会社員として働きながら、金融資産を増やすことはできるのか。40代、子育てとフルタイムの会社員を両立しながら資産2億円を築いた斗比主閲子さんは「もし他の人と違うところがあるとすれば、『金融リテラシー』を身に付け、日々お金を増やす努力を淡々と続けてきたことだ」という――。

※本稿は、斗比主閲子『ふつうの会社員が投資の勉強をしてみたら資産が2億円になった話』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
■どのように「資産2億円」を築いたのか
はじめまして、斗比主閲子(とぴしゅえつこ)と申します。私はこのペンネームで、10年ほど前からブログやSNSで読者の悩みを受け付け、解決策を発信しています。私生活では、40代既婚として複数人の子どもを育てながら、フルタイムの会社員として働いています。
このような、インターネットでお悩み相談を受ける顔、家庭や仕事での顔以外に、私にはもう一つ、個人投資家としての顔があります。
投資は約20年続けており、金融資産(不動産を除いた現金・株式・債券の金融資産の純額)は2億円を超えました。
これを聞いて「資産がそんなにあるなんて羨ましい!」と素直に驚かれる人もいれば、「実家が太いだけでは?」「たまたま本人や配偶者が高収入だったんでしょ?」と斜めに見る人もいるでしょう。
事実を申し上げると、起業して大きなお金が手元に入ってきたり、特定の株への投資で大儲けしたり、実家や配偶者がお金持ちだったわけではなく、地道に資産を積み増し、結果的に「資産2億円」を達成しました。
金融資産を1億円以上保有している世帯は、日本全国で3%、そのうち親族からの相続や起業等で大金を得た人を除くと、私のように40代で、普通に仕事と育児をしながら資産を築いたというケースはそれなりに珍しいと言えるでしょう。
もし私に他の人と違うところがあるとすれば、それは20代の頃に「金融リテラシー」を身に付け、日々お金を増やす努力を淡々と続けてきたことだと思います。
■「お金は汚い」「お金の話は下品」と思っていた
この本を読んでいる方は、私のことをお金が大好きな人間だと思っていることでしょう。何しろ、自分でわざわざ「資産が2億円あります!」なんていう本を書いているぐらいですから。

確かにそれは否定できず、私は日々口を開けばお金の話をしています。旧友に会うと介護費用や相続がどうなっているか話そうとしますし、誰かが離婚したと聞くと慰謝料の有無や財産分与の設計を思わず確認しようとします。一家団欒(だんらん)の場でも、所得倍増なんていう単語をニュースで聞けば、日本人の所得水準を子どもにあえて伝えようとします。もちろん、資産が増えていくのを眺めるのは大好きです!
普段からこれだけお金の話をしているので、明らかに私はお金の話が大好きな人間です。でも昔から、そう、資産形成を始める前から「お金が大好き」だったわけではありません。むしろ20代前半までは「お金は汚いもの」「お金の話ばかりするのは下品な人」だとずっと信じていました。今の私を見たら、昔の私は愕然とするはずです。
私が若い頃そうだったように、お金を汚いと考えている人はとても多いと思います。家庭の中でお金の話をしてはいけないという不文律があるからでしょうか。
アメリカで子どもがレモネードを売るのは賞賛されますが、日本で子どもがものを売って認められるのはせいぜいバザーが限界です。結婚前に相手の収入がいくらか、借金があるかを確認するのはとても重要なのに、なかなか聞き出しにくい。年老いた両親が介護費用をどれくらい貯えているかが気になっても、親のお金事情を話題にするのはタブーという印象がある。

バブル崩壊の影響も大きいでしょう。バブル期には多くの日本人が土地神話を信じて住宅ローンを組み、株式投資もブームになっていました。それが、バブル崩壊により強烈な打撃を受けたことで、「お金儲け=良くないこと」と人々が学習してしまったわけです。
私の両親も家計事情を私に一切明かしてくれませんでした。「我が家は貧乏だから」と言われ、だったら年収を教えてと聞いても何のヒントも与えてくれませんでしたから、私が実家にいてお金を意識するのは、せいぜい毎月のお小遣いぐらいの狭い世界でした。
このようなことがあって「お金は汚いもの」と信じていた私が、では、どのようにして金融リテラシーを向上させていったのか。
そのステップを体験に基づいてご紹介したいと思います。
■お金を意識したのは一人暮らしを始めてから
私がお金を明確に意識し始めたのは、一人暮らしを始めた大学生の頃。もう二十数年前のことです。
高校生の時は、親からのお小遣いを補てんするためにアルバイトはしていました。ただ、実家暮らしですから、収支を強烈に意識することはほぼありませんでした。
晴れて大学に入学し一人暮らしを始めると、自分がどれだけお金に無頓着だったのか気付かされました。
実家からは毎月8万円の仕送りをもらっていましたが、家賃、食費、水道光熱費、通信費等々を支払うと、ほとんど残りません。
私の仕送り金額は当時も今も平均的な水準でしょうが(日本が経済成長していないということで、ある意味衝撃的です……)、実家暮らしをしながらアルバイトをしている友人とは生活の余裕がまったく違いました。
友人との付き合いで外食をしたり、旅行に出かけたり、サークル活動に参加したりするとまったくお金が足りないので、アルバイトをするようになります。
ただ、日中は学業があり、一人暮らしの家事もあり、長時間は働けません。せいぜい月に数万円程度しか稼げず、ちょっと油断するとすぐにお金が底をつきます。分かりやすいところで食費を削り、激ヤセして友人から心配されることもしばしばでした。髪の毛も自分で切って染めていました。
■歴史ある『すてきな奥さん』家計簿は三日坊主
さすがにこんな生活をずっとは続けられないと思い、大学2年生の頃に、「家計簿を作ろう!」と思い立ちました。今でもよく覚えていますが、近所の商店街にあった本屋さんであれやこれやと悩んだ末に、『すてきな奥さん』(主婦と生活社)の家計簿ムックを購入したのです。
では、この家計簿を使って私が素晴らしく家計管理ができるようになり、日々の生活に潤いが生まれたかといえば、まったくそんなことはありませんでした。何しろ、家計簿は3日と続きませんでしたから。
家計簿の何が面倒って、支出を用途別に毎日記入しないといけないところですよね。
加えて、毎月末に食費や被服費などの支出項目ごとに集計して、前月と比較して使いすぎてしまったかどうかを確認する。ちゃんとやろうとすれば、年単位での検証も必要になります。
私にはこれがまったく続けられませんでした。お金の出入りは生活の記録と同義ですから、自分がどのような行動をしていたのか、毎日見返すのが苦痛でした。
どうにか楽にできないかと、レシートを貼り付けるだけでOKという作成方法を藁(わら)をもすがる思いで試してみました。これは確かに簡単でしたが、レシートを必ず残さないといけないし、レシートの金額・費目の集計作業は避けられません。私の手元には、単にレシートが貼り付けられたノートが数冊出来上がりましたが、収支の見直しに繋がることはありませんでした。
結局、家計簿が三日坊主で終わるという失敗経験を何度も積み重ね、「私には家計管理なんて到底無理だな……」という学びだけを得たのでした。
■「お金を増やす方程式」は単純
これから資産形成をしたい、または、すでにある資産をもっと増やしたいという皆さんに最初に頭に入れておいてほしい「お金の方程式」があります。それは、
というものです。
この方程式が意味することはシンプルです。資産を増やしたければ、①収入を増やし、②支出を減らし、③貯蓄の一部を投資で増やす(投資によって増えるお金=利回りを得る)、たったこれだけのことです。

このシンプルな方程式を最初に認識してほしいのは、ご自身が資産を増やすために行っていることが、方程式のどの部分に当たるかを自覚し、総合的に資産を増やしてほしいからです。
■ではどうやって貯蓄を増やすのか
最近は副業を解禁する企業も増えてきたため、平日の仕事に加えて、夜や休日に個人事業主として働いている人もいるかと思います。ただ、副業で収入が増えても、生活水準を上げて支出を増やしてしまったら、貯蓄はそれほど増えません。
また、生活情報誌を見れば、節約情報が頻繁に特集されています。それだけ節約好きな人が多いのでしょう。ただ、こまめに電気を消す、セールの時に安価に購入した食材を冷凍する、オフシーズンに格安航空券で旅行をするといった節約方法を長いこと続けて、100万円の貯金ができたとて、この100万円を今の金利水準で10年、20年の間、銀行に預けていてもほぼ100万円から変わりません。
一方で、100万円すべてを投資に回したとします。何に投資をするか次第であるものの、先進国企業に株式投資をしていたら10年で1.5倍ぐらいに増えることはありえます。しかし、1.5倍でも150万円にしかなりません。
資産を効率的に増やしたければ、収入を増やし、支出を減らし、貯蓄を投資するという、三つすべてを総合的に行う必要があります。どれか一つだけを一生懸命追求しても限界があるのです。
ただ、三つの要素の一つが苦手な人、例えば節約がどうしてもできなくて支出を減らせないという人は、収入を増やし、資産を増やすことに注力すればいいとも言えます。

ここからは、「お金を増やす方程式」の構成要素である収入の増やし方、支出の減らし方、そして投資の仕方を、それぞれ具体的に説明していきます。できるだけ早く資産形成をしたいのであれば、この三つを総合的に実践することを意識してください。
■ズボラな人でも簡単!「家計簿アプリ」の使い方
お金を「見える化」し、定期的なメンテナンスを行おうとすると、収入と支出、資産状況をそれなりに把握する必要が出てきます。そこでお勧めするのが「家計簿アプリ」です。
「家計簿アプリ」とは、PCやスマホからアクセスでき、収入や支出、負債や資産の残高を簡単に管理できるアプリです。
普段使っている銀行や証券会社、クレジットカード、はたまたポイントサービスと連携することで、日々のお金の動きを自動的に記録してくれます。紙の家計簿で集計しようとすれば毎月数時間はかかる作業が一瞬で済むので、自分では何も手を動かす必要がありません。
例えば、下記のような画面で1か月の収支を分かりやすく確認できます。収入は毎月の給与や雑収入の内訳、支出は詳細な金額まですべてチェックできます。当然、1年間の収支を見たり、毎月平均でいくら支出しているかなんていうことも教えてくれます。
資産状況も同じように内訳別で表示されます。銀行や証券会社からリアルタイムにデータを取ってきてくれるので、自分で各金融機関の数字を拾って集計する必要がありません。何て楽ちんなんでしょう!
家計簿作りで何度も挫折を繰り返してきたズボラな私でも、「家計簿アプリ」での収支と資産の管理は、もう10年も続けられています。
家計簿アプリは、FinTech(金融サービスにおける新しいIT技術)の代表例として数多く存在しています。日本では、マネーフォワードMEが市場シェアの50%程度と圧倒的人気で、続いてZaim、Moneytreeなどが有名です。
どのアプリにも金融機関との連携機能があり、基本的な家計簿であれば簡単に作ることができます。試しに無料版をインストールして、使い勝手が良いものを選んでみてください。
私のお勧めは、やはりマネーフォワードMEです。連携している金融機関が多いこと、機能が豊富であること、運営母体の経営が比較的安定していることが理由です。基本的な機能を利用するには月額500円の利用料が必要になりますが、みずほ銀行、住信SBIネット銀行などの特定の銀行の利用者であれば、一定の制限が付くものの基本的に無料で利用できます。
家計簿アプリの利用手順は次の通りです。
・PCやスマホのアプリストアでインストール

・ユーザー名とパスワードを設定

・各種金融機関(銀行、証券、クレジットカード会社、ポイントサービス等)とデータ連携
1時間もかからずにセットアップは完了するはずで、後は自動的に金融機関での入出金、残高情報を入手してくれます。連携したい銀行は事前にオンライン口座を開設しておきましょう。
なお、どこに振り分ければいいか分からない支出は分類不明にされますが、一度手作業で分類先を指定すると、以降は同じ支払先であれば同じ費用に振り分けてくれるようになります。家計簿アプリを数か月も使っていれば、分類不明の支出の振り分けは完了するはずです。
「お金を使いすぎてしまうから、クレカは持たない!」という方針の方もいますが、自分で支出を完璧に把握できないのであれば、せめて1年でいいので、クレカや電子決済で支払いを行い、自身の支出傾向を把握することをお勧めします。
家計簿アプリには、将来の収支予想のシミュレーションができるものもあります。節約の指導や投資のアドバイスも受けられますから、一度使い始めると手放せなくなるはずです。
とはいえ、現在の私は資産残高の把握以外では家計簿アプリを利用していません。なぜなら、使い続けることでおおよその収支を予想できるようになったからです。家計簿アプリを見ながら自分のお金の癖を把握することも、金融リテラシーの向上には大切です。

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斗比主 閲子(とぴしゅ・えつこ)

ブロガー

1976年生まれ、旧帝大卒、会社員、既婚、子どもあり。という設定のブロガー。

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(ブロガー 斗比主 閲子)
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