自民党の総裁選と共に注目が集まっているのが、次期政権での連立拡大だ。ジャーナリストの尾中香尚里さんは「総裁選のどの候補も連立拡大には意欲的で、国民民主党も、日本維新の会も『連立入り』への色気をもはや隠していない。
その中でも、支持母体や選挙協力のしやすさを考えれば、おのずと『本命』は見えてくる」という――。
■総裁選で焦点化する「連立拡大」
22日に告示された自民党総裁選は「野党との連携」が大きな焦点の一つだ。わずか1年前の前回総裁選とは異なり、現在の自民党は衆参ともに少数与党。野党の協力なしには政権運営がおぼつかないとあって、メディアの側も、やれ「政策ごとの連携」か「連立拡大」か、と騒がしい。
秋波を送られる側の野党の中で、良くも悪くも注目されているのが国民民主党だ。7月の参院選で17議席を獲得し、改選議席の4倍を超える躍進を果たした同党。選挙後も支持率は高めに推移しており、総裁選では同党を名指しして「連立の枠組み拡大」に言及する候補者もいる。玉木雄一郎代表ら幹部の言動も、どことなく浮かれてみえる。
しかし筆者は、その自民党総裁選が、この党をかえって難しい状況に追い込むきっかけとなるのではないか、と思えてならない。総裁選で「野党との向き合い方」に焦点が当たれば、当然ながら野党の側も、好むと好まざるとにかかわらず「自民党との向き合い方」を問われ続けるからだ。
国民民主党の政権戦略は、与党の補完勢力として連立入りし「ゆ党」から「よ党」に転じることなのか。それとも自民党から政権を奪うため、野党(小さい野党なので「ゃ党」)の一員として行動することなのか。
どちらを選んでも党の勢いは削がれかねず、国民民主党の党運営は、むしろ厳しさを増しているように思えてならない。
■玉木代表「立憲とは一緒にやれない」
自民党総裁選の候補者5人による党主催の共同記者会見が行われた23日、玉木氏はBS日テレの番組に生出演した。最後のテーマが「首相指名選挙への対応」。自民党の新総裁が決まってもいないのにやや気が早い気もするが、野党の立ち位置を確認するには必要なテーマではある。
決選投票で立憲民主党の野田佳彦代表の名前を書く可能性を問われると、玉木氏は「立憲が嫌いというわけではないが」とわざわざ前置きした上で、立憲の安全保障政策やエネルギー政策を挙げながら「政権を担うべきではない」「とても国家運営を担うのは難しい」などとこき下ろし「名前を書いて政権をともにすることにはならない」と断言した。
自民党新総裁の名前を書く可能性については「今の段階で何か申し上げることは避けたいが、信頼関係の情勢の度合いに応じてさまざまな可能性も広がっていく」と、前のめりの姿勢を見せた。温度差は明らかだった。
玉木氏や榛葉賀津也幹事長ら国民民主党首脳部が連立与党入りに色気を見せていることは、以前から公然の秘密だったが、最近はそれを隠すこともなくなっているようだ。
与党が衆参で過半数割れし、自民党総裁選で「連立の枠組み拡大」が論点となっている時に、衆院で27議席しか持たない野党第3党の国民民主党が「野党として立憲などと協力して自民党から政権を奪う」ことより「自民党が目論む連立の枠組み拡大に乗る」ほうが政権戦略として手っ取り早い、と考えたとしても不思議はない。
■維新も「政権入りは選択肢として排除せず」
その自民党総裁選。23日の共同記者会見で、5人の候補は多少の濃淡はあるものの、連立拡大にいずれも前向きな考えを示した。候補者の一人、茂木敏充前幹事長は、10日の出馬会見の段階で、連立協議を想定する相手として、国民民主党と、野党第2党の日本維新の会という具体名を挙げていた。
総裁選の結果によっては、二つの「ゆ」党のどちらかが政権入りして「よ党」に転じる可能性も否定できない。
維新は参院選後、連立入りを目指す姿勢をかなり明確に示してきた。参院選で7議席と、前回(2022年)の12議席から減らした維新の吉村洋文代表は、19日のTBS番組で連立政権入りについて「選択肢として排除しない」と発言した。
維新はもともと自民党の菅義偉元首相や、今回の総裁選に立候補している小泉進次郎農相と近く、吉村氏は8月21日、小泉氏の大阪・関西万博の視察に同行して蜜月ぶりをアピールした。
■維新にライバル意識を燃やす国民民主
そんな維新の動きに、国民民主党は神経をとがらせる。前述したBS日テレの番組で出演者から、小泉総裁となった場合に維新が連立相手となる可能性を問われた玉木氏は、露骨に不快感を口にした。
「選挙で負けた、伸ばせなかった者が組むことは、民意を反映した権力構造になっているのか、直近の民意に合致した権力になっているのか、国民に厳しく見られる」
「直近の選挙」(それも政権選択ではない、さらに半数改選の参院選)で「議席を伸ばした」(トータルの議席数が最多だったわけではない)者が権力を握るべきだ、と言わんばかりの発言には、さすがに出演者から「民意とは都合の良い言葉。自民党は衰えたとはいえ1200万票を得たが、国民民主党は700万票台だ。丁寧に発言してほしい」とたしなめられた。ともあれ玉木氏の、維新に対するむき出しの対抗意識だけは、よく伝わってくる場面だった。
■国民民主が持つ麻生氏との「太いパイプ」
維新と小泉氏との関係が注目されるなか、国民民主党は小泉氏にも秋波を送る。玉木氏は前述のBS日テレの番組で、小泉氏が総裁選の公約に掲げた「物価や賃金の上昇に合わせて所得税の控除などを調整する」政策について「高く評価したい」と発言した。

もっとも、実際に国民民主党が自民党内に持つ最も太いパイプは、おそらく麻生太郎最高顧問(元首相)だろう。麻生氏は連合という支持組織を持つ国民民主党に早くから目をつけ、岸田内閣時代の2023年には、国民民主党の参院議員だった矢田稚子氏を首相補佐官に起用したこともある。
小泉氏の後見人的存在の菅氏と、支持する候補を明言していない麻生氏。二人の長老がキングメーカーの座をめぐって微妙な関係にある状況に、維新と国民民主党が一種の「政局の道具」として巻き込まれているとも言える。立憲の安住淳幹事長が両党について「(自民党は)ライバルと思っていない。自分たちの政権のために使えると思っている」と語ったのは、あながち間違っていないと思う。
■連立入りのしやすさは「維新」に軍配
さて、国民民主党は維新との「よ党」争いに勝ち、連立の一角を占めることはできるのか。
客観的に見れば、連立入りしやすいのは維新だろう。衆院の小選挙区の候補者調整をしやすいからだ。
維新は大阪で今なお圧倒的な強さを持つが、全国政党化に失敗し、他の地域には党勢を広げられなかった。大雑把に言えば、自民党が大阪の選挙区を維新に譲り、維新がそれ以外の選挙区を自民党に譲れば、調整は比較的やりやすそうだ(大阪での公明党との調整は別途必要だろうが)。維新は「与党志向」を強めるとともに、結党当時の「大阪の地域政党」への回帰を模索しているようにも見える。

党内の空気を察したゆえなのか、維新では9月8日、3人の衆院議員が離党届を提出した。うち2人が「非大阪組」だった。党から除名された3人は22日、新党結成も視野に新会派「改革の会」を結成した。
党内に遠心力が働き始めている。維新の藤田文武共同代表は、基本的に連立入りに積極的な姿勢を保っているが、21日のTBS番組で「これまで自民党と連立した政党は、ほとんど数年以内になくなっている」「維新が丸ごとなくなるリスクも考えなければいけない」と漏らす場面もあった。
■連合が「連立入り」に強い拒否反応
一方、国民民主党の場合は、かなりの選挙区で自民党と競合する。また地域によっては、立憲との選挙協力が有効に機能しており、簡単に「よ党入り」には舵を切れない。何しろ支持団体の連合が「連立入りはあり得ない」と強い拒否反応を示している。
この状況で国民民主党が与党入りにかじを切れば、党内で維新以上の反発が起きることが予想される。玉木氏ら首脳部は、党の一体感をどこまで保ち続けられるだろうか。
■「維新上げ」当時の勢いは今や見る影もない
ここで思い出してほしい。3年前(2022年)の前回参院選を終えた頃、メディアの寵児となっていたのは、維新だったということを。
比例代表の得票で立憲を上回り「次期衆院選では野党第1党か?」と派手な「維新上げ」が展開されていたことを。
筆者は当時の小欄で、維新に地方組織などの「地力」が十分にないことから「メディアが騒ぐほど、今後の維新に明るい材料を見ることはできない」と指摘したが、実際その通りになった。あの時維新をもてはやしたメディアは、わずか3年後の今、それを忘れたかのように今度は「国民民主党上げ」に余念がない。果たして大丈夫なのだろうか。
国民民主党は連合という支持組織があるため、維新に比べれば党の基盤は強固であり、3年前の維新の繰り返しにはならない、という見方もある。だが、その連合と党首脳部の政権戦略は、今や真逆になりつつあり、そのことは逆に党存続のリスク要因となる危険もはらむ。
国民民主党も「政局のキーマン」などとメディアに持ち上げられて自らの現在地を勘違いすると、とんだしっぺ返しを食らいかねないことは、念のため指摘しておきたい。

----------

尾中 香尚里(おなか・かおり)

ジャーナリスト

福岡県生まれ。1988年に毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長などを経て、現在はフリーで活動している。著書に『安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ』(集英社新書)、『野党第1党 「保守2大政党」に抗した30年』(現代書館)。

----------

(ジャーナリスト 尾中 香尚里)
編集部おすすめ