短期間で資産の圧縮ができる
「路線価」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
国税庁が定めた各土地の平米単価のことで、実際の市場価格よりも安く設定されています。市場価格の約8掛け程度です。
もし1億円で土地を買うと路線価は8000万円。相続税はこの8掛けされた路線価にかかります。
資産家が晩年に土地を買い漁る大きな理由はここです。
もちろんこの行為は合法で、路線価が実勢価格より低く設定されているのは「土地は売りたいと思っても簡単に売れるものではないので、その流動性の低さから多少価値は下がるだろう」という国側の配慮です(実際その通りで、土地は買い手がすぐ見つかるわけではないので十分考慮する必要があります)。
また先ほど上物の減価償却の話をした通り、建物の評価額も年数が経過するにつれ下がっていきます。
相続税は建物にも当然かかりますが、その際も実勢価格ではなく減価償却後の固定資産評価額に対して課税をしますから、こちらでも資産が圧縮できるのです。
■流動性が低くなるため、相続税評価額はさらに下がる
③貸し出すことでさらに資産を圧縮できる
実勢価格と評価額の差額をさらに広げたいのであれば、物件を貸し出してしまうことが一番簡単です。他人が住んでいる物件は売りたいと思っても入居者の同意が必要な分、流動性が低くなるため、相続税評価額はさらに下がることになるからです。
1億円で物件を買ったとしてそれを貸し出すと、評価額は半分以下になることもあります。富裕層がマンション経営やアパート経営をよくしているのは、こういった資産圧縮効果もひとつの理由です。
④「不動産小口化商品」を買うことで資産を圧縮できる
また「不動産小口化商品」を購入することも、相続税において大きなメリットがあります。不動産小口化商品とは、都心のビルといった高額な不動産を、一口100万円程度に小口化し、家賃収入などを投資額に応じて分配する商品のことです。仮に100億円の不動産があれば、それを1万口に分けて100万円単位で所有するイメージです。
この仕組みの最大の利点は、出資した持ち分の相続税評価額を大きく引き下げられることにあります。これは、②でも説明した通り、現金と違って不動産の評価額が「路線価」などで計算されるためです。
■相続税が2億円減った富裕層も
このように、不動産投資はフロー(所得)上のメリットだけではなく、ストック(資産)上のメリット(資産圧縮効果)がとても大きいのです。
現役時代に不動産投資とは無縁だった大富豪でも、税金対策を考えるならば、ローンを組んでまで不動産投資をする価値は十分あります。私のお客様で、こうした不動産投資による資産圧縮によって、相続税が5億円から3億円になった方もいました。
不動産投資で必ず想定しておくべきことは、よほど高需要の物件以外は(評価額だけではなく)実勢価値がすぐに下がる性質であることです。
ただ、資産の大きい人は何もしなければ最大55%の資産がそのまま徴収されるのですから、不動産価値が下がることを織り込んでも、税金対策の効果の方が高くなりやすいわけです。
不動産投資は
二度おいしい
■上昇傾向の所得税・相続税と、下降傾向の法人税の差を利用
一家の資産管理は
一般人は、
口座に資産を入れっぱなし
小金持ちは、
自分の会社で家族を雇う
大富豪は、
資産管理会社を立ち上げる
大富豪にまつわるニュースで「資産管理会社」という言葉を聞いたことがあると思います。
普通の人には実態がわからないので、なにやらグレーなイメージがつきまといますが、決して怪しいものではありません。
資産運用の額が大きくなると銀行から「資産管理会社を立ち上げませんか?」と打診がきます。それくらい普通のことで、自分の資産管理会社を持っていることは大富豪の証です。
資産管理会社の目的はずばり、税金対策です。
名目上は「不動産投資や株式投資などの管理を行なう会社」となっていますが、個人として資産を保有するより法人が所有する形にしてしまった方が税制上のメリットが大きいため、わざわざ資産管理会社を立ち上げるのです。
そのメリットをいくつか紹介したいと思います。
ちなみに資産管理会社には「管理・運営」のみを行なう形態と、資産を丸ごと「保有」する形態がありますが、前者は税金対策のメリットが少ないので、後者を前提に話をすすめます。
①法人税への切り替えによる税金対策
個人で不動産投資をしていると個人所得税がかかります。最高税率は住民税と合わせ55%。しかし、それを法人の保有に変えれば、収入にかかる税金は法人税に変わります。2025年現在、実効税率は30%前半です(法人やその他区分によってブレあり)。
また、ご存じの通り、政府は企業の国際競争力を上げるためにここ数年、法人税を下げる方向で推移しています。
上昇傾向の所得税・相続税と、下降傾向の法人税。
その差を利用しない手はありません。
また、法人にすれば個人のときでは適応されなかったさまざまな経費を計上できるようになり、さらに税金を抑えることができます(もちろん法人の運営のための経費であれば)。
役員報酬や退職金はもとより、自宅の家賃の一部を社宅補助という形で経費にする方もいますし、会社で契約する保険料の一部なども経費にすることが可能です。
■家族を従業員ではなく役員として雇って所得分散
②役員報酬による生前贈与
資産管理会社の大きなメリットは、所得を家族で分散できることです。両親、奥さん、子どもなどを「役員」にして報酬を払えば、個人ひとりで稼ぐより所得税の面で有利です。
家族を役員ではなく従業員として雇って所得分散をしている中小企業経営者が大勢いますが、勤務実態と報酬額が不釣り合いだと税務署から指摘を受ける可能性があるので注意が必要です。
「実務能力がない人間を役員にするのはどうなのか」という声も聞こえてきそうですが、もし資産管理会社が乗っ取られたら家族の資産ごと取られます。それを防ぐために役員に血族を据える判断は至極真っ当でしょう。
それに家族に役員報酬の形で収入を分配しておくことで、生前贈与の効果もあります。報酬はキャッシュですので、相続税を払うときに残された家族が資産の現金化に奔走する心配もなくなります。
③法人ごと継承することによる相続対策
個人で保有する不動産を相続する場合は、その不動産の価値によって相続税が決まります。
一方で法人ごと相続する場合、その会社の株式価値をもとに相続税を算出します。そして、その評価基準は「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」の2種類があります(厳密には3つで、「配当還元方式」も存在しますが、あまり使われることはないため省略します)。
かなりの専門知識を要するので詳しくは解説しませんが、あえて簡単に言えば、前者は企業の純利益を中心に決める方式で、後者はその会社が保有する純資産をもとに算出する方式です。
不動産しか持っていないような法人の場合は後者が適応されてしまい、税金を考えるとむしろ不利になりますが、税理士のアドバイスをもとに資産の割合を調整すれば前者が適応され、さまざまな手段で資産を圧縮して、実際の不動産価値よりも安い評価額で法人ごと資産を継承することもできるのです。
これらの手法は非常に複雑なので、専門家の助言なしではできません。必ず税理士資格を持ったプロの判断を仰ぐようにしてください。
一家という単位で
税金対策をする
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冨田 和成(とみた・かずまさ)
ZUU社長兼CEO
神奈川県出身。一橋大学在学中にIT分野で起業。2006年大学卒業後、野村證券株式会社に入社。本社の富裕層向けプライベートバンキング業務、ASEAN地域の経営戦略担当等に従事。2013年3月に野村證券を退職。同年4月に株式会社ZUUを設立し代表取締役に就任。
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(ZUU社長兼CEO 冨田 和成)
かつて私のお客様で、不動産投資による資産圧縮によって、相続税が5億円から3億円になった方もいた」という――。
※本稿は、冨田和成『世界の大富豪が実践しているお金の哲学』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■1億円の現金を土地に変えるだけで、資産を2割圧縮
不動産を買って
一般人は、
マイホームにする
小金持ちは、
資産を増やそうとする
大富豪は、
資産を圧縮しようとする
不動産投資は手堅い運用方法ですが、同時に税制上のメリットも多くあります。
①所得税を減らすことができる
固定資産である上物(建物)の価値は、実勢価格とは関係なく国の定めによって毎年減価償却されていきます(評価額が下がるということ)。
つまり、実際には売却していないので何も損はしていないにもかかわらず、減価償却された分は「損金」として計上でき、確定申告に反映させることができます。仮に所得が1000万円の人が所有する不動産の評価額が100万円減価償却されたら、1000万から100万を差し引いた900万をその年の所得として申請できます。課税対象が減るので、当然支払う税金は減ります。
②短期間で資産の圧縮ができる
「路線価」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
国税庁が定めた各土地の平米単価のことで、実際の市場価格よりも安く設定されています。市場価格の約8掛け程度です。
もし1億円で土地を買うと路線価は8000万円。相続税はこの8掛けされた路線価にかかります。
つまり1億円の現金を土地に変えるだけで、資産を2割圧縮できるのです。
資産家が晩年に土地を買い漁る大きな理由はここです。
もちろんこの行為は合法で、路線価が実勢価格より低く設定されているのは「土地は売りたいと思っても簡単に売れるものではないので、その流動性の低さから多少価値は下がるだろう」という国側の配慮です(実際その通りで、土地は買い手がすぐ見つかるわけではないので十分考慮する必要があります)。
また先ほど上物の減価償却の話をした通り、建物の評価額も年数が経過するにつれ下がっていきます。
相続税は建物にも当然かかりますが、その際も実勢価格ではなく減価償却後の固定資産評価額に対して課税をしますから、こちらでも資産が圧縮できるのです。
■流動性が低くなるため、相続税評価額はさらに下がる
③貸し出すことでさらに資産を圧縮できる
実勢価格と評価額の差額をさらに広げたいのであれば、物件を貸し出してしまうことが一番簡単です。他人が住んでいる物件は売りたいと思っても入居者の同意が必要な分、流動性が低くなるため、相続税評価額はさらに下がることになるからです。
1億円で物件を買ったとしてそれを貸し出すと、評価額は半分以下になることもあります。富裕層がマンション経営やアパート経営をよくしているのは、こういった資産圧縮効果もひとつの理由です。
④「不動産小口化商品」を買うことで資産を圧縮できる
また「不動産小口化商品」を購入することも、相続税において大きなメリットがあります。不動産小口化商品とは、都心のビルといった高額な不動産を、一口100万円程度に小口化し、家賃収入などを投資額に応じて分配する商品のことです。仮に100億円の不動産があれば、それを1万口に分けて100万円単位で所有するイメージです。
この仕組みの最大の利点は、出資した持ち分の相続税評価額を大きく引き下げられることにあります。これは、②でも説明した通り、現金と違って不動産の評価額が「路線価」などで計算されるためです。
■相続税が2億円減った富裕層も
このように、不動産投資はフロー(所得)上のメリットだけではなく、ストック(資産)上のメリット(資産圧縮効果)がとても大きいのです。
現役時代に不動産投資とは無縁だった大富豪でも、税金対策を考えるならば、ローンを組んでまで不動産投資をする価値は十分あります。私のお客様で、こうした不動産投資による資産圧縮によって、相続税が5億円から3億円になった方もいました。
不動産投資で必ず想定しておくべきことは、よほど高需要の物件以外は(評価額だけではなく)実勢価値がすぐに下がる性質であることです。
ただ、資産の大きい人は何もしなければ最大55%の資産がそのまま徴収されるのですから、不動産価値が下がることを織り込んでも、税金対策の効果の方が高くなりやすいわけです。
不動産投資は
二度おいしい
■上昇傾向の所得税・相続税と、下降傾向の法人税の差を利用
一家の資産管理は
一般人は、
口座に資産を入れっぱなし
小金持ちは、
自分の会社で家族を雇う
大富豪は、
資産管理会社を立ち上げる
大富豪にまつわるニュースで「資産管理会社」という言葉を聞いたことがあると思います。
普通の人には実態がわからないので、なにやらグレーなイメージがつきまといますが、決して怪しいものではありません。
資産運用の額が大きくなると銀行から「資産管理会社を立ち上げませんか?」と打診がきます。それくらい普通のことで、自分の資産管理会社を持っていることは大富豪の証です。
資産管理会社の目的はずばり、税金対策です。
名目上は「不動産投資や株式投資などの管理を行なう会社」となっていますが、個人として資産を保有するより法人が所有する形にしてしまった方が税制上のメリットが大きいため、わざわざ資産管理会社を立ち上げるのです。
そのメリットをいくつか紹介したいと思います。
ちなみに資産管理会社には「管理・運営」のみを行なう形態と、資産を丸ごと「保有」する形態がありますが、前者は税金対策のメリットが少ないので、後者を前提に話をすすめます。
①法人税への切り替えによる税金対策
個人で不動産投資をしていると個人所得税がかかります。最高税率は住民税と合わせ55%。しかし、それを法人の保有に変えれば、収入にかかる税金は法人税に変わります。2025年現在、実効税率は30%前半です(法人やその他区分によってブレあり)。
また、ご存じの通り、政府は企業の国際競争力を上げるためにここ数年、法人税を下げる方向で推移しています。
上昇傾向の所得税・相続税と、下降傾向の法人税。
その差を利用しない手はありません。
また、法人にすれば個人のときでは適応されなかったさまざまな経費を計上できるようになり、さらに税金を抑えることができます(もちろん法人の運営のための経費であれば)。
役員報酬や退職金はもとより、自宅の家賃の一部を社宅補助という形で経費にする方もいますし、会社で契約する保険料の一部なども経費にすることが可能です。
■家族を従業員ではなく役員として雇って所得分散
②役員報酬による生前贈与
資産管理会社の大きなメリットは、所得を家族で分散できることです。両親、奥さん、子どもなどを「役員」にして報酬を払えば、個人ひとりで稼ぐより所得税の面で有利です。
家族を役員ではなく従業員として雇って所得分散をしている中小企業経営者が大勢いますが、勤務実態と報酬額が不釣り合いだと税務署から指摘を受ける可能性があるので注意が必要です。
「実務能力がない人間を役員にするのはどうなのか」という声も聞こえてきそうですが、もし資産管理会社が乗っ取られたら家族の資産ごと取られます。それを防ぐために役員に血族を据える判断は至極真っ当でしょう。
それに家族に役員報酬の形で収入を分配しておくことで、生前贈与の効果もあります。報酬はキャッシュですので、相続税を払うときに残された家族が資産の現金化に奔走する心配もなくなります。
③法人ごと継承することによる相続対策
個人で保有する不動産を相続する場合は、その不動産の価値によって相続税が決まります。
一方で法人ごと相続する場合、その会社の株式価値をもとに相続税を算出します。そして、その評価基準は「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」の2種類があります(厳密には3つで、「配当還元方式」も存在しますが、あまり使われることはないため省略します)。
かなりの専門知識を要するので詳しくは解説しませんが、あえて簡単に言えば、前者は企業の純利益を中心に決める方式で、後者はその会社が保有する純資産をもとに算出する方式です。
不動産しか持っていないような法人の場合は後者が適応されてしまい、税金を考えるとむしろ不利になりますが、税理士のアドバイスをもとに資産の割合を調整すれば前者が適応され、さまざまな手段で資産を圧縮して、実際の不動産価値よりも安い評価額で法人ごと資産を継承することもできるのです。
これらの手法は非常に複雑なので、専門家の助言なしではできません。必ず税理士資格を持ったプロの判断を仰ぐようにしてください。
一家という単位で
税金対策をする
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冨田 和成(とみた・かずまさ)
ZUU社長兼CEO
神奈川県出身。一橋大学在学中にIT分野で起業。2006年大学卒業後、野村證券株式会社に入社。本社の富裕層向けプライベートバンキング業務、ASEAN地域の経営戦略担当等に従事。2013年3月に野村證券を退職。同年4月に株式会社ZUUを設立し代表取締役に就任。
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(ZUU社長兼CEO 冨田 和成)
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