美味しい焼肉店を見極めるには何を見ればいいのか。焼肉作家の小関尚紀さんは「肉質とタレの総合力をジャッジできる2つのメニューがある。
この部位はどの焼肉店でもほぼ価格が同じで、店側が手抜きをすることができないため、店の評価に直結する」という――。
※本稿は、小関尚紀『大人の「牛肉」教養』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■美味い焼肉店は立地でわかる
仕事など、日常のストレスから解放されて「今日は焼肉を食べよう!」と思ったとき、いつもチェーン店ばかりを選んでいませんか?
たしかに、新しいお店を開拓するのは少し勇気がいりますが、自分好みの名店を見つけたときの喜びはひとしおですよね。
今回は、そんなあなたのために、店外と店内の両方から名店を見極める「美味しい焼肉店の選び方」をご紹介したいと思います。
まずは、店外から「当たりのお店」を見つける方法について。
焼肉店は「立地型サービス産業」の代表ですが、なかには駅近ではない、住宅街の奥や、一見すると飲食店には不向きな場所で長年繁盛しているお店があります。
こういったお店は、流行りの奇抜なメニューに走らず、肉質と秘伝のタレという「焼肉の基本」で勝負している可能性が非常に高いです。
つまり、その味のよさは保証されているも同然です。
さらに、お店の前に自転車が複数台止まっているのを見かけたら、そのお店は大当たりかもしれません。これは、地元の人々に深く愛されている証拠です。
そのため、もし住宅街にひっそりと佇み、自転車が何台も並んでいる焼肉店を見つけたら、迷わず入ってみてください。かなりの確率で「当たりの名店」を引き当てることができます。

■グルメサイトの中評価帯にも「名店」は眠っている
グルメサイトで焼肉店を調べる場合も、ちょっとしたコツがあります。
まずエリアを絞ったら、総合点数に惑わされずにお店を選んでみましょう。
じつはグルメサイトの総合点数は、有名で影響力のあるレビュアーがいい点数をつけないと上がりにくいアルゴリズムになっていることが多いです。そのため、点数が低いお店が、必ずしも美味しくないお店であるわけではありません。
例えば、5点満点中、総合点はそれほど高くなくても(3.2~3.5あたり)、全体の2割が5点をつけているようなお店は逆に狙い目です。
これは、有名レビュアーには好まれない味かもしれませんが、熱烈なコアなファンがいて、ファンに強く愛されているお店である可能性が高いです。
そこで、写真もじっくり見てみましょう。
写真の撮り方が多少イマイチでも、肉の厚さや脂質の具合などの情報は写真からでも手に入れることができます。
この選び方によって、私自身も好みのお店に出会う機会が多いです。グルメサイトの中評価ゾーンにも、まだまだ名店が眠っているはずですよ。
ちなみに、「やっちゃん」「政ちゃん」「おさむちゃん」など、店名が「店主の名前+ちゃん」である焼肉店は、私の経験上、肉へのこだわりが相当強いと見て間違いありません。
このような「ちゃん系」と呼ばれる焼肉店は、関西出身の店主に多い印象です。
彼らは、肉質はもちろんのこと、個性豊かなトークでも楽しませてくれることがあります。自分の名前に「ちゃん」をつけるのは、よほどの肉への自信と、お客様との距離を縮めたいという想いの表われでしょう。
■「並カルビ」「並ロース」で店の総合力がわかる
外観から当たりのお店を見つけたら、いよいよ店内へ。
ここからは、入店してから「この店は本物だ!」と確信できる、名店の見極め方をご紹介します。
店内に入ってからの判断基準の一つは、みなさんにも馴染みのある「並カルビ」と「並ロース」です。じつは、この二つを食べるだけで、店の総合力がある程度わかります。これには、ちゃんとした理由があります。
特上や上のお肉は、A5ランクといった肉質の格付けが価格に直接影響し、希少な部位を使っていることも多いため、お店によって価格が大きくバラつきます。ところが、「並カルビ」「並ロース」は違います。
激安チェーン店を除けば、どのお店も1000円~1500円程度という、比較的似たような価格帯で提供していることがほとんどです。
これは、ほかのお店との競争の中で、「このくらいの価格で出すのが一般的だよね」という、お店同士の暗黙の了解があるためでしょう。
■同じような価格で「肉質とタレの総合力」を競っている
この限られた価格帯の中で、お店は肉質だけで勝負することが難しくなります。
そこで、お店が力を入れるのが「自慢のタレ」です。タレの味で、お肉をより美味しく引き立たせて昇華させようとします。
お客さんにとって最も馴染み深く、ほかのお店と比較しやすい定番メニューである「並カルビ」「並ロース」は、自慢のタレで美味しく引き立たせなければ、お店の評価に直結するため、この部位には決して手を抜くことができないわけです。
つまり、価格の縛りがある中で、肉質とタレの両方を含めた「総合力」で勝負しているのが「並カルビ」「並ロース」になります。
だから、この「並カルビ」「並ロース」が美味しいお店こそが、本当に「当たり」の焼肉店だと言えるのです。
■いい焼肉店は「ハツ」と「シマチョウ」にもこだわる
もう一つ、いい焼肉店を見極めるための判断基準があります。
それは、内臓系(ホルモン)を食べてみること。内臓系はカルビやロースなどの正肉と違い、鮮度が非常に重視されます。お店の質は、内臓系の鮮度にも表われるわけです。
なかでも、特にチェックしていただきたいのは「ハツ」(心臓)と「シマチョウ」(大腸)です。
ハツは、鮮度が命。上質なハツは、あずき色で肉厚です。

そして何より注目すべきは、ハツの切り口。まるで彫刻のようにエッジが効いている、つまり角がしっかり立っていて、だらけていないものが新鮮な証拠になります。
もし、解凍されて水分が出ていたり、だらしない印象のハツが出てきたりしたら、そのお店は次から避けたほうがいいでしょう。
また、シマチョウは独特の脂の旨味が魅力ですが、鮮度が落ちると臭みが出やすい部位でもあります。鮮度が高いシマチョウは、腸壁側が薄いピンク色をしており、表面の波模様がはっきりと浮き出ているのが特徴です。
この波模様が鮮明であればあるほど、新鮮な証拠。逆に、色がくすんでいたり、波模様がぼやけていたりするものは、鮮度が落ちている可能性があります。
つまり、シマチョウの美しい見た目は、お店が内臓系の仕入れや管理にどれだけ力を入れているかの指標になるわけです。
少し長くなってしまいましたが、これらの「いい焼肉店の法則」を参考に、あなたにとっての最高の焼肉店を見つけて、日頃の疲れを吹き飛ばしてくださいね。
焼肉店を選ぶときは、店外では「立地」「自転車」に注目し、店内では「並ロース」「並カルビ」と「ハツ」「シマチョウ」を食べてみましょう。最終的には、自分の味覚を信じて「自分なりの名店」を見つけてください!

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小関 尚紀(こせき・なおき)

焼肉作家、お肉博士1級、MBA

大阪府生まれ。お肉博士1級。
早稲田大学大学院でMBAを取得し、筑波大学大学院博士課程後期を中退。現在は企業に勤務しながら、独自の「牛肉道」を極める。2005年に本格的に焼肉にハマって以来、年間100店舗以上もの焼肉店を巡るだけでなく、生産現場にまで足を運び、牛や餌に関する知見を深め、肉の焼き方や部位の特性を独自に研究・分析するほど。特に、焼き方のユニークなネーミングにはセンスが光る。2016年に東洋経済オンラインで連載した『意外と知らない「焼き肉」の新常識』はたちまち人気を博し、2018年には著書『焼肉の達人』(ダイヤモンド社)を刊行。BS朝日『美女と焼肉』の初期レギュラーを務めたほか、NHK、民放キー局など焼肉関連番組やラジオ番組の出演も多数。ダイヤモンドオンライン、Retty、favy、日刊ゲンダイ、食べログマガジンでも連載実績があり、多くの読者から支持される。

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(焼肉作家、お肉博士1級、MBA 小関 尚紀)
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