会食や接待でスマートに会計を済ませるにはどうすればよいか。セクレタリーアドバイザーの渡邉華織さんは「一般的には会食の終盤にさしかかったとき、招待したほうが途中で席を外して支払いを済ませるが、それでは、『あ、今お会計に行っているな』と相手が分かってしまう。
支払っているとわからないように支払うには予め準備が必要だ」という――。
※本稿は、渡邉華織『好かれる人のさり気ない気配り100式』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■おもてなし用のメモをつくる
私は誰かをおもてなししたり、イベントを企画したりするときは当日までの一連の流れをイメージして、台本のようなメモをつくるようにしています。自分がプロデューサーや脚本家になりきってパーティーやイベントを構成してみると、少し離れた位置から全体の流れが見えてきます。すると間違いがないし、しておくべきことの抜けやもれもありません。
規模の小さい集まりなら頭の中でイメージするだけですが、参加者が数十人以上のときはパソコンや紙などでメモをつくります。
まずは脚本家になったつもりで、登場人物、つまり参加者一人ひとりのキャラクター、年齢、職業や勤務先などを洗い出します。そして、それぞれの性格や生い立ちやバックグラウンドなどを予習して頭に入れておく。
大勢の方が集まる会で、「このメンバーで仲良くなってほしいな」と思うときは、「このあとは皆さん、自由に連絡をとり合ってください」という意味で、参加者のお勤めの会社や部署などを表にして配ることもあります(もちろん事前に参加者の了承を得たうえです)。場合によってはURLなどを貼って、データでお渡しすることもあります。
■全体の流れを把握しておく
当日、会場では会社名の入った名札をつけてもらうこともあります。なぜならある程度、相手のことがわかっていると話しかけやすいから。
例えば結婚式の披露宴で、席札に「新郎友人」などと書いてあると、初対面の人でも「新郎のお友達ですか? 僕もです」というように話しかけやすいでしょう。そういう効果を狙います。
そして、当日までに用意しておきたいことを箇条書きにします。
・こんな招待状を出す

・こういう演出をするためにしておく準備

・当日、現場で交わす会話の台本やとりたい行動

・緊急時の対応策

・後日のお礼状やその後のフォロー
こんなふうに全体の流れを把握しておくと、落ち着いて当日を迎えられるし、万全の準備をしたという安心感から、自分もその場を楽しめるようになると思います。
■「接待=個室」とは限らない
秘書の人たちが会食をセッティングすると、なぜか決まって「個室」になることが多いようです。おそらく「接待=個室」という既成概念があるのでしょう。
確かに個室でなければいけないという上司もいますが、場合によっては個室ではないほうがいいこともあります。
例えば料理をつくっている人が見えるライブキッチンのあるお店や、気さくな板前さんが握ってくれるお寿司屋さんなどでは、個室よりもむしろ素材やつくり手の手元が見えるカウンター席のほうが上席ではないでしょうか。
また初対面の相手や、口数が少ない人の場合、いきなり個室に入ってしまうと緊張感がマックスになり、会話が続かなかったりすることも。
でも、料理しているところが見えるカウンター席なら、そんなことはありません。
「ああ、あの食材をこんなふうに料理するんですね」などと、目の前で起きていることを話せばいいのですから。お店の人が話しかけてきてくれることもあるので、会話のネタには困らない。

だから、「会食はこういう店でなければいけない」「会食にこういうところはNGである」といった決まりは一切ないと思っています。シチュエーションや相手との関係によって、座席もベストなところは変わってきます。その都度、自分で考えるのがいちばんだと思います。
■1対1のときの座り方
1対1のときは、カウンターの角に90度で座るのもおすすめです。180度で相対すると面接のようなかしこまった感じになりますが、90度ならあまり視線を合わせることがなく、それでいて親密な雰囲気になります。にぎやかなお店でもカウンターの端はうるさくないことが多いので、そこをキープするといいでしょう。
「半個室」も圧迫感がなく、かしこまりすぎない雰囲気があります。例えば個室の壁の天井に近い部分、あるいは床に近い部分が抜けている造りの一角や、あるいは簾で仕切られているような場合を半個室と呼ぶことが多いようです。
■お店は必ず下見する
今はインターネットで検索すると、あらゆるお店の情報が得られます。しかし実際に行ってみないとわからないこともたくさんあります。
ネットの写真は、店を少しでもよく見せるため、プロのカメラマンが工夫を凝らして撮っています。だから実際よりもきれいに撮れていることが多い。

「すごく広そうな個室だと思っていたのに、とても狭かった」「すぐそばを人が通るのでうるさかった」「壁が薄くて隣の会話が筒抜けだった」……。このようなことは、行ってみないとわかりません。本当に大事な会食の場合は、写真や文字情報だけでお店を決めるのではなく、できれば事前に足を運んでください。
駅から、あるいはクルマを降りてからお店にたどり着くまでの道のりも、行ってみないとわからないことの一つです。クルマを店の前に停められないとか、一方通行でクルマが入れず、かなり手前で降りなければいけないなどは、足が不自由な方にとっては、大変です。そうでない方でも、土砂降りのときなどは困ります。
また料亭などでは、門から入り口までが飛び石になっていたり、苔が生えていたりすることも。ヒールを履いている女性や、ご年配の方、車椅子の方、杖を突いている方には滑りやすくて危険です。くれぐれもネットの口コミだけを鵜呑みにしないようにしてください。
■自分のお金では行けないお店への下見
でも高級なお店で値段も高いとなると、自分のお金ではそうそう行けないでしょう。ではどうすればいいかというと、下見に行くことです。そこで食事をしなくても、「下見させてください」と事前にお願いすれば、見せてくれます。

会食のお店を下見するときの大事なポイントの一つは、トイレの行きやすさです。
個室を何名かで利用したとき、奥の人が「ちょっとトイレ」と言って部屋を出ようとすると、狭すぎて全員が立たないと出られないことがあります。商業施設の中に入っていても、よいお店であればそのレストランの店内に専用のトイレがありますが、いったんお店から出てフロアの端まで遠征しなければいけないこともあるでしょう。
歩かせてしまうのが失礼にあたるような大事なお客様であれば、下見のときは化粧室の位置も必ず確認してください。
■大人の世界のしきたり
会食が終わり、いよいよ支払いの段階になりました。仲のいい友達との食事であれば、会計も簡単です。「割り勘にしよう」「会計は別々にしよう」で終わりですから。
最近はビジネスの会食でも割り勘にするケースがときどきありますが、やはりホスト側がご馳走することがほとんどです。「今後もよろしくお願いします」という意味をこめて、どちらかがご馳走する。そしてご馳走してもらったほうは、「次はこちらが払います」というのが大人の世界のしきたりです(ただし接待の場合は別)。
■支払いのタイミング
難しいのはこちらが支払いをするケース。大手企業であれば、お店の人に名刺を渡せば会社に請求書がきて、振り込みで支払えることもありますが、このような企業は例外でしょう。
一般的には会食の終盤にさしかかったとき、招待したほうが途中で席を外して支払いを済ませます。しかし会食に慣れた人は、「あ、今お会計に行っているな」とピンとくるもの。支払っているとわからないように支払うのが難しいのです。
席を外すと会話も途切れてしまうし、ゲストがしゃべっている途中で話を遮ってしまうのも失礼。
「どうしよう、どうしよう、トイレを装って支払いにいこうかな」と会計のタイミングをはかるのも一苦労です。
いちばんいいのは、予約をした段階で、あらかじめお店の人と決済方法を決めておくことです。
例えば、「中座できないので、お客様をお見送りしてからお会計をさせていただけますか」とお願いしておく。そうすればお客様が帰ったあとでゆっくり支払いができます。
クレジットカードか現金かについても聞いておくといいでしょう。下町の老舗のお店などでは、いまだに現金でしか支払いができないこともあります。いざクレジットカードを使おうと思ったら「使えません」と言われてコンビニのATMに走る、というような事態は避けたい。どのタイミングで支払いをするかと同時に、決済方法も確認しておきましょう。


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渡邉 華織(わたなべ・かおり)

セクレタリーズ アドバイザー、お福分けコンシェルジュ

秘書歴30年以上。上場企業からスタートアップまで多岐にわたる企業の経営者のサポートを継続しながら、秘書コミュニティ「セクレタリーズ」を運営。テレビ朝日『七人の秘書』、スピンオフドラマ『ザ・接待~秘書のおもてなし~』の秘書監修なども行う。

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(セクレタリーズ アドバイザー、お福分けコンシェルジュ 渡邉 華織)
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