現金が必要になり、コンビニのATMに駆け込んだことのある人は多いだろう。なぜコンビニATMの紙幣はなくならないのか。
早稲田大学名誉教授の山田英夫さんは「セブン銀行ATMにおいて、業者による現金補充は月1回程度だ。それでもお札が尽きないのは、出金が圧倒的な需要を占めるコンビニATMに『入金』の仕組みを作ったからだ」という――。
※本稿は、山田英夫『トレード・オン思考』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■コンビニATMの歴史
「コンビニでお金を引き出せたら便利」
(株)セブン‐イレブン・ジャパン(以下セブン‐イレブン)には、かなり前からこうした声が寄せられていた。
セブン‐イレブンは、1987年から公共料金等の収納代行を行っており、夜間や土日でも気軽に支払えるコンビニは便利であった。公共料金の支払いだけでなく、現金が引き出せたらもっと便利になるため、セブン‐イレブンは、まず既存の銀行と共同運営会社を作ることを考えた。
しかし、銀行と手数料で調整がつかず、また共同運営では、セブン‐イレブン内のATMは銀行の出張所扱いになり、セブン‐イレブンがサービスの主導権をとれないことが明らかになった。そこでセブン‐イレブンは、自ら銀行業の免許を取る方向に転換した。
2001年に(株)アイワイバンク銀行が設立された。大株主には、三和、あさひ、三井住友、東京三菱などの大手銀行も名を連ね、基本的に融資等は行わない決済専門の銀行として誕生した(すなわち、メガバンクをはじめとする銀行とは、競争しない構造になっている)。
銀行業の免許を取れば、金融機関各社が加盟している「統合ATMネットワーク」に加盟できると考えていた。しかし、他行客がアイワイバンク銀行のATMを使うだけで、その逆は少なく、手数料が一方的にアイワイバンクに流れると考えられ、ネットワークへの加盟は認められなかった。
そこでやむをえず自力でネットワークを作り、それを直接金融機関につなげざるをえなかった。
■通帳、小銭なしで1台800万→200万円に圧縮
アイワイバンク銀行は、他行のように預金獲得や住宅ローンで競争するのではなく、他行と共存共栄できる「共通インフラ」であるATMを提供するビジネスモデルとした(なお融資業務として、2010年からカードローンを始めている)。
そのためにはパートナーが必須であり、まずは都市銀行と各県の第一地銀との提携を進めた。立ち上がりこそ苦戦したが、2003年度には信用金庫やゆうちょ銀行も加わり、提携金融機関は一気に309社に増えた。
その後は、無人ATM店舗の代替だけでなく、駅・空港への設置や他行のATMを代替するようになった。
ATMのハードウェアに関しては、他行が購入していたATMは1台800万円前後であり、さらに無人店舗のATMは、より丈夫な構造にするために2000万円近くかかっていた。一方セブン銀行のATMは、通帳なし、小銭なしと構造を単純にしたため、1台200万円程に抑えられた。これによって、1日の決済が70件程でも、採算がとれるようになった(銀行業界では、1日の決済が100件を割ると、そのATMは撤去すると言われていた)。
そして2003年度には経常利益、当期純利益共に黒字を達成。2005年には累積損失を一掃し、アイワイバンク銀行から(株)セブン銀行に改称した。
2007年度には、全国すべてのセブン‐イレブン、イトーヨーカ堂にセブン銀行のATMが設置され、どの店にもATMがあることが、消費者の安心感、利便性につながった。
■ATM利用手数料を金融機関が自由に設定できるようにした
セブン銀行のATMは、実は地域の金融機関との提携があって成り立っている。

地域の金融機関は、セブン銀行とATM利用の提携をするだけでなく、警備保障会社のALSOKがセブン銀行のATMに補充する現金の調達をしている。逆にATM内の現金が多くなれば、セブン銀行は、提携金融機関に資金を預ける。
他社のキャッシュカードを使ってセブン銀行のATMで現金を引き出す時に、受入手数料を金融機関からもらうが、セブン銀行がユニークであったのは、引き出した客が金融機関に払うATM利用手数料は、各金融機関に任せたことである。引き出しにかかるATM利用手数料は昼間100円、夜間200円が標準であったが、どのように価格づけしても良いようにした。
セブン銀行の、単体経常収益に占めるATM受入手数料は、2025年3月期で83.5%であった。
それでは次に、セブン銀行のあまり知られていないコスト構造について述べていこう。
■なぜコンビニATMの紙幣は尽きないのか
コンビニATMは、入金より出金のほうが圧倒的に多く、入金されないと紙幣がなくなってしまう。紙幣が底をついたら、セブン銀行のビジネスは停止してしまう。
しかし紙幣調達コストが高くなると、収益的には厳しくなる。ここに、紙幣在庫の確保と、調達コストの低減というトレード・オフがあった。
セブン‐イレブン店内のATMは、月1回程度、ALSOKが現金を運び入れるケースが多い。ALSOKが毎日入金に来ていたら、ALSOKに払う手数料だけで赤字になってしまう。
どうすればATM内の紙幣の在庫を維持しながら、コストを下げることができるだろうか。
セブン銀行は、創業後間もなく「売上金入金サービス」を始めた。これは、店舗等の現金売上を、専用カードを使ってセブンのATMに入金するサービスである。専用カードによって入金された現金は、会社ごとに即座に1つの口座にまとめられ、本部・本社は一括で資金管理ができる。
■ATMに売上を入金して「夜間金庫」代わりに
飲食店やフランチャイズ店などでは、その日の売上を店舗内に置いておくことは、防犯上問題であった。従来そのお金は銀行の夜間金庫に預けていたが、夜間金庫は採算がとれないということで、多くの銀行がこのサービスから撤退していた。
売上金入金サービスによって、お店は現金保有のリスクから解放され、特に夜間営業の企業にとっては、銀行の夜間金庫替わりになるメリットがあった。
当初、売上金入金サービスは、セブン‐イレブン店舗の売上の入金から始まった。これによって、特に夜間におけるセブン‐イレブンの防犯に役立った。売上金入金サービスは、次第に夜間営業の店舗やガソリンスタンドなどに広がり、さらに深夜に仕事を終えるタクシー運転手にとっても、なくてはならない存在となった。
売上金入金サービスは、専用カードで入金する際に発生する手数料収入だけでなく、紙幣調達コストも下げることができた。すなわち、入金者にはセキュリティを提供する一方で、その入金がセブン銀行の資金調達コストを大幅に下げているという、素晴らしいビジネスモデルだったのである。

売上金入金サービスは、セブン銀行が海外IRを行った際に、最も評価されていた点と言われていた。
■いち早く海外カード、海外送金にも対応
セブン銀行は大手都銀に先んじて、海外で発行されたカードによるATMでの出金を可能にした。訪日客が増えるに連れ、国内で現金(日本円)を引き出すニーズは高まったが、海外で発行されたカードの磁気ストライプが、日本の金融機関のキャッシュカードと位置が違っていたことから、日本の金融機関のATMでは、現金が引き出せなかった。
一方セブン銀行のATMは、最初から磁気ストライプの場所の違いも考慮して設計され、創業期からこのビジネスに参入できた(当時、他に対応していたのは、ゆうちょ銀行とシティバンクだけであった)。
また、セブン銀行は海外送金サービスも積極的に進めてきた。海外の企業と組んで、セブン銀行のATMから送金し、数分後に現地でお金を引き出すことができる。既存の日本の銀行の営業時間では、日本で働いている外国人は銀行に行けず、このサービスは大変好評である。
一般に日本の銀行は、その地域に住んでいる日本人、日本法人を顧客と考えていることが多いが、セブン銀行では、「その地域のセブン‐イレブンに来店する人」を顧客と考えた。
そのため、海外送金サービスも自然に出てきた。ちなみにセブン銀行のコールセンターでは、9カ国語に対応している。
海外送金のビジネスは10億円単位のビジネスであり、100億円単位が常識の大手都銀では参入しようという事業規模ではない。
■「紙幣の調達コスト」を抑えた妙技
セブン銀行のビジネスモデルの成功のポイントをまとめると、次の6つになる。

第1は、銀行との提携ではなく、自ら銀行業の免許を取ったことである。当初の計画通り提携で参入していたなら、今でもATM設置銀行の出張所扱いのままで、戦略の自由度は大幅に制限されていたであろう。
第2は、統合ATMネットワークへの加盟が認められなかったことである。これも当初の目論見が外れた点であったが、自前でネットワークを構築せざるをえなかったことにより、セブンのATMは、挿入したカードの金融機関の画面に切り替わるなど、利用者にとっては、取引金融機関以外のATMでお金を引き出す不安感が払拭できた。
第3は、ATM機器のコストを大幅に下げ、損益分岐点を下げることに成功した。
第4は、後発であったことから、海外のカードも読み取れる仕様とし、これが国際化の引き金となった。
第5は、顧客の定義が「その地域に住む日本人」ではなく、「その地域のセブン‐イレブンに来る人」であり、国境を超えたニーズへの対応が進められた。
最後に、これは最も重要なポイントであるが、出金の多いコンビニATMにおいて、紙幣の調達コストが極めて安いことが挙げられる。売上金入金サービスを創業時から始め、見えない部分でローコスト・オペレーションの仕組みが、組み込まれていた。
我々はビジネスモデルと言うと、つい外部から見えやすいマーケティング部分に着目しがちであるが、セブン銀行のように見えない部分にこそ、持続的に収益を上げる鍵があることを忘れてはならない(図表1参照)。
■金利上昇とキャッシュレスという不安材料
セブン銀行はこれまで順調に成長してきたが、最後にリスクについても分析しておこう。
セブン銀行の今後を占う上で重要な要因が、金利と現金(キャッシュ)の問題である。

まず金利に関しては、創業時から超低金利時代が続いてきたため、セブン銀行は収益を上げられてきたとも言える。しかし高金利時代になると、ATMの中に眠っている紙幣は無利息の状態が続くことになり、貸し出していれば入ってきた利息は入らず、機会損失は大きい。
そのため、金利の上昇は極めて大きな影響を与えると言える。
ちなみにセブン銀行は、ATMに入れる現金を、1台あたり約3000万円から、2026年中に約3割減の約2000万円にする方針である。
また、キャッシュレスの進展も挙げられる。日本では急速にキャッシュレス化が進んでおり、現金を引き出す需要は減る方向にある。そのため、現金を引き出す以外のATMの用途拡大が必要である。
■ファミマのATMがセブン銀行のATMに
こうした環境変化に対して、セブン銀行は量と質の進化を図っている。
量に関しては、伊藤忠商事と資本業務提携し、ファミリーマートに置かれていたATMをセブン銀行のATMに置き換える手を打った。これによって、セブン銀行のATMは、ゆうちょ銀行を上回り、日本一のATMインフラとなる。
さらに、「ATMを現金の出し入れだけでなく、銀行や行政の窓口に代わるチャネルに進化させる」と質的変化も目指す。具体的には、QRコード決済の現金チャージ、ホテルの事前チェックイン、マイナンバーカードの健康保険証利用登録などもセブンのATMでできるようになり、消費者の利便性向上と、他社・行政の事務負担の軽減に資する機能も増やしていく方針である。

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山田 英夫(やまだ・ひでお)

早稲田大学名誉教授

慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。三菱総合研究所を経て現職。博士(学術:早大)。サントリーHD、ふくおかFG社外監査役。主著に『本業転換』『ビジネス・フレームワークの落とし穴』など。

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(早稲田大学名誉教授 山田 英夫)
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