■海外メディアが報じた「白黒ポテチ袋」の衝撃
ポテトチップスの袋から、色が消えた。
そこに見えたのは、一企業の事情ではない。日本の弱さだった。
5月12日、CNNやNYタイムスをはじめとする海外の主要メディアが、「日本の菓子メーカーが一部商品のパッケージを一時的に白黒デザインに変更する」と報じた。
その意外なニュースが、「日本で一体何が起きているのか」という問いを呼んだのだ。
原油の値上がりはアメリカでも大問題であり、即座にガソリン代に跳ね返ってくる。戦争勃発後のガソリン価格は最大1.5倍にまで上昇、あらゆる商品が値上がり市民生活を圧迫している。
しかし、アメリカは原油の輸出国だ。一方の日本は、原油の約9割を中東に依存し、ホルムズ海峡封鎖の影響をより強く受ける。だからこそ、原油高がポテトチップスの色までに及んだことは、海外メディアにとっても衝撃だった。
アルジャジーラはこの現象を、「イラン戦争によって日本のスーパーの棚から色が消えた」と表現した。
ここで重要なのは、伝えられているのが、日本で不足しているのは原油そのものだけではない、という点だ。
原油を精製して作るナフサ、エチレンなどは、印刷インク、包装材、プラスチック製品など、日常のあらゆる製品に使われている。中東からの原油輸入が滞れば、その影響ははかり知れない。
世界有数の経済大国である日本は、エネルギーだけでなく、包装材や印刷インクに至るまで、海外の供給網に深く依存している。
ポテトチップスの包装の件は、日本経済がそうした脆弱な基盤の上になりたっていることを、海外メディアがはっきり認識する機会になった。
■「日本の構造的弱点」が露呈
これまで、海外メディアが注目してきた日本経済の最大の懸念点といえば、日本の歴史的な円安と国債利回りの上昇だった。
そこに、イラン戦争が加わった。原油高、ナフサ供給不安、輸入コスト上昇……。資源の海外依存が露わになることで、円安、国債、エネルギーが一本の線でつながった。
日本国債はこれまで、超低金利でも安定的に買われてきた。だが今、市場はより高い利回りを求め始めている。
もう1つ、円安もまた日本経済の深刻な問題となっている。エネルギーをはじめ多くの商品を輸入に頼る日本にとって、円安はそのまま生活コストの上昇を意味する。そこに原油高が加わり、家計を直撃している。
■「積極財政」は簡単にはできない
ここまで円安が進んだ大きな要因は、超低金利を続けてきた日本と、高金利を維持するアメリカとの金利差だ。そこに原油高、輸入物価の上昇、財政不安が重なっている。
ロイターは「中東紛争による原油価格の急騰が輸入コストに加わり、円安によるインフレ圧力をさらに強めている」と報じた。別の記事では、「日本の財政への懸念も、さらに円を弱める可能性がある」と伝えている。
いま表面化しているのは、安倍政権以降の円安・低金利依存のツケでもある。
ウォール・ストリート・ジャーナルは2014年の時点で、アベノミクスについて既にこう報じていた。「円安で輸出企業が利益を上げ、その利益が賃上げに回るはずだったが、実際には、その循環は十分には起きず、円安の恩恵は家計に広く届かなかった」。
AP通信は高市氏を安倍元首相の政治的後継者と位置づけ、経済・防衛戦略を引き継ぐと見ている。
そんな状況下で、高市政権は国内向けに、減税や財政拡大を掲げている。
だが、そうした政策はそう簡単には実行できない。
ウォール・ストリート・ジャーナルは、高市政権発足後の11月、大規模な経済刺激策が日本の財政状況を圧迫するとの懸念から、日本国債利回りが数年ぶりの高水準に達したと報じた。つまり、積極財政は国内向けには景気対策に見えても、市場には財政悪化と国債増発リスクとして映る。
財政拡大のためにこれ以上国債を発行すれば、政府債務が増えるだけではない。投資家はより高い利回りを求める。その結果、利回りの上昇を招く。それが財政不安をさらに強め、国際的な信頼も揺らぐ。
かといって日銀が利上げすれば、円相場は一時的に支えられても、住宅ローンや企業借入の返済、国債利払いを直撃する。
つまり高市政権は、財政を広げれば国債市場に警戒され、利上げすれば国内経済と財政が痛むという袋小路にいる。
その懸念は、国債市場で現実になりつつある。
■「トリプル安」が直撃
5月14日、日本政府がガソリン補助金や電気代補助の予算が近いうちに枯渇することから、追加で補正予算の編成を検討しているとロイターが報じた。さらに18日には補正予算の財源として赤字国債の発行が検討されていると報じられ、日本の財政に対する懸念が一挙に高まる(その後、高市首相は赤字国債の発行はできる限り抑制すると答弁)。市場では日本国債の売りが殺到、10年利回りが一時2.8%に達したほか、30年債に至っては4%以上まで上昇した。
この金利高が株価にも波及し、日経平均株価は一時、高値から約7%も下落。あわせて円安も進行し、弱気相場入りのシグナルとされる「円安・株安・債券安」の「トリプル安」が発生した。
赤字国債の発行による補正予算編成という、まさに高市政権が掲げる「積極財政」的な政策を実行しようとした途端に、日本国債に売りが殺到したわけだ。
高市政権の「看板政策」さえ、実際には実行が難しい。高市政権がそうした厳しい状況に追い込まれていることが、海外に完全にバレたと見ていいだろう。
■海外メディアが注目する「反戦・反改憲デモ」
海外にバレた日本の弱点は、なにも資源や金融に限らない。ニューヨークタイムスはじめ海外メディアがこぞって日本各地で広がる反戦デモを取り上げはじめている。
記事は、日本が数十年の時を経て、「憲法に刻まれた反戦の立場」から離れつつあると指摘。
海外から見た日本はいま、いくつもの弱さを同時に露呈している。
そのひとつ、資源を持たず、中東の戦争に生活物資まで左右されるという日本経済の弱さについてはすでに触れたが、ここにきて、もうひとつの弱点が露呈している。
「日本が現代の脅威を抑止するため、これまで米国の核兵器に依存してきた」と報じているのはロイターだ。さらに、「米国は拡大抑止の下で、核を含むあらゆる軍事能力を用いて日本を守ると約束している。」とも伝えている。
安全保障をアメリカに依存しながら、その軍事的役割の拡大に国内世論が揺れるという、政治の弱さもフォーカスされつつある。
この二つが重なった時、「トランプにノーと言えない日本」という構図が見えてくる。
■ベッセントが片山さつきを「叱責」
海外から見れば、日本は経済、安全保障、エネルギー、世論のすべてで揺れている国に見え始めている。
そこに追い打ちをかけるのが、金融政策に対するアメリカの圧力だ。
それを象徴するのが、ベッセント米財務長官の存在である。
ベッセントは1990年代にジョージ・ソロス氏のヘッジファンドで働いており、日本にもしばしば来日していた。さらに第二次安倍政権が発足し、日銀の大規模金融緩和がスタートした後のいわゆる「アベノミクス相場」では、円安に賭けて大きな利益を上げたとも言われる「知日派」だ。
そんなベッセントだけに、日本に優しくしてくれるかというと大間違いだ。むしろ日本の事情をよく知っているだけに、強い姿勢で要求を突き付けてくる。
今年初め、日本国債市場の混乱が、米国債市場にも波及した際、ベッセント長官はダボスで、片山財務相に強い調子で対応を迫ったと報じられている。ブルームバーグによれば、日本側はそれを「叱責」に近いものと受け止めたという。
■日本は要求を断れない
ベッセントが求めているのは、円安の是正だ。ただ、政府・日銀による為替介入ではなく、日銀の利上げによって日米金利差を縮小し、自然に円高になるような金融政策を求めていると考えられる。
いわゆる「為替介入」は、政府・日銀が保有するドルを売却し、円を買うことで実施される。ただ、そのドルの大半は米国債で運用されているため、大規模な為替介入を行う場合、米国債を売却する必要がある。
日本政府は米国債保有額が世界一だが、その日本が米国債を大量に売却すると、米国債の金利が上昇してしまう。金利が上昇すると、米国政府の利払い負担が増え、財政を圧迫するほか、貸出金利上昇を通じて景気を悪化させる、株価の下落要因になるなど、経済全体に影響が及ぶ。
そのため、ベッセントは日本に「軽々しく米国債を売るな、日本の金利を上げて対応しろ」と迫っているわけだ。
ベッセント長官は先日、トランプ大統領の訪中直前に日本に立ち寄り、片山大臣と会談した。ロイターによれば、その際彼は「過度な為替変動は望ましくない」と述べている。
一見、為替介入に一定の理解を示したようにも見えるが、ベッセントの考え方は変わっていない。一方で、「植田総裁が日本の金融政策を成功に導くと確信している」と、日銀・植田総裁に対して暗に利上げを迫っているとも取れる発言もしているからだ。
ただ、ベッセントの考え方は高市政権の考えとは真逆だ。高市政権は積極財政と金融緩和のダブルで景気回復をはかる「高圧経済」を掲げており、できるだけ利上げはしたくない。利上げによって利払い費が増えると、財政の拡大余地もなくなってしまうからだ。
しかしながら、もはや円安をこれ以上放置できなくなっているのも事実。円安を食い止めるには米国の協力と理解が不可欠であり、高市政権は「知日派」ベッセントとの関係にすがるしかない。その分、ある面ではベッセントの「言いなり」になるしかない部分も出てくるだろう。
事実、ブルームバーグは専門家の言葉として、「もし彼(ベッセント)が要求を強めれば、日本が押し返せる余地はほとんどないかもしれない」と伝えている。
■日本が強い国だからこそ不安視
ただ、この話は単に「弱い日本が、強いアメリカに逆らえない」という構図ではない。
日本は世界を揺らす力を持っている。だが、その力を自分の意思だけでは使えないのだ。
日本は、弱い国ではない。むしろ、世界経済の鍵を握っている。
「円キャリートレード」をご存知だろうか。簡単にご説明すると、金利の低い日本でお金を借りて、そのお金で米国株などよりリターンの高い海外資産に投資する、というトレードのことだ。
日本経済が弱体化したと言われるが、日本が保有する金融資産は世界一位で、世界中にお金を貸し付けている「債権国」。株式市場の時価総額でも単一国家としては米国に次ぐ世界2位。また、為替相場における日本円の取引額も巨大だ。
その日本円を借りて行われる円キャリートレードも巨額に上り、正確な金額は不明だが一説には数十兆円とも言われている。
ただ、日本の金利上昇、米国の金利下落が続き、日米金利差が縮小すると、円キャリートレードのうま味がなくなるため、どこかのタイミングで一気に解消され巻き戻しが起きると予想されている。
その際、急激な円高が発生し、同時に米国債も大量にたたき売られる。その影響は世界市場全体を揺さぶることになる。
■交渉カードとして使えない
円キャリートレードの巻き戻しにより、大幅な円高が発生するのは、高市政権にとっては避けたい。高市政権のマクロ経済政策は「できるだけ円安に誘導し輸出を増やす」点にあるからだ。その意味でも高市政権は日銀にあまり積極的に利上げしてほしくない。
一方、ベッセントからは「利上げ」を強く要求され、時には「叱責」すらされている。
それでも、高市政権はベッセントにノーとは言えない。
高市政権がノーと言えないのは、為替の問題だけではない。日本は安全保障をアメリカに依存しており、中国の軍事的な膨張を前に、より一層アメリカにすがりつくしかない状況になっている。
特に、5月の米中首脳会談は、台湾有事を含め、極東地域の安全保障は、ワシントンと北京の話し合いで決定され、そこに日本が介入する余地はほとんどないという厳しい状況を浮き彫りにした。
しかも、ホルムズ海峡封鎖の影響で、原油供給を中東に頼れなくなった。代わりに頼れるのはやはりアメリカしかない。
つまり、高市政権は、エネルギー、安全保障、対中政策、為替協調など、ほとんどの面で「アメリカ依存」するしかなくなっているのだ。
高市首相はアメリカにノーと言えないどころか、徹頭徹尾アメリカに媚びるしかなくなっているのかもしれない。
■「日本スゴイ」と「トランプ媚び」の矛盾
高市首相は2月の訪米時、「トランプ媚び」と批判されるほど、トランプとの親密さを強く演出した。でも、その親密さをアピールすればするほど、国内で語られる「米国にもモノを言う自立した高市外交」というイメージと矛盾してしまう。
国内向けには、「保守派として、中国にもアメリカにも屈せず、日本の主体性を主張」。
訪米時の演出では、「トランプと特別に近い、アメリカに信頼される日本」。
この同時には成立しにくい説明を使い分けているわけだ。
■米中首脳会談でハブられた
ただ、高市政権の思うようには進んでいない。今回の米中会談において、中国の習近平大統領はトランプ氏に対し、台湾問題の扱いを誤れば米中の衝突につながりかねないと警告した。
一方、トランプ氏は米中会談後に高市氏へ電話し、日米同盟は「揺るぎない」と再確認したものの、台湾について何を話したかは明らかにされなかった。
日本にとって重要なのは、台湾をめぐる核心的なやり取りが、まず米中で行われ、その内容を日本が後から説明される立場に置かれていることだ。
これは高市氏にとって痛い。国内向けにはトランプ氏との親密さを見せたが、トランプ氏が米中交渉で、日本の立場を代弁してくれるとは限らない。
高市氏の台湾発言は、国内では「中国にノーと言う日本」として響いた。だが米中首脳会談で見せられたのは、日本がノーと言う前に、台湾をめぐる土俵そのものが、米中の間で動いていく現実だった。
■高市政権は「詰み」
アメリカの安全保障は、常に日本の望む形で発動するとは限らない。
それでも日本は、対中国の最前線に立たされる。
しかも国内に向けては、“中国に屈しない日本”を演じ続けなければならない。
ここに、高市外交の詰みやすさがある。
今回見えたのは、日本がノーと言う相手を選べないどころか、ノーと言う場にもいないという現実だった。
資源に乏しい。円は弱い。
国債金利は上がっている。少子高齢化は進む。
安全保障はアメリカに依存。国内世論も割れている。
海外メディアの記事を重ねて読むと、これらは別々の問題ではない。ひとつの構造として浮かび上がってくる。
■日本のヤバさがバレている
高市政権はいずれ、国内向けの強い言葉と、国際市場での弱い立場の矛盾に、さらに挟まれていく可能性が高い。
政権が詰むとすれば、それはトランプに媚びたからではない。
媚びなければ持たない。それくらい弱体化した日本の構造的な制約がアメリカにも市場にも見抜かれているからだ。
では、高市政権はいつ詰むのか。現時点で、主要メディアは2月の衆院選で大勝したため、政権基盤はまだ強いと見ている。
むしろ、先に詰むのは政策だ。
その最大の引き金が、イラン戦争によるインフレの長期化である。
ロイターは5月15日、日本の4月の卸売物価が前年比4.9%に上昇し、輸入価格も円建てで17.5%上昇したと報じた。原油高と円安が重なり、6月利上げへの観測が強まっている。
ここで日銀が利上げすれば、円は支えられるが、景気と財政には打撃となる。
逆に利上げを見送れば、円安とインフレが続き、家計の不満はさらに高まる。
もうひとつの山場は、すでに触れた補正予算だ。原油高対策や家計支援のために支出を増やせば、国債発行増への警戒から利回りが上がる。
この時、政権は「何をしても別の弱点が噴き出し、市場に怒られる」状態に入る。
高市政権の“詰み”は支持率ではなく、市場から始まると言っていいだろう。
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シェリー めぐみ(しぇりー・めぐみ)
ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家
NY在住33年。のべ2,000人以上のアメリカの若者を取材。彼らとの対話から得たフレッシュな情報と、長年のアメリカ生活で培った深いインサイトをもとに、変貌する米国社会を伝える。専門分野はダイバーシティ&人種問題、米国政治、若者文化。ラジオのレギュラー番組やテレビ出演、紙・ネット媒体への寄稿多数。アメリカのダイバーシティ事情を伝える講演を通じ、日本における課題についても発信している。
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(ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家 シェリー めぐみ)

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