■海上自衛隊が獲得した「新兵器」
3月最終週、日本は安全保障に関する3つの「初」を同時に達成した。
第1に、熊本の陸上自衛隊健軍駐屯地に、三菱重工業が開発した改良型12式地対艦誘導弾が初めて配備された。この動きは米全国紙のワシントン・ポストが報じるなど、海外でも取りあげられている。
同誘導弾の射程は約1000キロ。旧型の約200キロから一気に5倍へ伸び、中国本土を射程内に収める。敵の射程外から反撃する「スタンドオフ」能力の実戦配備は戦後初であり、平和憲法下で長年堅持してきた専守防衛からの転換となる、とワシントン・ポストは伝える。
第2に、同じ日、静岡にある在日米海兵隊のキャンプ富士に、島嶼防衛用の極超音速滑空体(HGV)が初めて配備された。音速の5倍を超え、迎撃がきわめて難しい新型兵器だ。
そして第3の「初」は、海上を舞台としている。米国防専門グローバル誌のディフェンス・ニュースによると、こんごう型イージス護衛艦「ちょうかい」がアメリカで改修を受け、トマホーク巡航ミサイルを発射できる日本初の艦艇となった。
トマホークは、艦船や潜水艦、地上の発射機から運用できる巡航ミサイルだ。複数の誘導方式を組み合わせることで高い命中精度を実現しており、低空を亜音速で飛翔して目標を精密に打撃できる点が大きな特徴だ。1980年代から配備が進み、1991年の湾岸戦争で初めて実戦で使用された。
防衛力の強化には国内でも賛否両論があるが、こうした動きをむしろ「遅すぎた」と見る専門家もいる。台湾の安全保障シンクタンクである国防安全研究院(INDSR)の研究員、ベンジャミン・ブランダン氏はディフェンス・ニュースに対し、日本は「長らく先送りにしてきた」反撃能力の運用化を進めているところだと語った。厳格に国土防衛に徹してきた日本が、最大1000キロ圏の地上・海上目標を打撃しうる「準地域的抑止」へ踏み出した格好だ、と同氏は捉える。
現状、日本国内の報道で目立つのは、もっぱら中国政府の反発と住民の不安を伝える内容だ。台湾やフィリピン、シンガポールなど近隣国の専門家や指導者がむしろ歓迎しているという事実には、ほとんど触れられていない。
■米軍のミサイルは1週間で尽きる
台湾の研究者が「遅すぎた」と評した背景には、きちんとした裏づけがある。
安全保障シンクタンクの新アメリカ安全保障センター(CNAS)によると、2025年、中国人民解放軍は南シナ海で過去最多となる163件の作戦を展開し、うち55件が実弾演習だった。
フィリピン沖スカボロー礁周辺では活動件数が前年の2倍に膨らみ、日本周辺でも艦艇の航行は111回を数えた。馬毛島の航空自衛隊新基地にほど近い、鹿児島の大隅半島沖に位置する大隅海峡だけでも、通過回数は17回に上る。
中国軍の脅威が高まる一方で、米軍が撃てるミサイルには限りがある。米シンクタンクのランド研究所は、「日本は中国の侵攻艦隊の撃沈を支援すべきだ」(Japan Should Help Sink China's Invasion Fleet)と題した論考を発表。米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)が2023年に実施した台湾有事のウォーゲーム(机上演習)を取りあげ、24通りのシナリオが検証されたが、結論は一つだったと論じる。いずれのシナリオでも、アメリカは開戦から1週間以内に長距離対艦ミサイルを撃ち尽くすとの結果に落ち着いた。
この穴を埋めうるのが日本の打撃力だ。同論考は、日本はトマホーク400発を24億ドル(約3600億円)で調達し、約150機のF-35にノルウェー製統合打撃ミサイル(JSM)を搭載する計画であると指摘。独自開発の改良型12式地対艦誘導弾も、すでに射程1000キロ超の試験を終えており、中国本土にも侵攻艦隊にも届く。
仮に中国が台湾有事で侵攻のために艦隊を放てば、艦隊が最も脆弱になるのは、台湾海峡を渡る初期の局面だ。その隙を、日本はトマホーク・12式地対艦誘導弾・JSMで突くことができる。侵攻を阻止する手段を日本が握ることで、中国はその前提で軍事面での計算を組み直さねばならない。
■中国が日本に過剰な反応を見せるワケ
日本の反撃能力がどれほどの戦略的インパクトを持つかは、中国の反応を見れば明らかだ。
米保守系シンクタンクのアメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)が詳しく紹介した米国家情報長官室(ODNI)の2026年版年次脅威評価によると、台湾防衛をめぐって日本の姿勢が変わりつつあることを、中国は「転換点」とみなしている可能性が高いという。
ODNIは、台湾有事に日本が関与しうると示唆した高市早苗首相の発言に、中国が危機感を強めていると指摘した。高市発言をきっかけに台湾独立の動きが勢いづくことを、「中国がおそらく懸念している」とも分析し、尖閣諸島周辺で中国の威圧がさらに強まる恐れがあると警告している。
もっとも、これに対し木原稔官房長官は3月19日、「重大な政策転換があったとの主張は不正確だ」と冷静に退け、台湾をめぐる日本の立場は、「常に一貫してきた」と強調した。
日本政府は高市発言後のフォローアップで抑制的な姿勢を示そうとしているが、それとは裏腹に、中国は苛烈な報復姿勢を前面に押し出している。
ランド研究所の分析によれば、中国の王毅(おうき)外相はこの発言を、「衝撃的だ」と非難し、中国の薛剣・在大阪総領事は高市氏を「斬首」すると公然と脅迫した。日本向け航空便の運休に加え、重要鉱物の禁輸も矢継ぎ早に打ち出された。
中国がこれほど大きく反応したのはなぜか。日本の防衛態勢が変わったことで、台湾有事をめぐる算段が根底から狂い始めたことへの焦りとも取れる。
■シンガポール首相が示した「日本支持」
中国が「軍国主義の復活」と批判するなか、東南アジアからは日本の動向を歓迎する声が上がっている。
2025年、中国政府は日本の敗戦から80年の節目に合わせ、大がかりな反日キャンペーンを展開した。シンガポールのシンクタンク、ISEASユソフ・イシャク研究所の分析によれば、国内向けのプロパガンダとして始まったこのキャンペーンは、高市早苗首相が台湾有事について日本の「存立危機事態」になり得ると示唆したことを機に、諸外国へも働きかける展開へと転じた。各国に残る戦時の記憶をてこに、自国の立場への同調を迫ったのだ。
だが、この圧力をはねのけた指導者がいる。シンガポールのローレンス・ウォン首相だ。ウォン氏はシンガポールと東南アジアが歴史から「前進している」と述べたうえで、「安全保障の面も含め、日本がより大きな役割を果たすことを支持する」と明言した。
シンガポールと言えば、かつて日本軍に占領された国でもある。その首相が、反日キャンペーンのさなかにあえて言い切った形だ。中国が唱えてきた「アジアは日本の軍拡を恐れている」という主張に対する、大きな反証となった。
ウォン氏がこう言い切れるのは、東南アジア全域で日本に対する見方が変わりつつあるからだ。ISEASの調査によると、「日本の軍事力は世界の平和と安全保障にとって資産だ」と答えた東南アジアの回答者は、2020年にはわずか1.5%にすぎなかった。それが2025年には10.5%と、5年で7倍に増えている。
2023年の日本外務省調査でも、東南アジアでは回答者の88%が、地域の平和・安定・災害対応において、自衛隊がより積極的な役割を果たすことを支持した。
■フィリピンが日本に期待を寄せるワケ
フィリピンからも、日本が安全保障上の役割を行動で示すよう期待されている。
今年1月、日本とフィリピンの両国は、弾薬・燃料・食料といった軍事物資を相互に移転する防衛協定に署名した。米国際政治誌のフォーリン・ポリシーによれば、この協定は昨年発効した部隊間協力円滑化協定(RAA)を補完し、部隊が相手国で活動する際に兵站の基盤を整えやすくする。
日本はすでにフィリピン沿岸警備隊や海軍に艦艇を供与しており、防空ミサイルの売却協議も並行して進めている。署名式でフィリピンのテレサ・ラザロ外相は、南シナ海における航行の自由を含む「法の支配の推進」を両国が重視していると述べた。協定には台湾有事を見据え、自国民を安全に退避させるための相互協力条項まで盛り込まれた。
日比が協力を急ぐのは、南シナ海の現場が急速に緊迫しているからだ。AEIによれば、3月、フィリピンの排他的経済水域にあるサビナ礁付近で、中国海軍のコルベット(小型戦闘艦)がフィリピンのミサイルフリゲート艦「ミゲル・マルバル」に火器管制レーダーを照射した。兵器の照準に用いるレーダーであり、砲口を向けるにも近しい威嚇行為だ。
協定に加え、訓練の現場でも日比は歩調を合わせ始めている。
■三菱重工が受注した「1兆円プロジェクト」
こうした動きは、アジア太平洋全域、さらに欧州にまで広がっている。
ISEASはオーストラリアのローウィー研究所の「東南アジア影響力指数」を引用し、東南アジアの国々にとっての日本の防衛パートナーとしての順位は、2017年の15位から2025年には4位へ跳ね上がったと指摘する。
同じくローウィー研究所の「アジア・パワー・インデックス2024」でも、日本のスコアが最も伸びたのは防衛ネットワークの分野で、上昇幅は13.1ポイントに達した。実際、日本と東南アジア諸国との共同演習は2014年以降着実に回を重ねており、海上自衛隊が各国に寄港する光景もいまでは珍しくない。
同研究所は「日本は憲法上の制約と第二次世界大戦の歴史に関する慎重さを認識しながら、米国および他の同志的パートナーとの緊密な連携の下で、より直接的な安全保障姿勢を追求してきた」と評価する。
共同演習と並行して、防衛装備の輸出や多国間の枠組みへの参画も相次ぐ。
象徴的なのがオーストラリアの決断だ。同国は2025年、三菱重工業に海上自衛隊が運用する「もがみ」型護衛艦の能力向上型11隻の建造を発注した。契約総額65億ドル(約9750億円)。日本の防衛産業にとって史上最大の輸出案件だ。
イギリス及びイタリアとは、第6世代戦闘機を共同開発し2035年の配備開始を目指す「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」に加わり、NATO(北大西洋条約機構)には専任代表部を新設して防衛産業協力面での対話も始めた。さらに、日米豪3カ国は同年、給油やミサイル再搭載を含む三者間の兵站協定にも署名している。
日本は途上国への安全保障支援にも独自に乗り出している。その柱となるのが、2023年に発足した「政府安全保障能力強化支援(OSA)」だ。フォーリン・ポリシーが今年1月に報じたところでは、2026年度予算は約1億1600万ドル(約174億円)で、前年比125%増となった。フィリピンやインドネシアなど東南アジア5カ国を含む計8カ国を対象とする。
■懸念される「発射能力」以前の問題
もっとも、近隣国が歓迎しているからといって、課題がなくなるわけではない。日本の防衛力拡大には、現実的な制約が2つある。
ワシントン・ポストが伝えるように、高市内閣は昨年12月、敵のミサイル発射拠点などを攻撃するための反撃能力の強化を柱とする、過去最大の9兆円超の防衛予算案を閣議決定した。規模としては大きく構えたが、財源の裏付けは心もとない。
戦略国際問題研究所の分析によると、日本の債務残高はGDP比約240%と、先進国で最も重い。政府は2022年、2027年度までに防衛費をGDP比2%へ引き上げる5カ年計画を策定した。政権はさらに踏み込み、この目標を2年前倒しで達成すると公約している。
ただし同研究所は、2%達成の裏で「防衛関連」の定義を広げるなど、見かけ上の数字の操作が一部含まれていると指摘する。
財源に充てるはずだった増税も完全には実現していない。直近2回の国政選挙ではむしろ、インフレに苦しむ有権者を前に、複数の政党が減税を訴えた。先進国最大の政府債務を抱えたまま、いかに実質的に防衛費を確保できるか。財源の課題が立ちはだかる。
問題の2点目は、肝心のトマホークの供給だ。
ディフェンス・ニュースによると、米軍の対イラン軍事作戦「エピック・フューリー」では、わずか4週間で800発超のトマホークが消費された。一つの作戦だけでこの消耗量となれば、海外で有事が起きるたび、日本を含む同盟国への供給にしわ寄せが及びかねない。
とはいえ、米国防総省とトマホークの製造元であるRTXは今年2月に増産契約を締結している。今後、年間生産能力を1000発超へ引き上げる計画だ。同紙の取材に応じたINDSRの安全保障専門家のブランダン氏も、「アメリカはインド太平洋の重要な同盟国として日本を優先する可能性が高い」と述べている。
財政と供給という課題は残るが、防衛力強化に動き出したこと自体はアメリカや中国の脅威を肌で感じる東南アジアの国々に高く評価されている。
■台湾有事でトマホークが果たす役割
ランド研究所は、厳しい予測を示している。
同研究所のシナリオでは、仮に中国が台湾を制圧したならば、中国は日本の海上交通路をいつでも遮断できる立場を手にするとの結果が得られたという。さらに、アメリカのプレゼンスが後退すれば、中国は西太平洋全域に力を及ぼしうるとの分析だ。
日本にとって台湾有事は、見知らぬ他国の危機というわけではない。経済と安全保障の生命線に直結する事態ともなりかねない。同研究所は、次のような架空のシーンを描いて問題提起する。将来、日本の首相がある朝目覚め、台湾を象徴する超高層ビルの台北101に中国国旗がひるがえっていると知ったなら、「なぜ日本はまだ動けるうちに行動しなかったのか」と問わずにはいられないだろう、と。
万一脅威が現実化するのなら、それはいつか。この時間軸をめぐっては、一定の猶予があるとする評価もある。
米国家情報長官室(ODNI)は3月18日、2026年版「年次脅威評価」を公表した。AEIが詳しく分析している。それによると、中国指導部は2027年の台湾侵攻を現時点で計画しておらず、統一に向けた具体的なタイムラインも設けていない公算が高いという。
ただし、同報告書には、中国が台湾およびインド太平洋地域で今後も威圧的行動を続けるとの見通しも明記されている。侵攻が差し迫っていないからといって、脅威が遠のいたわけではない。
中国は海上演習で事実上の活動範囲を広げ、統一に向けた条件を着々と整えている。今回、「ちょうかい」がトマホーク発射能力を獲得したことで、台北101に翻る旗が変わる前に、日本は動き始めたと言える。
トマホークの搭載は「遅すぎたほどだ」とアジアの国々は言うが、同時に、なおも判断が「間に合った」証でもある。
台湾有事に関しては、まずは侵攻に至らないことが何よりだ。同時に、行動の読めない隣国を牽制する上で、トマホーク発射能力の獲得は理に適った行動だと、周辺国は肯定的に受け止めているようだ。
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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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