記憶を定着させるには、何をすればいいか。医師の和田秀樹さんは「手は『第二の脳』と言われるように5本の指から手首まで多くの神経細胞が集まり、それが脳にリンクしている。
※本稿は、和田秀樹『70歳からの老けないボケない記憶術』(ワン・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■書くことで脳が活性化する「筆記記憶法」
手を使ってひたすら書いて覚えるのが「筆記記憶法」です。
記憶するためには、目で見て脳で覚えるだけがその方法ではありません。声に出して読んだり、耳で聴いたり、歩き回ったりするのもひとつの手です。そのほうが脳が活性化するからです。
なかでも手で書く行為は有効です。どうしてかというと、手には5本の指から手首まで多くの神経細胞が集まり、それが脳にリンクしているからです。「手は第二の脳」とまで言われています。
手を使って多くの知識を得ている人といえば、作家がいい例です。彼らはもともと物知りというよりも(博覧強記の方もいらっしゃいますが)、調べたことを理解し、手で文章を書くことで物知りになっていく人が多いと思います。
記憶にとって、理解が重要なステップであることはすでにお話ししましたが、さらに情報を復習しながら書くので、より知識が貯蔵されていきます。
一般の人ではなかなか本を書く機会はありませんが、ブログやフェイスブック、X(旧ツイッター)でも同じ効果が見込めます。
可能なら、自分の記録や思ったことを書く日記風のものではなく、自分で極めたいテーマやニュース的な情報を書き留めたりすることをおすすめします。そうすることで、専門的な知識が増えたり、ビジネスの場で必要な情報をすぐに脳から取り出せたりする状態になります。
■話し手の言葉だけでなく、感想やイメージを書き添えておく
筆記記憶法は、どんな状況でも使えます。
英単語や難しい漢字を覚えたいとき、講演や会議の内容を記憶したいときなど、とにかくノートにメモすればいいのです。
目で覚えるのに比べて、より多くの神経細胞を使っているので、スピーディに正確に覚えることができます。
英単語や漢字は、とにかく覚えるまで繰り返し書くのがコツです。
また、講演や講座の内容を自分のものにするためには、ノートの取り方を工夫してください。
ダラダラと文章で書くよりも、ポイントやキーワードを矢印や囲みを使って書き留めるようにすると効果的です。
どうしてだかわかりますか?
すっきりと整理されていたほうが理解度が上がるからです。
加えて、話し手の言葉だけでなく、自分の感想やイメージを書き添えておくと、後々、思い出しやすくなります。
■「復習」を繰り返すことで短期記憶が長期記憶に変わる
記憶には、短期記憶と長期記憶があります。
私たちが収集した情報は、まず短期記憶として収められ、そのままにしておくとわずかしか残りません。それを忘れることなく、無意識に想起できる状態が長期記憶です。
より多くの情報を短期記憶から長期記憶に移行するには、あるタイミングで復習を繰り返さなくてはなりません。
復習するタイミングはおよそ5回です。
まずは勉強して間もないうち。開始時間の目安としては学習した10分後が最適です。なぜなら、このとき人間の記憶力は頂点に達するといわれているからです。
このタイミングで短時間でも復習をするだけで、残る記憶量にグンと差がつきます。
そして、この復習により記憶はその後およそ24時間低下することなく、ハイレベルな状態がキープできます。
2回目の復習のタイミングは、学習して24時間後です。1回目の復習を忘れないうちに次の復習をすることで、記憶が確かなものになります。この復習で、記憶は1週間から1カ月程度、高い状態を保つことができます。
3~5回目の復習は、前回の復習を忘れないうちに行いましょう。
3回目の復習は1週間後、4回目の復習は1カ月後、5回目は6カ月後が目安です。必要であれば、1年後や3年後に復習してみてください。このときにはたいてい長期記憶ができあがっているはずです。
長期記憶が形成されると、意識しなくても記憶が取り出せる状態になり、自分の名前や住所のようにすらすらと想起できます。記憶は、長期記憶として保存できてこそ、活かせるというもの。復習がいかに大切かがわかります。
また、このように復習を繰り返すと、記憶は脳の中で変化を起こし始めます。なんと、それまでに学んだこと以上に記憶量が増えてくるのです。
どうしてそのようなことが起こるのでしょうか。
この一見不可思議と思われる脳のメカニズムは次のとおりです。
人間の脳は、復習を繰り返しているうちに、それまで学習した内容すべてを組み合わせる作業を始めます。
いってみれば、記憶から思考の領域に入っている状態です。復習は人間の脳に高度な学習の機会を与えるのです。
■大脳を活性化して覚える「音読記憶法」
中高生の頃、英語を覚えるときに声に出して発音しながら覚えていた方も多いかと思います。このように覚えたいことを音読していくのが「音読記憶法」です。
「音読記憶法」では、「英語に挑戦しよう」などといった目的意識を持たなくても、自然に覚えることができるのは大きな利点でしょう。
たとえば、幼い頃にピアノを弾いて覚えるとそれから何年かブランクが空いたとしても、ピアノに向かうと自然と指が動き出します。体で覚えた記憶はそれだけ確かということです。音読記憶法も耳に記憶が染み込んでいるので、忘れにくい記憶法と言い換えることもできるでしょう。
このような記憶を「手続き記憶」といいます。その中でも筋肉の利用をともなう記憶が「運動性記憶」です。
筋肉や腱を動かすと、その運動は小脳を経て、記憶の中枢である海馬に伝えられて、大脳連合野に蓄積されます。
運動性記憶は、このように多くの神経細胞が働くことで脳に残りやすくなる仕組みになります。
この運動性記憶の代表的なものが「声に出して覚える」と「書いて覚える」になります。
■大脳の4つの領域の神経細胞を活性化させている
音読記憶法のやり方はいたって簡単。学習するときに本を声に出して読めばいいだけです。
黙々と読んでいるだけでは覚えられないことも、人から聞いた情報は自然と覚えているものです。これにははっきりとした理由があります。
それが何かというと、情報が聴覚から入ってきた分、単に目で見たよりも大脳の神経細胞を多く使っているためです。音読は、さらに「声に出す」という行為が加わります。
「目で読む」行為は、後頭葉の視覚野が働き、内容を理解するために側頭葉の感覚性言語野が活性化します。「声に出す」行為は、前頭葉にある運動性言語野が働き、「耳で聞く」行為で頭頂葉の聴覚野まで刺激します。
これに加えて、口の周りやその下の筋肉である声帯筋も使っていることから、声帯を操る部分の脳も働いています。
つまり、音読は大脳の4つの領域(前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉)すべての神経細胞を活性化させているわけです。
音読記憶法は、何度も声に出して繰り返すとさらに効果的です。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)
作家がそうであるように、自分で極めたいテーマやニュース的な情報を書き留めたりすることで、専門的な知識が増えたり、ビジネスの場で必要な情報をすぐに脳から取り出せたりする状態になる」という――。
※本稿は、和田秀樹『70歳からの老けないボケない記憶術』(ワン・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■書くことで脳が活性化する「筆記記憶法」
手を使ってひたすら書いて覚えるのが「筆記記憶法」です。
記憶するためには、目で見て脳で覚えるだけがその方法ではありません。声に出して読んだり、耳で聴いたり、歩き回ったりするのもひとつの手です。そのほうが脳が活性化するからです。
なかでも手で書く行為は有効です。どうしてかというと、手には5本の指から手首まで多くの神経細胞が集まり、それが脳にリンクしているからです。「手は第二の脳」とまで言われています。
手を使って多くの知識を得ている人といえば、作家がいい例です。彼らはもともと物知りというよりも(博覧強記の方もいらっしゃいますが)、調べたことを理解し、手で文章を書くことで物知りになっていく人が多いと思います。
記憶にとって、理解が重要なステップであることはすでにお話ししましたが、さらに情報を復習しながら書くので、より知識が貯蔵されていきます。
一般の人ではなかなか本を書く機会はありませんが、ブログやフェイスブック、X(旧ツイッター)でも同じ効果が見込めます。
可能なら、自分の記録や思ったことを書く日記風のものではなく、自分で極めたいテーマやニュース的な情報を書き留めたりすることをおすすめします。そうすることで、専門的な知識が増えたり、ビジネスの場で必要な情報をすぐに脳から取り出せたりする状態になります。
■話し手の言葉だけでなく、感想やイメージを書き添えておく
筆記記憶法は、どんな状況でも使えます。
英単語や難しい漢字を覚えたいとき、講演や会議の内容を記憶したいときなど、とにかくノートにメモすればいいのです。
目で覚えるのに比べて、より多くの神経細胞を使っているので、スピーディに正確に覚えることができます。
英単語や漢字は、とにかく覚えるまで繰り返し書くのがコツです。
また、講演や講座の内容を自分のものにするためには、ノートの取り方を工夫してください。
ダラダラと文章で書くよりも、ポイントやキーワードを矢印や囲みを使って書き留めるようにすると効果的です。
どうしてだかわかりますか?
すっきりと整理されていたほうが理解度が上がるからです。
加えて、話し手の言葉だけでなく、自分の感想やイメージを書き添えておくと、後々、思い出しやすくなります。
■「復習」を繰り返すことで短期記憶が長期記憶に変わる
記憶には、短期記憶と長期記憶があります。
私たちが収集した情報は、まず短期記憶として収められ、そのままにしておくとわずかしか残りません。それを忘れることなく、無意識に想起できる状態が長期記憶です。
より多くの情報を短期記憶から長期記憶に移行するには、あるタイミングで復習を繰り返さなくてはなりません。
復習するタイミングはおよそ5回です。
まずは勉強して間もないうち。開始時間の目安としては学習した10分後が最適です。なぜなら、このとき人間の記憶力は頂点に達するといわれているからです。
このタイミングで短時間でも復習をするだけで、残る記憶量にグンと差がつきます。
そして、この復習により記憶はその後およそ24時間低下することなく、ハイレベルな状態がキープできます。
2回目の復習のタイミングは、学習して24時間後です。1回目の復習を忘れないうちに次の復習をすることで、記憶が確かなものになります。この復習で、記憶は1週間から1カ月程度、高い状態を保つことができます。
3~5回目の復習は、前回の復習を忘れないうちに行いましょう。
3回目の復習は1週間後、4回目の復習は1カ月後、5回目は6カ月後が目安です。必要であれば、1年後や3年後に復習してみてください。このときにはたいてい長期記憶ができあがっているはずです。
長期記憶が形成されると、意識しなくても記憶が取り出せる状態になり、自分の名前や住所のようにすらすらと想起できます。記憶は、長期記憶として保存できてこそ、活かせるというもの。復習がいかに大切かがわかります。
また、このように復習を繰り返すと、記憶は脳の中で変化を起こし始めます。なんと、それまでに学んだこと以上に記憶量が増えてくるのです。
どうしてそのようなことが起こるのでしょうか。
この一見不可思議と思われる脳のメカニズムは次のとおりです。
人間の脳は、復習を繰り返しているうちに、それまで学習した内容すべてを組み合わせる作業を始めます。
それにより、知識が関連づけられて広がっていくのです。
いってみれば、記憶から思考の領域に入っている状態です。復習は人間の脳に高度な学習の機会を与えるのです。
■大脳を活性化して覚える「音読記憶法」
中高生の頃、英語を覚えるときに声に出して発音しながら覚えていた方も多いかと思います。このように覚えたいことを音読していくのが「音読記憶法」です。
「音読記憶法」では、「英語に挑戦しよう」などといった目的意識を持たなくても、自然に覚えることができるのは大きな利点でしょう。
たとえば、幼い頃にピアノを弾いて覚えるとそれから何年かブランクが空いたとしても、ピアノに向かうと自然と指が動き出します。体で覚えた記憶はそれだけ確かということです。音読記憶法も耳に記憶が染み込んでいるので、忘れにくい記憶法と言い換えることもできるでしょう。
このような記憶を「手続き記憶」といいます。その中でも筋肉の利用をともなう記憶が「運動性記憶」です。
筋肉や腱を動かすと、その運動は小脳を経て、記憶の中枢である海馬に伝えられて、大脳連合野に蓄積されます。
運動性記憶は、このように多くの神経細胞が働くことで脳に残りやすくなる仕組みになります。
この運動性記憶の代表的なものが「声に出して覚える」と「書いて覚える」になります。
■大脳の4つの領域の神経細胞を活性化させている
音読記憶法のやり方はいたって簡単。学習するときに本を声に出して読めばいいだけです。
黙々と読んでいるだけでは覚えられないことも、人から聞いた情報は自然と覚えているものです。これにははっきりとした理由があります。
それが何かというと、情報が聴覚から入ってきた分、単に目で見たよりも大脳の神経細胞を多く使っているためです。音読は、さらに「声に出す」という行為が加わります。
「目で読む」行為は、後頭葉の視覚野が働き、内容を理解するために側頭葉の感覚性言語野が活性化します。「声に出す」行為は、前頭葉にある運動性言語野が働き、「耳で聞く」行為で頭頂葉の聴覚野まで刺激します。
これに加えて、口の周りやその下の筋肉である声帯筋も使っていることから、声帯を操る部分の脳も働いています。
つまり、音読は大脳の4つの領域(前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉)すべての神経細胞を活性化させているわけです。
音読記憶法は、何度も声に出して繰り返すとさらに効果的です。
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)
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