※本稿は、篠原菊紀『脳を乗っ取る感情からあなたを守る方法』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■三日坊主で終わるのは脳科学的にも正しい
「今度こそ!」とダイエットを決意しても、なかなか続かない、といった人は多いかもしれません。じつは私自身、ダイエットにはしょっちゅう失敗しています。
医者にはもう少しやせろと言われていますが、そんなにうまくいっているわけではなく、目標体重よりも2~3キロオーバーを維持している状態。体重を減らすにはどうすればいいのかは理屈ではわかっているのですが、実践できていません。なので、あまりダイエットの話はしたくないのですが、まずは一般論からお話しします。
まず、ダイエットを始めても三日坊主で終わってしまう、というのは脳科学的に見ても正しいのです。やる気をつかさどるドーパミン神経系も、モチベーションの継続に不可欠な脳の「線条体」の活動も、チャレンジを開始した当日から2日目には低下し、3日目にはさらに低下します。
新たな行動を始めても、日数が経つにつれて新奇性(目新しさ)が失われ、やる気がしぼんでしまうのは当然のこと。人によって違いますが、血中のドーパミン濃度も週内変動があり、週の半ば以降にはダレてきて、低下します。ですから、ダイエットにしても、何かを継続するにしても、基本的に三日坊主になってしまう、ということを前提にして取り組むことが正しいのです。
■三日坊主前提のダイエット法
すなわち、「三日坊主を前提としたダイエット」は、3日目で嫌になったら4日目に再度始める、という考えです。もちろん基本を踏み外したようなダイエット法ではだめですが、ちまたでいろいろと提案されている方法を、手を替え品を替えして試してみると、全体で見ると「継続している」ことになるでしょう。厳密に「4日目」に始めなくても、1週間に1回、曜日を決めて何かを決断して始める、というのもいいでしょう。低炭水化物でも低カロリーでも、「週に1回、何かを始める」ことにして、続けてみてはいかがでしょう。
ダイエットをするとき、「間食はしない」、「エスカレーターは使わない」などと自分なりに決めてみても、結局守れないことが多いですよね。決めたことを守れない、というのは脳から見るとどういうことなのでしょう。
■「○○しない」と決めるから実行できない
これは、そもそも「○○しない」という我慢系で命令を送るから、実行できないのかもしれません。○○しない、という目標設定では、脳が報酬を予測できず、どこまで続ければいいのかも見えてきません。脳に報酬を予測させ、行動しようと思わせるには、我慢や否定ではなく、どのように肯定的に自分の課題を書き換えるかが大事です。たとえば、「2日続けられたら○○して良い」と報酬を決めるといいでしょう。
さらに、「○○を食べそうになったら腹筋する」「酒を飲みたくなったらその場で足踏みをやる」というふうに、肯定系でルールを決めてみましょう。小さなことですが、肯定系で働きかけると実行しやすくなります。
ただし、「続けているうちに無意識化して習慣化する」というおいしい話はめったに起こらないのです。食欲や睡眠欲など「食う、寝る」といったベーシックなことはとにかくニーズが強い。勉強や運動などの習慣と比べると、生きるためのニーズの強さはレベルが違うのです。だから、習慣化は容易ではないと思ってください。
■「ご褒美おやつ」を食べてもいいのか
ご褒美におやつ、というのはありだと思うのですが、仕事をしていると口寂しくなって、食べたいわけでもないのに食べてしまうということがありますよね。これは、脳がエネルギーを使っているといえばそうですし、口を動かしていると顎から脳に刺激が伝わって脳活動を高める、噛む刺激で食欲抑制ホルモンのレプチンが分泌するという話もありますから、仕事中に食べるのは悪い話ではありません。ただ、甘いものと、塩辛いものを交互に食べるループにはまると全体量が増えてカロリーオーバーになるというのはよくあることです。
「ご褒美おやつ」は案外ダイエットに有効かもしれない、という米国の研究があるので紹介しましょう。
1つ目の実験
大学生に、味は同じでたんぱく質量やエネルギー量は同じだが、一方は「糖類が多く脂肪分が少ないシェイク」、もう一方は「糖類が少なく脂肪分が多いシェイク」を飲んでもらった。その後、ビデオ鑑賞時にポテトチップスをどれだけ食べるかを観察した。
2つ目の実験
別の大学生に、上記の2種類のシェイクそれぞれに「健康的な生活(低脂肪、低糖類、低カロリー)」という栄養表示ラベル、あるいは「自分へのご褒美(高脂肪、高糖類、高カロリー)」という栄養表示ラベルをつけて(合計4パターン)、ビデオ鑑賞時のポテトチップス量を観察した。
■それなりに意味がある
1つ目の実験では、「糖類が多く脂肪分が少ないシェイク」を飲んだほうが、ポテチ量が多かった。
一方、2つ目の実験では、「健康的な生活」ラベルの高糖類シェイクを飲むと最もポテチ量が多くなり、「ご褒美」ラベルの高糖類シェイクが最もポテチ量が少なかったのです。1つ目の実験では甘いもののほうがポテチが増えたのに、ご褒美ラベルがつくと甘くてもポテチ量が減るんです。
つまり糖類が多くても、「ご褒美だから」と思うと満たされて食欲が打ち止めになったと考えられています。ダイエット中の「ご褒美おやつ」はそれなりに意味があるのです。
ここまで「一般論ですが」という前置きの上でダイエットについてお話ししてきましたが、実は統計的に見ると、どのダイエット法も「短期的には成功するが長期データは乏しいし、ほとんどの場合リバウンドするようだ」という研究成果がたくさん出ています。
■食事療法では長期的な体重管理は難しい
海外で、食事制限によるダイエットについてメタ解析した研究がいくつかあります。それらによると、「一旦体重は減少するが、試験期間中にリバウンドする」「食事法による体重低下の差は微々たるもので臨床的には無意味である」という結果が多く、食事療法では長期的な体重管理は難しい、というのが現在の一つの結論となっています。その難しさを説明する研究として、「ダイエットすると脳が飢餓状態になる」ことを示したのが次の研究です。
過体重または過食である50人に超低カロリーダイエット(1日あたり500~550kcal)を10週間行ってもらいました。研究を離脱せず完了したのは34人で、減量前のベースライン、プログラム完了後の10週目、62週目(約14カ月後)に、レプチン、ペプチドYYなどの食欲を抑制するホルモン、グレリン、胃抑制ポリペプチドなどの食欲を亢進するホルモンの分泌量を計測しました。
■「飢餓メカニズム」に火をつける
この研究からわかることは、カロリーを抑える食事によって体重は減っても、脳は飢餓感を感じておなかも減る。食事を元に戻せば容易にリバウンドしてしまうでしょう。食事制限は飢餓メカニズム(食べたい、脂肪をため込みたい)に火をつけます。体重を減らすと、当たり前だけど飢えます、ということです。
この論文で研究者たちは「肥満の再発を防ぐにはこの食欲ホルモンの変化に対抗する長期的な戦略が必要」と述べていますが、ダイエットはそもそも無理? ということを示しているのではないでしょうか。もちろん、成功する人だって当然ながらいるのですが、統計学的に見るとだいたいの場合、失敗するようです。短期に減らした体重を長期間維持したい場合は、先にお伝えしたように「4日目にまた始める」で、目先を変えた食事法を繰り返し続けてみる、肯定系ルールで体を動かしてみる、といったことが必要でしょう。
■体が持つ恒常性維持の働き
それだけ体には恒常性維持、つまり元の状態を保とうという働きが強い、ということなのかもしれません。
いずれにしても、人類史的に見ると現代の飽食の状態は異常です。あまり運動をせずに食べ過ぎる。
しかし、体重計に乗ったとき「減らないなー」と思っても、恒常性のなせる技と思えばクヨクヨする気持ちもなくなるかもしれません。体重が増えてくるとその数字に衝撃を受けて乗るのが嫌になったりしますが、まずは日々、決まった条件のもとに体重計に乗ることを目標にするといいでしょう。
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篠原 菊紀(しのはら・きくのり)
公立諏訪東京理科大学特任教授
人システム研究所所長。専門は脳科学、応用健康科学。遊ぶ、運動する、学習するといった日常の場面における脳活動を調べている。ドーパミン神経系の特徴を利用し遊技機やガチャのもたらす快感を量的に計測、ギャンブル障害・ゲーム障害の実態調査や予防・ケア、脳トレーニング、AI(人工知能)研究など、ヒトの脳のメカニズムを幅広く探求する。
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(公立諏訪東京理科大学特任教授 篠原 菊紀)

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