■鈴木知事「1日も早い着工許可を」
「静岡県とJR東海 水めぐる10年の議論終結」(朝日)
「リニア静岡着工 県容認へ」(日経)
「リニア静岡 年内着工も」(中日)
新聞各紙は3月27日、静岡県がJR東海に求めていた課題28項目の対話が完了、静岡工区着工に向けてすべての障害がなくなったことを1面トップ記事などで伝えた。
これを受けて鈴木康友知事は「地域の理解を得てもらい、1日も早い着工許可を判断したい」などと述べた。県幹部らは、ことし6月末までに南アルプスの現地で静岡工区の起工式を行いたいとの道筋を筆者に示した(3月30日公開のプレジデントオンライン記事)。
■28項目に入っていない「課題」
ところが、実際には、リニアを巡る大井川の水資源を巡る「課題」すべてが解決されていたわけではないことがわかった。
静岡地裁で係争中のリニア静岡工区工事差止訴訟をめぐり、原告側が3月末に提出した最終準備書面で明らかにした。同訴訟は大井川流域の茶農家ら100人以上が原告団となり、2020年10月、JR東海を相手取って静岡工区工事の差し止めを求めた。ことし6月に結審する。
静岡県が対話を要するとした28項目には、「主な」という前置詞がついている。つまり、28の対話項目に入っていない課題が数多くある。
28の主な対話項目には入っていない最大の課題の1つが、長野県側への湧水流出問題である。
リニア工事差止訴訟の原告団は準備書面で「長野県側へのトンネル湧水流出に対する無策」と一項目を立てて、「さほど大きな断層帯はないという被告(JR東海)の見立ては甘い。具体的な対策はおろか、関係者との協議すら進んでいない」などと厳しく追及している。
■長野県境の水問題はまだ議論されていない
川勝平太前知事時代の2019年9月、静岡県は県境の山梨工区だけでなく、長野工区でのトンネル工事が大井川の水資源に影響しないようにする対策を示すよう、JR東海に求めた。JR東海は「県や専門部会の各委員に当社の考えを丁寧に説明する」などと回答していた。
専門部会でJR東海が説明したのは、山梨県側へ流出する湧水の対応についてのみである。約6年間掛けて議論を行い、昨年6月にようやくJR東海の説明を了承、これで静岡県は水資源の課題すべてが解決したと公表した。
ところが、長野県側へ流出する湧水への対応はこれまで一度も議論されていないのだ。
「スピード感を重視する」と繰り返した鈴木知事はまるで目をつむって、リニア着工許可に向けてひたすら邁進しているように見えた。どういうわけか、長野県境の水問題を無視してしまった。
JR東海にとっては鈴木知事の「英断」と言えるが、「命の水を守る」と訴えた川勝前知事を圧倒的に支持した流域の住民たちはそれでは納得しないかもしれない。
■JR東海の“ある誤算”
南アルプスの地下約400メートルを貫通するリニアトンネルは、名古屋方面に向かうと山梨工区から上り勾配で静岡工区に入り、静岡工区から今度は下り勾配で長野工区へ入っていく。
静岡県のトンネル区間は約10.7キロだが、静岡工区の工事区間は約8.9キロと短くなっている。
山梨工区、長野工区が約1キロずつ静岡県内に入り込んでいる。これは作業員の人命安全のために、山梨、長野の両工区から上向き掘削を行うからだ。
このため、静岡県内の湧水が工事中の一定期間、山梨県側、長野県側に流れ出ていくのはやむを得ない。
そもそもJR東海は山梨工区、長野工区を約1キロずつ静岡県内に延長する計画を立てたとき、静岡県外に流出する湧水が議論になることなど想定していなかった。
と言うのも、県境付近の工事で山梨県側、長野県側へ流れ出たとしても、それ以上の量の湧水が静岡県内の山中に蓄えられているので、水収支解析では、「大井川の水の量は減らない」と予測していたからだ。
だから、JR東海はちゃんと説明すれば、静岡県に理解してもらえると考えていた。
ところが、2019年9月に事情が一変する。
■「水一滴でも県外流出させない」
まず、静岡県は2019年6月、リニア問題の議論についての疑問点をまとめた「中間意見書」をJR東海に送付して、その回答を求めた。
JR東海は同年7月、山梨、長野の両県境の工事については、「先行して掘削しなければならず、県境付近の工事期間中に、山梨県側に毎秒0.31トン、長野県側に毎秒0.01トンの湧水流出を想定している。できる限り湧水流出量を低減していく」と回答している。
そんな中、同年9月20日のリニア会議で、当時の難波喬司副知事(現・静岡市長)が、JR東海が県境付近の工事について説明している最中に、「全量戻せないと言ったが、これを認めるわけにはいかない。流域の利水者たちは納得できない。いまの発言は看過できない」などとかみついた。
この発言を受けた3日後の定例会見で、川勝知事(当時)は「湧水全量戻すことを技術的に解決できなければトンネルを掘ることはできない」「全量戻しがJR東海との約束だ」などと述べた上で、「静岡県の水一滴でも県外流出を許可できない」と宣言した。
これで、山梨県側だけでなく、長野県側への湧水流出もJR東海はちゃんと対応しなければならなくなった。ここから県外流出する湧水の「全量戻し」の長い議論が始まったのだ。
■山梨側はクリア、しかし長野側は…
まず、県境付近に長い断層帯がはっきりと存在することがわかっている山梨県側へ流出する湧水が議論のテーマとなった。
山梨県側からの先進坑が静岡県境を越え、静岡県側の先進坑につながる工事期間中の約10カ月間に最大500万トンの湧水が流出するとJR東海は予測したが、簡単には解決できなかった。
川勝知事の強い反発が続き、JR東海は東京電力リニューアブルパワーの協力を得て、県外流出量と同量を大井川の東電・田代ダムで取水抑制を行ってもらい、大井川の流量を確保する「田代ダム案」を提案した。
川勝知事の辞職を経て、昨年6月2日の専門部会が、田代ダム案についてリスク管理、具体的なモニタリングなどすべてを了解したことで、山梨県境の水資源問題は解決した。
ふつうであれば、このあと長野県側への湧水流出の議論をすべきだった。
長野県側は山梨県側のような大きな断層帯は確認されていないから、JR東海は湧水の流出量は極めて少ないと見込んでいた。だから、静岡県は黙って議論から外してしまったのかもしれない。
一方、リニア工事差止訴訟の原告団は「さほど大きな断層帯はないという被告(JR東海)の見立ては甘い」と追及している。
■リニア問題がこじれた元凶
と言うのも、国の有識者会議で専門家は「ここは明確に地層がずれており、仮に断層が破砕されていると想定した場合、多くの出水となる可能性がある」と指摘したことを根拠にしている。
JR東海は長野県境では、測量や地表の観察による地質状況の把握しか行っていないから、山梨県境のように詳細なことは全くわかっていない。
静岡県は、長野県側への湧水流出をちゃんと認識しているのに、昨年6月6日の国のモニタリング会議で、県担当者は山梨県側への湧水流出の対話が完了したことで、水資源問題すべてが解決したかのように報告してしまった。
モニタリング会議の矢野弘典座長が「関係者の尽力のたまもの、着工への手続きを進めるためにスピード感を持ちつつ、かつ丁寧に協議してほしい」などと絶賛したことで、鈴木知事の「スピード感」に拍車が掛かってしまった。
これでは表面的に解決したように見せかけて、事実をごまかしているに過ぎない。このようなごまかしがリニア問題の真相をわかりにくくしてきた。
だから、3月27日の新聞各紙は静岡県の発表通りに、すべての課題が解決したかのように報道してしまったのだ。
■流域住民の不安を放置していいのか
反リニアに徹した川勝前知事は事あるごとに「大井川流域の60万人の命の水を守る」を唱えた。いまでも多くの県民が川勝前知事の主張をそのまま信じ込んでいる。
となれば、いくら量が少ないというJR東海の見込みであっても、「湧水全量戻し」の議論をおざなりにはできなかったはずだ。鈴木知事が長野県側への湧水流出を無視したことで、流域住民らのJR東海への不信感が高まるかもしれない。
図らずも、リニア工事差止訴訟の原告団が鈴木知事の「拙速」を明らかにしてしまったことになる。
それではどうすればいいのか?
鈴木知事が責任をもって「長野県側へ流出する湧水は微々たる量であり、問題にしない」と宣言すればいいのだ。
これまでの連載で指摘してきた通り、山梨、長野両県境付近のトンネル工事による湧水流出が大井川の水資源にもたらす影響は限定的であり、そもそも川勝前知事らの言い掛かりに過ぎなかったからだ。それでも、行政が一度「課題」として取り上げた以上、この問題を放置したまま着工許可へ進むのは無責任だろう。
本当に「スピード感を持った解決をしたい」のであるならば、鈴木知事は住民たちの不安を解消することに取り組まなければならない。
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小林 一哉(こばやし・かずや)
ジャーナリスト
ウェブ静岡経済新聞、雑誌静岡人編集長。リニアなど主に静岡県の問題を追っている。著書に『食考 浜名湖の恵み』『静岡県で大往生しよう』『ふじの国の修行僧』(いずれも静岡新聞社)、『世界でいちばん良い医者で出会う「患者学」』(河出書房新社)、『家康、真骨頂 狸おやじのすすめ』(平凡社)、『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)などがある。
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(ジャーナリスト 小林 一哉)

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