「普段通りの給油を」。3月中旬、経済産業省はメディアや政府広報を通じて、こう呼びかけた。
イランがホルムズ海峡を封鎖する中で、原油輸入の9割を中東に依存している日本での石油製品不足が懸念されているが、4月中旬になっても、高市早苗首相自ら、「日本には約8カ月分の石油備蓄があり、放出量を抑えながらも、年を越えて石油の供給を確保できるメドがついた」と語るなど、問題はないとの姿勢に終始している。
もちろん、危機感を過度に煽る必要はないが、国民は本当に「普段通り」の生活を続けて良いのだろうか。朝日新聞は社説で「長期化を見据え、無理のない範囲での需要の抑制策に舵を切るべきだ」と主張していたが、高市首相は「経済活動にブレーキをかけるような形で、今すぐ節約して下さいと申し上げる用意はない」としている。
■「約250日分」にナフサやLPGは含まれない
4月11日~12日に行われたイランと米国の直接交渉は決裂し、ドナルド・トランプ大統領は、逆に「ホルムズ海峡を封鎖する」とSNSで表明した。イランが通行料を取って、非敵対国のタンカーを通過させるとしたことに対抗する措置と見られるが、海峡を巡って再び戦闘が開始されれば、原油不足は長期化し、世界経済に深刻な打撃を与えることになりかねない。中でも日本への影響は大きい。
政府は日本の石油備蓄は2025年12月末時点で約250日分あると主張している。政府の国家備蓄が約146日分、石油元売り会社が保管する民間備蓄が約100日分、原油国との共同備蓄が5日から7日分というのが内訳だ。この1日分という計算根拠は約170万バレルという消費量を前提にしているが、その対象はガソリンや重油、石油製品のみの計算で、ナフサやLPG(液化石油ガス)は含まれていないという。これを含めると消費量は314万バレルとなり、備蓄は100日分前後ということになるというのだ。のんびりと「普段通り」と言っている場合なのか。
■特定の石油化学製品だけが不足することはあり得る
4月11日のTBS「報道特集」では「ナフサ由来の一部石油製品が供給不足、身近な現場に広がる切実な声」とする特集を放送。塗料などの溶剤として使われるシンナーが、欠品で手に入らないという塗装業者の切実な声を伝えていた。赤沢亮正・経済産業大臣は「足元では供給の偏りや流通の目詰まりが、かなりひどくなっている」とし、流通の目詰まりが原因だと語っていたが、業界団体の日本塗料商業組合は「私たちが大量に在庫を抱えているわけではなく、目詰まりを起こしているわけでもありません」としていた。
原油は精製されて様々な石油化学原料が作られるが、精製比率(得率)はガソリンが約31%、ナフサが約10%、軽油が約25%、重油が約16%などとなっている。ナフサなどからは様々な石油化学製品が作られる。一方の需要はこの比率通りではないため、製品によっては過不足が生じることになる。原油からナフサだけを作るということはできないわけだ。
つまり、計算上では原油は必要な量を確保できているとしても、特定の石油化学製品だけが不足することは十分にあり得るわけだ。もちろん、特定の製品だけを輸入することも可能だが、原油の世界的な供給量が大きく減っている中で、調達できる保証はないし、調達できたとしても価格が大幅に上昇するリスクがある。
■経産省に伝わる第一次石油危機の「教訓」
今回の戦争で、サウジアラビアのパイプラインや油田の生産設備も攻撃を受け、同国の生産能力は一時、日量約60万バレルまで減少した。また、イラク南部での生産が8割減となるなど打撃を受けている。国際エネルギー機関(IEA)の分析では、世界需要の約1割に相当する量の生産が湾岸諸国で減少している。
経済産業省が「普段通り」を強調する背景には、買い占めによる価格上昇など混乱を防ぎたいという思いがあるのだろうが、そのほかにも理由がある。第一次石油危機当時の「教訓」として省内に伝わっているのは、「価格は上昇したが量は確保できた。資金さえあれば、輸入することができる」というものだ。
だが、今回もその「教訓」は生きているのだろうか。円安が進んだことで、様々な海外資源の「買い負け」が起きていると言われ続けてきた。日本円の購買力が落ちている中で、量は確保できると言い切れるのか。また、日本円建てにして高価な原油を国民が買うことができるのか。国民が買えるように長期にわたって補助金を出し続ければ、財政悪化懸念からさらに円安が進み、価格を押し上げることになりかねない。
■ガソリン補助金は政策的に誤っている
過去の石油危機のもうひとつの「教訓」がある。価格が大幅に上昇したことで、省エネ意識が強まり、技術革新が起きたことだ。これは高市首相も触れていることだが、その結果、日本企業は一段と高い競争力を手に入れた。
ならば、今の高市政権が進めている「価格を下げる補助金」や「普段通りの給油」は政策的に誤っているのではないか。政府は積極的に、不要不急の自動車利用を抑えてガソリン消費を節約するよう求めるべきではないのか。そのためには補助金を出してガソリン価格を引き下げるのではなく、価格上昇による消費抑制を目指すべきだろう。
ナフサ不足が進むと、プラスチック容器やビニール袋などが消える、とか、価格が上昇して小売業の利益を圧迫するといった声が聞こえる。では、これをきっかけに、大量にプラスチック製品を消費する日本人の生活スタイルを見直すきっかけにしてはどうだろうか。
■ドイツや北欧の留学生が驚く日本の「大量消費」
プラ袋が高くなったので、プラ袋に入れるのではなく、カゴ皿に野菜を並べて精算後、買い物カゴや袋に直接入れて持ち帰ってもらうように変えた八百屋の話がニュースで流れていた。そもそも、ヨーロッパの国々の店で、日本のようにプラ袋に野菜を詰めて売っているところはほとんどない。スーパーなどは量り売りが多いのだ。
また、ドイツやスイスなどではゴミ収集時の料金が高いため、家庭から出すゴミの量を減らすために、お店で購入した段階で包装パッケージなどを店のゴミ箱に捨てていくケースが多い。
ドイツや北欧などの学生が日本に遊びに来ると決まってプラスチック容器を大量消費していることに驚愕する。ペットボトルやプラスチックは回収してリサイクルされていると考える人もいるが、実際は燃やして熱を利用している擬似リサイクルが多。ペットボトルは比較的マシで、ペットボトルに再生されるものもあるが、全量がそのまま使われているわけではない。
■エコロジー重視の生活スタイルに見直す好機
ドイツなど欧州の家庭では当たり前のリターナル瓶は日本の個人消費から姿を消して久しい。こうした石油製品をできるだけ使わないようなエコロジー重視の生活スタイルに見直す好機と言えるかもしれない。大量生産、大量消費の中で便利さに慣れ過ぎてきた我々の生活を見直せば、石油製品の消費量も、エネルギーの消費量も大きく減らすことができるのではないか。
前回の石油危機では省エネに突き進んだ結果、企業は生産性を高め、利益を増やして、競争力を高めた。国全体の経済力が落ちている中で、無駄な消費を無くすことで、さらに有用なものに投資する原資を生み出すことができるかもしれない。危機を好機に変えるのが得意な日本人の真骨頂を発揮する時ではないだろうか。
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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。
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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)

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