小・中学校の不登校の子どもは約35万4000人。12年連続で増加し、25年時点で過去最多となった。
こうした状況を受け、不登校の子どもたちが通える学校が全国に広がっている。文部科学省が認定する「学びの多様化学校」のひとつ、鎌倉市立由比ガ浜中学校(御成中学校分校)では、不登校生徒の8割以上が学校に通うようになったという。学びの実態に、教育ライターの佐藤智さんが迫った――。
■マックを買い込んで、向かった先は…
「学校でどんなことをしてみたい?」
この質問に、鎌倉市立由比ガ浜中学校の生徒たちから返ってきたのは、「学校に泊まりたい!」という声だった。
宿泊学習当日、生徒たちの要望でゲーム大会が行われた。夜には近隣でそれぞれ買った夕食を生徒たちは学校へ持ち寄った。多くの子がマクドナルドを選び、それを友達と笑いながら食べる。夜は布団を並べて夜遅くまでおしゃべりをした。スタッフたち(当校では教職員を「スタッフ」と呼ぶ)はそれらを見て、「せっかくだから、もっと特別な体験をしては?」とも思ったという。
しかし、これまでクラスメイトと出かけた経験がほとんどない生徒たちは「いっぱい思い出ができた! 修学旅行みたいだった!」と目を輝かせた。
友達と“ふつう”に過ごす。これが由比ガ浜中学校の生徒たちの求めたこと。
大人はさまざまなお膳立てをしたくなる。しかし、不登校で友達と過ごす経験が少なかった生徒たちにとって、仲間と当たり前に過ごす日常こそが心から求めているものだった。
■不登校生徒の8割が登校するようになる学校
江ノ島電鉄由比ヶ浜駅から徒歩2分。江ノ電が校舎の前を通り抜ける。電車好きの生徒はその様子を2階の窓から飽きもせずに眺めているという。ここは鎌倉市立由比ガ浜中学校。鎌倉市内全域から、不登校を経験した生徒たちが通ってくる「学びの多様化学校」だ。
学びの多様化学校とは、不登校やその傾向にある児童・生徒のために設置され、文科省から特別な教育課程編成が認められている学校のことだ。授業時数は一般的な学校と比べ25%ほど少ない。また、由比ガ浜中学校では、起立性調節障害など朝の起床困難などを抱える生徒たちにも配慮し、登校時間を午前9時30分と設定している。
定員30名程度のところ、2026年度の生徒数は34人。昨年度14人が卒業して、今年18人が入学してきた。
その全員が小学校や中学校で不登校を経験した生徒だ。小学校6年間のほとんど登校しなかった生徒もいれば、週1、2回ほど欠席していた生徒もいる(文科省は年間30日以上欠席している児童・生徒を不登校と定義している)。しかし、由比ガ浜中学校に入学や転入をすると、彼らの8割以上が登校するようになる。
生徒から「リーダー」の愛称で呼ばれる分校長の岩田明先生は、「休みたいときはすすんでしっかり休もう」と生徒に伝えている。さらに「登校率を上げることを目標にもしていません」とも続ける。
それなのに――。

多くの生徒は由比ガ浜中学校に来ることを選択する。
■「学校に来られただけで100点」
由比ガ浜中学校が2025年度に開校してから、スタッフたちは迷いの連続だったという。
「遅刻してきたことに対して注意をしなくていいのだろうか」

「学びに向かわずに、横になっている生徒に対してどう声をかけるべきか」

「優しく接し続けるだけでいいのだろうか? ときには、指導が必要では……」
朝、放課後と毎日、スタッフ間で生徒に関する相談が繰り返されていた。岩田分校長は、スタッフたちに「生徒たちは学校に来られただけで100点」と伝え続けている。「学校に来ても勉強はできなかった」「休んだり遊んだりして1日を過ごしてしまった」と、自分を責める子がいるからだ。スタッフ間で話し合いを重ねるなかで、自身の中にある「学校はこうあるべき」「生徒はこうすべき」といった固定概念に意識を向けるようになり、少しずつ取り払われていったという。

「例えば、小学校に通っていなかったら、これまでの教育観であれば『6年間を失った』といった表現をしがちです。でも、彼らは学校には行けていなかったかもしれないけれど、決してその時を『失った』わけではないんです。エネルギーを蓄えながら自分を受け入れる準備をしていたのかもしれないし、誰かとつながる用意をしていた期間なのかもしれない。また、学校に通っている子とは全く異なる学びをしていたかもしれません。子どもはきちんと考えています。だから、タイミングが来たら、ちゃんと伸びていくことができるんです」(岩田分校長)
順調に通うことができていた生徒も、ふと3、4日間休むことがある。スタッフは生徒のことをとことん考え、話を聞きたいと思っているが、彼らには「おはよう」「ごはん食べられている?」とごく普通に接する。多くの子が学校に復帰することを「大ごとにしてほしくない」と感じているからだ。そして、何よりもスタッフ自身が伴走し、じっくり待っていれば、生徒たちは自ら動き出すと信じているからだろう。
■教室を飛び出して自然、大人、社会を学ぶ
全国の傾向と同様に鎌倉市も、不登校の子どもたちが増加している。それを受けて、鎌倉市教育委員会は2021年度から体験型の探究プログラム「かまくらULTLA(ウルトラ)プログラム」という子どもたちが自分の学びのクセを活かし主体性をもって学ぶプログラムを実施してきた。学びのフィールドは、地域の森、海、寺、テック企業など多岐にわたる。

そして、2025年に開校した由比ガ浜中学校でも「かまくらULTLAプログラム」のエッセンスを取り入れた新教科「ULTLA」を140時間実施している。不登校の子どもたちは、自宅で過ごす時間が長いため、多様な体験や人との触れ合いが極端に不足する傾向にある。そこで、自宅や教室から飛び出して、さまざまな人と出会い、体験的に学べる「ULTLA」の授業が重視された。
例えば、「ULTLA」では、自分の“好き・得意”に徹底的にこだわる「MY探究」と並行して、地元でとれた魚をさばいたり、塩の研究をしたり、鎌倉ブランドである海藻ポークに関して海藻収集と調理体験をしたりする。その一環として「職業体験」やそれを活かした「由比中マーケット」も開催した。マーケットでは生徒たちが6つのブースを出店し、人と触れ合い、お金を稼ぐ社会体験をした。
岩田分校長は「社会とつながる体験をしてほしいと考えて、生徒と一緒に企画したんです。生徒たちからは『稼ぐっておもしろいね』と声がもれていました」と言う。
売上金をどう使うかも生徒たちで話し合った。「校庭に時計がないのでつけたらどうか」「次のULTLAのプロジェクト費用にしては」など議論が飛び交う。いずれも、生徒が考え、相談し、決定していく。
また、由比ガ浜中学校では「ULTLA」だけでなく、音楽、美術、技術・家庭科などを掛け合わせた独自教科「CTime」も導入されている。
「CTime」とは、Create(創造)、Collaboration(協働)、Choose(選択)の頭文字をとったオリジナルの教科である。ここでも、「MY島ぞうり」づくりや学校紹介動画作成、お正月料理クッキング、専門学校での化粧体験、3Dプリンタで校舎づくりなど生徒たちの活動は広がっていった。
こうした特徴的な教科を取っ掛かりに、学びの楽しさや学校のおもしろさを感じられる機会を本校では大事にしているのだ。
■「学び場(教室)」以外の集まる場所をつくった理由
登校した際に生徒が集まるのが「つどいスペース」だ。教科の学びは基本的に学年ごとに行うが、朝や帰りの時間は異年齢のホームグループ(HG)で集まる。異なる学年の生徒と仲良くなり、そこを居場所と感じる生徒も少なくない。
つどいスペースには、カラフルなクッションやぬいぐるみが並ぶ。目で見て和むだけでなく、少し重みのあるものなどもあり、お腹に抱えて気持ちを落ち着ける効果もある。奥にはパーティションで区切られたスペースがあり、他者と触れ合いたくない生徒はそこですごすこともできる。
ちなみに、こうしたクッションやぬいぐるみはこまめに洗濯をし、生徒たちの見えるところに干している。他者との接触が苦手な生徒も多いため、あえて清潔感を目に見えるように示している。
■「1日の活動」を自分たちで決める
他にも、壁一面を海や森にし、柔らかな雰囲気を重視したカウンセリングルームや更衣室などの個室もあり、使用中以外は生徒がひとりになる部屋として使うこともできる。
ハンモックが置かれているのも、ひとりになりたい生徒に向けた配慮だ。それぞれのコンディションに合わせて、落ち着ける居場所を設けている。
登校すると、今日の活動予定を個々の生徒が「学びの地図」に書き込む。「学びの地図」は生徒たちのスケジュール帳だ。今週の目標や各時間で何を学びたいかを記入する。学校生活に慣れていくために、「早起きして学校に行く」「前日のうちに準備をする」など生活面の目標を書く子も多い。また、生徒が記入した「学びの地図」をスタッフが確認し、毎日コメントを書き入れている。
■生徒たちのために「そろえる」を手放した
どんどん書き進める生徒もいる一方で、なかなか筆が進まない子も多い。「計画をたてて行動したくない」「今日は考えられない」とスタッフに伝える生徒もいる。また、学力層も広く、なかには小学校1年生から不登校になり、自分の名前を漢字で書くことが難しい子もいるという。こうした生徒と向き合うには、「そろえる」を手放し、個々のペースでひとつひとつ学びを積み重ねていく姿勢が重要になる。
「一般的には、3年生になったら3年生の数学の授業を受けて理解させなければいけないと思いがちです。しかし、本校にはそもそも学びの楽しさを知らない、経験したことがない子どもがとても多い。好きでなければ何事も続きません。であれば、学年ごとに進度を揃えることよりも、まずは『学びが楽しい』と体験することや、学び直す機会が用意されていることのほうがずっと大事だと思うのです」
また、生徒の様子を見て、スタッフが時間割を協議することもあるという。「数学と英語が重なった日は生徒たちがプレッシャーを感じやすい」「午前中に精神的負荷が大きい教科がある日は生徒のコンディションが悪そうだ」といった気づきをシェアし、時間割を見直していく。
■「そろえない」学校での「成績」は?
多様な状況の生徒たちを数値で一律に評価していくことは難しい。自己肯定感が低い生徒にとっては、「どんな変化があったか」や「どんな思いを持ったか」「どんな学びができたか」という定性評価(文章評価)がより一層大事になると岩田分校長は語る。そうした質的な変化の様子は生徒とスタッフとの日々の対話の中でにじみ出していく。スタッフはその変化を見取り、言葉で承認する。
「文章評価は学びのあしあとを残していくことだ」と岩田分校長は言う。「学びのあしあと」は全員に、いわゆる一般的な成績評価(評価・評定)は面談をした上で希望者のみに伝えている。
「ただでさえ、小学校から中学校になると評価の方法が変わり落ち込む生徒が出てきやすくなります。本校に通う生徒たちはプレッシャーや緊張感を感じやすい状態にある子が多い。評価を受けることでプラスに働けばいいのですが、描いている自分自身とのギャップを痛感し、前向きな気持ちを失ってしまうこともあるでしょう。
ただ、中学校という位置付け上、生徒も保護者も高校への進路を考えます。高校進学を意識すると、中学校での評価がどうしても気になってくる。そのため、希望者のみに成績を渡すこととしました」(岩田分校長)
■「うちの子はひきこもりになっていたと思う」
「この学校がなかったら、うちの子はひきこもりになっていたと思います」
由比ガ浜中学校にはこう話をする保護者も少なくない。不登校になって追い詰められているのは子どもだけではない。親もまた自問したり不安になったりという日々を過ごすことも多い。
そこで同校では保護者同士が話をする保護者トーク会(懇談会)を毎月開催している。保護者同士で本音を話し合うことが、ガス抜きになる。また、子どもが学校に通い始められるようになると、保護者の悩みも変容していくと岩田分校長は言う。
「安定して登校できるようになると、『うちの子、全然家で勉強をしないんですが、成績は大丈夫ですか』『高校進学を頑張らせたいです』といった心配を抱く保護者も出てきます。トーク会では、こうした焦りを共有したり、ときには先輩保護者の話を聞いて落ち着いたりと、生徒だけでなく保護者も葛藤をひとりで抱えこみすぎないことをとても大事にしています」
また、保護者が参加する「由比中サポーターズ」があり、クリスマス会を企画したり校外学習のサポートをしたりと保護者が主体的に学校に関わる。由比ガ浜中学校は保護者にとっても大事な居場所となっている。
■不登校でも、友達が殻を破いてくれた
2026年3月、1期生14人が卒業した。生徒たち自身で選んだ進路は、全日制の公立・私立高校や通信制高校、サポート校、さらには海外留学など多岐にわたる。
その卒業生のうちの一人。1年間ほぼカウンセリングルームに登校し続けた生徒は、学校に来て毎日小説を書いていた。「小説を書くこと自体は自宅でもできますよね。しかし、わざわざ登校して、スタッフとコミュニケーションをとりながら執筆していたのは、『自分で決めたことを貫きたい』『人とつながりながら、がんばりたい』という思いがあったからこそだと思うんです」と岩田分校長。最終的には上下巻合わせて600ページ以上の大作が仕上がったという。
当初、「卒業式もカウンセリングルームで過ごす」と言っていた彼女だったが、最終的にはスタッフ全員と来賓がいる前で卒業証書を受け取った。さらに、お別れ会の最中、ひとりの生徒がピザをもって彼女の過ごすカウンセリングルームを訪れ、おしゃべりをしながら食事をした。共通の趣味があった2人はどこかのタイミングでそれを知り、連絡先を交換して、最後の最後で直接話をしたのだった。
「スタッフは『ピザを持っていって』なんて一言も言っていません。2人はいつの間にか仲良くなり、知らぬ間に彼女の殻が破られていた。友達とは大きな変化をもたらしてくれる、本当に偉大な存在ですね」(岩田分校長)
■大切なのは「6年間」「3年間」ではない
由比ガ浜中学校の校舎の前には日々生徒が手入れをしている畑がある。苗を植えるところから収穫まで、スタッフとともに自分たちの手で行っている。これも生徒の「やってみたい」から始まったプロジェクトだ。
さらに、同好会や委員会を作ったり行事を設けたり。この学校では、何をするかを決めるのは生徒自身だ。
「不登校の子どもたちは“エネルギー切れ”の状態です。必要なことはエネルギーをためられる環境を用意し、時間をかけて待つこと。どのくらいの時間が必要かは、子どもによって異なります。だから、学校には3年間や6年間といった区切りがありますが、大事なことは学年に関係なくその子が充電され、ときが来た時に『これをやってみたい』と手を伸ばせる環境を準備しておくことだと思います」(岩田分校長)
由比ガ浜中学校の開校前、定員30人の枠に対し、説明会を申し込んだ児童・生徒の数は95人にのぼった。また、鎌倉市の不登校の児童・生徒数は2023年度時点で382人。こうした状況を受けて岩田分校長は、「由比ガ浜中学校を『特別な学校』とするのではなく、子どもが学びのハンドルを握る教育をあらゆる学校に広げていきたい」と続ける。
子どもが学校に合わせるのではなく、学校が子どもに合わせていく――。そんな転換が、今、求められている。

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佐藤 智(さとう・とも)

教育ライター

全国約1000人以上の教員へのヒアリング経験をもとに、現在は教育現場のリアルな情報をわかりやすく伝える教育ライターとして活動。両親ともに教員という家庭に育ち、教育の道を志す。横浜国立大学大学院教育学研究科修了。中学校・高校の教員免許を取得。出版社勤務を経て、ベネッセコーポレーション教育研究開発センターにて学校教育情報誌を制作。その後、独立し、ライティングや編集業務を担う「レゾンクリエイト」を設立。青森県教育改革有識者会議広報戦略チーム。著書に、『SAPIXだから知っている算数のできる子が家でやっていること』、『SAPIXだから知っている頭のいい子が家でやっていること』、『公立中高一貫校選び 後悔しないための20のチェックポイント』などがある。

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(教育ライター 佐藤 智)
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